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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第五章:秘密結社
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サラリーマンの名刺に制限はない

続きです、よろしくお願い致します。

 周囲に草しか見えない――。


 俺は皆と引き離されて今、二人の『伯獣』と対峙している……。


 緑の身体に腰から二つの鎌をぶら下げた『伯獣』――リュージー。


 そして、薄茶色の身体に甲高い声の『伯獣』――カンクーロ。


 先程カンクーロは「借りを返しに来た」と言った……つまり、どっちだ? 『塗り壁』やら『彦星』で小馬鹿にした事か、それともその腕を一本切り落とした事か……?


 ――多分両方か……。


 俺はリュージーの顔、カンクーロの顔を順番に見渡して大きくため息を吐く。カンクーロはそれを、俺が絶望したと考えたのか、気を良くした様でニヤニヤとしている。


「どっしたぁ? 流石に二対一だと諦めモードかぁ? 大丈夫だってぇ! アンタならやれるぅってぇ! さあ、かかってこいよぉ?」


 さて、どうするか……? 二人は俺の様子を探っているのかその場から動かず、ジッとしている。取り敢えず、足元に『札落とし』かな……。


 カンクーロは俺の『彦星』にやられた記憶を思い出しているのか、失った腕側の肩を掴み俺の事をずっと睨んで警戒している様だ……期待には応えなきゃな?


 後はいつも通り、『塗り壁』をあちこちに配置する。


「おい……どっしたよぉ? ダンマリか?」


 後は……あれ? 何か呼ばれてる?


「ん? 呼んだか?」


「あぁん? てっめぇ……どこまでも馬鹿にしゃがって……」


「まあ、待ってくれ。ちょっと一服させてくれよ……?」


 俺は胸ポケットのケースから煙草を一本取り出し、カンクーロに見せつける。


「ふざけてんのか……?」


 こめかみを震わせて一歩踏み出したカンクーロをリュージーがその手で止める。


「待てよ……どうせ最後だぜ? 旅立ちの一服位させてやろうぜ?」


「でっもよぉ………………チッ! 一本だけだぞ!」


 ありゃ? 意外……許可されちゃったよ。


「悪いな?」


 そして、俺は取り出していた一本に火をつける……。


 さて、と……これで五分は稼げるかな……?


 今のうちに――どうやって逃げるか考えよう……。


 いや正直な話、どちらか一人ならまだ何とかなったかもなあ、とか思うんだけど……流石に二人は無理っぽい!


 必殺の『彦星』も警戒されてるだろうし、ただの『必殺仕様』だと滑った時が怖いし……。


 ――良し、取り敢えず考えられるケースを考えられるだけ考えてトラップをふんだんに仕掛けておこう! 後はなるようになれ、だ。


「……待たせたな?」


 俺はゆっくりと……なるべくゆっくりと立ち上がり時間を稼ぐ。逃げる準備も、皆が駆けつけてくれる可能性も捨てちゃ駄目だよな?


「やっとやる気ぃになりやがったか……」


 カンクーロがニヤリと笑う。


 さて、一応やれる事はやらなきゃな……。


「ところで……二人供諦めて帰る気はないか?」


「あん?」


「お前さん……何言ってんだ?」


 二人は訝しげに俺の顔を見る。


「何……今、俺の仲間もいないからさ? 退くなら今のうちだぜ?」


 俺が優しく告げると、二人は暫くポカンとしていたが――。


「ぷっ……!」


「アハハハハ! お前さん、馬鹿か? 自分が不利だから見逃してとか……俺達が素直に頷くとか思ってんのか?」


 やっぱり、そう思うよなあ……。交渉決裂、と。


「ああ……あんまり、馬っ鹿にすんなぁ?」


 ピタリと笑う事をやめ、カンクーロは俺を睨み付ける。そして、次の瞬間、地面を勢いよく蹴った。


「――蹴り殺してやるっ!」


 来た……ここが……勝負どころだ!


「来い……」


 俺は『ポーカーフェイス』を発動し、カンクーロに恐怖を悟られない様に睨み付ける。


「フン……お前のあのスキルは……見切ってんだよ!」


 カンクーロは俺の目の前まで迫り、次の瞬間、姿を消す。


「――っ!」


 やっぱり、正面からは来ないか。『塗り壁』用意してたのに……。しかも、『札落とし』も踏んでないし。


 ――だけど……。


「ふん、この位の蹴りでもお前は動けなくなるだろ?」


 いつの間にか俺の真横に移動していたカンクーロは横薙ぎの蹴りを俺に向かって放つ。


「吹き飛べ――」


 そのまま、蹴りを喰らえば、俺はカンクーロの宣言通り、吹き飛ばされ、その後は動けなくなっていただろう……。


 ――但し……。


「そこに……足があればな?」


「――っ! な、あ、足が……俺の……俺の足がァァァァァァァァァ!」


 カンクーロは遅れてきた痛みに足の切り口を押さえながら大声で叫んでいる。


 ――危ねえ! ひ、『必殺仕様』仕掛けてて良かった……! どうやら、この方法なら安定して配置出来るみたいだな……。


「どうした? 俺を蹴って……動けなくするんじゃなかったのか?」


 ――『ポーカーフェイス』!


「て、てっめぇ……」


「じゃあな……『リーマン流 旋盤牢』」


「な……」


 今、カンクーロの足を斬り落とした事で確信し、完成に至った俺のギルドカード『必殺仕様』の新技――『旋盤牢』……高速回転させた『必殺仕様』のギルドカードで対象を包囲し、切り刻む。


「ち、チックしょぉぉぉ……!」


 ……まず一人。


「お前は……来ないのか?」


 カンクーロの動きを封じた俺はそのままリュージーを睨み付け、なるべくからかう様に尋ねる――嘘です……出来れば来ないで下さい。『ポーカーフェイス』! 『ポーカーフェイス』ゥゥ!


「へっ……さっきから、何かスキルを発動してんのは分かってんだぜ?」


 ――っ! マズイ……はったりがばれてる?


「準備万端でカウンターの用意してる様な相手に……馬鹿正直に突っ込んでたまるかよ。カンクーロ……それがわかんねえから、お前さんは今、その体たらくなんだぜ?」


「グゥ……」


 極限状態まで追い込まれたカンクーロはどうやら、人型を維持できなくなった様で、恐らく元の魔獣――カンガルーっぽい――の姿に戻り、先ほどから唸っている。


 それにしても、どうやらリュージーさん、俺の『ポーカーフェイス』を何か別のスキルと勘違いしてくれてるっぽい。しかし、悠莉と言い、リュージーと言い、『ポーカーフェイス』の発動を察知できるって、どんなスキルだ?


「おいおい……連れないなあ……来ないなら、こっちから行くぜ?」


 俺は大きく一歩踏み出し、リュージーに向かって行く。


「…………」


 どうやら、さっきのカンクーロとのやり取りで警戒してくれた様で、リュージーは俺が一歩踏み出すと、同じ位後ずさる。


「このまま睨み合いでも、俺は構わないんだがな? 手っ取り早くいかせて貰うぜ?」


 もう、ドキドキ……。出来れば、カンクーロを連れて退散して欲しい。


「確かに……そうだ、なっ!」


 あ、やべ、ぼうっとしてた!


 リュージーは腰の鎌を手に持ち替えると、そのまま真っ直ぐ、俺に向かって突き進んでくれる。


 そう、つまりは……。


 ――ツルッ!


「なぁ!」


 俺の仕掛けた『札落とし』の格好の餌食だな?


「勝負あり、だな?」


 すかさず俺は『旋盤牢』でリュージーの手足を切り刻む。


「がァァァァァァァァ!」


 そのまま、リュージーは動かなくなってしまった。


「……死んで、ないよな?」


 恐る恐る、近づいてみると……。


「――隙アリだぜ? 『ハリガネ』!」


 死んだ振りをしていたのか、リュージーがスキルを発動させる。


 リュージーがスキルを発動させると、その緑の身体の中から黒い針金の様な魔獣が飛び出し『旋盤牢』の包囲をすり抜けてしまった。


「ホォラ……」


 包囲を潜り抜けた黒い針金は、そのまま滑る様に俺の傍まで来ると、その黒くて太く長い身体で俺を弾き飛ばした。


「がっ!」


「ふぅ、油断大敵って奴だぜ?」


 ――コイツ、姿を別物に変えられるのかよ!


 リュージーはうねうねとその身をよじらせながら、こちらに近付いて来る。


「形勢逆転だぜ?」


 そう告げると、リュージーは再びその身体を鞭の様にしならせ、俺を狙ってきた、そして――。


 ――ゴゴゴゴゴゴリンッ!


 リュージーの身体は、俺の顔面から十センチほど手前で止まっていた。


「何だ……防御……した?」


「ふぅ……」


 そして、俺は戸惑うリュージーをよそに、煙草を取り出し、火をつける。


「やっぱ……最後は『塗り壁』だよな……?」


 そのまま、俺の顔面手前に配置してあった『塗り壁』のギルドカードを手に取り、そのままリュージーの身体にサクッと突き刺す。


「今度こそ俺は行くぜ? 生きてたら、また会おう!」


 そして、俺はリュージーに背を向け一気に走り出す。ここで追いつかれたら、俺もやばい!


「な? あ? 逃げた……? 待つんだぜ!」


 後ろからリュージーの這いずる音が聞こえてくるが、多分、遅いな……。


 ――ヒュンッ! ヒュヒュンッ!


 何かが風を切る音が聞こえ……。


「な……あ、ぎゃ、ぎゃああああああああああ!」


「あれ……絶対、羽衣ちゃんとかには見せらんねえよな……」


 そう考えると、引き離されて良かった……のか? 意外と何とかなるもんだな。


 リュージーの叫び声を背中に聞きながら、俺は振り返らず逃げ抜けて行った。

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