あ、やせいのゆうしゃとまおうとりゅうおうがあらわれた! 5
さてと、この章も終わりが近づいてきている……
リンネとノルンが魔王スロウとの戦闘を開始したころ、ネクロと、ネクロに吹き飛ばされた勇者タリオンとの戦闘も始まっていた。いや、それはすでに戦闘と呼べるものではなかったかもしれない。
「[虚ろな龍爪]」
「くっ!」
ネクロの腕に、半透明の龍腕が重なる。魔力と龍脈から取り出したエネルギーを編んで作られたそれを、タリオンに振るう。振るわれた延長線上に斬撃が五本、龍腕の爪と同じ数、飛ぶ。飛来する斬撃をタリオンは光り輝く両手剣、聖剣で打ち払うが、その重さに体制を崩す。その隙を見逃さずにネクロがクルイシュラで突きを放つ。タリオンはそれをバックステップで回避。お返しとばかりに聖剣から光のレーザーを放つ。ネクロはそれをよけようともしない。真正面からレーザーに突っ込んでいく。レーザーはネクロの体に命中すると、その場で砕け散った。
「くそっ、攻撃が一切通用しないなど……っ、悪夢なら覚めてほしいものだ…なっ!」
「さっさとあきらめたらどうかな?」
「ふっ、馬鹿なことを言うな。オレは勇者だ。勇者があきらめるわけないだろうが!」
「あっそ、じゃ、遠慮なく……[龍角穿]」
突っ込んできたネクロから、必死で逃げ回るタリオン。龍となったネクロの攻撃は、物理、魔力問わずタリオンの生命力を容赦なく削り取っていく。クルイシュラが、ジャッジメントが、[反逆許さぬ支配力]にて襲い掛かり、ネクロが放つ四種の力の攻撃がタリオンを追いつめる。
「聖剣技、ホーリースラッシュ!」
「無駄だよ」
「なにぃ!?」
タリオンが放った渾身の攻撃も、ネクロには何の効果もない。聖剣はすり抜け、魔力は砕け散る。ネクロは自分に迫る聖剣に一瞥もくれずに、握りしめた拳をタリオンの腹に叩き込む。カ八ッ と肺から空気をすべて吐き出すタリオン。それに構わず、ネクロは連撃をタリオンの全身に打ち込む。
「はぁあああああああ!!!」
顔、胸、右腕、左腕、鳩尾、腹、股関節、右足、左足……全身を塗りつぶしすように放たれるネクロの打撃。力任せに殴ったり蹴ったりしているだけだが、魔力、聖光、妖気、龍脈のエネルギーをまとったネクロの攻撃は、タリオンの反応を許さない。その拷問のような攻撃に、勇者はたまらず悲鳴を上げた。
「がっ、ぐっ、ぐはぁ!」
「ほらほら、よけてみなよ。勇者サマ?」
「い、いわれなくてもっ!」
完全にサンドバッグ状態のタリオンは、何とか打撃の雨から逃れようとするが、ネクロの[反逆許さぬ支配力]がタリオンの体をがっちりと拘束しているので、それはかなわない。
「本当にかわいそうだよね。あのゴミクズ女の加護を受けちゃったから、きみはこうして殴られてるんだよ?あのゴミクズがいなかったら、きみがこうして苦しむ必要なんてなかったのに」
「だ、黙、グハァ!」
「え?何?なんか言ったのかな。ごめんね、アバズレファックの加護を持ってるひとの言葉はわかんないんだ」
「き、貴様ぁ!聖神様を侮辱するっ、げはっ、ごほっ」
「はははっ、ちゃんと人間の言葉で話しなよ!さぁ、さぁっ!」
「お、俺を……、勇者である俺を、馬鹿にするなっ!俺は人類の希望、世界を救った救世主だぞ!」
「だ・か・ら?」
顔面を集中的に殴打しながら、そんなことをいうネクロ。その顔には無邪気な笑みが張り付いており、それがかえってタリオンの恐怖を加速させている。そう、勇者が恐怖しているのだ。千の魔物の集団にも、魔王にも果敢に挑みかかった勇者が、たった一人の少年に恐怖している。顔を青くしているタリオンを見て、ネクロの笑みがさらに深まる。
「ほらほら、青ざめてないで反撃してみなよ!勇者なんでしょ?人類の希望なんでしょ?聖神サマのご加護(笑)を受けた、特別な存在なんでしょ?ならとっとと起き上がれよ、なぁっ!」
「ぐ……も、……もう…………や…めて……く……れ………」
「やめろと言われてやめると思う?バカも休み休み言ってよ。ほら、どうにかしてみなよ!その聖剣は飾り?生前の経験値は役立たず?勇者としての力をすべて使って、この状況に抗ってみたらどうなのかな、勇者サマァ!」
「う……ぁ………」
言葉の攻めと打撃の攻め。二つの攻めは、タリオンに容赦情けなく降り注ぎ、確実にその身と心を削っていく。気丈にそれを耐え、口撃に対して、反論を返していたタリオンも、徐々にその勢いをなくしていく。
もはやしゃべる気力も残っていないのか、ネクロの拳を受けても無反応になっていく。体より先に、精神がダメになっていた。ネクロはほとんど廃人に近い勇者を見て、つまらなさそうに鼻を鳴らした。
「まさか、これで終わりなの?君は死ぬ前まで一体何をしていたんだ?どうせ無駄な時間を無駄に過ごしていたんだろ?勇者なんて言われて、周りにちやほやされていい気になってたんだろ?自分は選ばれた特別な存在だなんて錯覚してたんだろ?その結果がこれ。戦闘訓練なんて最近始めただけの僕に負ける。ステータスにいくら差があったとしても、ノルンならこんな無様をさらしたりしないよ」
ネクロの言葉の刃が、タリオンをざっくざくと刺し貫く。タリオンの目はうつろになり、すでにネクロの声が届いているかも怪しい。先ほどまでの威勢は、もはや見る影もない。
「きみの存在は、あのクソ女に出会った瞬間に、ただ無駄なものになったんだよ」
「…………ゃ………ぃ……」
「は?」
「む……だ…………じゃ、ないっ!」
タリオンの瞳に光が戻る。それと同時に、タリオンの体から膨大な魔力の奔流が流れ出し、ネクロの拘束を引きちぎる。とっさに後ろに飛びのいたネクロは、瞳に警戒を含ませて、勇者を冷静に観察する。
「限界突破とかそういったスキルなのか……?こういうときに解析があると便利なんだけどな」
突然のパワーアップに、ネクロは真剣な顔つきに―――なることはなく、めんどくさそうに片目を細めた。ネクロは、タリオンが魔力の増大とともに、ステータス事態もかなり上昇していることを感じ取っていた。それでも、ネクロの余裕は砕けない。静かに魔力渦巻く中心にいるタリオンを見ている。
「これが、俺の切り札。スキル[半神化]。聖神様の加護の中から神気を呼び出し、自分の存在の格を引き上げ、ステータスを三倍にする。いかに貴様の耐久が高かろうと、七万を超える筋力値に耐えることなど、不可能だ!」
自信満々にそう言い放つタリオン。それに対してネクロは。
「あ、うん、頑張って?」
少し困ったような、あいまいな笑みを浮かべながら、その場に棒立ちになった。まるでどこからでも殴りかかってこいと言わんばかりに無防備な姿に、タリオンの眉が吊り上がる。完全になめられていると思ったのだ。
「喰らえぇえええええええええ!!!!」
先ほどのお返しとばかりに、放たれる聖剣での連撃。聖光をまとい、そして神気を重ねた聖剣の攻撃が何度も何度も、ネクロに叩き込まれる。
だが、
「はぁっ!」
袈裟に繰り出された全身を使った斬撃は、ネクロの肩から脇腹までを切り裂……けずに、するっ と通り抜ける。聖剣にまとわりついていた聖光と神気は、その光でネクロの目を細めさせることしかできずに、ネクロの体に当たるとともに砕け散った。
「真聖剣技、光麗の斬閃!」
膨大な魔力が収束された光属性の飛翔斬は、伸びをしたネクロの腕に当たって砕け散った。
「真聖剣技奥義、黎明の瞬光!」
光の速さで繰り出される連撃と神気による砲撃が組み合わさった奥義は、ネクロがあくびをしているうちにすべてがレジストされた。
「真聖剣技最終奥義、神威極煌臨界斬っ!」
タリオンの全魔力と半神化を維持している神気、そして聖剣に宿る聖光をすべて使い果たして放たれた光速の何十倍もの剣速を誇る最終奥義は、すでに半分ほど寝ているネクロの目を覚まして終わった。
タリオンの全力全開を真正面から無防備に受けても、かすり傷一つつかないネクロ。初めに立っていた場所から一ミリも動かせていない。己をすべて出し切って繰り出した攻撃の数々が防御すらしていない相手に破られたタリオンは、疲労と失意に膝をついた。
「ば……か、な……。俺の、全力の攻撃を受けて、……無傷だと?」
「まぁ、そういうこと。なんか最終奥義とか切り札とか、無駄に使わせちゃってごめんね?確かに君は塵芥な生ごみ女の加護を受けている僕の敵だけど……さすがに哀れというか。かわいそうというか………」
「は、はは……ははは……、ゆ、夢だ……。これは、夢なんだ……」
「あーあ、ついに壊れちゃったかぁ……。とっとと倒してあげればよかったような……」
壊れた機械のように、ただ笑い声を響かせるだけの存在になり果ててしまった勇者をみて、ネクロは苦笑い。最初から容赦などする気もなかったが、これはさすがにかわいそう……と、若干反省していた。
「そうだ、これは夢、夢、ゆめゆめゆめゆめゆめめっめめめめめめめめめめめっ」
「……ま、これ以上苦しまないように、一撃で消し飛ばしてあげるよ。[龍化]」
ネクロの体が、光に包まれた。その光はどんどん大きくなっていき、最終的に三十メートルほどの大きさとなった。
光は一度ググッと収束すると、次の瞬間に粒子となってあたりに飛び散る。光の中から出てきたのは、純白のうろこに全身を包まれ、漆黒の鬣を風にたなびかせる、一匹の龍。蛇のような長い体をくねらせて、崩れ落ちる勇者を睥睨する。
「さよなら、哀れな勇者さん」
龍、ネクロはそう告げると、口を大きく開き、そこに力をためていく。魔力、聖光、妖気、龍脈のエネルギーが収束され融合する。それは、この世界で初めてとなる、四種の力の配合。混ぜ合わさった力は、ネクロの鬣と同じ、漆黒に輝いていた。
「[暗き終焉の吐息]」
そして放たれる漆黒の砲撃。破壊の奔流であるそれは、勇者の体を余すところなく包み込み、響き渡る轟音とともに、完全に消滅させた。
主人公ひでぇwww
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