ガールズ・アクト
続きです、よろしくお願い致します。
「うふふふふ……」
ペタリューダが宙をひらりと舞い、その翅から鱗粉をまき散らす――。
「くっ……『聖壁』!」
舞い散る鱗粉がダリーの『聖壁』とぶつかり合い、爆ぜ、辺り一面を焼き焦がす。
既にダリーの『聖壁』で護られていない場所は地面が抉れ、木々が燃え、数時間前の面影を残していない。
「ほうら……まだまだ終わりませんよ? いつまで耐えられますのかしら?」
一通りの鱗粉が爆発し終わると、再びペタリューダが鱗粉をばら撒く――。
「確かに、このままでは……」
「愛里はん、次の爆発の後、うちが出ますえ。強化よろしゅう」
「はい、分かりました」
そして再び、五人の上空で閃光と爆音が展開される。
「――今っ!」
「はいっ! 『パゥワ』!」
ハオカの身体をエメラルドグリーンの光が包み込む。
「行きますえ……『絢爛舞踏』!」
ハオカは力強く地面を蹴ると、そのまま舞い踊る様に空を蹴り、ペタリューダに接近する。
「あら……? 空を飛べたんですの?」
「旦那さんに、『軽いおなご』と思われへん様に気を付けとったんどす! 『祭囃子』!」
ハオカがトトンカッとバチを宙で振るうと、そのリズムに合わせる様に三本の朱雷がペタリューダに向かって走る――。
「――クッ! 痺れますわぁ……」
ペタリューダは咄嗟に身を捻り、朱雷を交わそうとするが三本の内の一本がその足を奪い去る。
ペタリューダは奪われた足に目をくれる事も無く、ハオカに向けて鱗粉をばら撒く。
「ハオカッ! 『聖壁』!」
「ぅあん!」
ダリーが咄嗟にハオカとペタリューダの間に壁を作り、直撃からハオカを守るがその爆風まで防ぐことが出来ず、ハオカが吹き飛ばされてしまう。
「あら惜しい」
「はあ、はあ……何とか、地面に下ろさないと……」
「うふふふふ……出来ますか? あら……?」
ダリーを見下ろすペタリューダがふと眼下に移る人の数が足りないことに気付く。
「うんにゃぁ! 『二等星』!」
「――ぐぁっ!」
背後から悠莉がペタリューダに向けて頭突きを放つ。
突然の衝撃に、ペタリューダの視界が霞み、その高度を下げる。
「な、なんて、お下品な……!」
頭を左右に振り、ペタリューダは悠莉を睨み付ける。
「あら……ごめんあそばせ?」
悠莉はそんなペタリューダに向けて、ぺろりと舌を出し、挑発する。
「――なっ! 馬鹿にしてるんですの……?」
顔を真っ赤にしたペタリューダは悠莉に向けて鱗粉を放つ、そして当然の如く、それをダリーの壁が阻む――。
「ハオカ! 悠莉ちゃん! そろそろ決めましょう!」
ダリーの言葉に二人はコクリと頷く。
そして、愛里の傍まで来ると、強化スキルを掛けなおす様にお願いする。
「二人供、気を付けてね……『パゥワ』!」
「ほな、うちから行きますえ……」
「あたしもすぐ行くから……お願い!」
そして、ハオカは再び宙を舞う。
ペタリューダは迫るハオカを見据えると、ニヤリと笑い――。
「あら……? また貴女ですか……あたくしとのダンスが気に入ったんですの……?」
「ええ……羽虫がうっとおしいさかい焼き払わなくてはね?」
舌戦はハオカに軍配が上がり、ペタリューダはその顔を真っ赤にして叫ぶ――。
「この……アバズレがぁ!」
「そないに怒ったら、綺麗な顔がわやどすぇ? 『大太鼓』!」
ペタリューダがハオカに向かって、その拳を振り上げると同時にハオカは両手のバチを揃えて大気に叩き付ける――。
「ちっ!」
轟音と共に迫る朱雷をペタリューダは慌てて後ろに下がり、避けようとする――が。
「――何ですの……? 壁……?」
背中に何かがぶつかり、それ以上下がる事が出来なかった。
「ふぅ……間に合いましたね」
ペタリューダが声の主を見ると、ダリーがその手をかざし『聖壁』を発動させているであろう事が分かる。
「――まさか……あたくしを?」
「ええ、『聖壁』で囲ませて頂きました」
ダリーはペタリューダに向け、ウィンクを贈る。
その直後、ハオカの放った朱雷が逃げ場を失ったペタリューダに直撃する――。
「きゃぁぁぁ!」
そして、ペタリューダはその身からプスプスと煙を上げながら地面に墜落する。
「クッ……でも、この程度……」
「いえ、終わりですよ……」
未だ戦意を保ち続けるペタリューダに、愛里が優しく囁きかける。
「な、にを……」
戸惑うペタリューダに愛里は無言で、人差し指を上空に向ける事で言葉の意味を伝える。
「そう……これで……終わりよ。『ミーティア・ストライク』!」
ペタリューダが愛里の指先を追い掛けると、そこにはピンクゴールドの輝きを纏った悠莉が彗星の如く迫っていた――。
「あ、あ、あああ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
悠莉の蹴りはペタリューダの腹部に当たり、そのまま地面に半径一メートル程のクレーターを作り出した。
「ふぅ……おじさんがいないから『必殺』ってほどでもないけど……十分ね」
クレーターからよじ登って来た悠莉は、白目を剥き、クレータの中心で仰向けに転がっているペタリューダを見て呟くと、そのまま地面にへたり込む。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「う……あ……? あたくしは……?」
ペタリューダが目を覚ますと、その身は鎖で縛られ、地面に転がされていた。
「あ、気が付きましたか……?」
愛里がペタリューダに声を掛け、その額に手を当てる。
「うん、どうやら熱は無いみたいだけど……念のため、『ヤッセ』」
ペタリューダの身体をエメラルドグリーンの光が包み込む。
「……どうして、あたくしを助けたんですの……?」
ペタリューダは「わけが分からないよ」と言う表情を浮かべ、愛里の事を見つめている。
「どうしてって言われても……貴女に聞きたい事があるし……それに……」
「それに……?」
「何より、こんな可愛らしい女の子を殺せとか……私も、ダリーも、悠莉ちゃんも、ハオカさんも……出来なかったしね?」
「……可愛らしい……」
愛里の言葉に、ペタリューダは頬を染め、聞き入っている。
「ねえちゃ、準備できたよ?」
「あ、ピトちゃん、ごめんね? 無理なこと頼んじゃって」
「ううん、この子も私と同じだし」
そう言うと、ピトは手に持ったナイフで自分の手の甲を薄く切ると、小瓶にその血の一滴を垂らし、愛里に差し出す。
「……それは、何ですの?」
「うん、ピトちゃんの血……ちょっとした毒があって、貴女の中にある栗井博士が埋め込んだものを排除してくれる……と思う」
愛里はその後に「私を信じて……飲んでくれないかな?」と告げる。
ペタリューダは、暫く目を瞑り沈黙していたが、やがて小さく頷き、小瓶に入った血を飲み干す――。
「――グゥ……あぁっ! ん……はぁ……!」
直後、ペタリューダは頭を押さえて苦しみだす。
「ピトちゃんっ! 押さえるの、手伝って!」
「う、うん!」
苦しみ、もがくペタリューダの身体を二人がかりで押さえつける。
「頑張って! 『ヤッセ』……『ヤッセ』……お願い……この子を助けて……椎野さん……『ヤッセ』!」
愛里は何度も何度も、ペタリューダの身体を癒すためにスキルをかけ続ける。
「これで、何とか……『ヤッセ』ェッ!」
――一際強い輝きがペタリューダの身体を包み込む……。
「はぁ……はぁ……」
光が収まると、そこには静かに寝息を立てるペタリューダの姿が有った。
「ねえちゃ、凄い……欠損まで……」
ピトの言葉の通り、失われたはずのペタリューダの足はその形を取り戻し、元の姿を取り戻していた。
「驚きました……」
「あ、ダリー、お疲れ様……悠莉ちゃんは?」
「筋肉痛に苦しんでいますよ。今はハオカが弱い電気を流しながら診てます」
愛里に近付くとダリーは「どうぞ」と言って水を差し出して来る。
「欠損修復可能な『治癒師』は中々いないんですよ?」
「うん……自分でも驚いてる」
愛里はクスリと笑って答える。
「う、ううん……」
「あ、起きた……?」
ペタリューダはノタリと起き上がると、ぼぉっと、ダリーの顔、ピトの顔、愛里の顔、そして自分の身体を見る。
「あ……あたくしの身体……足が、それに、頭がスッキリと……」
「うん、良かった……」
どうやら、ペタリューダの身体の中の『創獣の欠片』は無事消滅した様で愛里とダリー、ピトはホッと胸を撫で下ろす。
「さて、早速で悪いのですが……栗井博士達の所在等、知ってる事を教えて貰えますか?」
ダリーの言葉に、ペタリューダはどうしたものかと、愛里の顔色を伺う。
「お願いします」
愛里はペタリューダに向けて、静かに頭を下げる。すると、ペタリューダは途端に目を輝かせ始めた。
「……お姉様の為なら喜んで!」
「「え……?」」
息を荒くし、さり気なく愛里に近寄ろうとするペタリューダに、愛里もダリーも寒気を覚え、後ずさる――。
「えっと、じゃあ――」
戸惑う愛里からの、助けを求める視線から目を逸らし、ダリーはペタリューダに一つ一つ、質問を重ねていく――。




