戦い終わって
少し短め?かもしれません。
「あー……疲れた。体痛い、超痛い」
『冥界回廊』の最深部の大広間にて、ネクロは床に突っ伏していた。地面に四肢を投げ出し、完全にだらけている。
勇者、魔王、龍王との戦闘からすでに三日が経過している。その戦いで大きなけがなどは負わなかったが、魔力や体力の消耗が激しかった三人は、魔物の湧かないボス部屋で、休息をとることにしたのである。三人の中で一番消耗が激しかったのはネクロである。その証拠に、三日たった今でも、ろくに体を動かせないでいる。
ネクロがこうして脱力しているのは、スキル[龍化]の影響である。[龍化]は、ネクロが持っていたスキル[人化]と同じように、魂に龍としての肉体を登録するというスキルだ。だが、人形態の時と龍形態の時での体格の違いが大きいため、慣れていないとこうして肉体にダメージが残るのだ。それ以外にも、魔力聖光妖気龍脈のエネルギーの四つの力を配合した結果生まれた力によって身体強化を強くしすぎたせいで、筋肉痛のような状態になっている。
「ネクロ、大丈夫?」
「結構つらそうね………、よかったら回復魔法かける?」
「んー、たぶんこれ魂の負担が肉体に来てる感じだから、回復魔法じゃ治らないと思う。ありがとね、リンネ」
「べ、別にこのくらいふつうよ。その、な、仲間なんだし…」
「リンネ、好きな人、でしょ?」
「ノ、ノルンッ!」
ネクロの素直なお礼と向けられた笑顔に、リンネは顔を赤くしてそっぽを向く。それを見たノルンが、ネクロに聞こえないように、リンネにそっと耳打ちする。それで、さらに真っ赤になってしまうリンネ。ネクロへの好意を自覚してしまった今では、普通にネクロを見つめているだけで、恥ずかしくなってしまうという状態に陥っていた。それを見てノルンがリンネをからかう。それがこの三日間で何度も見られたやり取りだった。ちなみに、ネクロはそれを見て、なんのことがわからずにきょとんとしている。
「そ、そういえば、ネクロってまた進化したのよね?今度はどんな種族になったの?」
「むぅ、逃げた」
ノルンからのからかいから逃げるために、ネクロにそう問いかけるリンネ。ノルンは不満げだ。
「そういえば、言ってなかったっけ?ランク7の霊龍だよ。ステータスを見る限り、魔法寄りの魔物だと思う」
「龍……ついに四強になった。ネクロはやっぱりすごい」
「ま、魔法より……なら、私が魔法を教えてあげることも…………えへへ」
「リンネ、帰ってきて?」
「え、あ、う、うん!れ、霊龍ね……またユニークモンスターよね?龍種には属性と同じだけの種類しかいないから」
ネクロに先生と呼ばれているところを妄想していたリンネをノルンが現実に引き戻す。
「四強?龍種の種類?」
よっこらせと体を起こしたネクロが、リンネにそう問いかける。
「あ、そういえばネクロってそういう常識とかまるでなかったものね……コホン、私が教えてあげるわ」
「おぉ……よろしくお願いします、先生」
「はうぅ……」
いきなり妄想が現実となり、うれしそうに身もだえるリンネ。だが、ネクロが不思議そうに、その隣に腰を下ろしたノルンがにやにやしながら見ているのに気づくと、コホンと咳払いをして、説明を始めた。
「まず、四強から説明するわね。四強は上位存在である神と、私たち人間や亜人などの下位種族の間に位置する、準上位存在とでもいうべき存在のことよ。
一つ目は龍族。強靭な鱗と強大な魔力、そして龍脈という膨大な力の流れから、その力を引き出し操ることのできる種族よ。これがネクロの種族ね。龍族の頂点には神龍といい神であり龍である存在がいて、神龍は世界神様の騎龍だったといわれているわ。
二つ目は巨人族。はるか北の果て、グラングリス山脈の向こうに住むといわれる、埒外の巨体と膂力を誇ると伝えられる種族。大古には龍族と争ったともいわれているわ。今はグラングリス山脈をこえる手段がないから、完全に伝説の存在となっているわ。まぁ、世界中に巨人族が暴れまわったと思われる跡があるから、実在したのは間違いないわね。
三つめは精霊族。亜人によって信仰される、自然三神の眷属と呼ばれる存在。無尽蔵の魔力と恐ろしいほどの魔法の腕を持つといわれているわ。その中でも、自然の力を引き出す魔法、精霊魔法は地形を変えるほどの威力をもっているらしいわ。精霊族はたまに亜人と契約を交わすことがあるみたいで、精霊族の契約者となったものは、その魔法の力を扱うことができるというわ。
最後は聖邪族。これは一番謎に包まれた種族で、言い伝えでしかその存在が明らかになっていないの。聖神の眷属である聖族、邪神の眷属である邪族を合わせてそういうらしいわ。なんでも、神同士の戦いで兵として現れるというわ。
四強についてはこのくらいかしら?何か質問はある?」
「先生、ノルンが寝てます」
話が難しかったのか。ノルンはネクロの膝を枕にして眠っていた。それを見てリンネが怒りとうらやましさが混じった表情を浮かべて、掌をノルンに向けた。
「ノルン……起きなさい!」
「はにゃんっ!?」
リンネが放った弱めの電撃が、ノルンを強制的に目覚めさせる。びっくりして飛び上がるノルン。何事かとあたりを見渡して、すっきりした顔でこちらを見ているリンネを見つけると、うぅ~とうなり声をあげて飛びかかった。
「リンネ、覚悟っ!」
「の、ノルンが私が話してるのに、ネクロとその……ひ、ひざまくら!膝枕してたじゃない!ずるいっ!」
そのまま取っ組み合いを始める二人。どったんばったんと暴れる二人を見て、ネクロは苦笑を浮かべた。
「説明、途中なんだけど………。ま、いっか」
そういうとネクロは、苦笑を、楽し気な笑みに変えるのであった。
二章が終わる気配がしなくなってきた。あと五話以内には次の章に行きたい……。
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