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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第六章:加護励起
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フィッシュ・フィッシュ・フィッシュ

続きです、よろしくお願い致します。

 ――港町『イルマニ』。


 ヘームストラやテイラが存在し、俺達が現在いる『イナックス大陸』の最南に位置するこの町は、他の『ウズウィンド大陸』、『マコス大陸』と繋がる窓口である。


 観光スポットとして観られるものはないが、新鮮な魚介類は訪れる者を魅了してやまない――。


「って事らしい……」


 手元のパンフレットを読みながら、俺は携帯の画面に向かって話しかける。


『――良いなあ、魚介丼とか……食べたいなあ』


「だよなあ……」


 ――俺達が『イルマニ』に到着した時点では、まだ衛府博士達は到着しておらず、例の『賭博士』のギルド職員もイルマニのギルドに顔を出していないとの事だった……。


 仕方なく、この町の観光パンフレットを見ながら、食道楽を夢見ていたのだが……。


「おじちゃん、おきゃくさま! ドア、トントン言ってるよ?」


 頭の上から、羽衣ちゃんがお知らせ致しました……。


「ん、じゃあ、また連絡する」


『はいはい、お気を付けて……』


 通話を終了し、ドアを開けると他の皆が揃っていた。どうやら、食事に行こうと言う事らしい。愛里、悠莉、ハオカ、もも缶が中心となって食堂を厳選したとの事。


 ――食堂に着くと、早速今後の予定について話し合う事になった。


「――それで、椎野さん、衛府博士とは連絡が取れたんですか?」


 メニュー表を見終わった愛里が、俺に尋ねて来た。


「それがなあ……何度かけても話し中でな?」


 仕方なく、後輩に電話かけてたと言う訳だ。


「あ、あの……」


 すると、俺達の話を聞いていた悠莉が気まずそうに手を上げる……。


「どうしたの、悠莉ちゃん?」


「いや、実は、衛府博士と電話してたのって、あたし……」


 どうやら、宿屋の部屋に入ったタイミングで衛府博士から電話があり、つい長話をしていたそうだ。幸い、その電話の中で衛府博士がもうじきこちらに到着する、と言う事も話していたそうなので、特に問題は無い。


「そっか、ゴメンね?」


 ホッとした表情で、悠莉がニパッと笑う。


「実際、問題なのは……ギルド職員なんだよな……」


「行方不明……なんですか?」


 愛里が不安そうな顔で、聞いてくる。俺は少しだけ、首を左右に振り、否定する。


「いや、何か朝早く、ギルドの依頼と睨めっこしていたらしいんだけどな?」


「何や、報酬金が高い依頼を受注して、どこぞに行ったらしいんよ……」


 ギルドで一緒に話を聞いていたハオカが、続きを語る――。そうなんだよな……取り敢えず、依頼完了予定が今日の夜らしいから、それまで待つ事にしたんだけど……。


「国から派遣された割には……何つうか、無責任っスね?」


「――だよなあ……何か、心配になって来た」


 その時、注文していた料理が来たため、話を切り上げ、食事に集中する事に。


「――っ! うい……この虫、美味いぞ……?」


「う? ももねーちゃん、それエビフライよ? おいしーよ?」


「姫……これ交換しませんか?」


 子ども組は、すっかり食事に夢中だ……。


「ほれ、タテ……ほぐしてやるから、魚もちゃんと食べな?」


 魚の骨を取っ払って、身をタテの口に放り込む。すると、俺の前にスッと皿を差し出す奴らが……。


「ピトちゃんにペタリューダ……お前らもか……」


 悔しそうな顔のピトちゃんを見ながら、黙って骨を取る。これで、多少なりとも懐いてくれないだろうか……。


 そんな感じでワイワイやってると、俺の後ろから声がかかった。


「――へえ、暫く見ない間に本当に人が増えたねえ……」


「お……!」


「ほらこちゃんだ!」


 どうやら、衛府博士が到着したらしい。


 衛府博士も丁度、ご飯を食べようと思っていた所に、俺達を見つけてやってきた、との事だ。


「あれ? 寺場博士は結局来なかったんですか?」


「何か……鉱山見学が楽しいらしいよ?」


 愛里が聞くと、衛府博士は少し拗ねたように答えた。寺場博士……順調にラッセラってるみたいだな……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――さて、サラリーマン君」


 ――食事を終えた俺達は、ギルドに寄り会議室を借りた。


「早速で悪いんだけど……君の加護について調べよう(で遊ばせて貰おう)か!」


 衛府博士が両手をワキワキと動かし、ゆっくり近づいてくる……。


「え、衛府博士……? 何か、怖いんですけど?」


「なーに、大丈夫さ!」


 そう言うと、衛府博士と、どこからか現れた人達が、俺を椅子に縛り付けた。どうやら、ヘームストラとテイラの共同研究班と言う事らしい。


「まあ、安心して良い。私は今回は見学だからね……チッ!」


 ――その舌打ちが信用ならないが……変に疑っても仕方ないし大人しくしておこう。


「はい、それでは身体を楽にして……あ、ギルドカードお借りしますね?」


 そう言うと、研究班の人が俺の頭に何かを付け始め……。


「ぷっ……」


 悠莉が笑いをこらえながら、俺の姿をカメラで撮ってる。


「衛府博士、もうちょっと何とかなんなかったんですか?」


 俺は頭に付けられた、ギルドカードを差し込んだ装置を指差し、不満の声を上げる。


「ん? んん? 私はイカすと思うんだけどなぁ……」


「はあ……もう良いですよ……」


 そして――。


「はい、お疲れ様でした。これから、分析に移りますので……そうですね、明日の昼過ぎには結果が出ると思います」


「はい、どうも……」


 ――昼過ぎか……どうしよう? 中途半端に時間が空いてるな。


「皆、これからどうする?」


「そうッスね……自分は、どうせギルドに来たんだし泊まりがけの依頼でも受けたいところっスね」


「あ、私も賛成です」


 ミッチーと愛里は久々に依頼を受けたい様だ。愛里が行くと言う事は、ピトちゃんとペタリューダもそっちかな?


「ん、あたしも依頼受けたいんだけど……簡単な奴にしたいな」


「ほな、うちと一緒に行かはりますか? 旦那さん、宜しおすか?」


「ああ、良いんじゃないか?」


 悠莉とハオカは、日帰りの依頼か……。


「椎野さんはどうしますか?」


「どっちかに付いて来る?」


 愛里と悠莉のどっちに行っても、良い時間潰しにはなりそうだが……。


「そうだな……俺、久々にのんびり釣りでもしてくるわ」


 さっき、ギルドの掲示板に道具貸し出しと、釣り堀の案内があったからな……。


 ――こうして、俺達は久々にそれぞれの暇つぶしに興じる事にした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ギルドで道具一式を借りて、釣り堀――と言うか、養殖場っぽい所に来ているのだが――。


「ふう……釣れないな」


「つれないねぇ?」


「釣れませんね……」


「エサ王、まだか?」


 一時間経っても、うんともすんとも言わない……他の人は釣れているのに。


 ピクリとも動かない竿をジッと見つめる。先程から、俺の哀愁漂う様子を見かねた釣り人達が、お情けで小物を恵んでくれているお蔭でお土産には困らないんだが……。


「仕方ない、場所を変えよう!」


「「「おー!」」」


「アンちゃん達! あんま、遠くに行くんじゃねえぞ?」


 注意を呼びかけてくれる釣り人達に礼を言って、俺達は余り人がいない所まで足を運んだ。


 ――そこで、出会ってしまった……。


「ゲギョ?」


「タン……いや、『伯獣』……か?」


 俺達の目の前には、釣竿をたらし……釣りに興じる、魚ベースっぽい『変異種』、もしくは『伯獣』がいた。


「おじちゃん! あのおさかなさん、つるの?」


「――っ! ゲ、ゲギョ!」


 どうやら、こちらの言葉は通じているみたいだが……。


「頼む……頬を赤らめるなよ」


「あ、あら……すいません」


 ――喋った……しかも、意外な事に、物凄い美声だ……。


 どうやら、戦闘の意志は無い様だ。だから――。


「もも缶……そのナイフとフォークをしまえ、涎を拭け……」


 アレは食ったら呪われる系だと思う。


「ダメか? ダメなのか? 食べちゃ?」


 この世の終わりの様な顔で、もも缶がナイフとフォークを打ち鳴らす。


「えっと、察するにお腹……空いてるんですか? 家に来ますか?」


 コイツ、家まであるのか? しかも、何か良い奴っぽい!


「父上、どうしますか?」


 タテが構えたまま尋ねて来る。どうやら、敵意も無いみたいだし、もも缶も羽衣ちゃんも興味津々だし、タテも何だかんだで行きたそうだしなあ……。


「――お呼ばれ、しようか?」


 そうして、俺達は魚の『伯獣』に付いて行くことにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 魚類の家は、釣り堀から十五分ほど歩いた所にあった。何故だか『イルマニ』の人との近所付き合いが上手くいっている様で玄関先に「お裾分け」とメモの付いた差出がある……。


「どうぞ……粗茶ですが……」


「あ、こりゃあ、どうもご丁寧に……」


 出されたお茶を喉に通し、俺は魚類に問い掛ける――。


「で、お前は……何だ?」


 魚類は、暫く黙り込み、やがて静かに口を開いた。


「私の名前はグリヴァ……貴方達、人獣が『変異種』、『伯獣』、『魔獣』と呼ぶモノです。ただ、この道百年のベテランですが……」


 ――そう言うと、魚類――グリヴァは、その半生を語り始めた……。

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