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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第六章:加護励起
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〇ンデレラ

続きです、よろしくお願い致します。

 開幕のクロスカウンターは互いの頬を正確に捉えていた。しかし、残念ながら俺の拳はクソガエルにダメージを与えられていない。


「うふぇ、何だこりゃ? 痛くも痒くもないぞ?」


 まあ、戦闘職じゃないから、分かってたんだが……どうしても殴っておきたかったし、相手に殴らせることも成功したしな……。


「そう言うお前のパンチも大したこと無いな?」


 こいつの拳は、正直カンクーロの蹴りの百分の一位か? 顔の周辺に張った『塗り壁』が二、三枚破られている。


「うふぇ……主からの話で聞いちゃいたが、防御だきゃあいっちょまえみたいだな?」


「……ん?」


 もしかして……カンクーロやリュージーから情報がいってないのか?


 ――まあ、それなら好都合なんだけどな。


「おい、男ぉ、何も言えんのか?」


「ん、ああ、悪い。ちょっと、考え事しててな? 取り敢えず、一発殴ってスッキリしたし……お前、逃げたいなら逃げてもいいぞ?」


 何と言うか、ある意味コイツのお蔭で色々考えさせられたしな。


「おい……お前、本当に馬鹿にしとんのか?」


 俺の言葉を挑発と取ったのか、クソガエルの表情がドンドン真っ赤に――いや、紫だなこりゃ。


「まあ、良いや! 俺達はもう行くから、そこでジッとしてろ? そうすりゃ、帰り際にでも許してやるよ」


 そうして、俺は振り返り、ハオカ達に「終わった」と伝える。


「旦那さん、はばかりさんどす……」


「父上……その……良いのですか?」


 どうやら、タテはまだ注意力が足りないみたいだな……?


「ああ、タテ、もう終わり、だ」


 そう言うと、タテの頭をくしゃくしゃと撫でる。


「おい、男ぉ! 何を無視しとんじゃ!」


 その時、クソガエルが我慢できなくなったらしく、後ろから俺の背中目がけて一足飛びに殴りかかって来た。


「あ……」


 ハオカが呆れた様にクソガエルを見ている。


 ――ゴインッ!


「グァ……また、見えない壁か! こんなも……ん?」


 恐らく、もう一度位殴ろうとしたんだろうが、その肩から先は既に存在していない……。


「……あ?」


「せっかく、旦那さんが動かん様にと忠告して差し上げたんに……」


 そのまま、クソガエル――バトラコスの身体が地面にドサリと落ちる。


「な、に、が?」


「いや、最初のクロスカウンターの後に罠を仕掛けただけだよ?」


 本当は『旋盤牢』で滅多切りにしても良かったんだけど、一発殴ったらスッキリしちゃったし、まあ執行猶予って感じで良いかなと……。


「あ、ああ、ちっくしょお……」


 その一言を絞り出すと、バトラコスは人型を維持できなくなった様で、蛙っぽい魔獣の姿に変わる。


 カンクーロの時もそうだったけど、変異種ってある程度のダメージを与えたら、普通の魔獣になるのか……? これは、ちょっと衛府博士に相談してみなきゃ分からないか……。


 俺はバトラコスをギルドカードで作り上げた檻に閉じ込める。すると、ハオカが俺の傍に近付き、不安そうに俺を見て聞いて来た。


「旦那さん、何やいつもと様子が違いましたけど、どうかしたんどすか?」


 どうやら、タテも同じ事を考えている様でハオカの少し後ろで不安そうにこちらの様子を伺っている。


「ハオカ……」


 俺は足元に転がるバトラコスの入った檻をチラリと見て、その上に腰を下ろすとハオカを手招きする。


「なんどすか?」


 正直な話、今回はなるべく意識しない様にしていた、自分の独占欲の強さを改めて実感してしまった……。


 ――何と言うか、非常に恥ずかしい。


 何にしても、ちゃんと話しておこう……。


「ハオカは……俺の事……好きか?」


「……? そら、旦那さんのややこを産んでもええと思う位には……それが、どないかしたんどすか?」


 ハオカはそう言うと、からかう様にカラカラと笑う……ややこ――赤ん坊て……ハオカさん……。


「あ、ああ、えっとな? 俺の様子が可笑しかったのは……何と言うか、独占欲が暴走したというか……な?」


「独占欲……どすか?」


「なるべく意識しない様にはしてたんだけど……頭のどっかでハオカに対する独占欲があってだな? アイツに取られてたまるかって思ったら……つい……」


 そこまで話すと、俺は顔を上げ、そぉっとハオカの顔色を伺う……。


「あら……あらあら……」


 ハオカは俺がハオカを勝手に「自分の女」扱いした事には、怒って居ない様でニヤニヤしていた……ちょっと、気持ち悪い。


「ハオカ……?」


「あ、あら……すんまへん」


 正気に戻ったハオカはふと小首を傾げて、俺に問い掛ける。


「旦那さん、うちは旦那さんに「わてんおなご」として見てくれはるんは、むしろ望むトコどす……でも、そないな目で見てくれはるんやったら、何でうちに手を出さへんのどすか?」


 そう言うと、ハオカは俺の目をジッと見つめる。


「……手を出しそうになった事は何度もあったけどな? 単純に、俺はここでは保護者だからな……皆を無事に家に帰すまではそういった事は考えない……俺の個人的な願掛けみたいなもんだよ」


 ハオカは尚も、俺の目を見つめ――。


「そら……愛里はんと悠莉はんに関しても、どすか?」


「こんな状況だしな……二人が俺に恋愛感情を持ってたとしても、一旦冷静になる時間が必要だと思ってる」


 更に言うなら、二人供まだ学生だからな……。


「そうどすか……そんなら、うちからはもう、なんも言おりません」


 ハオカは取り敢えずは納得してくれた様だが、人差し指をあごに当て、少し何かを考え込むと俺の頬に口を付け――。


「取り敢えず、予約しておきますえ。それと……うちは何号やてええんどすぇ?」


 そう言ってタテの所まで戻っていった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――椎野がバトラコスとクロスカウンターを決めていた頃――


「クッ! 『ホウセンカ』!」


 三知さんの剣から放たれた衝撃が、私達の目の前にいる『鋸伯獣 プリオン』と名乗った人に向かって飛んでいく。


「効かんな!」


 三知さんの攻撃はプリオンさんの巨体に当たっても全く効いていないみたいです……。


 あ、三知さんがこちらに戻ってきました。


「三知さん! 『パゥワ』!」


 私は、三知さんに強化スキルを掛けなおします。


「済まないッス! 姐御!」


 三知さんの攻撃は先ほどから、全部当たっているんですけど……プリオンさんの身体が大きいせいか、あまり効いてないみたいです。


「ピトちゃん、スキル出せる?」


「ねえちゃ、どれにするの?」


 私を守る様に斜め前に立ってくれているピトちゃんに聞いてみると、準備は万端みたいなので「じゃあ、毒霧で」とお願いしてみます。どうやら、椎野さんと迷子になっていた時に覚えたスキルらしいです……羨ましいなあ……。


「ミッチ! どけ!」


「ん? ピトッスか?」


 そう言うと三知さんはプリオンさんの注意を引きつけてくれました。そして、そこにピトちゃんが――。


「オボェ……!」


 ……毒霧? をプリオンさんに向けて垂れ流して……。


「何だ、お前は……臭っ!」


 ピトちゃん……それは『霧』とは言わないと思うの……でも、何にしても、プリオンさんの目潰しにはなったみたいです。


「三知さん!」


「分かってるっス! 『ノコギリソウ』!」


「ちぃ! 効かねえ……つってんだろうが!」


 三知さんの攻撃は何とか、プリオンさんの腕を切り落としましたけど、残った方の腕で三知さんが吹き飛ばされてしまいました。


「……クソが……」


「うぐ……」


 これは……駄目です。このままでは、三知さんが殺されてしまいます。何とか傷を癒さないと!


「三知さん!」


「あ、姐御……来ちゃダメッス!」


 フラフラしながら、三知さんが立ち上がり、そのままプリオンさんに斬りかかって――。


「鬱陶しい!」


「ガァッ!」


 そのまま、三知さんは洞窟の壁にぶつかり、意識を失ってしまった様です……。


「ねえちゃ、逃げて!」


「駄目よ……ピトちゃんと三知さんを置いていけない!」


 そんな私達に、プリオンさんがゆっくりと近づいて――。


「安心しろ……アイツは死んでない、アンタが主の元に行けば、見逃してやる」


 主――栗井博士ですか……駄目! 絶対、無理!


「い、嫌です……!」


「じゃあ、仕方ねえな? 気絶させてでも連れてく……」


「――っ! ねえちゃ!」


「駄目っ! ピトちゃん!」


 プリオンさんが軽く拳を振るうとピトちゃんの小さな体が遠くまで吹き飛ばされて……。


「これで、邪魔者なしだ……」


「ひっ……い、いや……来ないで……!」


 三知さんも……ピトちゃんも傷つけて……この人は……赦しません!


 私はズルズルと後ろに下がりながら、二つの――とあるスキルを発動させます。


「往生際悪いぜ? 悪いようにはしねえよ……きっと」


「わ、私は……あんな人の……顔も見たくありません!」


「仮にも……俺の主だしな……あんま嫌ってくれるなよ……」


「い、いや! 来ないで! 来ないでッたら!」


 そして、プリオンさんが私の手首を力強く掴み、持ち上げられてしまいました……これで……準備は整いました。


「そう言うなよ……何か悪い事してるみたいじゃね、え……か……? あ、ら?」


 どうやら、効いてくれているみたいですね。


 プリオンさんは力が入らないみたいで、私を手放してしまいました。


「キャッ!」


 お尻が痛いです……。それでも私は、お尻に付いた土を軽く払ってプリオンさんに近付きます。


「どうですか……? 効いてますか?」


 プリオンさんは息をするのもお辛いみたいで、真っ青な顔で私の事を見てきます。


「て、めえ……何、しやが、た」


「うふふ……『治癒師』の裏スキル『ヤンメ』……接触した相手に強力なウィルスを送り込むスキルです……内緒ですよ?」


 プリオンさんは大層驚いてくれたみたいで、目を凄く大きくしています……うふふ。


「ちっ……狙って、やがったの、か……さっきの怯えは、演技か? 大した役者だぜ」


 歯を擦る音が大きく響いています。でも、プリオンさんは勘違いしています。


「演技じゃありませんよ? スキルですよ?」


 そう……私には演技力なんてありません。罠をばれない様に守ってくれたのは……愛しいあの人のスキル。


「うふふ……『ポーカーフェイス』解除……」


 やっぱり、あの人は――椎野さんは何時でも……何処にいても、私の事を守ってくれる。


 スーパーの駐車場でも、ジーウの森でも……いつもいつもいつもいつもいつもいつも!


 最初は何となく、決定的だったのは、勢いで椎野さんの携帯電話の中に入っていた女性からのアドレスを消した時。


 ――その時、思ったんです……この人はちゃんと見てないと碌な事をしないって!


 それから、椎野さんの行動をずっと見てて、気付いたら好きになってて、更に見てたら、いつの間にか、私に椎野さんとお揃いのスキル『ポーカーフェイス』が発現してました。


 椎野さんも皆さんも勘違いしていますが……このスキルの真骨頂は『考えている事が分かり辛い』事ではなくて、『考えている事とちぐはぐな表情を自由に浮かべられる』事です……。


 お蔭でコッソリ椎野さんを見てても気づかれませんし、プリオンさんは見事に引っかかってくれました。


「ちっ……何て冷たい目だよ……」


 当たり前です、家族以外に温かい目を向けるつもりはありません。


「……ピトちゃん、大丈夫?」


 放っておけば直に何とかなるプリオンさんは後にして、私はピトちゃんの傷を癒し、次に三知さんの傷を癒します。


「ねえちゃ!」


 弱っていたピトちゃんは鳥になって私の肩に止まります。


「さて、と……少し、借りますね?」


 気を失っている三知さんに断りを入れて、私は三知さんの剣を拝借しようとしたの……ですが。


「お、重い……『パゥワ』」


 自分に強化スキルを掛けて漸く持ち上がりました。


 ズルズルと引き摺って、漸くプリオンさんの所まで戻れました。


「ま、待て……見逃してくれ!」


 大きな身体でプリオンさんが情けない事を……椎野さんならきっとそんな事…………言いそうですね。


「駄目です、こんな事言いふらされたら困っちゃいます、私の夢が壊れちゃいますもの……『ヨァレ』!」


 私はプリオンさんに弱体化スキルを掛けて、念のため自分にもう一回強化スキルを掛けます。


「い、言わない! 誰にも言わない! だから――」


「ご冥福をお祈りします……」


 私は重力に任せて剣を――落としました。振り下ろそうとしたら、手から出血したので、多分、私に剣は使えないって事なんでしょう。


「ふう……ピトちゃんも内緒よ?」


「ピュイ!」


 ピトちゃんはその翼で敬礼の形を取りました……可愛いなあ。


「うふふ……」


 ――私の夢、それは……椎野さんと、悠莉ちゃんと、ハオカさんとヘームストラで家庭を持って、タテちゃんや、ピトちゃんや、ペタちゃん達と、ずっと仲良く暮らすことです。


「うふふふふ……」


 ああ、椎野さん椎野さん椎野さん椎野さん椎野さん椎野さん椎野さん椎野さん椎野さん椎野さん椎野さん……早く合流したいなあ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おぉう……」


「――? 旦那さん、どないしました?」


 何か、今物凄い悪寒がはしったんだが……。


「いや、ちょっと寒気が……」


「風邪どすかね? 気を付けておくれやすね?」


 そして、俺達は小休止を終え、洞窟の奥へと進み始めた。

賛否両論になりそうですが、今回の話の為になるべく彼女に深く触れない様にしていたのですが、どうでしょうか? 上手く出来たでしょうか?

楽しんで頂ければ幸いです。

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