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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第六章:加護励起
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踊るカエル男

続きです、よろしくお願い致します。

 ――イグロト沼中央、洞窟内――


「……もう一度、聞くディスよ? 何が起きたって?」


 サブラは暗い洞窟内で長く赤い舌をチロリと動かし、部下に報告の続きを促す。


 冷たい眼差しで睨み付けられ、部下はその身を震わせながら報告を続けた――。


「ひっ……あの、『創伯獣(アークラフツ)』が全滅いたしました……敵は現在、沼を渡っている最中ですが……」


「で……?」


 報告を重ねる度に洞窟内の温度が上昇していく……。


「す、既に『肺伯獣』――エチオピクスと、『椒伯獣』――プレソドンが向かっております!」


「あの二人ディスか……あんまり、期待は出来そうもないディスね……」


 サブラは迫って来る集団の中に紛れ込んでいる同類……に近いナニカを感じ、ため息を吐く。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺達は先行して洞窟が存在するイグロト沼中央の陸地へと上陸し、他の部隊の到着を待っていた。


 先程の『創伯獣(アークラフツ)』との戦闘で力を使い果たした『魔法使い』の部隊や中・近距離の部隊は仮設テントの設置場所に置いて来たため、現在の戦力は俺達の部隊で三チーム十三人程だ……。


「あ、父上! 他の人が来ましたよ!」


 タテの言葉に振り返ると、そこには異常な光景が広がっていた。


 恐らく、他の三部隊も俺達の部隊同様に、力を残した者達がこちらに向かっているのだろうが……。


「あらぁ……うちもちょい、引きますね……」


 ハオカが言う通り、見慣れていないとアレはキツイ……。


 ――何せ……色とりどりの魔女っ子っぽい、可愛らしい雨合羽を着こんだ集団が……競歩でこちらに迫って来ているんだから。


「アレは味方……アレは味方……」


 部隊長さんが呟いているが……仕方ない。


 あ、でも一部女性は良い感じに仕上がってんな。


「旦那さん、すっぺり終わったら……分かっとりますやろ?」


「……はい」


 そんな事を話している内に、後続の部隊が到着した。彼等は到着するなり、雨合羽を脱ぐとそのまま隊列を揃えはじめた。


「おじさん!」


「椎野さん!」


「ツチノっち!」


 後続の中にいた悠莉達が俺達の姿を見つけ、駆けつけて来た。


 どうやら、皆、怪我は無いみたいで、まずは一安心……。


「皆、無事でよかった」


「無事、じゃない……エサ王……ご飯」


 お腹を盛大に鳴らしながら、もも缶が俺の裾を掴んできた。


「ああ、もうちょっとだから、これでも食ってろ」


 俺がもも缶の口にスモークした魚を放り込むと、少し不満げにモキュモキュと口を動かす。


「さて……皆揃ったか! 行くぞ!」


 一通り部隊の整列が終わった頃、パシェノスが声を上げ、俺達に呼び掛けてきた。


 どうやら、早速洞窟内に突入する様だ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 洞窟の入り口は特に隠されるでもなく、上陸地点から歩いてすぐの場所にあった。


 若干、気が抜けた俺達はそのまま、洞窟に入ろうとした――が。


「あいや、待たれよ!」


「ここは、通さん!」


 ――声は洞窟内からではなく、洞窟手前の……水たまりから聞こえて来た。


「「とぅっ!」」


 掛け声と共に水たまりから飛び出た二人の『伯獣』は、その手にお揃いのさすまたを持ち、俺達の前に立ち塞がった。


「我が名は『肺伯獣』エチオピクス!」


 黄土色の身体の『伯獣』――エチオピクスが頭上高くさすまたを掲げ、名乗りを上げる。


「我が名は『椒伯獣』プレソドン!」


 続けて、赤茶けた体の『伯獣』――プレソドンがさすまたを手前でクルクルと回す。


「あ、ここを通りたければぁ!」


 この間にすり抜けられないもんかね……悠莉に視線を送ると「いや、だめじゃないの?」と言うジェスチャーが返って来る。


「我らを倒してぇ行けぇ!」


 多分、効果音が有ったら『ジャーン』とかなんだろうなあ、と考えながら様子を伺っていると、俺達の元にパシェノスがやって来た。


 ――そして小声で……。


「おやっさん、今のうちに先に行ってくれ……多分、俺らん中じゃ、アンタらが一番えげ……効率的に動けるみたいだしな」


 おい、今「えげつない」って言おうとしたろ……コイツ。


「……椎野さん、行きましょう」


 愛里を始め、皆が頷く。


「分かった……それなら……ミッチー、携帯出せ!」


「うっす!」


 俺はミッチーから携帯を受け取ると、履歴画面を出し、衛府博士の着信履歴を表示させる。


「パシェノス……この中で『報連相』を覚えたのはお前だけだ、困ったときはこの人に相談してみろ」


 そして俺が放り投げた携帯を受け取ると、パシェノスは静かに頷く――。


「じゃあ、皆行くぞ! 『リーマン流 霞隠れ』!」


 俺は『霞』を応用して、俺達の姿を周囲の風景に溶け込ませた。


「よっしゃあ、野郎共! かかれぇ!」


 俺達の姿が消えるのを確認すると、パシェノス達が『伯獣』に向かって行き、俺達はそのどさくさ紛れに洞窟内に入り込んだ――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 洞窟内は湿った、生臭い空気で満ちていた。


 俺達は慎重に奥へ、奥へと進む。


「あら? 旦那さん、こん先分かれ道みたいどすぇ?」


 ハオカが指差す先では、確かに道が四つに分かれていた。


「おやっさん……どうするっスか?」


 道が四つ……俺達は四班……これ、偶然か? それとも、誘われてんのか?


「……ハオカ、タテ、奥まで探れるか?」


 二人は声を出さない様に、静かに頷き、薄い朱雷と藍風を壁に這わせる……。


「「ん……ぁ!」」


 暫くすると、二人が同時に何かに気付いた様に小さく声を上げた……。


「どうだ?」


「はい……どうやら、奥の方で繋がっているみたいです」


 タテの言葉にハオカもコクリと頷く。


「椎野さん、どうしますか?」


 愛里が改めて聞いて来る。奥で繋がってるんだったら……。


「良しっ! 班分け通りに行こう……右からA、B、C、Dだ」


 俺が「それで良いか?」と続けると、皆も同意してくれ、それぞれの班で分岐口に立つ。


「じゃあ、また後でな?」


「ほな、後で」


「後で!」


 俺達は他の分岐口に立つ班の皆に手を振る。


「うん、先に行って待ってるから!」


「愛里姉様、暫しのお別れです……」


「エサ王……お腹空いた……」


 悠莉、ペタリューダ、もも缶で構成されたB班がさくっと奥に進んで行く。


「おやっさん、あんま無茶しちゃ駄目ッスよ?」


「ハオカさん、タテちゃん、椎野さんをお願いしますね?」


「……ペッ!」


 続けて、ミッチー、愛里、ピトちゃんも奥に進んで行き、最後にサッチー、ダリーが夫婦そろって俺達に親指を立てる。


「ツチノっち、気を付けてな?」


「おうっ! サッチーもな?」


「タテ君、怪我に気を付けてね?」


「はい! ダリー姉さんもお気を付けて!」


 そして、その場に俺達A班だけになる。


「……行くか?」


「「はい!」」


 ――三十分ほど歩いただろうか……?


 俺達は少し広めの空間に辿り着いていた。ハオカもタテもキョロキョロと周辺を見回し、警戒している。


「そやけども、こら、どなたか手を加えた感じどすなぁ?」


「そうですね……」


 どうやら、この空間で……敵が待ち構えている可能性が高いな……。


「うふぇっ! こら、当たりか? 女がいる!」


 ――突然、声が響き渡る……。


「誰だ!」


 すると、俺達が向かう先の通路の奥から、ペタンペタンと言う足音が聞こえてくる……。


 そして、徐々にその姿が見えて来た。そこにいたのは――。


「うふぇ……男もいんのかよ? わしゃ、『蛙伯獣』のバトラコス様よ……」


 ペタペタと近付いて来たバトラコスは、緑のぬめった身体に大きく飛び出した黒目――見た目はどう考えても……。


「カエルの化け物……!」


 バトラコスは俺達――特にハオカを上から下まで舐めまわす様に見つめると、俺に向かって口を開いた。


「男ぉ……そこの女を置いてきゃ、見逃してやらんでもないぞ?」


「……」


 俺が答えないのをどう捉えたのか、バトラコスは尚も口を閉じない……。


「女ぁ……大人しゅうしとりゃ、気持ちよぉわしゃの子を産ませたるぞ? 今なら、そこのガキも男も見逃しちゃる!」


 バトラコスはなぜか、機嫌よく……踊っている。


「さあ……返答は……? ――何だ、男?」


 俺は、ゆっくりと足を前に進める。一歩足を進めるごとに一枚、ギルドカードを増やし、右手と左手の間でシャッフルさせつつ、バトラコスに近付いて行く。


「ハオカ、タテ、そこで見てろ……?」


「旦那さん……?」


「……父、上?」


 そして、俺は煙草に火をつけ、一旦落ち着きを取り戻すとそのまま、二人に告げる。


「父ちゃん、ちょっと頑張って来る!」


 そして俺は手元に増えていたギルドカードを空中にばら撒き、展開し、バトラコスの三メートル程手前に立つ。


「ちぃ、人間の……男はいらねえちゅうのに!」


 もう一歩、前に出る……。


「は、カエルの分際で……」


 更にもう一歩……互いに手の届く距離まで近付く。


 俺とバトラ――クソガエルは、そのまま睨み合い、どちらともなく、笑いだす……。


「「アハハハハ……!」」


 こいつは……泣かす!


「「くたばれやぁ!」」


 ――見事なクロスカウンターが決まり、人対蛙の蹂躙戦が始まった……。

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