博士の円盤
続きです、よろしくお願い致します。
――『シッキィ』を出た俺達は、再びテイラ首都である『ヤラーレ』に辿り着いた。
そして――。
「――話は既に聞き及んでおる、これが『イルマニ』からの渡航許可証である。と、我が王が申しております」
王宮に着いた俺達は早速、バーレ王と謁見していた。丁度、俺達が出払っていた間に手続きが完了しており無事、許可証を受け取る事が出来た。
「そして、要望のあった『賭博士』であるが、ギルドの職員に該当するものがおってな? 先に『イルマニ』に派遣しておる……ヘームストラ王国の派遣員も『イルマニ』に向かっておるから、そこで合流するが良い。と、我が王が申しております」
色々と頑張ってくれたんだな……。ナーケさんが物凄いドヤ顔をしている。
――俺達はその後、出発準備に一日をかけ、翌日『ヤラーレ』を出る事にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
バーレ王や、ナーケさん、パシェノス達冒険者に見送られ、『ヤラーレ』を出発して丸一日――。
俺達は街道に沿って、『ヤラーレ』の南に位置する『サック村』に到着していた。
「今日はここで一泊で良いか?」
「空も暗いし、ええと思うてよ?」
「そうッスね。自分、馬車おいてくるッス」
「じゃあ、私達、宿屋さん探してきます」
そう言うと、愛里はピトちゃんと、ペタリューダ、そして悠莉を連れて先に行ってしまった。
「俺はちょっと煙草吸って来る」
ピトちゃんが物凄い嫌そうな顔をしたが、これでも徐々に本数減らしてるんだ……勘弁してくれ。
「あ、ほな、うちも付いて行きます」
「僕も行きます!」
「ういも!」
――結局、更にもも缶も付いて来てゾロゾロと喫煙所を探す羽目に……。
喫煙所には、フードを被った旅人らしき人がいるだけで、他には誰もいない。これなら、騒がしくしなければ良いかな?
「――旦那さん、煙草って美味しいんどすか?」
不意にハオカがそんな事を聞いて来た。どうやら、前々から興味はあったらしい。
「――っ! 美味しい……? それは、本当か?」
「もも缶、食べ物じゃないから、そう言う意味の美味しいじゃないよ」
「そうか………………」
途端に人生の終わりの様にへこむもも缶……。
「あ、あのな? ハオカも誤解しているみたいだが、煙草は別に美味くもなんともないぞ? ただ、何と言うか……惰性と言うか習慣と言うか、吸ってないと落ち着かないと言うか……な?」
――改めて説明しようとすると、難しいな……何で俺、煙草を吸い続けてんだろう?
「じゃあ、おじちゃん、何で、煙草食べるの?」
羽衣ちゃんが、首を傾げて不思議そうな顔をしている……何でだっけ?
「ん……なんでだろうな?」
煙草を吸い終わり、羽衣ちゃんとタテを頭に乗せる。すると、相席していたフードの男が立ち上がり、こちらに向かってきた――。
『ア、ア、キコエマスカ?』
「……あの?」
『ア、ア……あ、これで、どうですか? 薬屋さん?』
――この声……!
「栗井博士……?」
『ええ、そうですよ……?』
これは、もしかして……ラッキー?
「ハオカ、もも缶! 確保! タテ、羽衣ちゃんを頼む!」
「あ、はい、父上!」
「……『大太鼓』!」
「――必殺……!」
タテは羽衣ちゃんを抱え、俺達の後ろに控える。同時に、ハオカが朱雷を放ち、もも缶が何かポーズを取っている。
『おっと!』
栗井博士はフードで朱雷を防ぎ、大きく一歩、後退る。
――フードを取っ払った栗井博士、その姿は……。
「――っ! 『創伯獣』……?」
紫の身体に、手に持ったマッチ棒……その姿は、どこからどう見ても『創伯獣』だった。
どういう事だ?
『大丈夫ですよ、別に私は自分を改造なんてしてませんよ、正真正銘、この身体は『創伯獣』です……それと、別に戦うつもりはありませんから、安心して下さい』
そう言うと、栗井博士は俺達に座る様に促す。俺は、ハオカと、もも缶に警戒する様に合図して、指示に従う。
「で、何の用だ?」
『いえ、ちょっとお話をしに……』
栗井博士――の声をした『創伯獣』は、見えない表情で語り始める。
『まず、この『創伯獣』ですが、ちょっと改良に改良を重ねましてね……こうして、お話しできる様になりました。私達なりの『報連相』と言う訳です』
――指揮官機みたいなモノか? ちょっと、ワクワクする。
「そないな事言われても、分かりまへん。どないやてええどすから、本題に移っておくれやす!」
ああ、ハオカにはこの微妙なロマンが分からなかったみたいだ……。あ、タテもちょっと、がっかりしてる……流石俺の子だ。
『ああ、そうですか……残念ですが仕方ありません、本題に移りましょう……薬屋さん、私達を見逃す気はありませんか?』
また、何かおかしな事を……。
「そんな事、出来るわけ無いでしょう?」
『そう言うのも、無理はありません、ただこれは知っておいてほしいのですが……私は、自分が精神的に何かされてる事を……自覚しています』
――今、この人……何て言った?
『リアルタイムで画像が見えないのが不便ですね……驚く顔が見たかったのですが……まあ、予想されているだろうとは思いますが、私は『ロスト・アングラー』――私達の組織は『我が母』と呼んでいますが、その触覚に何らかのスキルを掛けられています』
「ちょっと待て! お前、自分が操られている自覚があるのか?」
思わず、敬語を忘れてしまったが、どういう事だ? なら、何で……?
『怒るのも、驚くのも仕方ないですが、最後まで聞いて下さい。一応、言っておきますが、私は……『我が母』達の願い通り、この世界の生物全てを支配、管理する事を目指していますが、別に地球の敵と言う訳ではないですよ? むしろ――地球にとっては味方、と言っても過言ではないでしょう』
――頭が痛くなってきた……コイツ、何言ってんだ? どうやら、ハオカも同じ意見らしく、こめかみを押さえている。
『まあ、今すぐに分かって貰おうとは思いませんが……このディスクを衛府博士に渡して下さい、彼女なら私が何を企んでいるか気付くはずです』
そう言って俺に一枚のディスクを渡すと、『創伯獣』はガクガクとその身を震わし始める。
『――どうやら、限界みたいですね。まだ、改良が必要かな?』
そして、その言葉を最後に『創伯獣』は煙の様に消えてしまった……。
「旦那さん……」
ハオカが俺の顔を見て、反応を待っている。
「ああ、どうせなら衛府博士と合流した時に来てほしかったな……」
二度手間じゃねえか! 無駄に話が長いせいで、もも缶のお腹が限界っぽいし、羽衣ちゃんが眠そうだし。
「とにかく、宿屋に行こうか?」
俺は緊張感に耐えきれなくなった様子のタテと、眠そうな羽衣ちゃんを抱え、宿屋に向かう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
宿屋に到着すると、丁度玄関先で愛里と出くわした、どうやら俺達の到着が遅いせいで、迷子か何かになったと思ったらしい。
俺は宿屋の食堂に皆を集め、夕食がてらに先程の出来事を伝えた。
「――相変わらず、気持ちの悪い人ですね……」
愛里は嫌悪感を隠そうともせず、そう呟いた。
「でも……気になるッスね? このディスク、中身は見たんスか?」
ミッチーはディスクをクルクルと器用に指先で回しながら、聞いてくる。
「いや、そもそも、PCとか持って来てないしな」
「うち達を惑わすためん嘘、ちゅう可能性もありますやろしね?」
しばし、皆で考え込む……栗井博士、せめて中身の概要だけでも教えていけよと思う。
「タテちゃん、ミッチーみたいなのできる?」
「うーん、姫、難しいですよ……」
「――女将、これ、おかわり!」
子供達はそんな事はどうでも良い、とでも言わんばかりにはしゃいでいる。
俺達はその様子を見て、考え込むのが馬鹿馬鹿しくなり、大人しく食事を楽しむことにした。
「あれよね? 取り敢えず、栗井博士を捕まえれば一緒よね!」
「――まあ、そうだな……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――?????――
「それで……あの方とは連絡が取れたんですか?」
暗い室内にビオの声が響く――。
「ええ、ただ、この新作の『創伯獣』はもう少し、改良の余地がありますね、途中で会話が切れてしまいましたよ」
「そりゃ、仕方ねえ……まだ俺の強化途中だ」
不満を漏らす栗井博士に対して、クリスが更に不満そうな表情で返す。
「まあ、何にしても時間稼ぎは出来そうですし、次はどこを動かしましょうかね……」
「……ヘームストラはまだ攻めないのか?」
クリスが不満を抱えた表情のまま、栗井博士に問い掛ける。
「ええ、あそこはあの方のいる国ですし……まだ、その時じゃありません」
栗井博士は壁に掛けた地図の一点を指差し、告げる。
「――次は、海上国家『オーシ』です……クリス君は『創伯獣』の改良を急いでください、ゲリフォスにゴーサインを出さなくては」
――そして、栗井博士、ビオ、クリスはそれぞれの役割を果たすため、静かに動き始めた……。




