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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第六章:加護励起
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桃系姉妹

続きです、よろしくお願い致します。

 ――さて、状況を整理してみよう……。


 一つ、釣り堀で知り合った魚――グリヴァから昔話を聞いた。


 二つ、その昔話で『変異種』を昔、『獣士』と呼んだいたと聞いた。


 三つ、もも缶はどうやら、その『獣士』だったらしい……。


 四つ、更にもも缶は『グリマー湖のウーパルーパー男』だった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――で? お前……」


 ――言葉が出て来ない……何を聞けばいい? 女だったのか? 生きていたのか? 何故……?


 この場でウパ男と戦った事があるのは、俺一人か……せめて、ミッチーだけでもいればと思うが。


 暫く、悩んだ後、俺がもも缶に向けたのは――。


「取り敢えず、その姿――止めろ?」


 非常に心臓に悪い、ウパ男姿から、もも缶姿への変身要求だった。


「キィヤ!」


 一鳴きすると、ウパ男の姿がもも缶に戻った。さて、これで会話できそうだな……。


「で、話を元に戻すけど……まず、お前……生きてたのか?」


「ん? もも缶、死んだ事、ない」


 もも缶はキョトンとしていたが、やがてそう答えた。つまり、アレか? あのクレーターの中に埋まってただけとか……そう言う事か?


「もも缶、死んだ事、無い、けど……ゆうりのキラキラは、治るの、時間かかった!」


 もも缶は珍しく、頬を染め、色っぽくため息を吐いている。


「つまり……あの時、お前は瀕死だったけど何とか再生した、と言う事か?」


 俺の質問にコクリと頷く。


「じゃあ、次だ……何で、俺達に付いて来た?」


 まさか……まさかとは思うが……復讐か……? のどに溜まった唾を飲み込み、もも缶の答えを待つ――。


「ん? ご飯が……美味しいから?」


 ――ん?


「つまり……俺達に復讐しようとかそう言う事ではない?」


「ふくしゅう?」


「つ、つまり……その、負けた仕返しとか?」


 どうにも、もも缶は俺の言いたい事が分から無い様で、先程から頭を抱えて必死に悩んでいるみたいだ。その内、頭から出火しそうだな……。


「良く分から無い、でも、負けたの、もも缶のせい、あの時、ゆうりのキラキラ、良かった、もも缶、アレに……なりたかった」


 アレ――悠莉みたいになりたかったって事か……?


「それで、気が付いたら、ゆうりみたいになってた」


 ――ん? えっと……つまり……?


「つまり、自分を負かした悠莉に憧れて、気が付いたら女の子になってたって事か? じゃあ、やっぱりお前、男?」


 すると、ここでグリヴァが口を開いた。


「多分、女の子で合ってますよ? このお嬢ちゃんみたいなタイプの『獣士』は昔もいた様な気がしますけど……多分、貴方達が戦った時って、生まれたてだったんじゃないですか?」


 ――多分が多いな……不安になるから止めて欲しい……。


「え、さっきみたいにな姿になった時が生まれたてって言うなら、その通りだけど……」


 それを聞いたグリヴァは、顎に指を当て空を見上げると、続けて話す――。


「この子みたいなのは、生まれてから暫くは性別が安定しないんですよ……多分、生まれて最初に抱いた感情が、その女の子に対する憧れだったから、女の子になったんじゃないんですか? ……多分」


 ――だから、多分を止めてくれ……。


「じゃあ、もし、最初に抱いた感情が恐れや、思慕だったら?」


「恐れなら、やっぱり相手と同じ性、思慕だったら反対の性、でしょうね。因みに、何も切っ掛けなしだったお蔭で、無性別として定着する者もいましたよ?」


 ――何とも不思議な……。


 俺がもも缶を見つめると、その視線に気付いたもも缶が少しだけ、びくっとする。


「――もしかして……黙ってたの、ダメだったか?」


 恐る恐ると言った感じで、俺や、羽衣ちゃん、タテの様子を伺っている。


「あんまり、怖がったり……避けたりしないで上げて下さい。少なくとも、その子は……貴方達の事を大切に思っているようですし」


 互いに戸惑う俺達を見かねたのか、グリヴァがそう言ってもも缶の頭を撫でる。もも缶はダシの匂いでも嗅いでいるのか、涎を垂らしているが……。


 俺が再びもも缶を見ると、もも缶はどことなく不安気に、俺の顔を見ていた。


 ――まあ、刷り込みみたいなモノか……。


「そうだよな……お前、食欲優先だもんな?」


 俺は手を伸ばし、もも缶の頭を撫でる。


「う? おじちゃん、ういも!」


「あ、じゃあ……僕も……」


「はいよ……」


 順番に頭を撫でる……。どうやら、もも缶も安心した様で、俺が撫でるがままに頭を揺らしている。


「――良しっ! 帰るか!」


 もも缶がよく分からんのは今更だしな……気にしても仕方ない事だ。


「……?」


 こうして、俺達はグリヴァの家を後にする事に――。


「じゃあな、色々と面白かったよ」


「いえいえ、また来てくださいね?」


「そうだ、グリヴァの事――俺の仲間に話しても大丈夫か?」


 対『伯獣』の情報収集が出来るかも知れん。何せ、歴史の生き証人みたいなもんだからな。


「んー、来客が増えるのは嬉しいんですけど……一先ず、内緒にして貰ってていいですか? 理由は機会があれば……お話します」


 グリヴァはそう言うと、人差し指を唇に付ける。


「でも、さっきの話はおとぎ話として、触れ回っても良いんだよな?」


 俺の問い掛けにグリヴァは頷く。――なら良いかな。


「因みに、タイトルはどうする?」


「そうですね……統一国家の名前――『天帝国ルドラビコ』から取って『天帝記』とでもしておいて下さい」


 悲しそうに微笑むグリヴァに対して、俺はそのまま頷き、了承の意を示す。


 そして――。


「また、来る」


「お世話になりました!」


「グリ婆ちゃん! またね!」


 もも缶、タテ、羽衣ちゃんがそれぞれ、グリヴァに向かって手を広げ、何度も振り返りながら別れを告げる。


 婆ちゃん呼ばわりに、グリヴァは微妙にショックを受けていたが、それでも最後には「本当に孫が出来たみたいです」と言って喜んでいた――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 宿屋に着くと、悠莉とハオカが先に戻ってきていた。


「あ、お帰り!」


「旦那さん、遅かったどすなぁ?」


「ああ、ちょっとな?」


 俺が答えると――。


「ちょっとなー?」


「ですね!」


「なー!」


 羽衣ちゃん、タテ、もも缶がそれぞれ、嬉しそうに人差し指を唇に当て「シーッ」と言い合っている。


「何か、楽しそうね?」


「まあな……そっちはどんな感じだった?」


 ――内緒にする約束だ……ボロが出ないうちに話題を変えておこう。


「んー? まあいいや、あたし達も結構楽しかったわよ?」


 そう言うと、悠莉はハオカに「ねー?」と言って同意を求める。


「そうどすなぁ、割のええ依頼どしたね?」


 そう言うと、二人して報酬金の入った重い袋を上下に揺さぶる。おお……って事は。


「おごり……?」


 結局、俺達は坊主だったからな……。


「そんな訳ないでしょ? これは、皆のお金として貯金しておきます!」


 ――ちっ! しっかり者め……。


「あれ? そう言えば、愛里達は?」


「ん? 愛姉達なら、今日はやっぱり泊まりになりそうだって、沖の洞窟に行ったらしいんだけど、潮がどうとかで明日の朝まで身動きが取れないみたい。心配しないでって言ってたわよ?」


 そうか、じゃあ仕方ないか。――と考えていると、もも缶が何かを思い出したみたいに「ハッ」として、俺の手を握って来た。


「ん? どうした、もも缶?」


「ん……もも缶、ゆうりに、告白する」


 ――ああ、そうか……黙っているのが心苦しくなって来たのか……。


 何か、うちの子達がドンドン成長していく……寂しいけれど、何となく嬉しいもんだな。


「え、も、もも? こ、告白ってあたしに? え? で、何でおじさん、そんな「感無量」みたいな顔して泣いてんのよ?」


「あ、ああ、すまん、自己表現の乏しかったもも缶が、こうも成長したかと思うとな……」


「あらあら……旦那さん、涙を拭いておくれやすな?」


 ハオカからハンカチを借り、涙を――いや、目汗を拭く。


「さあ、行け! もも缶! 終わったら、モモ缶をやるぞ?」


 その一言で、もも缶に火が点いた! 先程までのモジモジが何だったのかと言う位、ペラッペラとまあ良く喋る。


「どうだ、ゆうり、怒るか?」


 ――全てを話し終えると、やはり不安なのか、もも缶は悠莉の表情を伺っている。ハオカは「やっぱりなぁ」と言う顔をしているだけで、特には気にしていないみたいだ。


「んー? 別に良いんじゃない? 今のもも見てると、そんな危機感とか無いしね? あたしはそれより、アンタの食い意地が心配よ……」


 その言葉を聞き、もも缶は今まで見せなかった飛び切りの笑顔で悠莉に抱き着く。


「あ、ういも!」


 腰に二人をぶら下げた悠莉は、苦笑いを浮かべながら、暫く二人の頭を優しく撫でていた――。

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