理不尽な存在とDOGEZA
一週間ぶりですね。ブックマありがとうございます。
『冥界回廊』の中間地点あたり。そこでは、剣王ノルンと賢者リンネの二人と、白髪の少年の戦いが行われていた。
ノルンが、身の丈ほどもある大剣を少年にふるう。大剣二刀流という普通では考えられないような絶技で、少年に連撃を叩き込む。少年も両手に光の爪を出現させ、それを縦横無尽にふるうことで、大剣をさばいていく。二人の攻防は、どちらも決め手にかけ、千日手になっていた。
攻撃の正確さや威力、技などはノルンの方がかなり有利に立っている。しかし、少年は光の爪だけでなく、光線や聖光で形作られた剣、超重量の十字架などを用い、その物量でノルンの攻撃をしのいでいる。だが、ノルンの動きはどこか繊細さを欠いており、悪魔の集団と戦っている時ほどの威圧感もない。
「うわ、おねーさん強いねぇ。まだ中盤くらいだってのに、いきなり魔物がパワーアップしすぎでしょう」
「わたしは、魔物じゃない」
「そんな精神攻撃とかもやってくるのか。英霊、侮りがたし」
ノルンが少年相手に本気を出せないのは、少年がノルンとリンネのことを魔物だと勘違いしているからだ。ノルンたちにとって、この迷宮を一人で進めるほどの実力者とは、敵対したくないと思っている。協力関係を結べることができたら、これからの迷宮攻略がぐっと楽になるからだ。そのため、直接少年の相手をするのはノルン一人で、リンネは後方で拘束魔法を準備している。
「ノルン、準備完了よ!」
「うん!」
リンネの声を聴き、ノルンは少年をクロスさせた大剣で吹き飛ばす。体勢を崩した少年が「おわっ!」と驚きの声を上げる。
「さぁ、少しおとなしくしてもらうわよ。シャットダウン!」
リンネの体から大量の魔力が吹き出る。その魔力が渦巻くようにしてリンネの持つ長杖に集まり、一気に解放され、閃光になって少年を包み込んだ。
リンネが選択した魔法、シャットダウンは、閃光の範囲にいる敵の時間を強制的に止める、魔法の中でも禁忌指定されている時空属性の魔法だ。魔法事態の格が高く、普通の魔力障壁や、魔法反射の魔道具などでは防ぐことができない。魔法が発動されてから閃光が放たれ、それが広がるまでの時間も刹那ほどしかないので、よけることはほぼ不可能である。ノルンは、リンネの声が聞こえたあと、少年を吹き飛ばした反動を使ってリンネより後方に飛んだので、魔法の範囲からは外れている。
リンネは、自分の魔法が問題なく発動したのを確信した。そして、魔法が発動したということは、少年との闘いもここまでだということも。この魔法をリンネが発動した戦いで、彼女たちが負けたことは一度もない。それに、この魔法は消費する魔力量が多いため、そう頻繁に使うことができないのだ。リンネは、苦戦しそうな敵にだけ使うと決めている。
だが、そんなリンネの確信は、あっさりと破られることとなる。
「うわ、まぶしっ!目くらましの魔法かなんか?」
閃光が収まったところには、魔法を受ける前と別段変わったところのない少年が、閃光のまぶしさに目を押さえていた。リンネの放った魔法の効果は、まるで表れていない。その事実に、リンネもノルンも驚愕の表情を浮かべる。
「うそ………レジストされた……………?」
「……リンネの魔法は正しく発動していた。あの子が魔法障壁や防御魔法を使った気配もない」
「じゃ、じゃあ、素の精神値でレジストされたってこと!?そんなはずあるわけないじゃない、私の知力値は一万以上あるのよ?この長杖だって伝説級の神遺物なんだし………」
「リンネ、解析」
「そ、そうね……アナライズ」
動揺したリンネは、少年に向かって、ステータスを解析する魔法を使う。これは魔法抵抗などに左右されない魔法である。
「どう、リンネ」
「えっと、名前はネクロ、種族は霊人……初めて聞く種族ね。ランクは四。ランク表記があるってことは、魔物。つまり、ネームドモンスターで、ユニークモンスターってこと!?レベルは四十三、ほかの項目は………………………な、なにこれぇ!」
リンネが取り乱したように叫ぶ。その顔には、いつも強気な彼女らしかぬ恐怖が刻まれていた。
「リンネ?どうした」
「……せ、精神と耐久が……99999」
うわごとののようにつぶやかれたリンネの言葉に、ノルンが絶望したような表情をした。
「ここまで」
そうあきらめの言葉を吐くノルン。リンネはそれに同意するように首を縦に振った。
能力値のカウントストップ。それは、おとぎ話に出てくるような存在なのだ。神話の中では、名のある英雄や勇者たちが、神の加護と強力な神遺物の力を借りて初めて戦いになる存在。そんな神話の中でも、能力のうち一つがカンストしているだけなのだ。二つの能力値がカンストした存在に、勝てるわけがなかった。
「あー、やっと見えるようになった」
少年がそういって、へたりこむ二人の前に降りてきた。少年は聖光でできた剣を数本創り出すと、二人の周りに突き刺し、剣の結界のようなものを形成する。
「おねーさんたち、よほど強い魔物なんだろうから、最大威力の浄化で倒してあげるよ。経験値、期待できそう」
少年は屈託なく笑いながらそういうと、二人の頭上に、あの巨大な十字架を滞空させた。二人は、あの十字架が降ってくるのかと、目を固く閉じ、抱き合った。
「【神聖断罪 バニッシュメント】、[絶対浄化の聖魂歌]」
少年の声とともに、十字架から清らか光と、心安らぐ旋律が流れ始める。それは、剣の結界の内部に収束し、ノルンとリンネを包み込んでいく。
暖かい聖光に包まれた二人は、自分の心から恐怖や絶望といった負の感情が薄れていくのを感じた。そして、いつまでたってもダメージが来ないことに疑問を覚える。
聖光が収まったタイミングで、ノルンとリンネは一緒に目を開いた。そこには、驚きに目を開く少年の姿が。
「あれ?なんで浄化されてないんだ?理論上アンデットと悪魔系なら魔王だろうと瞬殺できるはずなのに………………あっ」
少年が顎に手をやりながらぶつぶつと何かをつぶやき始める。そして、何かに気付いたように声を上げると、顔を青くしてノルンとリンネの方を向いた。
「おねーさんたちって、もしかしてもしかすると、魔物じゃ…………ない?」
二人は顔をみあわせると、少年の方に向き直り、こくりとうなずいた。
二人の肯定に、少年は青くなっていた顔を蒼白に変え、
「す、す、すみませんでしたぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
地面にめり込むほど頭を下げて、土下座するのだった。
この二人は一応ヒロインのつもりで書いています。




