あ、やせいのゆうしゃとまおうとりゅうおうがあらわれた! 3
バトル回………なのか?
「ふむ、このレベルの聖光を扱えるということは、貴様も聖神様の加護を受けているということか?」
「我が不意を突かれるとは……不覚」
「ちょ、マジで洒落になってない。オレただでさえ聖光効果抜群なんだぞ?それをアンデットの状態の俺にやるとか……鬼畜にもほどがある」
ネクロの無慈悲な聖光の砲撃がやんだあとには、ほとんど無傷な勇者と龍王、そして、肩で息をしている魔王がいた。
「ちっ、やっぱり勇者と龍王は、ゴミクズ下種女の加護持ちだったか……。うん、魔王には効果があったみたいだから、リンネとノルンは魔王の相手をしてくれる?僕は、あの勇者と龍王とかいう下種女の下僕をボッコボコにしてくるから」
「わ、わかったわ……というかネクロ、聖神に何か恨みでもあるの?」
「ちょっと個人的な因縁と、絶対に衰えることのない殺意を抱いてるだけだから、気にしなくていいよ」
「それ、逆に気になるわ」
ジト目で追及してくるリンネに、ネクロは笑顔で「気にしなくていい、よ?」と少し強調していう。それであまり触れてほしくないことなのだろうと理解するリンネ。すでに魔王に向けて双大剣を構えているノルンと一緒に、魔王と対峙する。
「まぁ、ネクロなら大丈夫だと思うけど、気を付けてね」
「ネクロ、頑張って」
「二人も、魔王は少しは弱ってると思うけど、魔王に第二、第三の変身が残ってるのは常識だから」
「それ、どこの常識なのよ……」
そういって、リンネは意識を戦闘用のものに切り替える。
「とりあえず、戦闘場所をここから遠いところにするわよ!」
「うん!」
リンネが風の魔法で魔王の体制を崩し、ノルンがその隙をついて双大剣を叩き付ける。聖光の影響がまだ残っていた魔王は、それを受けて吹き飛んでいく。
ネクロは、二人と魔王が離れたことを確認すると、勇者と龍王のほうに向きなおる。
「さて、ゴミクズ下種女の加護を受けてしまったかわいそうな人たち?あの雌豚のせいで僕の怒りを買ってしまったこと、ものすごく同情するよ」
「……さっきから貴様が言っているゴミクズ下種女や雌豚というのは、もしかすると聖神様のことなのか?」
「え、それ以外になにがいるって言うの?」
「貴様!聖神様に向かってそのような物言い、不敬にもほどがあるぞ!貴様の聖神様の加護を受けているのだろう?」
本気で同情的な視線をおくるネクロに、勇者が憤る。龍王も、顔を怒りでゆがめ、唸り声をあげている。
「はぁ?僕がアバズレクソビッチの加護を受けてるかだって?冗談でもやめてくれる?鳥肌が立つ」
両腕をかき抱くネクロ。本気で嫌そうな表情を浮かべ、今にも吐きそうになっていた。
「……なぜ汝は、そこまで聖神様のことを嫌悪する?汝は人間ではないが、聖神様の眷属のような存在であろう?のう、ユニークモンスター、聖霊人よ」
「聖霊人?貴様は魔物だったのか……。しかし、聖光を使っているということは、聖神様に強い思いを抱いているということだろう?でなければ、アンデットが聖光を扱えるはずがない」
「黙れ」
いきなりネクロから、魔力と妖気で作られた槍が放たれる。勇者は手に持った聖剣にてそれを叩き落す。突然の攻撃に、勇者は驚きの表情でネクロを見つめた。
「な、なにを一体……」
「黙れって言ったのが聞こえなかった?僕は聖神を、ナルアを苦しめたゴミクズを殺す。それが僕の目的であり、義務であり、悲願だ」
「せ、聖神様を殺す……だと?」
「……汝よ、何者だ。神を殺すなど、神罰が下るぞ?」
驚愕を浮かべた勇者と龍王が、ネクロをにらみつける。その険しい視線を受けながら、ネクロはスキル[浮遊]を発動させ、宙に浮かび上がる。龍王を超え、二人を見下ろせる位置まで行くと、両手を左右に広げ、声を張り上げた。
「いいか、よく聞け!私の名はネクロ!異世界より死の運命をこの身に受け、霊へと変化し、この世界に君臨せし者であり、絶対無敵なる鉄壁要塞。この身を捧し我が主、邪神ナルアの唯一の眷属にて、彼女の愛の奴隷!邪悪なる聖神の悪逆非道な行いに裁きを下すべく命を与えられた異常存在中の異常存在なり!私の進む道に立ってしまった哀れな生贄どもよ、おとなしく我が糧となるがいい!」
途中で何度も痛々しいポージングを取りながら、一息でそう言い切ったネクロを、勇者と龍王はポカーンと見つめていた。いきなり炸裂した強烈な中二病に、思考が追い付いていなかった。
「どうした?恐れで声も出ないか?ならば、こちらから行くぞ!」
ネクロはそう香ばしい顔で宣言すると、両手を交差させて前に突き出した。
「[反逆許さぬ支配力]」
ネクロが両手を勢いよく握り占めると、勇者と龍王が突然崩れ落ちた。[反逆許さぬ支配力]は、ネクロがレイスだった時から使っているスキル、[念力]を[中二病]によって強化したものだ。単純に出力が上がっているだけでなく、特殊な効果がいくつか追加されている。
「な!重力魔法だと!?」
「いや違うぞタリオン。これは……推測だが、[念力]のスキルの発展形だろう」
「ほう、さすがだな龍王。一発でこれを見抜くか。しかし、見抜いたところで……何ができるっ!」
ネクロは今度は中指をピンっと立てた。そして、それを龍王に向けた。
「ふっ、残念だが、汝の攻撃では、我らの生命力を削るのは不可能だぞ。確かに汝は恐るべき精神と耐久を持っているが、攻撃系のステータスが低い。その程度では、我らを倒すことなど不可能だぞ?」
「だれが倒すと?私はこういったはずだぞ、糧になってもらう、と。足りあえず、邪魔な勇者には一時退場してもらおうか」
ネクロは中指を立てていないほうの手を、勢いよく頭上に掲げた。それだけで、勇者にかかっていた押さえつける力が、吹き飛ばす力に変わる。ホームランボールのように吹き飛んでいく勇者。悲鳴がエコーとなって響いていた。
「これで、お前の力を糧にできる。さあ、覚悟はいいな?[生殺与奪は我が手中に]!」
ネクロが立てた中指から、怪しげな光を放つ大鎌が出現した。禍々しい装飾がされたそれを、ネクロが無造作に振るった。
すると、大鎌が通った空間をなぞるように、斬撃光が龍王をめがけて飛翔する。それは龍王の胸あたりを大きく切り裂くように通り過ぎる。だが、龍王の体には傷一つついていなかった。
「……なんだ?一体、何をした?」
「そうせかすな、龍王よ。今のは準備段階に過ぎない。[生殺与奪は我が手中に]は、ありとあらゆるものの生と死の概念を操る。一撃必殺、死者蘇生も可能なスキルだ。ま、その二つをやるのには、魔力が足らないがな。私が殺したのは、お前の存在の境目だ」
「……存在の、境目?」
「ああ、この世界において、存在の性質を決定するのは、『因子』と呼ばれるものだ。人族なら、人因子をもとに、性別因子、性格因子などが集まってできているということだな。そして、集まった因子を固定し、外部からの干渉を防いでいるのが存在の境目というわけだ。それを、殺した」
ネクロの知識は、すべてナルアから教わったものだ。ノルンに目撃されていたあの密会は、別にいちゃついていただけではないのだ。
「こうすることで、上位存在ではなくとも、因子に直接的なアプローチができるようになる。ところで龍王よ、どうして私は、自分の能力の説明を懇切丁寧にしてると思う?」
「それは……ま、まさか汝……。我の因子を!?」
「その通りだ。文字通り、糧になってもらうんだ」
ネクロはそういって笑みを浮かべた。いつもの無邪気な笑みではなく、口端を釣り上げるだけの不敵な笑み。
「さようなら、龍王。[存在喰らい]」
ネクロが、両手を伸ばし、龍王の体に突き刺す。
「な、が、がァアアアアアアああああああああああああああ!!」
龍王の口から、苦痛の叫びが漏れる。だが、体は[反逆許さぬ支配力]で動かない。なすすべなし、とはまさにこのことだった。
だんだん、龍王の体が薄くなっていく。内側から存在を食い尽くされるという未知の体験など、そうそうできるものではないだろう。というか、できたらそいつは死んでいる。
やがて、龍王の因子は、すべてネクロの中に飲み込まれてしまった。ネクロの体が、入ってきた因子を飲み込み、納めて、消化し、吸収する。聖神の加護だけは、[生殺与奪は我が手中に]で殺しておく。[狭間の存在]を変異させて生み出されたスキルは、聖神の気配や分け与えられた力を完全に消滅させた。
「ご馳走様」
ネクロがさっきまで龍王がいた場所を見ながら、手を合わせた。目をつぶり佇んでいるネクロの姿が、変化していく。頭から二本の角が生え、背中からは龍翼が生えてくる。
静かに開かれた双眸は、瞳孔が縦に裂けていた。
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ネクロ
種族/霊龍 ランク7
レベル1
生命力 25620 魔力 273200
筋力 8215 耐久 99999(カンスト) 敏捷 9893 知力 35382 精神 99999(カンスト) 運 3
種族スキル
[反逆許さぬ支配力][憑依][浮遊][透過][存在喰らい][生殺与奪は我が手中に][浄化][龍化][ブレス]
スキル
[魔力撃][聖光技][妖気法][龍脈操作]
固有スキル
[中二病]
称号
[異世界より転生せしもの][精神の極み][殺戮者][無敵][耐久の極み][ユニークモンスター][邪神の眷属][邪神の伴侶(仮)][ネームドモンスター][死者の導き手][存在喰らい][妖刀の主]
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