02 変化
翌朝。
激しい金属音で目が醒める。
ああ、今日もまたクソみたいな生活が始まるんだ。
俺の通常業務は、他の奴とは異なり、基本的に武器に能力を付与する事だ。
朝から晩までノンストップで働かされる。
俺が能力を付与した武器は、非常に高価に売却できる。
そのため、ここの組織のトップは比較的俺への待遇が良い。
良いと言っても気分で俺を殺さなかったり、
死の危険がある、過酷な労働を割り当てなかったり、といった程度だ(俺ら奴隷は管理者の気分で簡単に殺される)。
そんなもんだから、俺は他の奴隷に非常に嫌われている。
掃除当番を押し付けたり、食べ物に土を入れられたり日常茶飯事だ。
当然友達なんかもいない。
まあ、いても邪魔なだけだが。
そして、
そんなクソみたいな生活にも変化が訪れた。
俺は、いつものように持ち場で作業をしていた。
「今日は大型12本と小型18のノルマ30本だか…いつもより8本程多いから、魔力が尽きないように気を付けなくてはいけないな…」
発注シートを作業台に置き、溜息をつく。
「何をしているんですか?」
透き通った声が、作業場に響く。
「うぉぉおおお!?」
唐突に、作業中に後ろから声をかけられた。
ここには普段他のやつは来ない。
そんなんだから大きな声が出てしまった。
「ひぃっ」
そいつが小さな悲鳴をあげる。
いきなり大きな声を出されたもんだから、びっくりしたようだ。
振り返ると、昨日入ってきた新人の女の子がいた。
たいして興味はなかったので、あまりまじまじと見ていなかったが、かなり幼い顔立ちだ。
背は低く、白く透き通るような髪と肌。
俺より2,3歳年下のようだ。
「あ、ごめん」
「いえ...大丈夫です」
びっくりして尻餅をついている少女に、手を差し伸べる。
「ありがとうございます」
手を掴み立たせる。
だが少女の視線は、俺の後ろに引きつけられていた。
そこは俺の作業台だ。上には先ほど能力を付与したばかりの鋼鉄製の剣が乗っかっている。
「これが気になるの?」
「はい」
少女に剣を差し出す。手に取りまじまじと見つめる。
「これって能力付きの武器ですか!?」
そういって顔をあげる。
ほお。よく手に取っただけで能力がついていると分かったもんだ。
普通のやつには、能力の有無の判別は出来ないはずだが。
こいつには魔術のセンスがあるのかもしれない。
「そうだね、これには窒息無効の能力を付けてあるよ」
「付けてある...?」
「俺は武器に能力を付けられるんだ」
「そんなまさか」
あからさまな疑いの目をこちらに向ける。
別に嘘ついても良いことなんかひとつもないのだが...
「じゃあこのナイフ見てみて」
そう言って俺は能力をまだつけていないナイフを手渡す。
「何も付いていませんね」
俺はナイフを返してもらい、数分間力を込める。
「はい」
「そんな...」
「こいつには火炎魔法の能力を付けた」
そう言って、その辺の木材に切り込みを入れると、木材は勢いよく燃え上がった。
危ないので水の入ったバケツに投げ込み、消化する。
「すごい...」
少女の顔が一気に尊敬の色に染まる。
少し気分が良い。
「他にも面白いものあるよ」
奥に行き、誇りを被った木箱を開ける。
しまってあった余り物の武器を幾つか取り出す。
何年も奥にしまってあったが、使えるだろう。
汚れた武器を、少女に幾つか手渡す。
「これは光る弓矢。命中すると光を放って当たった場所が夜でも分かるんだ」
「なんだか便利ですね!」
「発注数は60個だったんだけど、作りすぎたからくすねたんだ。それでこっちは虫除けナイフ。持ってれば半径1メートルに虫は寄ってこないんだ。それから...」
振り返ると、くすくすと少女が笑っていた。
「ハルさんってとっても面白い方ですね!」
その笑顔にどきっとする。何だろうこの気持ちは。
今まで誰かをこんな笑顔にさせたことなんてあったっけ。
胸がジーンと熱くなる。
こうして、俺は定期的に少女と会話するようになった。