沼にいる紫色のヤツ
続きです、よろしくお願い致します。
さて、あれから数日――。
何度かの会議と連携訓練を重ねた俺達は今、イグロト沼を取り囲んでいる。
基本的に、前衛が俺達を含めた冒険者、後衛を軍兵と言う形で役割を分担し、沼を囲う様に四つの部隊に分かれている。
俺達はヘームストラからの援軍と言う扱いだが、会議の中で『報連相』の有効性が認められたため、各部隊にメンバーが分散して配置されている。
まず、『ファルマ・コピオスA班』として、俺、ハオカ、タテが配置され、『B班』は悠莉、ペタリューダ、もも缶、『C班』はミッチー、ピトちゃん、愛里、『D班』はサッチー、ダリー、と言う具合に分かれている。当然の事だが、羽衣ちゃんは街でお留守番だ。
「旦那さん……そろそろではおまへんか?」
俺の右隣に立つハオカがそう言って、俺に携帯電話を差し出して来る……。
「ありがとう」
そして、俺はグループ通話で各班にテレビ電話を掛ける。
『はい、こちらB班よ?』
まずは悠莉が出る。
『椎野さん、こちらC班です』
『ちぃっす! ツチノっち、D班だぜ? 聞こえてんべ?』
続けて、愛里、サッチーの顔が映る。
「よし……通信状態は良好だな? こっちはそろそろ所定の位置に着くんだが皆はどうだ?」
『C班はもう準備完了しています』
『D班もだぜ?』
『ごめん、B班まだ……あ、大丈夫みたい!』
オッケー……それじゃあ、作戦開始といこうか!
「じゃあ、皆……部隊の先頭に立ってくれ。で、俺が合図したら打ち合わせ通り頼むな?」
『『『了解!』』』
そして、俺は深呼吸して意識を集中させる――。
イメージは……繋ぐ感じで……。
「――っ! 行くぞ! 『リーマン流 高架橋』!」
その瞬間、恐らく皆がいるであろう地点から黄色と黒色が絡み合う様な光の柱が立つ――。
『ちょ、ちょっと、おじさん! これ、凄い光ってるんだけど? 絶対ばれるよね!』
うん、ごめんなさい……こんな光るとか思ってなかった……でも――。
『ちょっと、聞いてるのおじさ――キャッ!』
どうやら、上手くいったみたいだな……光の柱から延びる光がドンドン輪を描く様に沼を囲んでいく……。
「はあ、はあ、はあ……」
「父上……」
「旦那さん……大丈夫どすか? ちびっと、休まれた方が……」
心配してくれるタテとハオカに「大丈夫」と伝え、そのまま肩を貸してもらう……。
「これで、仕上げだ……」
携帯の画面越しに皆に合図を出す。すると、画面の中で皆が手に持った俺のギルドカードを前方に投げるのが見える。
「オッケー……」
そして、俺はそのまま携帯の画面を見ながら、そこに映るギルドカードに意識を集中し、門の形を作り上げる――。
「ひぃ……ひぃ……疲れた……愛里、後は……頼むっ!」
すると、画面越しにエメラルドグリーンの光が見え――。
『お疲れ様です……椎野さん……『パゥワ』!』
愛里がスキルを発動させると、エメラルドグリーンの光が『高架橋』を渡り、沼を囲む様に分裂したギルドカード全体に伝わる――。
「『フォーメーション 極門』」
俺と愛里の声が重なり、広範囲に『強化門』を形成する――これが、作戦の第一段階だ……。
取り敢えず、俺の最初の役割終了っと……。
「旦那さん、はばかりさんどす」
「父上! 風どうぞ!」
仮設テントの中に運ばれ、うつ伏せになった俺にハオカとタテが駆けつけて来た。
「うぁ、ありがとう」
少し起き上がり、プルプルと震える手でタテの頭を撫でる。
「部隊長はんの話では、暫く『魔法使い』と『弓兵』の出番で、うちらん出番はまだ先やから、休んどってええらしいどすよ?」
「そっか……じゃあ、遠慮なく」
そして俺は再び、うつ伏せに倒れる。
「あらあら……ほなタテ、旦那さんにマッサージしてあげまひょか?」
「はいっ!」
そう言うと、タテが俺の背中をトントンと叩き始めた……。
「ヴァアア……もうちょっと強くてもいいぞぉ」
そう言ってふと目の前を見ると、ハオカが太ももを抱えて、体育座りの様な格好で座っている。
「あれ……ハオカはマッサージしてくれないのか?」
俺が尋ねると、ハオカは人差し指をあごに当て「うーん」と軽く唸る。
「背中は今、タテが占領中どすし……うちは肩と……お顔でも解そうかなと思うて……」
そう言うと、ハオカは足の指をワキワキと動かしながら、俺の肩を起用に揉み始める……。
「――ほぅ……これは……」
結構なお手前で……。そして、ハオカはそのまま、足を肩から俺の頬へと動かし――。
――グニグニグニ……。
「旦那さん……? あんまり無理して、皆に……うちに心配かけちゃいややわ……」
――グニグニッ。
「ひゃあ……ふゃひゅひゃっひゃひゃ?」
「なん言うてるか分かりまへんよ?」
そう言うと、ハオカは少しだけ涙目になりながら、クスクスと笑ってくれた。
――一時間ほど経っただろうか……。
「んん! そろそろか……?」
ハオカとタテのお蔭で大分疲れが取れた俺は、テントから出て外の様子を伺う。
「おぅ、おやっさん! 身体は大丈夫かい?」
俺の姿を見つけた部隊長さんが声を掛けてくれた。
「ああ、うちの子達のお蔭でな? それで、今どんな感じだ?」
すると、部隊長は沼の方向を指差す――。
「うわ……」
目の前には沼を覆い尽くす程の紫色が広がっていた。
多分、『創伯獣』なんだろうが、この数はちょっと想定外だな……。
「幸い、今んとこ俺らの隊に被害はねえよ」
部隊長は続けて親指で別の方向を差す。
「うわぁ……」
――ワンサイドゲームってこんな感じか?
視線の先では『魔法使い』の部隊が延々と雷や炎などのスキルを景気よくぶっ放していた……。
洞窟から『創伯獣』が出てくる、『魔法使い』が吹き飛ばす、がループしている。
「こいつぁ、おやっさん達の強化スキルのお蔭だな……どいつもこいつもビンビンしてやがる!」
念の為、他の班に連絡を取ってみるとどこも同じ状態らしい。
「旦那さんが頑張った甲斐がおましたね?」
「ねー?」
ハオカとタテが嬉しそうにハイタッチして喜んでいる。
『あ……』
その時、通話中のダリーから戸惑う様な声が上がって来た。
「どうした、ダリー」
『いえ、気のせいかも知れないんですけど……今、敵が仲間割れと言うか……共食いをした様な気が……』
その言葉に不安を感じて、『創伯獣』の様子を見ると敵さんはほぼ壊滅状態なんだが……確かに一部、共食いをしている様だ。
「ん? 共食い……って、ヤバイ! 皆、全力で攻撃だ!」
気のせいなら良いんだけど、この世界で『共食い』って言う行動は最悪の展開しか覚えがない!
俺の叫びに、他のメンバーも、一部の冒険者達もピンと来たらしく、今まで以上に苛烈なスキルが飛び交いだす――。
しかし……。
「やったか……?」
『あ、おやっさん!』
あ……。
攻撃スキルにより空中に巻き上げられ、霧状になった沼の水が晴れるとそこには二回り程大きくなった『創伯獣』が四体――佇んでいた……。
「「「「チキチキチキチキチキ……」」」」
大きめの『創伯獣』はそれぞれ、分散し俺達の各部隊に向けて走り出した。
「クッ……『魔法使い』達でまだスキルが使える者は何名いる?」
部隊長さんが周囲の冒険者に大声で尋ねるが、既に『魔法使い』の人達は力を使い果たし、暫くは使い物にならないらしい。
『椎野さん……こっちも同じ様な状況です! 今、三知さんと近接戦士系ジョブの方が応戦してますけど……大きさに反して動きが素早いみたいで、ちょっと苦戦してます』
どうやら、大きめの奴は素早いが攻撃力は弱いみたいだな……。
『悪ぃ……ツチノっち、俺はダウンだ……』
そう言うと、サッチーはダリーに電話を代わる。サッチーも『魔法使い』だからな……お疲れ様。
『おじさん? こっちは――って、もも! 突っ走っちゃ駄目だって……あ、うん……おじさん、こっちは大丈夫みたい……』
悠莉の所はもも缶が倒してしまったみたいだな。
良し……じゃあ、ここらで前哨戦を終わらせるか!
「えっと、B班以外、聞いてるか? 携帯のカメラを『創伯獣』に向けてくれ……他の奴は一瞬で良いから下がらせて?」
『え? ああ……そう言う事ですか……椎野さんらしいです……』
何か愛里から凄い呆れられた様な気がするけど、気のせいか?
『ツチノさん? 取り敢えず、合図お願いします』
「オッケー、行くぞ……?」
そして、俺達はカウントダウンを開始する。
「三」
俺がカウントを開始すると、画面の向こうでも指示が行き届いたらしく、一瞬だけ『創伯獣』の動きを止め、皆離脱を始める。
『二』
『一』
愛里とダリーが続けてカウントし、最後に小さく『せーの』とタイミングを合わせる。
『『どうぞ!』』
「どうも、私、この度サブラ殲滅作戦に参加しております、薬屋椎野です――」
俺は自分の生の視界と携帯の画面に映る『創伯獣』に向けて『名刺交換』を発動する――。
「『『チキ……チ……』』」
そして、画面と目の前の『創伯獣』の動きが止まる――。
「皆はん、今どす!」
目の前、そして画面の中で一斉攻撃が始まる。
やがて、攻撃の音が止む頃には『創伯獣』はサラサラとその姿を崩し、消えていった――。
「良し! 第二段階完了だ! 皆、沼を渡るぞ!」
部隊長の合図で俺達はボードを沼に浮かべ、沼の中央にある洞窟に向けて動き出した――。




