あ、やせいのゆうしゃとまおうとりゅうおうがあらわれた! 1
よろしくです。
ネクロが妖刀を使い始めてから、二週間ほどたったある日、三人は、このダンジョンに来てから初めてとなる大部屋にいた。
大部屋とは、普通のダンジョンならどこにでもある、文字通り広い部屋のフロアのことである。しかし、今三人がいる大部屋は、街が数個入ってしまそうなほど広い部屋だった。
「あれ?『冥界回廊』って、通路だけで構成されたダンジョンだった気がするんだけど……」
「そのはずよ。しかも、この部屋、入り口だけで、出口らしきところがないわ」
「と、いうことは……」
「「「ボス部屋」」」
三人の声がそろう。ダンジョンの最奥らしきところ、そこに足を踏み入れた冒険者たち。と、ここまでシチュエーションがそろってしまったら、もう、ここからの展開は誰にでも予想できる。
ずん!と音が響き、三人が入ってきた入り口が壁でふさがれる。これもまた、ダンジョンのボス部屋で起こる、お約束のような現象だ。リンネとノルンはいままで攻略してきたダンジョンで同じような光景を何度も見ているし、ネクロは前世でプレイしたダンジョンRPGなどで幾度も目にしたものだった。
ノルンが大剣二本を取り出し、リンネは魔力を高ぶらせて長杖を構える。ネクロは神聖光で作られた剣を無数に滞空させる。
そして、部屋の中央部。そこに魔法陣が三つ、光を放ちながら浮かび上がった。
「先手必勝、【双頭暴龍 ツインタイラント】。龍崩斬!」
「万物を生みし大海の憤怒に飲まれよ、大地よ沈め―――滅波!」
「神聖剣・暴風乱舞!」
浮かび上がった魔法陣から、何かの影が見えた瞬間、三人が瞬時に繰り出せる最大威力の攻撃を叩き込んだ。
龍の咆哮を轟かせながら飛んでいく斬撃、すべてを飲み込む大波、神聖光をまき散らしながら飛翔する無数の剣。それらは互いを飲み込み、互いを強化しながら魔法陣へと突き進んでいく。
そして、命中。
世界が滅びたかと思われるような轟音が響き渡り、魔法陣があったところを力の限り蹂躙していく。地面がめくれ上がり、砂埃が視界を遮る。三人はすぐに次の攻撃に移れるように油断せずに砂埃をにらんでいる。
そうして、十秒、二十秒………と時間が進み、緊張した空気が周囲に張り詰める。
やがて、一分が経過したときに、リンネが、ぽつりとつぶやいた。
「……やったの?」
「あ、ちょ、それフラ―――」
リンネの危険な発言にネクロが反応した瞬間、視界を瀬切っていた砂埃が、一気に晴れた。
その向こうにいたのは、三人……いや、二人と一匹。
光り輝く鎧を身にまとい、純白の燐光をまとった両手剣を持つ、二十歳くらいの男。
豪華な装飾が施された漆黒のマントに身を包み、まがまがしい魔力を放つ本を片手に持った、頭に鋭い角が生えた男。
そして、全長が百メートルはありそうな黄金の龍。
まったくの無傷で、そこに佇んでいた。
「いきなりだな、おい。てか、これはいったいどーいった状況なんだ?」
漆黒のマントの男が頭を掻きながら、あきれたようにそう愚痴をこぼす。
「ふむ、たしか俺はそこの魔王との戦いで死んだはずなのだが……」
「我もそう記憶して居るが?なぜ死んだはずの我々がこうして現世にとどまっておるのだ?」
鎧の男と、黄金龍も不思議そうにそういった。
「えーっと、アナライズアナライズっと…。あーなるほど、オレら英霊になったポイ。しかも、あの悪名高き『冥界回廊』のボス扱いだぜ?はっはっは、笑えねぇ」
「なんだと!?なぜかお前に対する敵意がわいてこないのは、今の俺たちが、魔物になっているからということか……」
「なるほどのう。つまり、我らの役目は、このボス部屋にて、あそこにいる挑戦者を撃退すればよいのだな?わかりやすくていいのう」
勝手に進んでいく話に毒気を抜かれながら、ネクロはリンネとノルンに彼らことを聞く。
「えっと、あれはどんな人たちなのかな?…………って、二人とも?」
返事がないことを不思議に思い、二人のほうに振り向くネクロ。そして、二人の様子をみて、目を見開いた。
二人は、震えていた。顔色は青白く、ひざはがくがくと震えている。
「う、うそ………」
「そんな……」
いままで、どんな魔物にもおびえることなく立ち向かい、果敢に戦ってきた二人が、これほどまでにおびえているのを、ネクロは、初対面の時以外見たことがなかった。
「そんなに怖がるような、相手なの?」
「なんであれらのことを知らないのよ……。まず……、あの鎧をきた男だけ、ど、彼の名前はタリオン・ブレイバー。次に、本を持った、角の生えた男、彼はスロウ・スペリオル。そして、あの龍は、アハドハトラ」
一人ひとり、指さしながらリンネが名前を呼びあげていく。彼らを指す指はぶるぶると震えており、今にも倒れてしまいそうである。ノルンも、リンネと同じような状態だ。
ネクロも、あの二人と一匹から放たれる威圧感が、今まで戦ってきた魔物たちと、比べ物にならないのは感じ取っている。彼がそれでもおびえていないのは、ナルアという絶対上位存在を知っているからだ。
ネクロは震える二人に近づき、安心させるように、その手をとり、ぎゅっと握った。
「落ち着いて、二人とも。怖くない怖くない。あんなの、しょせんもう死んじゃった負け犬でしょ?大丈夫だから、ね?」
「………はぁ、まったく、ネクロってほんとに大胆よね……。勇者と魔王と龍王を負け犬扱いって……」
「ふふっ、やっぱりネクロはすごい。もう、大丈夫」
「よかった。それにしても、勇者と魔王と龍王かぁ……確かに強そうだね。特にドラゴンとか初めて見たからなぁ……そっかそっか」
ネクロはリンネに何かをささやくと、ゆっくりと二人と一匹のほうに向きなおる。
「まぁ、細かいことは置いといて、経験値になってもらおっか」
ネクロの言葉に、勇者と魔王と龍王が、ピクッと反応した。
「ほう、魔王であるこのオレ様を経験値扱いとはいい度胸じゃねぇか」
「魔王と同意見というのが気に入らんが、俺も少々頭にきた」
「粋がるでないぞ、小さきものよ」
「はははっ、お手本通りみたいなセリフをありがとう。経験値さんたち」
ぴくぴくっ、さらに反応する勇者たち。神経を逆なでするネクロ。その顔にはニコニコとした笑みが張り付いており、それがさらに二人と一匹の堪忍袋を刺激する。
「お手本みたいなことしか言わないつまらない人たちとこれ以上、話しても面白くないからね、とりあえず…………」
「てめぇ、いい加減に………」
魔王が顔面に青筋を浮かべなら、ネクロにそう言おうとしたその時、
ズガガガガガガガガガガガガっ!
地面を突き抜けて、神聖光で作られた剣が、勇者と魔王と龍王を取り囲む。そして、彼らの上空には、巨大な十字架が浮遊していた。
「【神聖断罪 バニッシュメント】、[絶対浄化の聖魂歌]」
ネクロの唱えた鍵言が、霊を冥界へと導く調べを奏でる。清らかな光が勇者たちを包み込み、その存在を消そうとする。
「まだまだ、【神聖断罪 バニッシュメント】、[破邪閃穿の騎槍兵団]」
聖歌と聖光が支配する空間を、十字架から放たれた幾千、幾万ものレーザーが貫く。【神聖断罪 バニッシュメント】によって浄化ではなく、破壊に傾いた聖光が、高速の槍となって勇者たちを襲った。
「これは、リンネとノルンをおびえさせた罰だ。甘んじて食らうといい」
そう冷たく言い放つネクロは、妖刀を構え、静かに前をにらみつけた。
そういえば、シャドウバーズってゲーム知ってます?
新パック登場で十回分のパックチケをプレゼントされましたが、レジェンドレアは一枚も出なかった。オリヴィエたんほしかったなぁ…………。




