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王の居場所

王の子の居場所

 実は王の居場所・王の玉座でも赤子がどうなったかは述べられていません。しかし、アルバノート目線の時に言っていたように子供に罪はないということでその子供目線の物語となっております。

「母様なんて嫌いだもんっ!」

「うっさい!ゴチャゴチャ言ってる暇があるならもっと勉強をしろ!」

 宮殿中に響き渡る怒号のやり取り、それを聞いて私は頭を痛めることしかできなかった。

「……はぁ、またか」


「うわぁ~ん!ぱぱぁ~」

「…あっ、こら!ズルいぞ!!」

 バンッと扉が開いて小さな女の子が飛び出していき、続いて女の子によく似た女性が猛烈な勢いで飛び出していく。

「……………はぁ」

 開け放たれた扉のすぐ傍に立っていて、危うく当たりかけた扉を押し戻しながら部屋に入ったことで視界に映る予想通りの光景。

 それに盛大なため息が漏れるのを感じる。誰もに見られなくてよかったと思いながら、私はいそいそと親子喧嘩の後片付けを始めたのだった。


 紹介が遅れました。私の名はヴェルランド。今は公国と呼ばれるようになった国で文官の末席に座らせていただいている者です。

 そして、先程飛び出して行かれたは何を隠そう大公閣下その人とご息女にして次期大公であられる姫様です。

「……あの性格は絶対に義母上似だな」

 そして、私は大公閣下の義理の息子に当たります。より正確に言うと大公閣下ではなく、その夫君の養子に当たるのですが…。


 私の本当の父は亡国の王太子であり、母はかつて大国と呼ばれた国の第三王女でした。

 父は母と出会った時、婚約者がいたにも関わらず当時は身分も明かさなかった母のために婚約を破棄し駆け落ち。

 母は駆け落ち生活を送っていると耐えられなくなり、勝手に飛び出した国に出戻るという考えられない傍若無人な行動をしていたそうです。

 そして、私が生まれたことで許してもらえるだろうと国に戻った二人を愚王と名高い当時の国王(認めたくはありませんが私の祖父)が許し、養父上を追い出し父を王太子に戻したそうです。

 それだけでも養父上に申し訳がないと思うのですが、時期が悪く両親が戻ってすぐに勘当されていた英雄(これまた認めたくありませんが私の叔父)が帰国し、義父上は立派に育て上げた領土まで没収されたのそうです。


 それがこの国を、かつての国を滅ぼすきっかけになるとも知らずに…。


 英雄である義弟に貢ぐために母国や他国から貢物を脅し取った母。そして、そんな母に釣られるように浪費癖の付いていった父と元々プライド以外持ち合わせていなかった祖父。

 そうして彼らは英雄が死んでも浪費癖が直らず、国単位で借金を抱える始末。しかも、その英雄はせっかく義父上が立派に発展させた領地を荒廃した大地へと変貌させるほどの散財ぶり。

 国が滅びるのは時間の問題でした。


 しかし、自然と滅びることなど許せないと立ち上がったのが何を隠そう現大公です。大公は国から兵を率いてまずは大国をそして亡国へ攻め入りました。

 その際、彼女にとって最も嬉しい誤算として義父上がおり、一目惚れした後の猛烈なアプローチで国だけでなく男も陥落させたそうですが…。この話をすると怒られるので内緒ですよ?

 そして、国王に王太子、王太子妃と次々に処刑していき最後に私が残りました。


 当然、国の重鎮たちは私も処刑するように進言してきました。

 私が同じ立場でも同じように考えたので彼らを恨んではいませんよ?実際、彼らは幼少時私を厳し過ぎるまでに教育し、今では私が尊敬する師であるのですから。

 

 しかし、一番私を憎んでいるはずの義父上だけは私を庇ってくれたそうです。

 義父上曰く『子供に罪はない。子供の罪は親の罪だが、親の罪を子供に押し付けるのは間違っている』ということだった。

 私は、その話を聞いてすぐに義父上に真偽を問うてみた。


『義父上!私は本当に生きていてよいのでしょうか?』

 多くの国をそこに住む民を苦しめたそもそもの元凶。その私がのうのうと生きていていいのか?と問い質してみた。

 しかし、義父上は私の言葉を予想していたように微笑みを浮かべた。

『…ヴェルランド、私はそなたを憎んだことは一度もないのだよ』

 動かなくなった足の上に私を抱きかかえ、優しく頭を撫でながら言い聞かせるように私が自分を責めなくてもいいように。

『だってそうだろう?子供の誕生とは祝福なのだ。それを恨むなどしてはいけないことじゃないかい?』

 その当時、大公である彼の妻のお腹の中に子供がいたからそんな言葉が出て来ただけかもしれない。

 だが、私は生涯をこの人に捧げようと決めたのだ。

 この人が私を必要としてくれる限り、それに応え続けることそれが私のこの人にできる精一杯の恩返しなのだと。






 後にこのことを妻に語ると「バッカじゃないの?」と言われてしまったが…。

「大体、パパがそんなつまらないこと言うわけないでしょ?パパは世界一の男なんだから!」

 おい、それを夫の前で言うかとも思ったが、あの人には私も太刀打ちできんと思ったので深くは言わずただただ「ファザコン」と呟いておいた。

「ファザコン上等!パパ大好き!」

 嫌味を嫌味と捕らえられない頭の空っぽな、良く言えば自分に正直な答えが返ってきた時には流石に絶句したものだが…。

 そんなところは母親に似なくてもいいのではないか?教育を間違えたか?と思って自分の人生を悔いたという点でもその日は人生で最も印象に残る日だった。


 しかし、その後で彼女が言った言葉は私の生涯最高の賛辞だったと記憶している。

「…でも、あんたはそんなパパに次いで二番目にいい男よ。喜びなさい?」





 かつて国を滅亡に追いやった愚王とその息子である王太子夫婦。王太子夫婦の間には息子がいたが、その息子が歴史の表舞台に登場することはなかった。

 歴史家たちは両親たちと一緒に殺されたと語る者、赤子を殺すことに抵抗を覚えた大公が国外に逃がした。実はそんな子供は初めからいなかったなどと諸説語られているが真実はわからない。

 ただ、二代目大公の夫が養子のはずなのに先代の大公夫君によく似ていることが残された絵で度々議論に挙げられることとなる。

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― 新着の感想 ―
[一言] ファンタジーが好きな者です。 流れるように読めて、最後までストレス無く拝読することが出来ました。 オチをどうつけるのだろうと思っていたので、なるほど、と納得させられる終わり方でした。 面白か…
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