井守と家守
続きです、よろしくお願い致します。
「ん……ここは……自分は、生きてるんスか?」
目を覚ましたら、自分に手を当て治療してくれている姐御がいたっス。
――っ! そうッス! 奴は……プリオンはどうなったっスか?
自分は咄嗟に姐御の顔を見てその答えを求めたっス。
「姐御……プリオンはどこっすか?」
姐御は起き上がろうとする自分を「まだ起きちゃ駄目です」と言ってまた、横にしてくれたっス。
「プリオンさんは、何とか倒せました!」
「な、何とかって……」
あれ、そんなレベルじゃ無かったッス……自分との相性最悪だったんスよ?
「三知さんが、プリオンさんの片腕を斬ったじゃないですか? あそこからピトちゃんが『毒霧』のスキルを染み込ませて、時間を稼いでいる間に何とかなったんですよ」
姐御の肩に止まるピトを見ると、何だか誇らしげに翼を広げてるっス……ああ、自分も貢献できたんスね……良かったッス。
「――どうですか? 傷口も塞がりましたし、もう安心だと思うんですけど、まだ痛むところとかはありますか?」
ゆっくりと起き上がって、軽くジャンプして……腕を回して……ストレッチして……うん、大丈夫そうッス。
「大丈夫そうッス! 姐御、ありがとうございます!」
「いえいえ、何も問題ないですよ?」
「うっす!」
すると、姐御も立ち上がったッス。そして、背伸びをすると――。
「さあ、早く出発しましょうか?」
気合入ってるっスね! 望むところっス、さっさと進むっス!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――一方、サッチー、ダリー組――
「こいつぁ、広い空間だな?」
何か、気が付いたら狭え通路からでけえ部屋に辿り着いてた。
ツチノっち達はもう先に行ったかな?
「う……」
「――っ! ダリーちゃん、大丈夫か?」
最近、ダリーちゃんは良く体調を悪くする……もしかして何か病気なんか?
オレがオロオロしてんのを見て、ダリーちゃんがいつもの様に、ウットリって顔をする。
「もう……そんなに心配しなくても大丈夫ですよ?」
「で、でもよぉ……」
――そん時だった。物凄い異臭と一緒にペタペタと足音がしてきた。
「おぉ? こっちは二人だけか……? つまらんな」
声のした方を見ると、ヌルッとした黒色の身体に朱いあごひげ、毛の無い頭の男が立っていた。
「ってか、ミクリス……か?」
「ん? ああ、そうか奴には会っているんだったか?」
2Pミクリスはあごひげをジョリジョリ撫でると、こちらを見ながら呟く。
「俺は『守伯獣』、『井守』のサラマドラだ……以後よろしく……はしないだろうから、冥土の土産にでも覚えておけ」
何か、やっぱり2Pミクリスだべ……?
「う……もう無理……臭い」
いきなりダリーちゃんが吐き出した。
「ダ、ダリーちゃん? 大丈夫か?」
「ちょっと、アレ……何とかしてくれませんか? 臭い……」
おお……これ、ちょっとお怒りダリーちゃんだ……そんなに臭かったのか? 確かに、臭いけどよ。
「ほぉ? お、お前ら……楽に死ねると思うなよ?」
あ、やっぱり気にしてたんか? 2Pがプルプル震えてる。
「くたばれ……『弾舌』!」
2Pがスキルを発動させる――やっぱり、ミクリスと同じスキルかよ!
「ダリーちゃん、キツイかもしれねえけど!」
「……分かって、います、『聖壁』!」
ダリーちゃんの壁と2Pのスキルがぶつかり合って、火花が散ってる……良し、オレの方もいける!
「穿て! 『鉄槍』!」
2Pの頭ん上から二本の槍が降って来る。一本は……2Pの尻尾に刺さった!
「ち、『尾断』!」
「させっかよ! 響け! 『轟雷』!」
2Pが尻尾を切り離した瞬間、オレの放った雷が尻尾に刺さった槍ごと、尻尾を消滅させる。
「そうか、ミクリスめ……『淡気』!」
忌々しそうに呟くと、2Pの姿が周りの景色と混ざり始めて見えなくなっていく……こら、マズイべ。
「ダリーちゃん!」
「もう、張ってますよ……」
流石、オレの嫁さん! 愛してんぜ!
一応、ダリーちゃんを抱き寄せ、警戒する。
「あ、サチったら……こんな所で……」
「いや、違うって! ダリーちゃんこそこんな時にからかわねえでくれよ?」
その時、ダリーちゃんの張った壁に火花がはしる。
「お前ら……こんな時にイチャついてんじゃねえよ!」
その通りだけどもよ……。
「お前……今、ダリーちゃん狙ったべ?」
「あん? それがどうした?」
「オレの……オレの嫁さんに手え出してんじゃねえよ!」
オレはダリーちゃんを抱く力を強くして、2Pの声がする方を睨み付ける。
――イモリ……イモリか!
無い知恵絞って考えてみたけど……取り敢えず焼けばいっか!
「ダリーちゃん、ちょっと壁厚くしてくれっか?」
「……? ええ、出来ますよ?」
一瞬だけ、ダリーちゃんの張った壁が光る。
「ち、厄介な壁だな……だが!」
また、壁に火花がはしる……そんなに火花が好きならよぉ!
「イモリっつったらよぉ、昔から黒焼きが有名だべ! 開け! 『地獄の窯』!」
ダリーちゃんの壁を中心にして炎の渦が巻き起こる。まだまだ、終わらねえっつうの!
「開け! 『地獄の窯』! 開きまくれ!」
――っ! 今、何かクラッと来た……。
「サチ!」
「大丈夫だって……ちょっと、パないけどな……」
炎の渦は壁を避けて部屋を埋め尽くしてる。
「――ギャ、――ケテ――ジ――!」
壁の向こうで2Pが何か叫んでるけど、聞き取れねえ……。
「やっぱ、部屋全部スキルで包めば逃げられねえべ?」
ダリーちゃんはオレの言葉を聞いて、何か頭を抱えてたけど。
「はあ……やっぱり、貴方は私が見てあげないと駄目ですね……ダーリン?」
「……? おう、頼むぜハニー!」
しばらくして、2Pの声が聞えなくなったんで壁と炎を解除してみる。
「――お、いた……」
うへぇ……何か黒いのが転がってる。
「オレ、マジパねえ……」
「あら……? 匂いが消えていく?」
何か知らんが、2Pを倒したらその死体が砂みたいにサラサラ風に流されていってる……。
「――うん、やっぱイモリは黒焼きで正解だべ?」
「うーん、まあ、そう言う事にしておきます……」
オレとダリーちゃんはそのまま抱き合って、キスしようと――したところで、またダリーちゃんが吐いた。
「ダ、ダリーちゃん?」
「す、すいません、まだ、ちょっと気持ちが悪くて……少し、休ませてください」
そして、ダリーちゃんはオレの膝枕で横になると、スウスウと寝息を書き始めた……。
「悪い、ツチノっち……少し遅れる」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――同時刻――
あたし達は今、目の前に現れた敵と睨み合っている。
その相手は、テカテカした灰色の身体に毛の無い頭、緑色の右腕に茶色い左足をしてる。
「ん……? どうやら、私の兄弟がやられたみたいですね?」
その相手――『守伯獣』、『家守』のミクリスは、攻撃の気配を見せる事無く淡々と告げる。
「アンタ……ミクリスだっけ? 戦わないの?」
あたしはごくりと息を呑みながら、尋ねてみる。今、凄い声が震えてた……気付かれてないよね?
ミクリスは天井を見上げ、「んー」と悩む素振りを見せた後、答える。
「流石に、私、勝てない勝負はしないんですよ……」
そう言って、ミクリスはももを見ると、明らかに顔を歪め、忌々しそうに見つめる。
「――この化物が! 私は、何で、お前みたいな奴に勝てると思っていたのか……」
「……? 化物? ももの事?」
あたしの問い掛けにミクリスは答える事は無く、両手を勢いよく合わせ、柏手を打つ。
「さて、私、まだとある方から頂いた、この手と足が馴染んでいませんし、ここらで退散させて頂きます! 進むも帰るもご自由に、どうぞ?」
そう言うと、ミクリスはあたし達が来た方向――洞窟の出口に向けて歩き出す。駄目だ! そっちに行かせたら――!
「待って……外にいる人達を……どうするつもり?」
あたしはミクリスの進路を塞ぐ、そして、後ろを取り囲む様に、ペタリューダとももが回り込んでくれた。
「お前……美味しそうな匂いになって来た……今なら……」
ももはいつの間にか取り出した、ナイフとフォークをカチンカチンと鳴らす……もも、そんなにお腹空いてたの?
「――っ! ふう……大丈夫、外にいる……人間には、一切手出しはしません……だから、見逃してくれませんかね?」
「そ、そんな事、信じられるわけないでしょ!」
今、ミクリスを外に出したら、外で頑張ってる冒険者の人達が、危なくなっちゃうじゃない! そんな事、させるわけにはいかない!
あたしは静かに構える。すると、今まで様子を伺っていたペタリューダが口を開いた。
「多分、その方のおっしゃってる事は本当ですわ……その方、頭の『創獣の欠片』が感じられません……恐らく、栗井達の指示に従うつもりがありませんわ……」
ペタリューダの指摘にミクリスが「その通りです」と呟く。
「だからって……」
あたしが、戸惑っていると、ももがナイフとフォークをカチカチ鳴らしながら教えてくれた。
「悠莉……大丈夫、外の……人間が食べられたら、もも缶、分かる……もちろん、それ以外でも、分かる」
ももの遠回しな警告に、ミクリスの喉が大きく鳴って、緊張しているのが分かる……もしかして、そんなに、ももの事が怖いの?
「……そう言う、事です。本当に……化物め……」
ミクリスはそう呟くと、逃げる様に洞窟の出口へと走っていった。
「本当に良かったの? もも……」
「大丈夫、次、もっと美味しくなってる!」
そう言うと、ももは親指をグッと立てる。取り敢えず、干し肉上げるから、我慢しなさいよ……。
あたしは、何だか釈然としない気持ちになりながらも、そのまま先を進んで行く――おじさん、待っててよ!




