戦士の尊厳
続きです、よろしくお願い致します。
「んで? 前衛と後衛が決まったは良いんだけどよ……」
作戦会議二日目、前回の会議よりも皆、協力的な態度ではあるがそれでも問題はまだまだ山積みだ。
まず、作戦目標は当然サブラ部隊の殲滅、最低でもテイラからの追放、しかも国民への被害を最小限に抑えるという前提条件付き――。
会議参加者――と言うよりは『伯獣』と対峙し、追い払う事に成功したという冒険者の話によると、『伯獣』自体は通常の変異種よりも弱い気がするという……。
つまり、今テイラにいる冒険者でも数で押せばいけるんじゃないかと感じているらしいのだが、問題はサブラ達が拠点としている場所にあるらしい。
サブラ部隊の拠点は首都ヤラーレから馬車で半日ほど進んだ所にある湿地帯――イグロト沼と言う所のど真ん中の洞窟にあるのだが……。
「ねえ……湿地帯だとなんかマズイの?」
俺の隣に座る悠莉がコッソリと俺に尋ねてくる。
「それはな……俺が説明するまでも無い……後輩、頼む」
俺はグループ通話で会議の様子を聞いていた後輩に話を振る。
『先輩、分かんないなら、ちゃんとそう言って下さいよ?』
分からないんじゃない、まだ知らないだけだ! と、口パクで伝えると横のハオカが何か勘違いしたらしく、投げキッスで返して来る……これは、これとして受け取っておこう……。
『ふぅ……良いですか――?』
どうやら、その場所の状況にもよるが、湿地帯だと足をとられて思う様に動けない事が問題であるらしい、今回の場合敵の拠点が沼のど真ん中と言う事でどうしても避けられ無い様だ。
「あれ……? だったら、敵も同じ条件じゃないの?」
この質問には蝶の姿のままペタリューダが答えてくれた。
「サブラが率いる部隊はどいつもこいつもヌメッとして、沼とか湿った場所での戦いを得意としておりますの……籠城されたらこちらが不利ですわ」
「成程ね……」
『分かったらとっとと、会議に集中して下さい』
どうやら、会議ではその湿地戦の対策は後で考える事にしたらしく、今は部隊を四つに分け四方から敵の拠点を囲む事を説明しているみたいだ。
「……おじさま、少しよろしくて?」
会議を愛里の方で聞いていたペタリューダが俺の肩で呟き始めた。どうやら、助言したい事があるらしいのだが、ペタリューダの事はまだ冒険者や一般軍兵には公表されていないため、俺に代弁して欲しいそうだ。
俺は「分かった」と小さく呟き、手を上げる。
「少し、宜しいかし……良いか?」
ペタリューダの言葉を何も考えずそのまま伝言しようとしたら、両サイドから足をふんずけられた……。
「う、うむ……どうぞ、クスリヤ殿……」
「ああ、今の流れだと、敵の拠点に入るまでは何の問題も無いようになっているが――」
そして俺はペタリューダの言葉を伝える、ペタリューダが言うには恐らく、イグロト沼周囲は『創伯獣』が守備を固めているだろうと言う事、ペタリューダが抜ける前まで栗井博士達によって『創伯獣』の改造研究が進められていたらしく、恐らくサブラ部隊仕様の『創伯獣』が配備されているだろう、と言う事を伝える。
「と言う事ですの……事です」
痛いから! 踏まないで!
「おやっさん、協力者って信用出来る奴か?」
「ああ、バーレ王のお墨付きだ……」
その言葉で会議参加者に動揺がはしる……ああ、バーレ王のスキルって、この国じゃ周知(羞恥?)の事実なのね?
「な、ならよ? その『創伯獣』つったか? 弱点とかねえのかよ?」
その言葉を当然聞いていたペタリューダ、俺にボソボソと呟く――。
「ああ、頭を潰せば霧散しますわ……って当たり前じゃねえか!」
むしろ、頭を潰されて無事な奴とか……勝てる気がしねえよ!
「おやっさん……?」
「あ、ああ、すまん……とにかく、俺達も戦った事があるが、単体の戦力は通常の魔獣よりガッツリ強い位だ、『魔法使い』で部隊組んで一掃するのが良いかもな?」
「そうか……なら――」
どうやら、俺の意見は受け入れられた様で、イグロト沼にある程度近づき、『創伯獣』が確認できたら、『魔法使い』の部隊で全力攻撃し、『創伯獣』が有る程度削れたら中・近距離部隊が突撃しそのまま敵拠点に突入する方針に決まりそうだ。
さて、大方の方針も決まった所で、問題は『魔法使い』部隊による遠距離戦の後の湿地戦だ。
「正直、沼を進んでる所を襲われたら……終わりなんだよな?」
俺の呟きに会議参加者達が無言で頷く……。さて、どうしたものか。
「浮遊系スキルを持つ者に運んでもらってはどうだ?」
「いや、そんな希少スキル持ってる奴がどんだけいるんだよ!」
中々打開策が浮かばない……と言うか、浮遊系スキルか……そんなスキルもあるんだな?
「さて、どうすっかな?」
「どうすっかなー?」
俺が腕組して悩んでいると、頭の上の羽衣ちゃんも同じ様に腕を組んで悩む素振りを見せる……。
「父上……父上……」
すると、タテが俺のスーツの裾を引っ張って小さく手を上げている。
「はい、タテちゃん!」
羽衣ちゃんが会議の進行役の真似をしてタテを指差すと、タテは小さな声で発現する。
「父上と僕のフォーメーションで、何とかなりませんか?」
「フォーメーション……ボードか!」
成程……それなら、地面が沼だろうがなんだろうが関係ないか!
「タテ……流石、俺の子だ!」
「えへへ……」
俺はタテの頭をくしゃくしゃと撫でつつ、その事を会議で提案する。
「おやっさん殿……それは何名ほどいけますかな?」
議長の人……? さっきまで「クスリヤ殿」とか言ってなかったか?
まあいいさ……いつか、格好良い二つ名になってやる!
俺は、タテとのフォーメーションボードで同時に何名運べるか考える……。
「多分、うちのチームを除くと五人一組を四組って感じですかね?」
念のため、侵攻ルートは最初に決める必要がある、タテはまだ子供なので臨機応変なルート変更は難しい事も伝えておく。
「それでも有難いが、まだ足りんか……」
その時、会議室内に軽快な音楽が流れ始める――。
「ねえ、おじさん……この音って……」
「椎野さんの携帯からですね……」
『はあい、そんな皆様、ちょっとこちらを見て下さい!』
どうやら、グループ通話で話を聞いていた衛府博士が音源らしい、衛府博士はどこかの通販番組の様な口調でそのまま話し続ける。
『さあ、皆さんっ! 本日、ご紹介するのはそちらの――園児ちゃん、アレ、私が上げた奴……そうそう、それ!』
羽衣ちゃんが背中のリュックサックから取り出した物を衛府博士は高く掲げるように指示する。
『コホンッ……本日、ご紹介するのはそちらの『長い棒』! どうですか、長いでしょ? 何と言ってもこのダイナミックな――』
話を纏めると――。
衛府博士曰く、この『長い棒』を使えば、水――沼含む――を弾いて湖面に浮くことも出来るとの事。
「それは……本当ですか……?」
議長さん含めて、パシェノス達冒険者も、軍兵さんも皆食いつく様に画面越しの衛府博士を見つめている。
『ああ、勿論さ……この『長い棒』から作られる雨合羽はどんな水分だって完璧に弾いてしまうんだ!』
会議室に明るい喧騒が巻き起こる――。何だ、衛府博士……マッドなだけじゃないんだな……。
俺は人知れず感動していたが、その感動は次の衛府博士の発言で無かった事になる……。
『ただし、デザインは一貫して『魔法少女』風だけどね?』
衛府博士の言う、『魔法少女』が想像できないのか、会議参加者は皆、戸惑っている。
『園児ちゃん、見せたげて?』
「うん!」
そして、羽衣ちゃんは『長い棒』のスイッチを押す――。
すると、長い棒は三本に増えクルクルと羽衣ちゃんの周りを回り始めた。
次に、羽衣ちゃんの周囲の三本の棒はその回転速度を上げ、羽衣ちゃんに向かって紫色のビームの様な物を射出し、やがて「チーン」と言う音と共に眩い光を発生させた。
羽衣ちゃんがクルクルと回りながらビシッとポーズを取ると、その直後、着ていた服が白い光になって羽衣ちゃんの身体を白いシルエットで包み込んだ。
最終的に何かしらの効果音を出すと、羽衣ちゃんの格好がピンクを基調とした可愛らしいミニスカートの姿へと変化した――。
「どう、どう? うい、かっこいい?」
「……ダリー……」
「ツチノさん……バッチリ撮れました!」
俺はダリーに親指を立て、次に羽衣ちゃんに向かって告げる。
「羽衣ちゃん、最高にカッコイイぞ!」
羽衣ちゃんは「きゃあ」と言って照れていたが、満足してくれた様で、俺の頭に戻る。
「……さて……」
気が付くと、俺達以外の会議参加者達が皆立ち上がっていた……。
「皆、分かってるな……?」
「「「おうっ!」」」
会議参加者達が一斉に拳を握り締め――。
「「「さーいしょーは、グーッ!」」」
冒険者、軍兵による、壮絶なじゃんけん大会が始まり、会議終了後、性能確認のために試着を行った者達による、地獄絵図が展開された――。




