悪魔のプレゼント
続きです、よろしくお願い致します。
「ヴァァァ……」
コンティノ村に無事帰り付いた俺達は、疲れた体を癒す間もなく大量の食糧を購入し、馬車でテイラへの道を急いでいた。
「ん、と……よいしょ……」
俺はカンクーロに蹴られて吹き飛ばされた時、盛大に腰を打ってしまったため、現在、馬車に敷き詰められた布団にうつ伏せで寝転がっている。
「おじちゃん、痛くなーい?」
「いや、もうちょっと強く踏んでも大丈夫……ヴァアァ……」
取り敢えず、交代で踏んで貰っているが、羽衣ちゃんだとちょっと重しが足りない……。
「ん、ありがとう、羽衣ちゃんもう良いよ」
「うん!」
そして、俺は例の如く後輩に電話を掛ける……。
『はい……って先輩ですか、お疲れ様です。何か用ですか?』
「えぇ、何か冷たくない?」
『いえ、ちょっと仕事がたまってイライラしてるんですよ! 先輩、メール越しでも良いですから資料作成手伝って下さいよ!』
「あっはっは……手伝いたいのはやまやまだが、ちょっと戦いで怪我を負ってしまってな……」
俺は画面に向かって咳き込むフリをしてみる。
『……えっ! だ、大丈夫なの?』
てっきり、バレバレの演技に乗ってくれると思ったんだが、予想外の反応……。いかん、これバレたら不味いかも……。
「ま、まあ、愛里のお蔭でな? 取り敢えず今は寝転んで、静養中」
只の腰痛とは言えない……。
ああ、悠莉と愛里の目が冷たい。俺は目で合図を送り、黙っててくれる様にお願いする。
『はあ……あんまり心配かけないで下さいね?』
「お、おう、気を付ける! それとだな――」
多少強引に話を変え、俺はコンティノ村付近で狩れる牛の魔獣が非常に美味である事を知らせておく。
それを聞いた後輩は「良いなぁ、ボクも食べたい……」と呟きながら、地球に渡ったヘームストラの研究チームと一緒に、牛魔獣の飼育プランを立てておくと言っていた。
「飼育プランは良いんだが、輸入ルートとか目途が付いたのか?」
確かに、定期的に月が近付いて来るなら物品のやり取りは出来るだろうが、それだとちょっとなぁ……。
『あ、それなんですけどね? 先輩にお願いしたい事があります!』
「……何か、やな予感がするんだけど?」
『取り敢えず、社長からのメッセージを例の如くメールで送りますので、後はそちらを確認して下さいね?』
やっぱりか……。
「えぇ……気が進まない……」
『我慢して下さい。それと、牛の魔獣って商品にするとしたら商品名どうしましょう?』
「そんなん、『コンティノ牛』か、地名ぼかして『……牛』とかで良いじゃないの?」
『……先輩、そんな怪しい商品、誰が買うんですか……』
「大丈夫だって! 『百パーセント、安心、安全』って書いときゃ誰か買うって! 味は保証付きだし、滅多に出回らないだろうから、希少価値も付くって!」
『はあ……もう良いです! もう切ります……あんまり怪我しちゃ駄目だよ?』
そして、後輩が通話を終了させると同時に俺はメール受信を確認してみる。
――お、来た来た……。
「ってまた動画かよ!」
あの社長……直接言えばいいのに……このやり取り、気に入ったのか……?
動画を再生する前に、俺は皆に声を掛ける。
「何か、うちの社長からまた依頼が来たっぽいんだけど、誰か他に見たい人いる?」
すると、ハオカ、愛里、悠莉、サッチー、もも缶が手を上げる。因みに、ミッチーはどちらにしても手伝うつもりで、ダリーはちょっと具合が悪く俺と同様に寝込んでいるらしい。羽衣ちゃん、ピトちゃん、タテはそんなダリーを看病しているみたいだ。
「旦那さんへの依頼なら、うちも手伝いますぇ?」
「依頼はどちらにしても、お手伝いしますけど内容は先に知っておきたいです」
「あ、あたし、社長さんのメール好きなんだ!」
どうやら、愛里と悠莉は社長の悪ふざけが好きらしい……。
「オレももちろん、手伝うし?」
「もも缶、美味しい物があれば良いと思う」
サッチーも結構乗り気だし、もも缶は意味が分かって無いっぽいけど、今回の依頼は割と楽にこなせそうだな……。
そして俺は動画を再生させる――。
『ザザッ――お早う、薬屋君――』
動画に映る社長は相変わらず、黒いカーテンを被っている……。あれ? 気のせいか、カーテンに若干、光沢が……。
『君の事だから気付いたかもしれないが、お陰様でカーテンとか社内の備品を買い替えできました! 業績アップです……オホン! 早速、今回の君への社命だが……ずばり、栗井博士の捕縛と、ある人材の捜索だ。まず一つ目なんだが――』
――社長の話によると……。
一つ目の栗井博士の捕縛に関しては、まあ、当たり前だよな……どうやら、こちらでの栗井博士のやらかした事を地球で大っぴらにする事は出来ない――栗井博士が政府のお偉いさんの推薦した人物だとかで、こちらの世界の公表前に別件をでっち上げて逮捕するらしい。
二つ目の人材捜索、これに関しては先程後輩との電話でも話題に上がった様に、こちらと地球間のルート確保に関連するらしい。
どうやら、衛府博士のスキル発動時のルーレットに『転送』と言う文字があり、一度それが当たったらしい。これが、六畳のトランクルームが埋まる量の荷物を、うちの会社の倉庫に送れてしまったらしく――。
そこで、政府もうちの会社の連中も考えた――あれ? これ輸送機代わりになるんじゃないの、と。
しかし、この『転送』という目は中々当たる確率が低いらしく、その時の一回以降は外れっぱなしらしい。
そして、うちの社長がまた余計な事を――。
『スロットならスロッターでも探して、『目押し』って奴を教えて貰えば良いんじゃないの?』
この言葉にお偉いさん方は「良いね、それ」と納得し、うちの会社の連中は「じゃあ、あとは椎野さんに任せよう!」となったらしい……。
『――と言う事で、君には『目押し』のスキルを持った人とか、何か『ギャンブラー』っぽいジョブの人とかイイ感じの人を探して欲しい。尚、このメッセージは今回から衛府博士の協力により、自動的に消滅する様になりました! ちゃんと内容覚えた? 以上、成功を祈る』
――ブツッ……。
「いや……『目押し』って……」
――衛府博士のスキルのスロットがフラグ式だったらどうすんのさ……。
「あ、おじさん、何かメールが消えていくよ?」
「え、あ、本当だ。衛府博士、色々暗躍してんなぁ……」
――この時の俺は気付いていなかった。衛府博士が寝ぼけて適当に作ったプログラムによって、俺の……秘蔵の画像フォルダが綺麗さっぱり消えていた事に……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はあ、はあ、はあ……」
カンクーロはまだ、コンティノ村の近くにいた。
「ちっくしょぉ……あいつらぁ」
ズキズキと痛む右手を押さえながら、カンクーロの目には涙が滲んでいる。
カンクーロはばれない様に、静かに、静かに馬車の後を追い掛けている――油断した所を襲うために……。
「荒れてんなあ? カンクーロ!」
すると、上空から声が聞えて来た。カンクーロは咄嗟に身構え、声のする方向に目を向ける。
「――誰だ?」
「いや、敵じゃねえぜ?」
カンクーロが上をむくと、そこには緑の身体をして、背中の翅をはばたかせながらカンクーロを見つめる『伯獣』がいた。
「俺は主から、アンタの手伝いをする様に言われてきたんだぜ!」
「主から……?」
カンクーロはまさか、自分の失敗に気付かれたのかと、額に汗をにじませる。
「ああ、主が言うには「アレの相手は『創伯獣』を従えているとは言え、一人じゃきついかもしれない」って事らしいぜ? そんなわけで、『蟷伯獣』の俺が選ばれたんだぜ!」
「そうか……わざわざ済まないねぇ?」
カンクーロはまだ自分の失敗は伝わって無い様だと安堵し、目の前の『蟷伯獣』に握手を求める。
「では、よろしくぅ……えっと?」
「ああ、リュージーだぜ! よろしく!」
リュージーは「今日は熱いぜ」と言いながら、カンクーロとガッチリと握手を交わした……。




