踊るカエル男
続きです、よろしくお願い致します。
――イグロト沼中央、洞窟内――
「……もう一度、聞くディスよ? 何が起きたって?」
サブラは暗い洞窟内で長く赤い舌をチロリと動かし、部下に報告の続きを促す。
冷たい眼差しで睨み付けられ、部下はその身を震わせながら報告を続けた――。
「ひっ……あの、『創伯獣』が全滅いたしました……敵は現在、沼を渡っている最中ですが……」
「で……?」
報告を重ねる度に洞窟内の温度が上昇していく……。
「す、既に『肺伯獣』――エチオピクスと、『椒伯獣』――プレソドンが向かっております!」
「あの二人ディスか……あんまり、期待は出来そうもないディスね……」
サブラは迫って来る集団の中に紛れ込んでいる同類……に近いナニカを感じ、ため息を吐く。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺達は先行して洞窟が存在するイグロト沼中央の陸地へと上陸し、他の部隊の到着を待っていた。
先程の『創伯獣』との戦闘で力を使い果たした『魔法使い』の部隊や中・近距離の部隊は仮設テントの設置場所に置いて来たため、現在の戦力は俺達の部隊で三チーム十三人程だ……。
「あ、父上! 他の人が来ましたよ!」
タテの言葉に振り返ると、そこには異常な光景が広がっていた。
恐らく、他の三部隊も俺達の部隊同様に、力を残した者達がこちらに向かっているのだろうが……。
「あらぁ……うちもちょい、引きますね……」
ハオカが言う通り、見慣れていないとアレはキツイ……。
――何せ……色とりどりの魔女っ子っぽい、可愛らしい雨合羽を着こんだ集団が……競歩でこちらに迫って来ているんだから。
「アレは味方……アレは味方……」
部隊長さんが呟いているが……仕方ない。
あ、でも一部女性は良い感じに仕上がってんな。
「旦那さん、すっぺり終わったら……分かっとりますやろ?」
「……はい」
そんな事を話している内に、後続の部隊が到着した。彼等は到着するなり、雨合羽を脱ぐとそのまま隊列を揃えはじめた。
「おじさん!」
「椎野さん!」
「ツチノっち!」
後続の中にいた悠莉達が俺達の姿を見つけ、駆けつけて来た。
どうやら、皆、怪我は無いみたいで、まずは一安心……。
「皆、無事でよかった」
「無事、じゃない……エサ王……ご飯」
お腹を盛大に鳴らしながら、もも缶が俺の裾を掴んできた。
「ああ、もうちょっとだから、これでも食ってろ」
俺がもも缶の口にスモークした魚を放り込むと、少し不満げにモキュモキュと口を動かす。
「さて……皆揃ったか! 行くぞ!」
一通り部隊の整列が終わった頃、パシェノスが声を上げ、俺達に呼び掛けてきた。
どうやら、早速洞窟内に突入する様だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
洞窟の入り口は特に隠されるでもなく、上陸地点から歩いてすぐの場所にあった。
若干、気が抜けた俺達はそのまま、洞窟に入ろうとした――が。
「あいや、待たれよ!」
「ここは、通さん!」
――声は洞窟内からではなく、洞窟手前の……水たまりから聞こえて来た。
「「とぅっ!」」
掛け声と共に水たまりから飛び出た二人の『伯獣』は、その手にお揃いのさすまたを持ち、俺達の前に立ち塞がった。
「我が名は『肺伯獣』エチオピクス!」
黄土色の身体の『伯獣』――エチオピクスが頭上高くさすまたを掲げ、名乗りを上げる。
「我が名は『椒伯獣』プレソドン!」
続けて、赤茶けた体の『伯獣』――プレソドンがさすまたを手前でクルクルと回す。
「あ、ここを通りたければぁ!」
この間にすり抜けられないもんかね……悠莉に視線を送ると「いや、だめじゃないの?」と言うジェスチャーが返って来る。
「我らを倒してぇ行けぇ!」
多分、効果音が有ったら『ジャーン』とかなんだろうなあ、と考えながら様子を伺っていると、俺達の元にパシェノスがやって来た。
――そして小声で……。
「おやっさん、今のうちに先に行ってくれ……多分、俺らん中じゃ、アンタらが一番えげ……効率的に動けるみたいだしな」
おい、今「えげつない」って言おうとしたろ……コイツ。
「……椎野さん、行きましょう」
愛里を始め、皆が頷く。
「分かった……それなら……ミッチー、携帯出せ!」
「うっす!」
俺はミッチーから携帯を受け取ると、履歴画面を出し、衛府博士の着信履歴を表示させる。
「パシェノス……この中で『報連相』を覚えたのはお前だけだ、困ったときはこの人に相談してみろ」
そして俺が放り投げた携帯を受け取ると、パシェノスは静かに頷く――。
「じゃあ、皆行くぞ! 『リーマン流 霞隠れ』!」
俺は『霞』を応用して、俺達の姿を周囲の風景に溶け込ませた。
「よっしゃあ、野郎共! かかれぇ!」
俺達の姿が消えるのを確認すると、パシェノス達が『伯獣』に向かって行き、俺達はそのどさくさ紛れに洞窟内に入り込んだ――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
洞窟内は湿った、生臭い空気で満ちていた。
俺達は慎重に奥へ、奥へと進む。
「あら? 旦那さん、こん先分かれ道みたいどすぇ?」
ハオカが指差す先では、確かに道が四つに分かれていた。
「おやっさん……どうするっスか?」
道が四つ……俺達は四班……これ、偶然か? それとも、誘われてんのか?
「……ハオカ、タテ、奥まで探れるか?」
二人は声を出さない様に、静かに頷き、薄い朱雷と藍風を壁に這わせる……。
「「ん……ぁ!」」
暫くすると、二人が同時に何かに気付いた様に小さく声を上げた……。
「どうだ?」
「はい……どうやら、奥の方で繋がっているみたいです」
タテの言葉にハオカもコクリと頷く。
「椎野さん、どうしますか?」
愛里が改めて聞いて来る。奥で繋がってるんだったら……。
「良しっ! 班分け通りに行こう……右からA、B、C、Dだ」
俺が「それで良いか?」と続けると、皆も同意してくれ、それぞれの班で分岐口に立つ。
「じゃあ、また後でな?」
「ほな、後で」
「後で!」
俺達は他の分岐口に立つ班の皆に手を振る。
「うん、先に行って待ってるから!」
「愛里姉様、暫しのお別れです……」
「エサ王……お腹空いた……」
悠莉、ペタリューダ、もも缶で構成されたB班がさくっと奥に進んで行く。
「おやっさん、あんま無茶しちゃ駄目ッスよ?」
「ハオカさん、タテちゃん、椎野さんをお願いしますね?」
「……ペッ!」
続けて、ミッチー、愛里、ピトちゃんも奥に進んで行き、最後にサッチー、ダリーが夫婦そろって俺達に親指を立てる。
「ツチノっち、気を付けてな?」
「おうっ! サッチーもな?」
「タテ君、怪我に気を付けてね?」
「はい! ダリー姉さんもお気を付けて!」
そして、その場に俺達A班だけになる。
「……行くか?」
「「はい!」」
――三十分ほど歩いただろうか……?
俺達は少し広めの空間に辿り着いていた。ハオカもタテもキョロキョロと周辺を見回し、警戒している。
「そやけども、こら、どなたか手を加えた感じどすなぁ?」
「そうですね……」
どうやら、この空間で……敵が待ち構えている可能性が高いな……。
「うふぇっ! こら、当たりか? 女がいる!」
――突然、声が響き渡る……。
「誰だ!」
すると、俺達が向かう先の通路の奥から、ペタンペタンと言う足音が聞こえてくる……。
そして、徐々にその姿が見えて来た。そこにいたのは――。
「うふぇ……男もいんのかよ? わしゃ、『蛙伯獣』のバトラコス様よ……」
ペタペタと近付いて来たバトラコスは、緑のぬめった身体に大きく飛び出した黒目――見た目はどう考えても……。
「カエルの化け物……!」
バトラコスは俺達――特にハオカを上から下まで舐めまわす様に見つめると、俺に向かって口を開いた。
「男ぉ……そこの女を置いてきゃ、見逃してやらんでもないぞ?」
「……」
俺が答えないのをどう捉えたのか、バトラコスは尚も口を閉じない……。
「女ぁ……大人しゅうしとりゃ、気持ちよぉわしゃの子を産ませたるぞ? 今なら、そこのガキも男も見逃しちゃる!」
バトラコスはなぜか、機嫌よく……踊っている。
「さあ……返答は……? ――何だ、男?」
俺は、ゆっくりと足を前に進める。一歩足を進めるごとに一枚、ギルドカードを増やし、右手と左手の間でシャッフルさせつつ、バトラコスに近付いて行く。
「ハオカ、タテ、そこで見てろ……?」
「旦那さん……?」
「……父、上?」
そして、俺は煙草に火をつけ、一旦落ち着きを取り戻すとそのまま、二人に告げる。
「父ちゃん、ちょっと頑張って来る!」
そして俺は手元に増えていたギルドカードを空中にばら撒き、展開し、バトラコスの三メートル程手前に立つ。
「ちぃ、人間の……男はいらねえちゅうのに!」
もう一歩、前に出る……。
「は、カエルの分際で……」
更にもう一歩……互いに手の届く距離まで近付く。
俺とバトラ――クソガエルは、そのまま睨み合い、どちらともなく、笑いだす……。
「「アハハハハ……!」」
こいつは……泣かす!
「「くたばれやぁ!」」
――見事なクロスカウンターが決まり、人対蛙の蹂躙戦が始まった……。




