分断 BUNDAN
続きです、よろしくお願い致します。
俺達はワナンカで一晩を過ごし、翌日、無事に国境を越えることが出来た。
「待ってろよ……次こそは……」
俺は遠くなっていくワナンカを見つめながら、再戦を誓う。
ワナンカから、テイラ首都までは順調に行けば日暮れ頃には着くとの事らしい。
「で……? テイラってどんな国なの?」
俺達は暇つぶしを兼ねて、ダリーにこれから行くテイラ国のレクチャーを受けている。
「ん……そうですね、まず、ヘームストラは基本的にはラッセ……鉱石の産地として知られています」
何気に気付いてはいたが、やはりヘームストラは鉱山資源の豊かな国らしい。特に、ギルドカードの素材に関しては百パーセントのシェアを誇るらしい。
「――一方、テイラ国はスキル大国と言われています。スキル発祥の地だとか、全てのスキルが集まる地だとか諸説ありますが、現在はスキルの開発、指南書作成に関しては他国の追随を許さないって感じですね」
その後もダリーからテイラの観光名所を教えて貰ったが、ワナンカでもそうである様に、どうやらテイラ周辺には火山が多く温泉があちこちで確認されているらしい。
「旦那さん、次は一緒に入りまひょか?」
「――そうだな……お願いしようか?」
少し考えた後、そう答えてみる。どっかで水着でも探してみるか……。
とか考えてたら――。
「――っ! ふぇ……あの……よろしゅうお頼申します」
うん……円周率を思い出しておこう……『妻子異国に婿サンコン……』……オッケー、俺は冷静だ。
やがて、馬車はテイラとワナンカの中間地点に差し掛かる。
「おじちゃん、ひまー……」
馬車内ではいつも暇つぶしに困ってしまう……。
羽衣ちゃんもさっきまで、俺のすね毛でアリを作ってダラダラしていたが、流石に片足分もアリを量産すれば飽きてしまった様で、今は俺の頭でダラダラしている。
――その時だった。
突然、馬車が大きく揺れ、その動きを止めた。
「おぁっ! どうした、ミッチー!」
「おやっさん! 皆を起こしてください! 敵ッス!」
慌てて皆を起こし、羽衣ちゃんとタテに馬車内で待つように伝える。
馬車から出ると、四つの影が宙に浮かんでいた。
「……『伯獣』か」
俺の呟きに反応し、緑の身体の『伯獣』がニタリと笑う。
「話が早いぜ……俺はリュージー!」
「あたくしは、ペタリューダ!」
「儂、エルガゾミノスじゃ」
「……ズィズィキィ……」
四匹が名乗りを上げるとすぐに、ペタリューダと名乗った『伯獣』が背中の翅から鱗粉の様な物をばら撒き始めた。
「――っ! 皆、気を付けろ!」
すると、鱗粉が光り出し、俺達の目を晦ませる。
――不味い……。
そう感じた直後、俺の身体は浮遊感に包まれる。なんだ?
「到着だぜ!」
俺が視界を取り戻すのと、地面に投げ捨てられるのはほぼ同時の事だった。どうやら、俺は目の間にいるリュージーに連れられて、皆と引き離されてしまったらしい。
それにしても――。
「目が眩んでる間にやりゃ、さっさと終わったろうに……」
「いや、お前さんとやりたいっつう奴がいてな?」
リュージーの後ろから、片腕の無い『伯獣』――カンクーロが姿を現す。
カンクーロは俺と目が合うと、奥歯を噛みしめながらも笑みを浮かべた。
「よぉ、借りを返しに来たぜぇ?」
「――カンクーロ……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
椎野がリュージーに攫われた直後――。
悠莉、愛里、ハオカ、ダリー、ピトの五人はペタリューダとそのまま対峙していた。
「――馬車……他の皆はどうしたの……?」
馬車が有ったはずの地面を一瞥すると、目の前にいる『伯獣』に向かって悠莉が静かに問い掛ける。
「あたくしは男性と遊ぶ趣味はありませんので一緒にどっかに行って貰いました……女性同士、仲良くやりましょ?」
ペタリューダは人差し指を唇に当て、クスクスと笑う。
「うちは、そないなつもりも、そないな時間もあらへんのやけどね?」
ハオカは両腰から取り出したバチをその手の中でクルッと一回転させ、戦闘態勢を取る。
「丁度良いわ……野郎どももいないし……」
悠莉は下着姿になるとそのまま『銅龍の系譜』を発動させ、ピンクゴールドの羽衣を纏う。
「ふむ……私も早く、サチのカバーに向かいませんと」
ダリーはヘタレたサッチーを思い浮かべ、ウットリしながら、剣をペタリューダに向ける。
「皆さん……いきます! 『パゥワ』!」
「ピュイ!」
肩にピトを乗せた愛里が淡いエメラルドグリーンの光で包み込むと、ハオカ、悠莉、ダリーが一斉にペタリューダに飛びかかる。
「うーにゃっ! 『一等星』!」
悠莉が横薙ぎの蹴りを放つと、ペタリューダが上空に浮かび上がり、ひらりと交わす。
「そこぉ! 『大太鼓』!」
ハオカの朱雷が宙に浮いたペタリューダに向かう。
「うふふふふ……素直な攻撃ですね?」
続けてひらりと交わすと、ペタリューダは翅をはばたかせ、鱗粉をばら撒く。
「――っ! 皆さん、後ろへ! 『聖壁』!」
鱗粉はダリーの『聖壁』に触れると次々に乾いた音と共に爆発を引き起こす。
「こら、厄介な……」
「うふふふふ……さあ、もっと遊びましょう?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――一方、サッチー、ミッチーは馬車ごと運び出されていた。
「……去ね……」
サッチー達の目の前でボーっと立っていたズィズィキィはサッチー達に向けていきなり臀部を向けるとそこから透明なビームの様な物を射出する。
「うぉっ! いきなりかよ!」
「任せるッス!」
ミッチーが剣でズィズィキィの攻撃を防ぐと、すかさずサッチーがスキルを発動させる。
「凍えろ! 『滴水成氷』!」
ズィズィキィに向かって、氷雪が吹き荒れる――。
「……いやん……」
翅をはばたかせズィズィキィは上空に避難する。
「隙ありッス! 『イバラ』ぁ!」
「……『ハウリング』……」
ズィズィキィはミッチーの攻撃を避けると、スキルを発動し「ミョワンミョワン」と音を発生させる。
「おぁ……耳が……」
「ミッチー! くそ、響け! 『轟雷』!」
咄嗟にサッチーが雷のスキルを発動させるが、ズィズィキィはそれもひらりと交わす。
ミッチーは地面に崩れ落ち、フラフラとしている。そこに、ズィズィキィが上空から、ミッチーに向けて臀部を向ける――。
「……くたばれ……」
ズィズィキィの臀部から透明なビームがミッチーに向けて、射出される。
「ミッチさん! 『風壁』!」
透明なビームが風の壁によって弾かれ、霧散する。
「――ぅ……何だ? 耳鳴りが止まった……?」
ミッチーが立ち上がると、そこに、馬車から飛び出して来たタテが駆け寄る。
「僕も戦います!」
「タテ……頼むっス!」
「うっし……野郎共! 行くべ!」
「みんな、がんばれー!」
羽衣の応援に三人は頷き、ズィズィキィと対峙する。
「……殲滅……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふぉふぉ……嬢ちゃん、運がないのう?」
手の中に持った槍をクルクルと回しながら、エルガゾミノスはもも缶に声を掛ける。
もも缶は、そんなエルガゾミノスをボーっと見つめながら、一言――。
「――不味そう……お前、出来損ないか?」
そう漏らす――。
「ふぉっ! 何とも……未熟は罪じゃのう」
そして、エルガゾミノスは槍を頭上高く掲げ、叫ぶ。
「喰らうが良い! 我が必殺の毒……『天――」
――キュポンッ!
「――ぬ……? 儂の槍が……?」
「やはり、不味い」
もも缶の手にはナイフとフォークがセットで握られている。
「な……! どこから……?」
「もも缶、腹ペコ……馬車でおやつ、貰う」
もも缶の意識は既にエルガゾミノスに無く、馬車に残して来た牛魔獣の肉で作ったジャーキーに向いている。
戸惑うエルガゾミノスはそれでも、もも缶を逃がすはずも無く、大きく飛び上がり、その臀部から槍を取り出す――。
「武器が一つだけだとでも思うたか! 喰らえ! 我が必殺の――」
――キュポンッ!
気の抜けるような音と共に、エルガゾミノスはもも缶の姿を見失う――。
「腹ペコだから、さっさと済ませる」
そう告げると、もも缶の纏う空気に変化が訪れる――。
「な、な……お前、一体……?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――ィヤァァァ……。
「――ハァ、ハァ……ん? 可笑しいですね? エルガゾミノスの気配が……?」
悠莉達と一進一退の攻防を繰り広げながら、ペタリューダは仲間の気配が消えるのを感じていた。
「これは、どうやら……遊びはそろそろお仕舞いでしょうか?」
ペタリューダが足元を睨み付ける。
「そら、うちらとしても願ったりかなったりどすなぁ。決着を付けまひょか?」
そして……女の争いがその幕を下ろし始める――。




