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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第六章:加護励起
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井守と家守

続きです、よろしくお願い致します。

「ん……ここは……自分は、生きてるんスか?」


 目を覚ましたら、自分に手を当て治療してくれている姐御がいたっス。


 ――っ! そうッス! 奴は……プリオンはどうなったっスか?


 自分は咄嗟に姐御の顔を見てその答えを求めたっス。


「姐御……プリオンはどこっすか?」


 姐御は起き上がろうとする自分を「まだ起きちゃ駄目です」と言ってまた、横にしてくれたっス。


「プリオンさんは、何とか倒せました!」


「な、何とかって……」


 あれ、そんなレベルじゃ無かったッス……自分との相性最悪だったんスよ?


「三知さんが、プリオンさんの片腕を斬ったじゃないですか? あそこからピトちゃんが『毒霧』のスキルを染み込ませて、時間を稼いでいる間に何とかなったんですよ」


 姐御の肩に止まるピトを見ると、何だか誇らしげに翼を広げてるっス……ああ、自分も貢献できたんスね……良かったッス。


「――どうですか? 傷口も塞がりましたし、もう安心だと思うんですけど、まだ痛むところとかはありますか?」


 ゆっくりと起き上がって、軽くジャンプして……腕を回して……ストレッチして……うん、大丈夫そうッス。


「大丈夫そうッス! 姐御、ありがとうございます!」


「いえいえ、何も問題ないですよ?」


「うっす!」


 すると、姐御も立ち上がったッス。そして、背伸びをすると――。


「さあ、早く出発しましょうか?」


 気合入ってるっスね! 望むところっス、さっさと進むっス!


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――一方、サッチー、ダリー組――


「こいつぁ、広い空間だな?」


 何か、気が付いたら狭え通路からでけえ部屋に辿り着いてた。


 ツチノっち達はもう先に行ったかな?


「う……」


「――っ! ダリーちゃん、大丈夫か?」


 最近、ダリーちゃんは良く体調を悪くする……もしかして何か病気なんか?


 オレがオロオロしてんのを見て、ダリーちゃんがいつもの様に、ウットリって顔をする。


「もう……そんなに心配しなくても大丈夫ですよ?」


「で、でもよぉ……」


 ――そん時だった。物凄い異臭と一緒にペタペタと足音がしてきた。


「おぉ? こっちは二人だけか……? つまらんな」


 声のした方を見ると、ヌルッとした黒色の身体に朱いあごひげ、毛の無い頭の男が立っていた。


「ってか、ミクリス……か?」


「ん? ああ、そうか奴には会っているんだったか?」


 2Pミクリスはあごひげをジョリジョリ撫でると、こちらを見ながら呟く。


「俺は『守伯獣』、『井守』のサラマドラだ……以後よろしく……はしないだろうから、冥土の土産にでも覚えておけ」


 何か、やっぱり2Pミクリスだべ……?


「う……もう無理……臭い」


 いきなりダリーちゃんが吐き出した。


「ダ、ダリーちゃん? 大丈夫か?」


「ちょっと、アレ……何とかしてくれませんか? 臭い……」


 おお……これ、ちょっとお怒りダリーちゃんだ……そんなに臭かったのか? 確かに、臭いけどよ。


「ほぉ? お、お前ら……楽に死ねると思うなよ?」


 あ、やっぱり気にしてたんか? 2Pがプルプル震えてる。


「くたばれ……『弾舌』!」


 2Pがスキルを発動させる――やっぱり、ミクリスと同じスキルかよ!


「ダリーちゃん、キツイかもしれねえけど!」


「……分かって、います、『聖壁』!」


 ダリーちゃんの壁と2Pのスキルがぶつかり合って、火花が散ってる……良し、オレの方もいける!


「穿て! 『鉄槍』!」


 2Pの頭ん上から二本の槍が降って来る。一本は……2Pの尻尾に刺さった!


「ち、『尾断』!」


「させっかよ! 響け! 『轟雷』!」


 2Pが尻尾を切り離した瞬間、オレの放った雷が尻尾に刺さった槍ごと、尻尾を消滅させる。


「そうか、ミクリスめ……『淡気』!」


 忌々しそうに呟くと、2Pの姿が周りの景色と混ざり始めて見えなくなっていく……こら、マズイべ。


「ダリーちゃん!」


「もう、張ってますよ……」


 流石、オレの嫁さん! 愛してんぜ!


 一応、ダリーちゃんを抱き寄せ、警戒する。


「あ、サチったら……こんな所で……」


「いや、違うって! ダリーちゃんこそこんな時にからかわねえでくれよ?」


 その時、ダリーちゃんの張った壁に火花がはしる。


「お前ら……こんな時にイチャついてんじゃねえよ!」


 その通りだけどもよ……。


「お前……今、ダリーちゃん狙ったべ?」


「あん? それがどうした?」


「オレの……オレの嫁さんに手え出してんじゃねえよ!」


 オレはダリーちゃんを抱く力を強くして、2Pの声がする方を睨み付ける。


 ――イモリ……イモリか!


 無い知恵絞って考えてみたけど……取り敢えず焼けばいっか!


「ダリーちゃん、ちょっと壁厚くしてくれっか?」


「……? ええ、出来ますよ?」


 一瞬だけ、ダリーちゃんの張った壁が光る。


「ち、厄介な壁だな……だが!」


 また、壁に火花がはしる……そんなに火花が好きならよぉ!


「イモリっつったらよぉ、昔から黒焼きが有名だべ! 開け! 『地獄の窯』!」


 ダリーちゃんの壁を中心にして炎の渦が巻き起こる。まだまだ、終わらねえっつうの!


「開け! 『地獄の窯』! 開きまくれ!」


 ――っ! 今、何かクラッと来た……。


「サチ!」


「大丈夫だって……ちょっと、パないけどな……」


 炎の渦は壁を避けて部屋を埋め尽くしてる。


「――ギャ、――ケテ――ジ――!」


 壁の向こうで2Pが何か叫んでるけど、聞き取れねえ……。


「やっぱ、部屋全部スキルで包めば逃げられねえべ?」


 ダリーちゃんはオレの言葉を聞いて、何か頭を抱えてたけど。


「はあ……やっぱり、貴方は私が見てあげないと駄目ですね……ダーリン?」


「……? おう、頼むぜハニー!」


 しばらくして、2Pの声が聞えなくなったんで壁と炎を解除してみる。


「――お、いた……」


 うへぇ……何か黒いのが転がってる。


「オレ、マジパねえ……」


「あら……? 匂いが消えていく?」


 何か知らんが、2Pを倒したらその死体が砂みたいにサラサラ風に流されていってる……。


「――うん、やっぱイモリは黒焼きで正解だべ?」


「うーん、まあ、そう言う事にしておきます……」


 オレとダリーちゃんはそのまま抱き合って、キスしようと――したところで、またダリーちゃんが吐いた。


「ダ、ダリーちゃん?」


「す、すいません、まだ、ちょっと気持ちが悪くて……少し、休ませてください」


 そして、ダリーちゃんはオレの膝枕で横になると、スウスウと寝息を書き始めた……。


「悪い、ツチノっち……少し遅れる」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――同時刻――


 あたし達は今、目の前に現れた敵と睨み合っている。


 その相手は、テカテカした灰色の身体に毛の無い頭、緑色の右腕に茶色い左足をしてる。


「ん……? どうやら、私の兄弟がやられたみたいですね?」


 その相手――『守伯獣』、『家守』のミクリスは、攻撃の気配を見せる事無く淡々と告げる。


「アンタ……ミクリスだっけ? 戦わないの?」


 あたしはごくりと息を呑みながら、尋ねてみる。今、凄い声が震えてた……気付かれてないよね?


 ミクリスは天井を見上げ、「んー」と悩む素振りを見せた後、答える。


「流石に、私、勝てない勝負はしないんですよ……」


 そう言って、ミクリスはももを見ると、明らかに顔を歪め、忌々しそうに見つめる。


「――この化物が! 私は、何で、お前みたいな奴に勝てると思っていたのか……」


「……? 化物? ももの事?」


 あたしの問い掛けにミクリスは答える事は無く、両手を勢いよく合わせ、柏手を打つ。


「さて、私、まだとある方から頂いた、この手と足が馴染んでいませんし、ここらで退散させて頂きます! 進むも帰るもご自由に、どうぞ?」


 そう言うと、ミクリスはあたし達が来た方向――洞窟の出口に向けて歩き出す。駄目だ! そっちに行かせたら――!


「待って……外にいる人達を……どうするつもり?」


 あたしはミクリスの進路を塞ぐ、そして、後ろを取り囲む様に、ペタリューダとももが回り込んでくれた。


「お前……美味しそうな匂いになって来た……今なら……」


 ももはいつの間にか取り出した、ナイフとフォークをカチンカチンと鳴らす……もも、そんなにお腹空いてたの?


「――っ! ふう……大丈夫、外にいる……人間(・・)には、一切手出しはしません……だから、見逃してくれませんかね?」


「そ、そんな事、信じられるわけないでしょ!」


 今、ミクリスを外に出したら、外で頑張ってる冒険者の人達が、危なくなっちゃうじゃない! そんな事、させるわけにはいかない!


 あたしは静かに構える。すると、今まで様子を伺っていたペタリューダが口を開いた。


「多分、その方のおっしゃってる事は本当ですわ……その方、頭の『創獣の欠片』が感じられません……恐らく、栗井達の指示に従うつもりがありませんわ……」


 ペタリューダの指摘にミクリスが「その通りです」と呟く。


「だからって……」


 あたしが、戸惑っていると、ももがナイフとフォークをカチカチ鳴らしながら教えてくれた。


「悠莉……大丈夫、外の……人間が食べられたら、もも缶、分かる……もちろん、()()()()でも、分かる」


 ももの遠回しな警告に、ミクリスの喉が大きく鳴って、緊張しているのが分かる……もしかして、そんなに、ももの事が怖いの?


「……そう言う、事です。本当に……化物め……」


 ミクリスはそう呟くと、逃げる様に洞窟の出口へと走っていった。


「本当に良かったの? もも……」


「大丈夫、次、もっと美味しくなってる!」


 そう言うと、ももは親指をグッと立てる。取り敢えず、干し肉上げるから、我慢しなさいよ……。


 あたしは、何だか釈然としない気持ちになりながらも、そのまま先を進んで行く――おじさん、待っててよ!

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