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01 トイレ掃除

俺はある力を持っている。

それは武器に能力を付与する力だ。


この力は気付いた時には備わっていた。

魔術というものらしい。


能力付きの武器の入手方法が、自然発生しかなく、入手が非常に困難な時代。

この力は非常に重宝された。


能力を付与する対象は、武器であれば剣だって槍だってなんでもいい。


能力というのは、例えば絶対に劣化しない剣にするとか。透明な槍だとか、様々だ。

こんな力を持ってるばかりに、今はこんな所にいる。

いや、能力を持っていなくてもいずれ墜ちていただろう。

夢も希望もない俺なんて。





朝5:00。

耳を裂くような大きな金属音で叩き起こされる。

じめっとした空気を吸い込む。


看守が鉄製の牢の扉を、剣でガンガンと叩く。

最悪な1日の始まりを告げるこの音は、36人の相部屋であるこの広間に響き渡る。


「さっさと起きろ!奴隷どもが!今日もたくさん働いてもらうからな!」


髭が生えた汚い男が叫ぶ。

奴は俺らの所有人ではない。いわゆる下っ端だ。上からの鬱憤をここで晴らしているのだろう。


寝床からもぞもぞと出る36人の男達。ここの部屋には男...というよりおっさんか、おっさんしかいない。

その中でまだ若い俺は、少し浮いた存在だ。

話によれば、みな借金や犯罪で奴隷に落ちたものばかりらしい。


この国の奴隷制度は厳しく、過ちを犯したものは即奴隷行きだ。

だが俺は違う。俺はこの異例な力を持っていた為に、拉致され、売り飛ばされた。気付いたらこの生活だ。

しかも一度ではない。

自分の作業服を着て準備をしていると、隣の男がずかずかと寄ってくる。


「おいハル君よお、さっさと俺の分の作業服を準備してくれや」

「ごめん」


そういって隣に寝ていたやつに作業服を渡す。

こいつはいつも俺にちょっかいを出してくる黒人のムキムキ野郎だ。名はガインズというらしい。

首から掛けてある金属製のプレートに書いてある。

元は軍人で、仕事で何かやらかして奴隷としてこの場所に堕ちたそうだ。


「おいおい...しわくちゃじゃねえか。これどうしてくれんの?」

べつにそんなことはないと思うが、毎日のように文句をつけてくる。

俺は言い返す気力もない。

とてもめんどくさい。


ガインズは胸ぐらを掴み睨み付けてくる。

「お前今日の掃除変われ」

「今日はお前だろ…?」

「うるせえな」

そういって突き飛ばされる。

尻がジンジンする。


「ちゃんとやっておけよ」

俺は何も言い返せなかった。


俺は弱い人間だ。自分が嫌いだ。


なんども死のうとした。

だけど怖くて、死ねなかった。

立ち向かうなんて、怖くてできない。


俺は面倒くさいからと、自分に言い聞かせていたが、単に怖いだけだ。勇気がないんだ。

なんて臆病なやつだろう。



通常業務が終わると、夕食をとる。

それが終わると自由時間だ。だが俺はトイレの掃除を行っている。


本来は5人でやるはずなのだが、俺一人だ。

あいつらは今頃、仲間とポーカーでもしているのだろう。

汚れた裾で、涙を拭う。


必死にモップを動かす。

俺はふと思った。

あと何年生きるのだろう。

なぜこんなところにいるのだろう。と


実家はひどく貧乏だったような曖昧な記憶がある。

拉致されたと思っているが、実は家族に売り飛ばされたのかもしれない。

そこらへんの記憶は曖昧だ。


俺は力があるばかりに必要とされているが、誰にも愛されていない。

俺を愛してくれる人なんてどこにも居ない。


掃除が一通り終わった頃、ワッと部屋の方が騒ついた。


「おおー!まじかよ!!」


部屋の方がどうも騒がしい。何かあったのだろうか。

モップを置き、部屋の方にそっと顔を出す。

すると誰かを囲うように人が集まっていた。


「聞け!今日から一人仲間が増える!こいつは大切な商品だから傷つけるなよ!!」


どうやら奴隷仲間が一人増えたようだ。


どんなやつが来たのかと背伸びをするが、ここからじゃよく見えない。

人混みをくぐり抜け近づく。

そこにいた奴は、想像とは全く違った。


なんとそいつは女だった。

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