説明、説明するからっ!
まだまだ続く、ラブコメ(仮)回。
うまく書けてますかね?
「………え、えっと……ノルン………さん?ちょっと落ち着いてくれるとありがたいんですが……」
「ふふふふふ、変なネクロ。わたしは落ち着いてる。さぁ、教えて?あの、すごく仲よさげに話して、頭なでなでして、膝枕してたあの女の子は、だれ?」
ネクロは、冷や汗を流しながら、光のない瞳でこちらに迫るノルンを必死になだめようとしていた。そんなネクロの態度に、まったく笑っていない顔で笑うという矛盾をはらんだ真似をするノルン。声が怒っているわけでもなく、平坦なのがさらに恐怖を加速させている。
(これはまずい……。いや、ナルアの存在を知られたこともまずいけど、いまのノルンはまずい……。なんかカンストステとか関係なしに致命傷を与えてきそうな気がする……)
かなりやばい状況だということを感じ取り、なんとか打開策を見つけようと思考を巡らせるネクロ。
「というか、起きてたの?結構夜遅い時間だったはずだけど……」
「……なんか、イラつきが胸の中を満たしたから。自然と目が覚めて、ちょっと外を見てみたら…………ふふっ」
とっさに話をそらそうとするも、失敗。まったくごまかされずに、不気味な笑みをこぼしている。
(偶然にもこちらに敵意のない英霊と会いました……現実的じゃないな。僕の新スキル………どっちにしろやばい気がする。どうする?考えろ、考えるんだネクロ。あきらめたらそこで人生終了のお知らせだぞ!)
状況のやばさに頭までやばくなってきたネクロ。考えすぎて、逆に混乱してしまっている。
「ふふふ、ふふふふふ、あはっ」
「怖い怖い!ノルン、わかった。わかった!説明するから!その恐ろしい笑い方をやめて!ノルンは普通にしてた方が可愛いから!」
あまりのノルンの怖さに、そう口走るネクロ。すると、ノルンは不気味な笑みを引っ込め、普段通りの雰囲気に戻った。
「説明、してくれるの?」
「うん、まぁ、隠し事なんて、いつまでもできるものじゃないからな………ばれたんなら、教えるよ。でも、結構信じがたい話だし、あんまり口外にしてほしくないことだからなぁ………」
「大丈夫、わたしが知りたいだけ。隠し事の一つの二つ、誰にでもある」
「……なら、このことも僕の秘密ということで、見逃してほしいんだけど……」
「だめ」
「なんでっ!?」
「……………………ネクロに隠し事されると、わたしが悲しい。だからダメ」
「………そういわれると、なにも言えなくなっちゃうなぁ」
本当に寂しそうに、まるで捨てられて雨に濡れているチワワのような雰囲気を醸し出すノルンに、苦笑を浮かべるネクロ。
「わかった。洗いざらい話させてもらいます。でも、秘密にしておいてね?」
「わかってる。…………二人だけの、秘密。ふふっ」
今度は本当にうれしそうな、まるで陽だまりの中、大好きな飼い主とともに遊ぶチワワのようだった。
そう考えて、ネクロは頭を振るう。これ以上考えると、ノルンのほうを見るたびに、ついているはずのない犬耳としっぽを幻視しそうだったからだ。
「じゃあ、いままでノルンには隠してたことを話すよ」
そう前置きをして、ネクロは話を始めた。自分がこの世界ではない、別の世界から転生してきたということ、邪神であるナルアに出会い、彼女の望みをかなえることになったこと。そこで知った聖神のこと、自分の目的。ナルアとの関係エトセトラエトセトラ………。
ネクロの話を真剣に聞いていたノルンだが、ナルアの正体が邪神であることや、ネクロとナルアが結婚の約束をしていることなどを聞くと、驚いたり、悲しい雰囲気を出したり、瞳から光を消したりと、さまざまな反応を見せた。
「と、まあこんな感じかな?なにか質問とかあったら、なんでも聞いてくれていいよ」
「……正直、信じがたい話ばかり。でも、ネクロが嘘を言っていないのは、よくわかる。ネクロはこういうところで嘘をついたりしない人。わたしはそう思ってる」
「て、照れるからそういうことを正面から言わないでくれるとありがたいなぁ」
ノルンは、口元に笑みを浮かべた。そして、いつもより柔らかいまなざしで、少し顔を赤くしているネクロを見る。
「ありがとうネクロ。ちゃんと話してくれて」
「えっと、どういたしまして、かな?でも、ノルンは邪神ってきいても驚かないの?いや、嫌がらないの、か。下界だと邪神って世界を滅ぼすといわれてる存在なんだよね?」
「うん。でもわたしは。というより、わたしたちは、ネクロと同じことを知ってるから」
「……え?それって、邪神が世界を滅ぼす存在じゃないこととか、聖神が世界を壊してまでえこひいきしてることとか?」
「うん、わたしたちは、とある神から、そのことを教えてもらっている。そして、聖神を封印しようとしてるの。その方法を探してる」
「マジですか……。とある神……冥神、守護神、大地神、海神、天空神のうちの誰か?」
ネクロがナルアと聖神以外の神を上げていく。ノルンはこくりと一つうなずきを返した。
「わたしとリンネが、前に攻略したX級ダンジョンで出会ったのは、守護神様」
「というと、ナルアのお兄さんか……」
「お兄さんなんだ。初めて知った。……それで、そのダンジョンの最奥で、守護神様から加護と使命を受けた。それからは、二人で聖神を封印する方法を探してる」
「なにか手がかりとかあるの?」
「ある。手がかりは、X級ダンジョン。そこにある神遺物には、世界神が創造した、神にも効果があるものがあるらしい」
ふむ、と顎にてをやって考え始めるネクロ。考えるのは、ネクロの目的と、ノルンたちの目的。似ているようで決定的に相いれない二つの目的。
ネクロは、ナルアをあんな目に合わせた聖神を憎んでいる。殺意を抱いている。存在のひとかけらすら認める気はない。すべてを否定して、尊厳など完全に無視して、最高に屈辱的な状況で殺したいと思っている。
だが、守護神とやらは違うようだ。その考えには甘さがある。封印で済ませられるほど生ぬるいことではないのだ。聖神がやったことは、そういうこと。双子の姉妹に嫉妬し、その存在を消そうとして、そして、自分が支持を得るために、憎悪を向ける対象にした。それだけではない、全く関係なかったはずのネクロの魂を弄んだ。
「封印か……一回、その守護神ってのには合わないといけないな。僕が聖神を殺そうとしたら、邪魔をしてくるかもしれないから」
「その可能性はある。守護神様は身内に甘いってリンネも言ってた」
「そういえば、ノルンはいいの?聖神を封印しろって言われたんでしょ?」
「問題ない。封印しようとしたら抵抗されて仕方なくっていう」
神をだます気満々のノルンに、ネクロは苦笑を浮かべる。そして、ノルンの頭にポンっと手を置いた。
「ありがとう、ノルン。君にあえてよかったって、もっと思うようになった」
「……うん」
うつむいて顔を赤くするノルン。ネクロはそれを見てクスクスと笑いながらノルンの頭に置いた手をゆっくりと動かす。
暗いダンジョンの中だが、二人がいるところだけ、心なしか明るく、そして暖かい空気が流れていた。
「…………そういえば、リンネはなんで起きてこないの?いつもならとっくに起きてるはずだけど」
「…………………」
「ノルン……なにしたの」
「二人で話がしたかったから、一服もった」
「…………どのくらいで効力が切れるの?」
「んー、三時間くらい?」
「そっか……………………朝ごはん、食べよっか?」
「うん!」
たぶん次からバトルです。




