あ、やせいのゆうしゃとまおうとりゅうおうがあらわれた! 4
二週間ぶりですかね?テストが終わったんで、さっそく更新します!
「くそ………勇者のヤローと龍王は、もうくたばっちまったのかよ」
「いや、勇者はまだ無傷だよ。そろそろ戻ってくるんじゃないかな?」
「龍王は……てめぇが取り込みやがったのか、化物」
「魔王に化物呼ばわりされる筋合いはない。今の君だって化物みたいなものじゃないか」
忌々しげにネクロをにらみつけるスロウに、ネクロは余裕をもって返す。それは、決して油断しているのではない。存在進化して龍の一角になったネクロにはわかるのだ。すでに魔王に、自分を倒す力がないことを。
そして、そのことは、スロウ自身も理解している。スロウが放った砲撃がネクロに受け止められたとき、彼はとっさに分析の魔法を使っていた。そこで見たネクロのステータスは、魔王であるスロウでさえ、目を疑うようなものだった。勝てるはずがない、スロウはそうあきらめる自分の意志を力ずくで押しつぶし、気丈にふるまう。
「は、能力値のカンストしてるようなやつを化物と呼ばずしてなんて呼ぶんだよ?それになんだそのステータスは、スキルが変異してるってなんだ?あれほどの攻撃がほとんど魔力撃ってのはどういうことだ?全部が全部おかしいんだよ、てめぇはよう。そんな化物は、ここで死んでもらったほうが世のためってもんだ」
「それは、俺も同感だな。ネクロといったか?貴様は異常すぎる。このまま貴様が地上に行くようなことがあれば、世界にけして小さくない影響を与えるだろう。その前に、聖神様を殺すなどとのたまう輩を、この俺が許すと思うのか!」
と、そこに戻ってきた勇者も参戦した。ネクロによって吹き飛ばされた勇者タリオンは、巨大なこのボス部屋の壁まで飛ばされていたのだ。変身した魔王と並ぶように立ち、ネクロに剣を向けた。
そうやって敵意と殺気を向けられたネクロといえば……。
「二人とも、大丈夫だった?怪我とかはなさそうだけど……」
「うん、ちゃんとネクロが助けてくれたから、大丈夫」
「……………」
まったくと言っていいほど、聞いていなかった。スロウとタリオンに背を向けて、リンネとノルンの心配をしている。
「あれ?リンネ、どうしたの?」
「…………」
「リンネ、おーい」
「……え、あ、ひゃ、ひゃう!」
ネクロがなぜか固まっているリンネの顔を覗き込む。まるでシャットダウンを食らったかのように固まっているリンネは、ネクロが肩をゆすることでやっと気が付き、そして、至近距離にあったネクロの顔とばっちり目が合うと、真っ赤になってうろたえてしまう。いつもと様子が違うリンネに戸惑うネクロ。そして、リンネの様子からすべてを察したノルンが、「あちゃ~」と顔を片手で覆った。
「えっと…大丈夫だよね、リンネ」
「え、あ、う、うん………大丈夫」
顔を赤くしながら、ネクロから目をそらすリンネ。それは誰がどう見ても、恥ずかしがっていた。いつもならしっかりと目を合わせて、はきはきとしゃべるリンネが、初心な少女のような反応をしたことにネクロは困惑していた。困惑した顔のネクロの服の袖を、ノルンが引っ張る。
「ネクロ、リンネのことは任せて。大丈夫だから」
「そ、そうなの……?ノルンがそう言うならそうなんだろうけど…」
「それに、そろそろ勇者と魔王が限界」
「あ、忘れてた。どうしよっか、二人はまだ戦える?」
「わたしは問題ない。まだまだやれる」
「リンネは?」
「わ、私も……がんばる!」
力強くうなずく二人に、ネクロはクスリと笑みを浮かべる。頼もしい二人の仲間の存在を、改めてありがたく思ったネクロは、二人の手をとり、そのまま[浮遊]を発動した。
「ふわぁ」
「え、えぇ!?」
かなりのスピードで浮かび上がっていく三人、いきなりのことにリンネとノルンはあわあわとして、ネクロにしがみついた。二人を安心させるように、「大丈夫だよ」、とささやくネクロ。
「僕は、勇者をやる。完膚なきまでに叩き潰すから、その間、二人には魔王のほうをお願いしたいんだ」
「うん、さっきはやられそうだったけど、もう、大丈夫」
「私も……やれるわ」
リンネも驚いたことで頭が冷えたのか、いつものような利発さが瞳に宿っていた。
「ありがとう、二人とも。それじゃあ、行ってくる」
「あ、まって、ネクロ」
ぐっと両足に力を込めたネクロを、リンネが呼び止める。不思議そうに振り向くネクロに、リンネは少しの間ためらうようなしぐさを見せ、やがて何かを決心するかのように顔を上げて、ネクロを見つめた。
「その、……が、がんばってね!」
「……うん、リンネも、気を付けてね?もちろんノルンも。二人になにかあったら、僕はどうにかなってしまうかもしれないから」
ネクロはそういうと、今度こそ龍翼を広げ、勇者に向かって高速で飛翔していった。そのまま反応を許さぬ拳を勇者の腹に叩き込んだ。水平に吹き飛んでいく勇者をネクロは追いかけていく。それを見送った二人は、ゆっくりと地上に降りていく。徐々に近づいてくる地面を前に、ノルンがポツリとつぶやいた。
「リンネ、惚れた?」
「っ!?な、なななななんのこと!?」
「うん、何もごまかせてない。本当にリンネは初心でかわいい」
「か、からかわないで、それに……ほ、惚れったって……」
「もちろんネクロのことだよ?」
「あう……べ、別に好きになったとかそんなこと……」
「真っ赤な顔で言っても説得力ない。おとなしく認める」
「あ、うぅううううううう」
顔をまた赤くして冷静さを失うリンネ。それをみたノルンはやっぱりかわいいなぁとほっこりとした表情を浮かべていた。
「でも、リンネ。気を付けて、強敵がいる。ネクロはそう簡単にはいかない」
「きょ、強敵……!?」
「うん、詳しいことは魔王を倒してダンジョンを出てからするけど、とにかく要注意人物がいる」
「そ、そうなの……」
「……まぁ、わたしも頑張るから、問題ない」
「わたしも?…………って、まさかノルンも、ネクロのこと……」
「一歩、リード」
「そ、そんなぁ……」
「リンネ、来る」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる!そら、死にさらせ!」
ノルンが、こちらに突撃してくる魔王を素早く察知して、双大剣を振るう。左の大剣がスロウの爪を受け止め、右の大剣での刺突がスロウののど元に迫る。だが、それはスロウが素早く後方に飛び退ったことで回避されてしまう。そこに突き刺さる稲妻の槍。リンネが放った魔法がスロウに直撃した。体に突き刺さった槍が電撃に変換され、スロウの体内を蹂躙する。苦し気にうめくスロウだが、動きは止めずに、右に左に縦横無尽に駆け回りながら、魔力の砲撃を放つ。それをかわしながら、ノルンがスロウに接近する。
「すらっ!」
「甘いっ!……なにっ!?」
双大剣をかわそうとしたスロウは、自分の足が動かなくなっていることに気が付く。急いで両足に視線を向けると、そこには地面が変化してスロウの足に絡みついていた。それを振り払おうとするが、大量の魔力が込められた土の拘束は、スロウの足をがっちりと挟んで離さない。そこに振るわれるノルンの連撃。双大剣が重量を感じさせぬ軽やかな動きで振るわれるたびに、スロウの体が削れていく。だが、スロウの真の姿、その能力の一つである再生能力が、傷ついた端からそれを治癒してしまう。その隙に土の拘束から逃れるスロウ。
「くそっ、あのバカげた浄化の影響が出てきやがったか……。ほんっとうに忌々しいなぁ、あの化物」
「ネウロを化物呼ばわりするなっ!」
スロウがネクロをけなす発言をすると、ノルンがそれに反応して特攻を仕掛ける。振るわれる双大剣を角や爪でしのいでいくスロウ。ノルンはネクロをけなされたことで頭に血が上っているのか、だんだんと攻撃が単調なものになっていく。それを見逃す奏者の魔王ではない。ノルンが放った大振りな一撃をするりと回避したスロウは、攻撃後の隙をついて、魔力で強化された強力な一撃を放つ。
(獲ったぁ!!)
スロウは自分の一撃がノルンの命を奪うのをまるで 疑っていなかった。だからこそ、その時、ノルンの口元に刻まれている笑みに気づくことができなかった。
スロウのはなった攻撃をまるで分っていたようにやすやすとかわすノルン。スロウが放った攻撃は勢いよく地面に突き刺さり、スロウの動きを一瞬止めることになってしまう。そして、その一瞬こそがスロウを終焉へと導く。
「神縛鎖陣!」
リンネの声が響き渡り、スロウの体に光で形作られた鎖が絡みつく。絡みついた鎖はスロウの体全体を完全に束縛し、自由を奪う。神縛鎖陣。拘束系魔法の中でも最上位の魔法で、かつて世界を蹂躙しようとした魔神を拘束したという逸話をもつ魔法。その魔法の効果は魔法を得意とする魔王であるスロウがピクリとも動けていない。それもそのはず、この神縛鎖陣は本来、数百人の高位魔法使いが集まって使う魔法なのである。拘束という一点だけに性能を割り振ったこの魔法は、精神値カンストしているネクロであろうと、数分の間動きを縛ることができるだろう。まぁ、ネクロにこの魔法を使用するときは使用する魔力が跳ね上がってしまい、魔力で換算して数百万というトンでもない量の魔力が必要になるが。
鎖で拘束されたスロウは、自分が罠にはめられたことに気づく。ノルンの攻撃が単調になったのは、自分に全力の攻撃をつかわせることが目的だったのだ。
「これが、あなたの終わり。あなたが化物呼ばわりした彼の力で、あなたは二度目の死を迎える」
ノルンは感情のない瞳でスロウを見つめながら、そう冷酷に告げた。
神縛鎖陣は、先ほども述べたように数百人の高位魔法使いが集ってつかう魔法なのだ。そんな魔法の行使をリンネにかのうにさせたのは、【千呪魔天 ファンタズマ】の能力。この杖は、魔法を発動するときに必要な工程の大半を圧縮、並列化などによって肩代わりしてくれるというもの。もし他の魔法使いがその能力を知ったなら、何が何としても手に入れようとするだろう。魔法使いにとって魔法工程の短縮化は永遠の課題なのである。
「あなたは焦っていた。ネクロに勝てないことが分かっていたから。自分の死が確定している状況で平然としていられる人なんていない。それは、魔王も例外じゃなかったみたい」
「く……そ…………、ば………け…も………の……がぁ……」
「ネクロは、化物じゃない。わたしとリンネの好きな人。それを侮辱するお前は……」
ノルンの口調がだんだん荒いものに変わっていく。いつもは眠たげな瞳は憤怒に彩られており、口元は忌々し気にゆがめられている。
「死ねぇっ!!」
ノルンの双大剣が、スロウの心臓部分、魔物の核である魔石を切り裂いた。魔王も魔物から進化した存在である限り、魔石が弱点なのに変わりはない。魔石を砕かれたスロウは、すさまじい量の粒子になって空気中に溶けていく。魔石を砕かれたことで死に至り、存在の狭間が働かなくなったのだ。因子がばらばらになり、世界へと還元される光景は、どこか美しく、儚い。
だが、そんな光景には目もくれずに、ノルンはリンネのほうに向かって走り出した。今殺したスロウなど、最初からいなかったように。
テストの結果は考えない。考えたところで絶望するだけだから。
感想とか評価、批判、作者への悪口、なんでもござれでございます。




