二話 惨たらしい日々
最初は生徒会の仕事をしなくなった事でした。
生徒会の仕事をしなければ、他の委員会の仕事も出来なくなる。それは会長達も十分分かっていた筈なのに。
会長達は仕事をしない間、あろう事が他の女子生徒達と遊び呆けていました。しかも授業すら受けずに。
獅子若先輩は何度も皆さんを窘めました。だけど、生徒会長達は耳も貸さずそれどころか獅子若先輩に憎悪を募っていたのです。
私が初めて知ったのは珍しく早起きして登校した時でした。
靴箱で教頭先生が何か片付けている。掃除だろうか?
「教頭先生おはようございます。こんな早くに掃除ですか?」
大前田教頭先生は権力者に媚を売り、それ以外にはどこか傲慢な態度を取ると言う三流の悪役みたいな人だ。でも獅子若先輩は「教頭はそんなに悪い人じゃあないよ。この間も万引きの冤罪を掛けられた不良の生徒を唯一信じて、疑いを晴らす為に奔走してくれたんだよ」と言ったから悪い人ではないだろう。
「! 来るんじゃあない!!」
教頭先生は私を見ると、そう叫んだ。だけどそれは遅かった。
「ひっ!」
私が見たのは靴箱がまるでゴミ箱のように生ごみやクズ紙が一杯になっていた。それだけではなく、昆虫の死骸がべったりと靴箱にすり潰されてある。
その靴箱は、獅子若先輩の靴箱だった。
「な、何これ……!」
「……君は獅子若君の後輩の子だね」
「教頭先生。コレは一体どういう事ですが!! どうして獅子若先輩の靴箱がこんな……」
「……生徒会の、馬鹿達の仕業だよ」
「…………えっ?」
教頭先生は静かに語り出した。
前から獅子若先輩に嫌がらせをし始めた事。彼等にお金で雇った生徒達を使ってこうやって酷い事をしているのだ。
「この間はもっと酷かった。猫の死骸があったのだから。なんとか獅子若君の目に触れないようにしたが……猫の墓を作っていた」
酷い!
「警察は? 確か動物愛護法とかあったはずじゃあ」
教頭先生は苦しそうに頭を振る。
「……顧問の先生が理事長の甥なのは知っているね?」
「まさかっ!?」
「握り潰しているらしい。我々もどうにかしているんだが……」
「どうしてですか!? どうしてそこまで……」
「××と×××を知っているか?」
教頭先生は例の女子生徒達の名字を告げた。正直聞くのも嫌なので名前表記はなしにしている。(二人共かなり珍しい名字なので多分二度と聞く事はない)
私は頷く。
「どうも彼女達が生徒会達にある事ない事を言いまくっているらしい。奴等は碌に調べもしないでこんな馬鹿な事をやらかしている。奴等がもう少し賢ければ……」
教頭先生は心底悔しそうな顔をして拳を強く握った。
それから彼等の獅子若先輩へのイジメは苛烈と化した。
誰かと一緒に居なければ獅子若先輩はどこかに連れて行かれ、ボロボロになるまで暴力を振るわれる。生徒や教師は何度も刑事沙汰にしようとしたが、理事長はソレを握り潰し、挙句の果ては訴えた人をクビにしたり停学したりした。
理事長の権力乱用は酷かった。ある時は女子生徒の一人が獅子若先輩に階段から突き落とされたと言いだした。その時獅子若先輩は、図書室で司書の先生や他の生徒と一緒に委員会の仕事をしていたのだ。勿論その事も証言したのだが、理事長の甥でもある顧問の先生の独断で一週間の停学処分となった。
私は何とかこの事態を収拾しようと会長達の事を監視したけど、中々ボロを出すことはなかった。ただ、双子達が女子生徒の一人に何かプレゼントしようとして、うっかり落としたのを私が拾った事がありました。
若者が好きそうなハートと花と雌ライオンがデザインされている香水の瓶。それを女子生徒が急いで取り上げて去っていたのを訝しんだが、違法薬物とは思えないので放っておいた。
そしてあの日。
獅子若先輩は学校の五階から飛び降りた。