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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第六章:加護励起
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対サブラ会議

続きです、よろしくお願い致します。

 ――サブラ部隊討伐会議は、荒れに荒れていた……。


「だーかーらー! 何で、俺らが前線なんだよ! 俺達は、軍兵様の盾じゃあねえぞ!」


 テイラギルド所属の冒険者らしき青年が声を荒げて、テイラの軍――軍兵の偉い人に食って掛かっている。


「我々は君達冒険者と違って、強力な攻撃スキルを持つ者が少ないのだ! 君達が民の矛となり、我々が民の盾となる! それが自然な成り行きだろう……?」


 軍兵のお偉いさんが気まずそうに答える。それを聞いた冒険者の青年はなおも食って掛かる。


「だから、矛と盾って役割を考えてんなら、お前らと俺達が足並み揃えて、一緒に前に出んのが当然だろうが! 矛だけ前線に出したら無駄死にが増えんぞ!」


 さっきから「盾」って単語が出る度、うちの子(タテ)がソワソワ、チラチラしてる……自分が怒られてるみたいな気分なのかな?


 俺の腰にしがみつくタテの頭を軽く撫で、会議の様子を伺う。


「そもそもだっ! 何で変異種の軍団とかふざけたモンと戦争しようって時に……こんな子供連れのおっさんがいんだよ!」


 これ……俺達の事だよな?


 さて、客観的に俺達の様子を見てみよう――。


 まず、俺を先頭として両隣に悠莉とハオカ、俺の後方二列目に愛里とミッチーとサッチーとダリー。


 そして……愛里の肩には蝶姿のペタリューダ、愛里の頭には鳥姿のピトちゃん、俺の頭(指定席)に羽衣ちゃん、俺の腰の左側にタテ、反対側――俺と悠莉の間ではもも缶がクッキーを貪っている……。


 まあ、こりゃ怒られても仕様が無いな。


「どうするよ、皆……。俺達の事だよな?」


「いえ……旦那さん……」


「あの……ね?」


 ハオカと悠莉が何か言いたげだがゴニョゴニョしてて聞こえ辛い。


「おやっさん……多分、ツッコまれてんの、おやっさんだけッス……」


 ミッチーがそんな事を言い出した。


「え? 何で?」


「ツチノっち……オレが言うのも何だけどよ……頭に子供乗せてりゃ、そらナメられるっつう話だべ?」


「でも、それ言ったら愛里も同じじゃ?」


「椎野さん……私の場合、ペタちゃんもピトちゃんも魔獣形態ですから、その……猟犬を連れてるみたいなイメージなんですけど、椎野さん、スーツですから……」


 ああ、そうか……スーツ姿のどう見ても非戦闘職のおっさんが、子供三人をあやしながら、会議に参加……確かに納得いかんだろうな……。


 俺達が内輪でそんな会話をしているのが聞こえたのか、先程の青年が椅子を蹴飛ばし、俺達の前に立つ。


「おい、おっさん! 聞いてんのか?」


 ああ……成程、ダリーやウピールさんから聞いてた喧嘩っ早い冒険者に漸く出会ってしまった……出会いたくなかったけど。


 俺は『ポーカーフェイス』を発動させ、内心を悟られない様にする――悠莉……そのジト目は止めてくれ。


「もちろん、聞いていますよ? ただ、少し声を押さえてくれないかな? うちの子達が怯えているので……」


 青年は俺の言葉に一瞬「あ……」と気まずそうな表情を浮かべる。どうやら、そんなに悪い人ではないみたいだが……。


「そいつぁ、悪い事したけどよ……おっさん、非戦闘職だろ? 何で、こんな会議に出てんだよ? まさか、国の存亡がかかった作戦に経費だなんだとか言うつもりか?」


 ああ、成程……金に惜しみを付ける様な国の態度が気に入らないのか?


「いや、確かに私は非戦闘職ですが……私も戦力として数えて下さって問題無いですよ?」


 俺はにこやかに、青年に向けて握手を求める。しかし、青年は顔を真っ赤に染めて、その手を振り払う……。


「……?」


「おっさんも……国も……馬鹿にしてんのか! 俺達ゃ、今回の依頼で、命を掛けて国を……戦う術を持たない民を守るつもりだ! なのに……なのに、国はそんな守るべき人まで戦力として組み込みつもりか! そんなに、俺達の力に不安があんのかよ!」


 そうか、不機嫌の根っこにあるのはその辺か……。確かに、ここはヘームストラじゃないからな、誤解は解いておかないとな。


 すると、俺の頭(指定席)上の羽衣ちゃんが興奮し、俺の長い友を数名、ブチブチっと引き千切り、青年に投げつける――。


「おじちゃんはさいきょーなんだもん! どんなピンチだって、きっとおじちゃんが何とかしてくれるもん! おじちゃんはヒーローなんだもん! うい、知ってるもん!」


 ――羽衣ちゃん……せめて、他の物を投げて欲しかったけど……。


「ん……ありがとう、羽衣ちゃん」


 頭上から「うん!」と言う元気のいい返事が返って来る。俺は改めて青年を見据え、語り掛ける。


「確かに、私は非戦闘職だ……でもね? この子や、他にも守るべきものがある以上、ナニが相手でも……どんな手を使っても……俺は、負けないよ?」


 少しだけ、気合を入れて青年を睨み付ける――。


「――っ! 良いぜ……おっさん。そんなに言うなら、俺がテストしてやるよ……」


 ――そして……。


 俺達は軍兵の訓練場で睨み合っている。


「ルールの確認だ……どっちかが「参った」と言えばそれで終わりだ! シンプルで良いだろ?」


「それで良い……」


 青年の提案に、俺はゆっくりと頷き、そのまま軽く身体をほぐし、開始線に立つ。


「おい、おっさん……あんた、防具も何も着けないのかよ……そんな装備で大丈夫か?」


 ――『ポーカーフェイス』発動……観覧席でサッチーが吹き出しているが、気にしちゃ駄目だ。


「大丈夫だ……問題無い」


 頼む……サッチー、反応しないでくれ!


「……まあいい、後悔すんなよ?」


 ――そして、立会人の合図で試合が始まった。


「さっさとケリ付けてやんよ! 響け! 『轟雷』!」


 青年は背中から杖を取り出すと、そのままスキルを発動する――こいつ『魔法使い』かよ!


 青年から放たれた雷が閃光と共に轟音を鳴り響かせる――。訓練場に土煙が舞い上がり、その場にいる人達の視界を奪う。


「へ……先に言っときゃ良かったか? 俺は『魔法使い』だってよ」


 青年が勝ち誇ったように呟く、しかし『魔法使い』か……気のせいか、サッチーより威力が弱い気がするぞ? サッチー、魔法使いじゃ無くなった筈なのにな……。


 まあ、そんな事より……勝手に勝った気になられてもな?


「『リーマン流 畳返し』……」


 俺は反射を繰り返していた『轟雷』を青年の一歩前に向けて跳ね返す。


「な……手前ぇ……非戦闘職じゃなかったのかよ……?」


 額から汗をにじませ、青年が呟く。


「いや……非戦闘職だよ?」


 ――土煙が晴れ、俺と青年は互いの姿をはっきりと確認する。青年はどうやら、目の前の光景に息を呑んで見入っている様だ。


 そう……青年の眼前、俺の周囲には大量のギルドカードが浮かんでいる。


 やっぱり、物量は威嚇の基本だよな。青年だけじゃなく、テイラの軍兵さん達も驚いてくれている様だ。


「……んだ、そりゃあ……」


 青年は驚きつつも、杖を構え次のスキルを放とうとしている。


「これで終わりだ……」


 そして、俺は青年に向けて――。


「どうも、私、『サラリーマン』の椎野=薬屋と申します。以後、よろしくお願い致します」


 青年はスキルの発動態勢を崩し、背筋を伸ばし、その頭を下げる。


「あ、どうも……俺、冒険者で『魔法使い』のパシェノスです」


 そして、青年――パシェノスが頭を再び上げた時、勝負はついていた。


「……なんだこりゃ!」


 パシェノスの周囲は俺のギルドカードで埋め尽くされていた。


「『リーマン流 旋盤牢』……動かない方が良いぞ?」


 そう言うと俺は立会人の人にナイフを用意して貰い、パシェノスに見せつける様に『必殺仕様』のギルドカードでそのナイフを切断する。


 それを見ていたパシェノスは、緊張した様子で自らの周囲のギルドカードを見渡す。


 ――正直、風系のスキルで飛ばされたら俺がやばいんだが……頼むから気付くなよ?


「――ふぅ……分かった……俺の負けだ!」


 どうやら、素直に負けを認めてくれたみたいだ……。


「どうだ? 少なくとも足手まといにはならんと思うぜ?」


 俺はギルドカードを消し、パシェノスに手を差し伸べる。パシェノスは苦笑いを浮かべ――。


「アンタ……もしかして、ヘームストラの『おやっさん』か?」


 あ……その二つ名、ここまで広まってんの? と、思いつつ俺はコクリと頷く。


「あー、クソッ! 都市伝説だと思ってたのによ……勝負に負けて、仲間内での賭けにも負けちまったよ……」


「ああ、そりゃ、災難だったな?」


 俺の手を握ったパシェノスをそのまま引き起こし、改めて俺はパシェノスに握手を求める。


「アンタのせいでとんだ散財だぜ……責任取って、一緒にこの国を守ってくれよな……?」


 パシェノスは勢いよく俺の手を握り、そんな質問を俺に投げかける。


「まあ、会社命令には逆らえんし……全力で守るさ!」


 俺の答えを聞いたパシェノスは暫くポカンとしていたが、少しずつ笑い出し「よろしくな」と呟いた。


 ――こうして、その後の会議は参加メンバーがまるっきり変わったんじゃないかと思うほどにスムーズに進んだ。


 その結果、『コミス・シリオ サブラ部隊』を直接攻撃する前衛が、俺達『ファルマ・コピオス』を含めた冒険者達、民の避難や護衛を担当する後衛が、攻撃スキルを持たない冒険者を含めたテイラ軍兵と決まり、互いのフォローをしっかり行う事を各々の胸に誓い、会議は無事終了した。

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