冒険者登録試験、結果
冒険者登録試験、最終話です。
「あー、えっと、生きてるか?やった私が言うのもなんだが……」
「……お、おう。ぴ、ピンピンしてる……ぜ……」
「それは嘘だとすぐにわかる。とりあえず応急処置だ。ヒール」
全身に焦げ跡を作り、地面にうつぶせで倒れぴくぴくと痙攣しているのに、右手を上げてサムズアップするギルドマスター。このおっさん元気すぎだろ。
とりあえず全身にヒールをかけてっと。消費する魔力を増やせば魔法の効果を上昇させることができる。さらに、僕の場合は[中二病]があるから……。
「癒しの光よ、その身に巣くう害悪を払え[治療光]」
「お、おお!?スゲェな。治りやがったぞ」
こんな風に、ヒールで上位回復魔法の真似事ができる。ホント便利だよな、[中二病]。名前がもっとどうにかならなかったのかな?そこだけなんだよな、不満は。
「お前、その魔法はいったいどうなっていやがるんだ?見たことも聞いたこともないが……」
「まぁ、私の固有スキルだよ。魔法を改造することができる。これがあったから私は魔法の研究に没頭していたのだがな。しかし、まさか[颶風巻き起こる灼天の煌翠]が破られるとは思わなかった。威力だけなら私の魔法のなかでも最高峰なのだがな」
「は、それは俺の固有スキルがすごいだけだ。[魔を断つ刃」と言って、斬撃で魔法を打ち消すことができるってものだ。ま、あんだけ物量で押し切られちまうと何もできなくなんだがな」
「ま、この杖に助けられたな。で、私の試験の結果はどうなんだ?」
そう、それが気になっていた。戦闘中は頭に血が上っていたからあんまり気にしてなかったから、遠慮なくぶっ飛ばしてたけど。この人はギルドマスター。つまり、ここで一番権力のある方なのだ。
それをぼこぼこにしたからという理由で、冒険者登録はできません、試験は失格!とかなる可能性が無きにしも非ずといいますか…。
で、でも、向こうから遠慮せずに来いって言ったんだから、僕に非はないよね?そうであると願いたいが…。
「ああ、そうだったな。お前さんの試験の結果だが………さんざん俺をボコったんだから、不合格ってことに………」
「何をふざけたこと言ってるんですか、あなたは!」
スパコンっ!と書類の束がギルドマスターの頭を一閃する。ギルドマスターに一撃くらわしたのは、二十歳くらいの年齢の女の人。ピシっとした格好をしており、いかにもできる女といった感じだ。
てか、この人どこから入ってきたんだ?さっきまでいなかったよね……。
「ネクロ、お疲れさま。かっこよかったよ!」
「ありがとうナルア。怪我とかはしてないかい?」
「うん!」
「それはよかった。ところでナルア、あの女の人、いつからここにいたんだ?」
「えっと、ネクロがウロボロスの特殊効果を使い始めたあたりからかな?青い顔して入ってきたから、なんだろうって思ったけど……」
首をかわいらしく傾げるナルアと一緒に、ギルドマスターと女の人を見る。
「ギルドマスター、まだ仕事が山ほど残っているのに、一体あなたは何をしているんですか?」
「い、いや、期待の新人が来たと受付嬢のアイラちゃんにおしえてもらってな?聞いたら、ランク9の魔物を狩れる魔術師だというじゃないか。それを聞いたら、血が騒いでいてもたってもいられなくなって……」
「それで、試験と称して勝負を仕掛けた挙句、ボロボロにやられ、その腹いせに試験は不合格だなんて戯言をはこうとした、と?」
「ま、まぁ……そういう見方もできなくもない…かな?」
「あ?」
「いえ、その通りでございます。すみませんでした」
ギルドマスターが深々と女の人に土下座した。一目で力関係がわかる光景だ。そしてすでにギルドマスターの威厳とかそういうものは皆無になってしまっている。情けなさすぎるよ、ギルマス……。
ギルドマスターに土下座の姿勢でいることを命じた女の人は、くるりとこちらを見ると、申し訳なさそうな声音で話しかけてきた。
「うちの馬鹿ギルマスが本当に失礼しました。私はこのギルドの副ギルドマスター兼馬鹿の秘書を務めているメリアと申します」
「いや、こちらも一緒になって暴れていたんだ。あまり気にしないでくれ。あっと、自己紹介がまだだったか、魔術師のネクロだ。こちらは婚約者のナルア。よろしく頼む」
「ナルアです。よろしくお願いします」
「…………」
「ん?どうかしたか?」
婚約者という言葉を聞いた途端、ピシッと凍ったように停止してしまったメリアさん。なんか小声でぶつぶつ言ってるような……。
「こ、こんな若い子たちがすでに婚約!?最近の子は進んでるって聞くけど、まさか婚約なんて……!ああもうっ、じゃあなんで私にはカレシができないのよぉおおおおおお!!!どこかに都合よくフリーなイケメンはいないの!?」
「えっと……め、メリアさん?」
「はっ!……コホン、なんでしょうか、ネクロ様?」
「「(なかったことにした!!)」」
なんか、かわいそうな人だな……。行き遅れなのに、あんな馬鹿ギルマスの世話をしないといけないなんて……。ナルアと二人で、つい憐みの視線を送ってしまう。
「えっと、私の試験の結果は、結局どうなったんだ?そこの馬鹿は不合格とか言っていたが……」
「あ、そこの馬鹿の言葉は無視してくださって結構です。九割九分九厘は戯言ですので」
「お前らひどくないか!?」
「おじさん、ちょっと黙って?ネクロに負けて悔しいのはわかるけど、みっともないよ?」
「グハァッ!」
あ、ナルアの一言でかなりダメージ受けてる。純粋な一言って効くんだよね。メリアさんが「ざまぁみろ」という顔をしてギルドマスターを見ていた。同感である。
「ネクロ様は、このギルドで一番の実力者である、そこの馬鹿に勝利なさったわけですから、当然、冒険者登録試験は合格です。それだけでなく、通常、Fランクからスタートのところを、そこの馬鹿と私の権限で、Cランクからスタートにさせてもらいます。これは、有能な冒険者を低ランクでくすぶらせないための措置なのですが、最初からCランクは、かの『暴威の剣王』と『叡智の賢者』以来の快挙です」
お、やった!Cランクからってことは、試験を最高成績で合格したのと同じことじゃないか!リンネとノルンに続いて三人目ってことかな?
「わぁ、おめでとうネクロ!今日はお祝いだね」
「ありがとうナルア。君が応援してくれたおかげだよ」
「ネクロ……」
「ナルア……」
「コホン」
咳払いの音に、急いでナルアと体を離す。音のしたほうを見ると、顔から表情が抜け落ちているメリアさんの姿が。
「…………それでは、こちらの冒険者カードにネクロ様の髪の毛を一本おいてください。それで冒険者の登録は完了です」
「あ、ハイ」
ものっすごい平坦な声でそう言って、懐から何も書かれていない金属製のカードを取り出すメリアさん。その恐ろし気な雰囲気を前に逆らうことなどできるはずもなく。迅速に言われた通りの行動をとる。
髪を一本抜き、メリアさんの持つカードの上にのせる。すると、カードが発光し、髪の毛が中に吸い込まれていく。僕の髪の毛を吸い込んだカードには、何やら文字が浮かび上がり、そして、色が黒く染まった。
「その黒色は、Cランク冒険者の証です。冒険者カードは身分証も兼ねていますので、なくされると再発行に金貨1枚かかります。お気を付けください」
「わかりました」
「わぁ、ネクロ、見せて見せて!」
「ん?ああ、いいよ。ほら」
「わぁ……」
目を輝かせて僕の冒険者カードを眺めるナルア。そして僕を見上げて「すごいね!」と満面の笑みを浮かべた。
ちょっと照れ臭かったので、ナルアの頭をなでることで照れをごまかす。くそぉ、やっぱり僕の嫁は最高だぜ!
「……………………」
ゾクリ、背筋に突然寒気が………。なんだろうと振り返ると、能面のような表情をしたメリアさんが、無機質なまなざしでジッとこちらを見ており……。
「「す、すみません!」」
「いえ、いえ……。フフフフフフフ、………………いいなぁ」
メリアさんの不憫さがとても痛かった。この人の前でナルアといちゃつくのはよそう……。そう、心に決めたのだった。
メリアさんは二十五歳。この世界の平均的な結婚年齢は遅くとも二十歳なので……。あっ(察し)
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