六話 「私はどうしようもない卑怯者です」
今、私はテツさんの通訳として中東のマフィアなどの恐い人達が沢山いる街にいる。
テツさんとお相手の交渉は成立して、今はお相手さんのガイド(中国人)さんのお勧めを観光している。ガイドさんは日本語でしゃべってくれるからテツさんでも観光を楽しめた。
ガイドさんが次に選んだのは俗に言う売春ロードだ。
「ここは高級娼婦レベルの器量も教養もあるから安心よー。お値段は高いけど選り取り見取りで、満足出来るよー。あ、男娼もいるからお嬢さんも安心よー」
「いや、オレそういうのは興味ないから」
「私もお断りします」
「え~。……ああ、そうか! いやーゴメンね。お二人さんがそんな仲だなんてアタシ気付かなかったねー」
「おい、何勘違いしているんだ」
とテツさんとガイトさんが漫才をし始め、笑いながらソレを眺めていた。
ふと、路地裏の隅を見た。他の活気のあるお店や綺麗な娼婦さん達と違って、どこか不衛生で暗い。
人が居るのかな? と思った時だった。暗闇が動いた。
そこには何だか疲れた様な女の人が居た。着ている物は上等なモノだけど、着ている人が覇気がなけ
ればその華美さを十分に発揮できない。やっぱり人間は元気が一番だなと認識した
……あの人どこか見た事がある様な。……アレはもしかして……
女の人は私に気付いたのか「あっ……あっ……!」と泣きながら助けを求める様に手を伸ばした。
私はソレを………………無視した。
「あっ! お嬢さんこっちに来るネ!」
ガイドさんが私の手を取るとその場を駆け足で逃げた。テツさんも駆け足で付いてきている。
私は、その時の彼女の顔は見る事は出来なかった。
「あの人、お偉いさんの中でもかなりのド変態さん用の娼婦なの。セックス目的の馬鹿な男達ですら手え出さない程だよ」
ガイドさんは馴染みのバーに来るまで足を止める事はなかった。
「あの子ね、なんかヤバい人を怒らしたらしくてねー。仲間と一緒に此処に売られてきたんだけど……SMやら一般的には頭が可笑しいと言われるレベルのプレイを笑顔でやれるスキモノの娼婦ですら、裸足で逃げる事をあの子らにやらすの。例え当人が望もうが望まなくてもね」
「おいおい。言っちゃあ何だが、売り物を逃がして良いのか?」
「逃げられないよー。此処にいる人間はあの子達の顔を知っているからね。あの子ら最低でも一回は脱走しているから。あの子らを助けるお人好しはこの街にはいないよ。……此処だけの話、そのスキモノのお偉いさんはワザと脱走させているっぽい。そんで捕まえたらお仕置きを楽しむ為に」
「そいつは悪趣味だな」
「悪趣味よー。だからアタシ等はあの子達を無視する。下手に情けを掛けたらこっちが迷惑被るからね。まあ、逃げたら最低一カ月は姿すら見せないからね。もう二度とあの子には会えないと思うよお二人さん」
「そうか」
「……」
「気分直しにお酒をおごるね。此処のバーはオリジナルカクテルが一番のお勧め。持ってくるね」
ガイドさんがお酒を取りに席を離した。
「テツさん」
「何」
「私は卑怯者です」
「……」
「助けを求める手を無視しました。……自分の保身のために」
「…………人間なんてそんなもんだよ」
それだけ言うとテツさんは私の頭を慰めるように撫でた。
私はどうしようもない卑怯者です。それはこれから先きっとそうでしょう。