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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第六章:加護励起
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ロスト・ワールド

続きです、よろしくお願い致します。

「さて……では、少し昔話を――誰も、彼もが……忘れてしまったお話をいたしましょう……」


 そう言って、お茶をすすると彼女――グリヴァは語り始めた……。


「……」


「…………」


「………………ちょっと、待っててくださいね? なにぶん、昔の事過ぎて、こう、記憶のふたが開きにくいと言いますか……」


 どうやら、『魔獣』と言えど、ボケは進んでいる様だ。


「あっ! そうそう、思い出しました。それでは改めて――」


「頼むから、語り終えてポックリとか、止めてくれよ?」


 ドキドキしながら、グリヴァに告げる。グリヴァは「うふ」とウィンクしをすると――。


「――まず、最初に教えておくべきことがあります。私がハッキリと覚えているのは、ここ百年の出来事だけです」


 いや、お前、さっき思い出せなくなってたじゃねえか……どこが、ハッキリだよ。と言いたい気持ちを抑え、俺は黙って頷く。


「先程、この道百年と言ったのは、そう言う事です。実際に何年生きているのかはもう……分かりません。もう、永遠の十七歳で良いかな、とも思い始めてます……」


「それは、自我を持った……つまり、変異したのが百年前って事か?」


 ボケなのかマジなのか分かり辛い言葉を無視した俺の質問に、グリヴァは無言で首を横に振り、否定する。


「恐らくですが……とあるお方のスキルによって私の、百年より昔の記憶は肝心な――大事だと感じる記憶のほとんどが消え去っています」


 グリヴァは悲しそうに、窓から見える(地球)を見つめると、更に続ける。


「昔々……それこそ、百年以上昔、空には『幻月』が二つ、あったのです……」


「『幻月』が……二つ……?」


 グリヴァは俺の目を見て頷き、語り続ける……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 昔々、ある所――今のヘームストラ王国の辺り――に、それはそれは大きな国があった。


 その国は長い間、魔獣から変異、進化したモノ達が作った国と戦争状態にあった。


 しかし、ある時その国の王が崩御し、若き王子が新たなる王として即位した時、大きな変化があった。


 ――何と、その新王は敵国である、魔獣の国の王女と、相思相愛の仲だったと言うのだ。


 動揺する国民に新王は魔獣の国の王女と結婚し、国を一つの統一国家とする事、そして、魔獣との争いの日々を終える事を告げた。


 最初の数年は、反発も小競り合いもあったらしいが、王妃となった魔獣のスキルによって徐々に平和になり、人と魔獣――とは言っても今で言う変異種――は共生する様になった。


 ――しかし、その平和は長くは続かなかった。


 ある時、何か大きな事件が起きたらしい。その事件は世界規模の混乱を招き、王と王妃はその事件の収拾について意見が分かれ……ついに袂を分かってしまった。


 王は何とか王妃を説得しようとしたが、受け入れられる事は無く、王は悲しみにくれながらも、この世界の為に反対意見の者たちを粛清し、王妃は幽閉する事となった。


 ――世界はその後、多数の命と『幻月』の一つが見えなくなると言う代償を払いながらも、何とか平和を取り戻した。


 しかし、幽閉された王妃は、王の所業をどうしても許すことが出来ず、徐々に、その……呪いの様なスキルを世界中に広めていった。


 王がその事に気付いた時には、既に止める事が難しかった。仕方なく、王は王妃をとある方法で封印し、死亡した事とした。


 やがて、王妃のスキル拡散は止まったが、その頃には誰も――王ですら、事件の事、王妃の事、一切合切を忘れてしまった。


 王妃の事をその存在から忘れてしまった人間達は、当然、魔獣と何故和解したかも忘れ、魔獣を危険生物として恐れ、当時存在を確認されていた変異種を駆逐してしまった……。


 ――数年後、元々王妃のスキルに慣れていたのか、別の要因かは分からないが、王だけが……王妃の事を思い出してしまった。


 王は、当時、研究用に辛うじて生かされていた変異種――グリヴァを逃がすと、自らもどこかに姿を消した。


 やがて王が治めていた国も分裂し、滅びの道を辿り、ヘームストラやテイラ、その他の国が出来たそうだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――と言う感じです」


 ――昔語りを終えたグリヴァは、スッキリした顔でお茶をすする。


「その……事件と言うのは?」


「それが……私も何かがあったのは、王のお蔭で辛うじて理解出来ているのですが……詳細までは思い出せません」


 そうか……まあ、おとぎ話として良い暇つぶしにはなったかな。


「まあ、面白い話だったよ、ありがとう」


 俺はグリヴァに頭を下げ、礼を告げた。


「いえいえ、私も人に話せてスッキリしました」


「うん! ういも、おもしろかったよ!」


「そうですね、姫!」


 ――そう言えば……。


「ちょっと、気になったんだが……昔って、その……『伯獣』みたいな奴らが一杯いたのか?」


 だとすると、どこかに対策用の資料とか、残っているかもしれない。


 そんな事を考えていると、グリヴァはとても可笑しい話を聞いたと言う表情で告げた――。


「あは……『伯獣』ですか? あんな『出来損ない』は……流石にいませんでしたよ?」


「――『出来損ない』……?」


 俺の疑問にグリヴァはコクリと頷く。


「えっと、その今流行りの『伯獣』でしたか? あの程度の者どもでは、『獣士』――人獣に合わせるなら『変異種』の相手にはなりませんよ」


 そして、グリヴァはチラリとタテ、そしてもも缶を見て告げる。


「――そこのお嬢ちゃんは、分かっているみたいですけど……獣から変異、進化を経て至るのが『変異種』――『獣士』です」


 グリヴァは溜まった鬱憤を晴らす様に喋る速度を上げる。


「そもそも、『獣士』とは同族の命や生活、戦った相手の命と遺志など、様々なモノを守り、託され、背負って生きる覚悟と自我を持つ者がなるのです。それを、あんな無理矢理押し上げる方法では、相手から得られるモノの純度が低いせいで、出来上がるのは精々、『出来損ない』か『半端者』でしょうね」


 グリヴァの説明に、もも缶が共感できる様で何度も頷いている。


 ――あれ?


「って事は……変異して自我が生まれるじゃなくて……」


「そう……自我が生まれてから変異、進化する……が正道です。言葉を覚えるかどうかはその者次第――人獣でも勉強嫌いはいますでしょ?」


 栗井博士は、手順を間違えたって事か?


「――これは……栗井博士に知られちゃマズイかな」


「それにしても……貴方、近くに二人も『獣士』がいて、知らなかったんですか?」


 頭を抱える俺に、グリヴァはタテと……もも缶を差して、呆れたと言いたそうな表情で聞いて来た。


「いや、タテは俺が召喚したから……って、もも缶?」


「ん? 何だ?」


「い、いや……今、グリヴァが……お前の事、『変異種』――『獣士』だったか……? って、言ってたけど」


 俺が「本当か?」と尋ねようとすると、もも缶はキョトンとした顔で首を傾げ――。


「ん? 『獣士』……?」


 どうやら、グリヴァの勘違いみたいだな。


「あら……そうでしたね。『獣士』なんて古い呼び方――いえ、百年以上前の呼称なんて……私以外、知らないわよね……?」


 グリヴァは少し、悲しげに微笑むと俺達を手招きし、家の外に出る。


「折角だから……いつか、語り継いでね? 『獣士』とは……」


 グリヴァが指を弾いたその瞬間――。


「まず、この様に人獣の姿を取る事が出来て……」


「――美人……」


 ビックリだ……グリヴァが指をパチンと鳴らしたら、美女に変わった。


 グリヴァは俺の視線に気づき、頬を染めると再び、指を鳴らした。


「ゲギョ、ゲギョゲーギョ!」


「――美味そう!」


 ――美女が魚に変わった……何だ、このガッカリ感。


「ゲッゲギョ、ゲゲッギョ!」


 ゴクリと舌なめずりをするもも缶を見て、命の危機を感じたのかグリヴァは必死にヒレをペチペチと叩き合わせる――。


「――とまあ、人獣、魔獣、そして……今のこの鎧獣、と言う三形態を取れる獣の事を『獣士』と呼んでいたのです」


 魚から半魚人っぽい姿に戻ったグリヴァは得意気に微笑む――。


「更に言えば、魔獣が鎧獣形態を取れる様になる頃を人獣達は『変異種』と呼びますね、次に人獣形態を取れる様になると、今の人獣達では分からないでしょうね……その為のギルドカードなんですけどね?」


「ん? ギルドカードは身分証明だけが役割って訳じゃないのか?」


「そうですよ? 元々は統一国家時代に『獣士』が危険人物でない事を証明する為の身分証明だったんです」


 ――そうか……記憶が無いから、その役割が微妙に変化したって事か!


「って事は、今の世界にも『獣士』がいる可能性があるって事か?」


 俺は脳裏に……テンガロンハットを被った、ヤツを思い浮かべる――。


「どうでしょうか? 基本的に私達魔獣は、鎧獣形態が一番楽ですからね……。もしかしたら『変異種』として、片っ端から処分されてるかもです。私は普段からこの姿で、周辺の住人も慣れてくれていますが……」


 グリヴァは、少しずつもも缶から距離を取る……どうやら、涎を垂らし続けるもも缶に恐れを抱いている様だ。


「何にしても、『伯獣』とやらは摂取したモノが不純物一杯なお蔭で『出来損ない』なんですよ」


 そして不意に、俺は思い出す……確かに『伯獣』達はどいつもこいつも……うん、鎧獣のなりそこないみたいな感じだったっけ?


「そっか……あれ? でも、そう考えると……サブラは……」


 あれは、肌の色こそ人と違えど……。


「うん、あれ、もも缶たちと一緒だった」


 俺の疑問に、もも缶が答える。そうか……『伯獣』の中にも、そう言う奴がいるって事か……あれ?


「も、もも缶……?」


「うん、エサ王……もも缶、どうやら、『獣士』らしい」


 そう言うと、もも缶はその姿を変える――。


「な……お前……ウパ男?」


 間抜けな声を上げる俺の目の前には、かつて、俺達が倒したはずのウーパルーパー男がいた……。

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