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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第六章:加護励起
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拳を天につき上げろ

続きです、よろしくお願い致します。

「よぉ、ツチノっち……」


 俺が夜のジョギングから戻ってくると、宿屋の前に二つの人影――サッチーとミッチーがいた。


「どうした? こんな、夜遅くに?」


 まあ、他人の事は言えないが……。


「ん、ちっとな……ダリーちゃんには、許可貰ってっから」


 そう言うと、サッチーは俺に見せる様に、手に持った酒瓶を揺らす。


「そう言う事らしいッスよ? おやっさん……」


 そう言いながら、ミッチーは三つのジョッキを掲げる。どうやら、男だけで飲もうという事らしい。


 俺達は適当な広場を見つけ、地べたに座り込む。すると、俺のジョッキに酒を注ぎながら、ミッチーが思い出した様に口を開く。


「そう言えば、おやっさん? さっき悠莉ちゃんと外に出て無かったッスか?」


 ――見られてた……?


「お、そうなんか? ツチノっち、もしかして……?」


 サッチーがニヤニヤと笑みを浮かべてこっちを見ている。俺は軽くサッチーの頭を小突くと、ため息を吐いて答える。


「――別に何も無いっての……」


「えっ? でも……」


 どうやらミッチー、俺と悠莉が宿屋の前まで戻った所も見ていたらしい。それで、宿屋の前で待ってたのか……。


「ああ、分かった……嘘ついた。一応……告白されたよ――」


 そして、俺は先程あった出来事を掻い摘んで説明する。ミッチーとサッチーは、一通り聞いた所で――。


「おやっさん……律儀っスね……」


「何つうか、ヘタレ?」


「――どうせ、ヘタレだよ……まあ、俺の事は良いんだよ! それより、ミッチーの方はどうなんだよ?」


 取り敢えず、矛先を変えよう。俺はミッチーのジョッキに酒を注ぎ返しながら聞く。


「え? ミッチー、新しく好きな奴出来たんか?」


 どうやら、サッチーは(ミトさん)の事をまだ詳しく聞いてなかったらしく、大層驚いていた。


「い、いや、違うッスよ! 自分、ミトさん一筋ッスから! おやっさん、ちょっと説明してやって下さい……って、熱っ! み、ミトさん、誤解ッスから!」


 どうやら、背中に差していた(ミトさん)も勘違いしたらしく、刀身を真っ赤にして怒っている様だ。サッチーは何が起きているのか、理解できず、オロオロしている。


「ああ、悪い……実はな――」


 そして、俺はサッチーに、ミッチーの剣が恐らく『ミトさん』の意識を持っている事、何かのきっかけで他の変異種や『伯獣』と同じ様に人型になる可能性がある事などを説明する。


「――はあ、んな事になってたんか……パねえな?」


 サッチーはその一言で済ませると、ミッチーに向かって「頑張れよ」と声援を送っていた。


 そんな感じでグダグダと飲んでたんだが……。


「サッチー、お前は……どうするんだ?」


 ――何となく、答えは分かっているが……これが、この飲みの本題なんだろうと思うと、自分でも驚くほど自然に声が出ていた。


 確かに、ダリーは置いて行くしかないだろう。しかし、サッチーがどうするのかをまだ、ハッキリと聞いていない。


 ――多分、これは今聞くべきだ。


 サッチーは、暫く眺めていたジョッキを一気に傾け、残りを口に流し込む、そして――。


「ツチノっち、オレは……ここで、ダリーちゃんを……産まれてくる子供を……守るよ……」


 真っ直ぐ、俺の目を見て、迷いを見せず……サッチーはそう答えた。


 俺達三人の間に、少しの沈黙が訪れる。


「まあ、そうだな……その答えが出なかったら、俺も……ミッチーも、多分、怒ってたかもな」


「……そう……ッスね……」


 二人して苦笑する――本当は、ダリーも含めて……もうちょっと、ワイワイ出来たらと思ってたんだが……。


「――ツチノっち……」


 俺は空になったサッチーのジョッキに酒を注ぎ、ミッチーと自分のジョッキにも同じく酒を注ぐ――。


「まあ、俺とミッチーは、お一人様だから……気の利いたことは言えんが、多分、サッチーに送りたい言葉は同じで……ああ、もう! 酔いが回って上手い事言えん! とにかくサッチー!」


「お、おう?」


 ミッチーと目線でタイミングを合わせる。


「「おめでとう!」」


 そして、ジョッキを高く掲げる。サッチーは暫くポカンとしていたが、やがて「パねえな……」と呟き。


「サンキュー」


 そう言って、同じくジョッキを高く掲げた――。


「じゃあ、改めて……」


 三人でジョッキを勢いよく、ぶつける。


「「「乾杯!」」」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――翌日。


「あ……おはよう、おじさん」


 朝食を食べるために、羽衣ちゃんとタテを乗せて部屋から出た所で悠莉と遭遇した。


「……おう、おはよう。今から飯か?」


 ――頭が痛い……飲み過ぎた……。昨日の告白と、二日酔いの気持ち悪さで、何となく顔を合わせづらい……なるべく、いつも通りの感じでいけたと思うんだが、どうだろう?


「う、うん! 愛姉達とハオカもすぐに来るから、一緒に……食べる?」


 俺の顔色を伺う様に、悠莉がこっちを見ている……ここで、断る訳には……。


「おう! じゃあ、どうせだから、ミッチーともも缶も呼んでくるか」


 ――こうして、ゾロゾロと宿屋の食堂にお邪魔しているわけだが……。


「おやっさん、お変わり良いッスか!」


 ミッチーよ、お前の胃袋が欲しい……。


「こらっ! もも、それ他のお客さんのご飯だから!」


 何とも騒がしくなってしまった……宿屋の人にも、他の宿泊客にも申し訳ない。


「って、羽衣ちゃん、野菜もちゃんと、食べる! タテも、それじゃあ、羽衣ちゃんの為にならないから!」


 まあ、結果としては……気まずくならずに済んで良かったけどな。


 ――食堂を出ると、ハオカが俺の傍に近寄って来た。


「旦那さん、悠莉はんと何やおました? おましたやろ……?」


 何だろう、悠莉と言い、ハオカと言い、俺の『ポーカーフェイス』はそんなに、分かり易いのだろうか……?


「まあ、あれだ……前に、ハオカに言った様な事を悠莉にも言っただけだ」


 俺の答えを聞いたハオカは嬉しそうに「ほうほう」と頷き、そのまま悠莉達と一緒に部屋に戻っていった。その後、宿屋をチェックアウトしたのだが、気のせいか、二人の距離が縮まっている気がする……何故?


 ――そして、俺達は再びダリーの実家にお邪魔していた。


 ダリーはやはり旅を続けるのは難しいとの事で、そのまま実家に滞在し、出産するそうだ。


 俺達が改めてチェリン家を訪れたのはダリーとサッチーに、しばしのお別れを言う為と、そして――。


「愛里、アレ……出してくれ」


 頬を叩き、気合を入れる。そして、愛里に預けてあった物を出す様に合図する。


「はい、椎野さん……お願いします」


 渡された小箱をサッチーと、ダリーに渡す。そして、羽衣ちゃんを呼び、抱きかかえる――。


「ダリねーちゃん、サッチー、ここ!」


 羽衣ちゃんが、バタバタと俺の前辺りを指差す。ダリーとサッチーはキョトンとしながら、羽衣ちゃんの指示に従う。


「う? おじちゃん、もういい?」


 羽衣ちゃんに向かって、無言で頷くと、羽衣ちゃんは「こほん」と口で言い、二人に向かって――。


「えっと、サッチーは、おげんきなときも、いやんなときも、うれしいときも、かなしいときも、リッチなときも、まずいときも、ダリねーちゃんを愛し、うやまみ、なぐさめ、助け、二十四じかんたたかいつづけることを、ちかいますか!」


 ――所々、間違ったり、噛んだりしてるが……大体合ってるから良いか!


 サッチーとダリーの様子を見ると、まだポカンとしている。っというか、何故、ダリママが携帯で撮影している? いつの間に覚えたんだろう……。


「んん! サッチー……」


 ポカンとしているサッチーを我に返らせる。


「あ……ああっ! 誓う! 誓いまくる!」


 サッチーの言葉を聞いて、羽衣ちゃんが満足そうに腕を組んで「うんうん」と頷き、次にダリーの顔を見る。


「ダリねーちゃんは、おげんきなときも、いやんなときも、うれしいときも、かなしいときも、リッチなときも、まずいときも、サッチーを愛し、うやまみ、なぐさめ、助け、二十四じかんたたかいつづけることを、ちかいますか!」


「――はい……誓います!」


 再び、羽衣ちゃんが満足そうに頷く。


 俺が二人に、箱を開ける様に合図すると、羽衣ちゃんは両手を胸の前でレフェリーの様に勢いよく交差させると、二人の顔を順番に見る。


「それでは、ゆびわのこーかんをしてください!」


 ――二人は小箱からイエローライトの指輪を取り出し、互いの指に通す……。


「それでは、チューしてください!」


 羽衣ちゃんが「きゃあきゃあ」とはしゃぎ、二人を急かすと、二人は微妙に苦笑いを浮かべながらも、誓いの口づけを交わした。


 俺は、照れ臭そうに俯くサッチーと、目に涙を浮かべて羽衣ちゃんに抱き着くダリーを、羽衣ちゃんと三人揃って携帯のカメラに写し撮る。


「じゃ、二人供……元気でな?」


「ああ、ツチノっちも頑張れよ?」


 ――こうして俺達はサッチーとダリーに一時の別れを告げ、『シッキィ』を後にした……。

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