表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大・出・張!  作者: ひんべぇ
第六章:加護励起
88/204

社畜体験

続きです、よろしくお願い致します。

「――っ。こ、ここは……何処ディスか?」


 目を開けたサブラの視界に広がっていたのは、森の木々よりも高い、石の塔――ビルが立ち並ぶ街だった。


「な、なんディスか? あ、足が勝手に!」


 サブラの足は勝手に動き、ビルの一つに向かって行く。


 ビルの中に入り、階段で二階に上ると、そこは机が並び、同じ様な服を着た人間が沢山いる部屋だった……。


「そ、そう言えば!」


 サブラは自分の格好を確認する、先程まで自分は戦闘形態を取っていたはずなのだが……今は、ピッチリとした、裾が膝の少し上までしかない服――スーツを着ている。


「サブラ君? どうしたんですか?」


「あ、主……?」


 ――聞き覚えのある声に振り向くと、自らの主が、先程まで戦っていたはずの敵と同じ様な格好で、そこにいた。


「主……? よく分かりませんが、役職で呼ぶならちゃんと、部長と呼びなさい!」


「あ、はい、すいません、部長!」


 咄嗟に返事をしてしまったサブラだが、彼女の頭は自分の理解を越えた事態について行けず、周囲の様子をキョロキョロと伺うだけであった。


『――ノルマ道――』


「――っ! い、今のは?」


 突然、空から聞こえて来た声にサブラは身構える。


「た、確かに今、鼻の詰まった様な声が……?」


「――君、サブラ君! 聞いているのですか?」


「あ、はい、部長!」


 栗井の声で、サブラは我に返る。


「ふう……しっかりして下さいよ? 今月、君だけまだ契約ノルマを達成できていないんですからね? 今日中に少なくとも、十件は契約取って来て下さいね?」


「は、はい……」


 サブラはそのまま、何をすれば良いのか分からず、街を練り歩く――が、一日歩き回って何の成果も得られず、仕方なくビルに戻る。


「結局、新しい契約とやらは出来なかったディス……」


 ため息を吐き、栗井の元へと報告に行くサブラ。


「……君は、一日、何をしていたんですか?」


 栗井が冷たい目でサブラを見つめる。


「も、申し訳ないディス……」


「オイオイ、本当に悪いと思ってんのか? ディスディスディスディス……何、ディスってんだよ!」


 そこに、クリスも加わり、ビオはゴミでも見るかのようにチラ見して去っていく……更にはミクリスや、サラマドラまで加わり唾を吐いて行く。


「あいつ等……殺してやるディス!」


『――残業道――』


「――っ! ま、またディスか!」


 再び、空から声が聞え、サブラの前の景色がゆがむ……。


「クァ……」


 気付けばサブラは机に座って、紙に何かを書き込んでいた……。


「はっ! こ、これは……?」


「サブラちゃあん! お疲れ~」


 すると、眼鏡をかけたティグリがサブラの元にやって来た。


「悪いんだけどさ? 俺、今から合コンなんだよね? だから、これ、代わりにやっといてよ!」


 そう言うと、ティグリは山ほどの書類をサブラの机に置いて行く。


「な……ティ、ティグリ!」


 自分の知るティグリとの違いに戸惑いながらも、その身勝手な言い分に掴みかかろうとする――。


「ごめんって! 今度、飯おごるからさ!」


 ティグリはサブラの突進を避けると、そのまま、戦闘形態になり、窓からどこかに行ってしまった……。


「なんなんディスか……もう」


 ――それから四時間。


 こなしてもこなしても減らない書類、すでに時間は十時を回っていた。


「何で……サブラが、こんな目に合うんディスか……」


 サブラは思う、自分は何でここにいるんだろうと。


「うう……」


 訳も無く悲しくなり、涙が滲む……。


「早く、帰りたいディス……」


『――低給道――』


「ん……またディスか?」


 そして、ふと目の前の封筒に目を通す……。


「――なッ!」


 そこには、サブラの給与明細が入っていた。そして、その金額を見て、サブラは小さく呟いた。


「私の給料、低すぎディス?」


 サブラの頭の中にによく分からない給料に関しての知識と、焦燥感、絶望感が襲って来る。


『――ハラスメン道――』


「何じゃサブラ……帰っておらんかったのか?」


「あ、ゲリフォス……」


 既に四度目となる、空からの声に、サブラはその身を震わせていた。


 そんなサブラの様子を気に掛けるでもなく、ゲリフォスは厭らしい笑みを浮かべている。


「お前は……変わらないディスね……」


「ん? どうしたんじゃ? 幾らワレが上司とは言うても、少ない同期じゃ! ほれ、何ぞ悩みがあるなら言うてみい?」


 そう言いながら、ゲリフォスはサブラの尻を撫で回し、そして呟く。


「相変わらず、いい尻をしておる……サブラよ、お主もスプリギティスの様に、さっさと辞めて結婚したらどうじゃ? 何ならワレが愛人にしてやっても良いんじゃぞ?」


「止めるディス! この、エロ爺!」


「君達っ! 会社で何をやっているんです!」


 睨み合っていた二人が振り返ると、栗井が冷たい目で睨んでいた。


『――解雇道――』


「――っ!」


 再び空から聞こえる声――。


 サブラは目の前の栗井に向けて、言い訳をしようとするが、何故か声が出ない。


「ち、違うんですじゃ! こ、この雌が誘惑してきよったんですじゃ!」


「――っ」


 ゲリフォスはそれからも自分の都合の良いように、栗井に説明していく。


「――っ。――っ!」


 それでもなお、声が出せないサブラに向かって、栗井が言い放つ――。


「サブラ君、君がそんな人とは思わなかった……君はもう、明日から来なくても良い!」


「――っ!」


『――求職道――』


 気付けば、サブラはフラフラと夜の街を歩いていた……。


「うぅ……」


 あれから、色んな所を訪ねてみたがしかし、どこも雇ってくれない……。


「なんだ、これは……さ、サブラは……」


 ――その時、メロディが聞こえて来た……。


 そして、メロディと共に、空からあの声が聞こえて来る。


『――これぞ、社畜六道輪廻――』


「――っ!」


『――以下、繰り返し――』


 空からの声が発した『繰り返し』――その意味を想像した時、サブラの心が折れた……。


「ああああああああああああああああああ!」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――あっ! こ、こ、は?」


 どうやら、サブラが意識を取り戻したみたいだ。


 先程使ったスキル『OJT』……その説明は『社畜体験』とだけあったんだが、予想以上に辛かったみたいだな……。


 サブラの意識が飛んでいる間――大体、三十分程の間に、俺と、愛里と、ハオカと、タテで皆の怪我の治療にあたっていた。


 その間にもも缶も帰って来て、お蔭で今、サブラを取り囲む事に成功していた。


「こ、ここは……どこ、ディスか? サブラは……帰ってこれたんディスか?」


 サブラは敵であるはずの俺に必死で縋り付き、答えを求めている。


「あ、ああ、そうだけど?」


「あ、アレは……何なんディスか!」


 堰を切った様に、サブラは何が起こったのか話し出した。ああ、成程……こういう話って、誰かに聞いてもらいたいもんだよね。


「サブラ……それは、俺の、『サラリーマン』や『OL』の苦行だ……お前はそれを経験したんだ」


 それを聞いて、サブラの俺を見る表情が恐怖に染まっていく。


「お、お前らは……おかしいディス! な、何で……あ、あんな……どうして、それで、続けられるんディスか!」


 ――どうやら、そこそこの職場だったみたいだな……。


「まあ、もっとキツイ職場もあるけどな? どうしてと、聞かれれば、それが日本の――『サラリーマン』だからかな?」


 そして、俺はサブラを拘束するためにと考え、立ち上がる。その時に、俺のハンカチがヒラリ舞い落ち、それを見たサブラの顔が真っ青になる――。


「ヒィッ! よ、寄るな……化物! それを近づけるな!」


 サブラはカチカチと歯を鳴らしながら、俺の事を完全に化物扱いしている……本当に何を見せられたんだ?


 その後、サブラは「やだ……もうやだ」と呟きながらフラフラと洞窟の出口に向かって歩き出した。


「――あ、やべ、捕まえないと!」


「いえ、旦那さん……もう、大丈夫と思いますぇ?」


 焦る俺に対して、ハオカがそう言い、他の皆も頷き、最後にミッチーが呟いた。


「そうッスね……アレは、もう心が死んでるっス」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 サブラは、一刻も早く逃げ出したかった。


「あ、あんな精神力の化物……係わりたく……もう、係わりたくないディス!」


 サブラが短い間に何度も経験させられた地獄は、そのことごとくが、心を折って来るモノばかりだった。


 ――戦闘ならば、傷を負おうが何をされようが、最終的に相手を殺してしまえば自分の勝ちであった。しかし、あの地獄は、相手に手を出す事を禁じられ、相手からの精神的な攻撃を防ぐ事すら出来ず、理不尽に、じわじわと魂を削られていくモノだった。


 それをさも平然と、しかもまだ上が有ると言い放った、あの人間は……もう、ただの『化物』にしか見えない。


「早く……もう、どこかで……ひっそりと!」


 引きこもりたい! そう思ったその時――。


「――っかふっ!」


 サブラの胸に、緑色の鎌が刺さっていた。


「どうしたんですか、サブラ様? 隙だらけ、ですよ?」


「う……ぁ?」


 サブラは胸の鎌を見て、一瞬、何が起きたか分からず、声の主を見る。


「――ミ、クリ、ス?」


「はい……数時間、ぶりですね、サブラ様?」


 息も絶え絶えな様子で、サブラが……嘗ての上司が自らの名を呼ぶその様子を、ミクリスは満面の笑みで見つめている。


「さて、私、ここらで、主達の元を離れようと思いまして」


 膝をつくサブラの前まで来ると、ミクリスは緑の鎌の柄を握り、サブラに突き刺したまま、グリグリと回す。


「んぁ……!」


「と、言う訳で、手切れ金代わりを頂きに来ました」


「手、切れ……金?」


 サブラの呟きにミクリスが頷く。


「はい、今から私、貴女を……正確には貴女の力を頂きますね?」


「な……に?」


 サブラの頭を掴み、そのまま力を込め地面に押し倒し、ミクリスは告げる――。


「じゃあ、頂きます――」


 ミクリスの口が大きく開き、地面に仰向けに倒れたサブラの足元に喰らいつく。


「い、いや……誰、か……いや、いや……いやだ――!」


 サブラの悲鳴が小さく響き、すぐに洞窟内に静けさが訪れる。


「――ふぅ、ご馳走様でした……流石、サブラ様……美味しかったですよ? これで五体目……ですか……」


 ――この日、テイラから『コミス・シリオ』のサブラ部隊が姿を消した……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ