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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第一章:新種誕生
9/204

スキルと武具

続きです。どうぞよろしくお願いします。

 俺達が予想外の事態に時間を止めてから暫くして……


「くっ……ぷぷっ……おじさん……」

「ツチノっち……ぶふっ」


 奴らの逆襲が始まった!


「はははははっ! おじさん! サラリーマンって、それまんまじゃん、こっちだと何職なのよ! 営業職? 営業職なの? あー、駄目だ、おかしい!」


「いやいや、ツチノっち、ウケ狙いすぎっしょ!」


「その……椎野さん。大丈夫です! 何かあっても、今度は私が守りますから!」


「そうっす。自分、薬屋さんの……いや、おやっさんの分まで頑張るっす」


 ……君ら何だかんだ言いながら、ぜってぇ馬鹿にしてるだろ!


 まず、悠莉ちゃんとサッチーィ、お前らさっきの仕返しとばかりに……そして、ミッチー! お前もどさくさ紛れに人をおやっさんて……あぁ、俺の癒しはもう、羽衣ちゃんと愛里さんだけだーって思ったら愛里さんも肩プルプル震わしてるし……


「もういいじゃん……ほっといてくれよ! どうせ、俺なんて……」


 くそっ! サラリーマンで何が悪い。


 俺がいじけていると、羽衣ちゃんが首を傾げて言った。


「おじちゃん……サラリーマン、いやなの? 日本のサラリーマンは、世界一のへーしだって、パパ言ってたよ?」


 あー、まぁいっか……羽衣ちゃんは、何だか喜んでるみたいだし。


「そうだね……おじちゃん、最強のサラリーマンになるよ!」


「うん! おじちゃんは、ヒーローだもん! うい、知ってるよ!」


 そして、俺達が落ち着くのを待っていたのか、ウピールさんが声を掛けてくる。


「皆さん、お疲れ様でした。これにて、ジョブ手続き終了となります。これからギルドカードを発行致しますので、少々こちらでお待ちください」


 ウピールさんはそう言うと、俺達に一礼し、退室していった。


「ギルドカードの発行って、すぐ終わるんですか?」


「そうですね、加工処理自体オートメーション化されているので、ここにいる五人分でも精々十分というところですね」


 そんな感じで、俺とダリーさんが世間話をしていると、ウピールさんが戻ってきた。


「お待たせしました。皆様のギルドカードの発行が終了しました。これより、ギルドカードの受け渡しを行いますが、その際に皆様のジョブに関連する情報――主に、武具と魔法の説明をさせて頂きます」


「「「「「お願いします」」」」」


「まずは、ギルドカードをご覧ください。所有者の氏名、ジョブ名に続いて、称号、装備、スキルの項目があるはずです」


 俺達は、それを聞くと各自のギルドカードを確認しだした。


 さて、俺のカードはっと、どんな感じかな?


 氏 名:薬屋 椎野

 ジョブ:サラリーマン

 称 号:社畜

 装 備:

 スキル:ポーカーフェイス、名刺交換、サラリーマンの神様の加護


 ――――どう反応したらいいんだろう……


「はい、確認できましたか? 恐らく、皆さんはまだ、氏名とジョブ名以外、何も書かれていない状態になっているかと思います。その事について、今から説明しますね」


「あの、すいません……」


「はい、薬屋さん。どうかしましたか?」


「はい、その……俺の称号欄とスキル欄に何か書いてあるんですけど……」


「えっ! ウソ! ちょっと、見せてくれますか?」


 ウピールさんは、そう言うと俺からひったくる様にギルドカードを受け取ると、暫く「ほぁ!」とか「初めて見た……」とか呟いてから、俺にカードを返してくれた。


「いや、すいません、加護持ちの方のカード何て初めて見たもので、つい興奮してしまいました……」


「その、加護持ちってなんですか?」


「それはですね、各ジョブにはそのジョブを創った、もしくは、そのジョブに就いて、多大な功績を遺した方が神様として存在していると言われています。加護と言うのは、そんな神様達から見守られている、もしくは気に入られている状態にある方に芽生えるスキルと言われています」


「加護があると、何かいいことがあるってことですか?」


「んー、一概にそうとも言えないんですよね。中には邪神とされている神様も、いたずら好きな神様もいらっしゃいますので、その様な神様の加護を受けて不幸な人生を歩んだという方も、中にはいらっしゃいます。ただ、加護持ちの方は、他の同ジョブの方と比べると、同じスキルでも効果が上であったりという事は多いみたいですよ? 薬屋さんに最初からスキルがあるのも、そのお蔭かもしれませんね」


「はぁ……結局は、よく分からないから放置って事で良いんですか?」


「えぇ、それで問題ないと思います」


 そのウピールさんの言葉を、区切りと見たのか、ダリーさんが俺達の傍まで来た。


「そろそろ、説明に移っていただけますか? 皆さん、待ってらっしゃいますので……」


「す、すいません!」


 ウピールさんは、慌てて皆に謝ると、「では、改めまして……」と一呼吸置いてから、説明を再開した。


「今言ったように、加護持ちの方は最初からスキルを持っている事がありますが、ほとんどの方は最初は名前とジョブ名しか、ギルドカードに記載されていません。それは、何故かと言いますと……まず、称号と言うのはその人の行動の結果が評価されて生じるものです。当然、ジョブを獲得した時点では何も成していないのでここは、空白であるはずです」


「じゃぁ、おじさんに称号があるのは何で? それも、加護持ちだからなの?」


「それは、申し訳ないですが私にも正直分かりません……」


 悠莉ちゃんは、首を捻り、納得していない様子だったが「あ、ごめんなさい、続けてください」と先を促した。


「スキル欄については、習得したスキル及び加護スキルが記述されます」


 そう言って、俺達が話についていけているか全員の顔を見渡した後に。


「因みに、もしかしたら聞いているかもしれませんがスキルは基本的に、そのジョブで習得可能なものを何かしらの手段で習得する必要があります。まぁ、大体はスキルを持っている人から習うか、指導書で勉強するかですが……」


「あの、すいません……」


「はい、愛里さん。何ですか?」


「はい、スキルは自分で創る事も可能と聞いたんですが、本当でしょうか?」


「んー、かなりの努力と理論構築が必要ですが、可能と言えば、可能ですね」


「なるほど……ありがとうございます」


 愛里さんは、納得したようで満足そうに何度も頷いていた。


「では、続きです。スキルは一度習得すると身体と魂に刻み込まれますので、習得した後に忘れるといった事はありません。また、習得の際にスキルの情報も魂に刻まれますので、意識すればそのスキルがどの様な効果を持っているのかが、分かります。尚、所持スキルの情報は、個人の切り札でもありますので、迂闊に人に喋っちゃ駄目ですよ? 特に、戦闘職の方にとっては、本当に死活問題ですから……」


 ウピールさんの話を聞いて、俺は早速自分のスキルを意識してみた。すると頭の中に何かが浮かんできた……


『ポーカーフェイス』……考えていることが分かり辛いよ。

『名刺交換』……社会人の基本だよ。

『サラリーマンの神様の加護』……頑張れ、負けんな!


 ……………………俺はその場に蹲った。


「あの、薬屋さん……どうかしましたか?」


「いえ、気にしないで下さい……続き、お願いします……」


 俺の様子を訝しがっていたウピールさんだが、首を傾げつつも説明を再開してくれた。


「スキルの説明は以上です。質問がなければ、武具について説明させて頂きますね」


 俺達からの質問が無い事を確認すると、ウピールさんは懐からちょっとした辞書の様なものを取り出した。


「これは、各個人の適性武具を調べるための物です。まぁ『天啓』の武具版とでも思って下さい。この辞書の表紙にギルドカードをはめ込んで、先ほどと同様に集中して頂きますと、適性武具が分かる様になっており、その情報がギルドカードに転写されます、その後は装備を変更すると自動的にギルドカードに反映される様になっております」


「ウピールさん、ちょっと良いっすか?」


「はい、何でしょう?」


「何で、武具を調べる必要があるんすか? 店で気に入ったのを装備するんじゃダメなんすか?」


 ミッチーの質問に、俺達の間で同意の声が上がる。


 ウピールさんは、そんな俺達の反応を見ると、「あっ!」と声を上げてから、


「すいません、前提を話していませんでしたね。ジョブ――特に戦闘職の方は、何故か装備できる武具が限られているんですよ。自分以外の対象へのスキル行使は、原則的に適性武具を通してしか発現しませんし、適性武具以外の装備を、持つだけならともかく戦闘で使おうなどとすると、何らかの罰則――金縛りや、全身裂傷が起ります」


「えっ、何それ! 怖いんだけど!」


 悠莉ちゃんは、顔を真っ青にしながら叫ぶと、「大丈夫です」と言いながらウピールさんは続きを話してくれた。


「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。あくまでも、その系統の武具であれば良いってだけの話ですし、お店で自分の適性武具を伝えれば、ちゃんとその系統のものを案内してくれますよ」


 ウピールさんのフォローで、一応悠莉ちゃんは納得した様だが、まだちょっと落ち着かないらしく、愛里さんの腕にしがみついていた。


「では、早速調べていきましょう。先ほどと同じ順番で良いですよね」


 ウピールさんは辞書を持ってそそくさと、愛里さんの前に立った。


 そして、愛里さんが辞書の表紙にカードをはめ込み、目を閉じ、手をかざしていると暫くして「チーン」と言う音が鳴った。


「終ったようですね。確認させて貰ってもよいですか?」


「はい、お願いします」


 愛里さんは、ウピールさんにカードを渡すと、不安そうに「どうなんでしょう?」と尋ねていた。


「愛里さんはどうやら、指輪に装備適性があるようですね」


「指輪ですか……」


 愛里さんは、自分の左手を見ながら、暫くポーッと顔を赤くしながら呆けていたが、皆の視線を感じたのか、慌ててウピールさんに礼を言うと「つ、次、悠莉ちゃん! どうぞ!」と言いながら、皆の視線から逃げていった。


「クスッ。では、悠莉さんどうぞ♪」


「あっ、は、はい」


 悠莉ちゃんは、愛里さんをチラチラ見ながら、先ほどの愛里さん同様に手をかざしていた。


 再び、「チーン」と言う音が鳴ると、悠莉ちゃんはカードをそのまま、ウピールさんに手渡した。


「えっと、悠莉さんは……どうやら、ナックルに装備適性がありますね」


「? ナックルって何ですか?」


「えっとですね、例えば拳に鉄や革で出来たグローブをつけたり、脚にガードをつけたりと言った装備ですね。結構応用の効く装備なんですが、基本的に刃物がついていなければ良いって感じですね」


「? んー、よく分からない。おじさん、どういう事?」


 えぇ、そこで俺に聞くの? 俺だってよく分からんよ。んー、まぁ、多分だけど……


「要は……パンチやキックで闘えって事じゃないのか? その時に、拳や脚を傷つけないようにって考えれば良いんじゃないの?」


「えー、何かテキトーじゃない?」


「いえ、大体そんな感じです」


 俺と悠莉ちゃんがプチ討論していると、ウピールさんは俺が大体正解だと言ってくれた。ふふん、どうだ? って感じで悠莉ちゃんを見ると、思いっ切りアカンベされた……最近娘が冷たい……俺、泣いていいかな?


 そんな感じで、ジョブの時より順調に、適性武具の診断は進んでいった。


 ちなみに、ミッチーは『大剣』、サッチーは『長杖』であったと報告しておこう。そして、問題は俺の番で起った。


「えっと、俺のジョブ『サラリーマン』って、どう考えても非戦闘職なんですけど……装備ってあるんですか?」


「えっ? 戦闘職じゃない? そうなんですか?」


「はい……多分」


「でもたまに『商人』の方でも、武器として算盤とか診断が出ることがありますよ? まぁ、滅多にないですけど……」


 辞書に手をかざしながら、俺には適性武具の診断が必要ないんじゃないかと思って聞いてみると、そんな答えが返ってくる。えぇー、算盤しか使えない商人ってどうなのよ?


 俺が迷っていると、それまで大人しく(退屈)していた羽衣ちゃんが、目を輝かして言った。


「大丈夫だよ! サラリーマンには必殺の七つ道具があるって、パパが言ってたもん! うい、知ってるよ!」


 あっ、デジャヴ……って言うか、羽衣パパッ! またあんたか!


 地球に帰ったら、一言言ってやらにゃ……


 俺がそんな事をぶちぶち言ってると、突然辞書が宙に浮いて、何やらメロディーを奏で始めていた……


「こ、これは一体!」


 ウピールさんが、驚きの声を上げると辞書から、七つの光が俺の周りを回り始めた……


 光の一つは、俺が着ているスーツを光で包むとそのグレーのスーツの色を濃紺色に染め上げた……他の光りは、それぞれ、俺の左手の腕時計を、胸ポケットに仕舞っていた手帳を、右ポケットに入っていたハンカチを、左ポケットに入っていた携帯電話を、そして右手に持っていた通勤かばんを包み込むと、スゥッと消えていった。


 俺達は暫く呆然としていたが、やがてウピールさんがハッとして意識を取り戻すと、俺にカードを見せる様に言ってきた。


「えっと、どうやら、今の光で、薬屋さんの身に着けていたものが、ジョブ専用の武具として昇華したみたいですね……これは、滅多に無い事ですよ! 多分、さっき祝福のメロディーが流れていたので、加護が関連しているとは思うんですが……あら? どうやら全て、防具もしくは、補助魔具として昇華した様ですね。まぁ、非戦闘職の護身用としては申し分ないので、上々と言った所でしょうか?」


 ウピールさんは、そう言うと俺にカードを返してくれた。


 まぁ、非戦闘職だと、自衛が難しそうだから、ちょっと困ってたんだが、服が強化されたって言うんなら少しは安心かな?


「さて、これですべて終了になります。皆様、お疲れ「違う! まだよ!」様で、え、何でしょうか? 悠莉さん」


 ウピールさんの言葉を遮り、悠莉ちゃんが叫んだ。そして、悠莉ちゃんの指差す方向には、一つの光が浮いていた……


「さっきの光、まだ一個残ってる……」


 悠莉ちゃんのその言葉に反応する様に、最後の光はギルドカードに吸い込まれていった……


「く、薬屋さん! もう一度、ギルドカードを見せてください!」


 そう言うとウピールさんは、俺からギルドカードをひったくる様に受け取ると、首を傾げつつ「あの……」と前置きして言った。


「薬屋さんに、武器の装備適性が出ています……」


「えっ? マジで? ツチノっちって戦闘できるの?」


「えっ、本当ですか? どんな武器なんですか?」


「えっと、その……」


 サッチーを始めとして、皆が驚き、愛里さんが尋ねたが、ウピールさんは申し訳なさそうに俺をチラリとみて。


「その、『名刺』……です」


「「「「「は?」」」」」


「正確には……『名刺ギルドカード』です……」


 何度でも言おう……


「「「「「は?」」」」」


 ――――俺達は、本日最後の時間停止を経験した……

祝福のメロディーは「頑張れー、負けんなー(以下略)」のメロディーです。

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