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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第五章:秘密結社
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背中合わせのS v S

続きです、よろしくお願い致します。

「……おじさん」


 悠莉が凄い睨み付けてくるんだがどうしよう……? 後ろから「チキチキ」聞こえて来てる……。


 そして……何だ、この状況……?


 悠莉達五人……までは良いんだけど。後ろのと同じ集団に、多分……『伯獣』……そして――。


「……ラッコ野郎……」


 忘れもしない……茶色い毛皮、俺が潰した左目……。


「……ぶぅるぅぁぁぁ……」


 ラッコ男も俺の事を覚えていたのか、俺の姿を視界にとらえると左目を軽く指でなぞり、ニヤァっと裂けんばかりに口の両端を釣り上げる。


「「「「「――ッ!」」」」」


 その時、ラッコ男からの威圧感でその場の全員がブルッとその身を震わせる。


 俺は『ポーカーフェイス』を発動していたからバレてないと思うが……今すぐにこの場から逃げたい!


「――じさん――おじさんっ!」


 ――ガッ!


「あ痛ぁ! 何すんの? 悠莉!」


「何すんのはこっちの台詞よ! 危ない所助けて貰ったのは、その……嬉しかったけど………………何で、敵増やしてるのよ!」


 悠莉は俺に踵落としを喰らわすと顔を真っ赤にして、俺の後ろの紫の集団を指差してカンカンに怒っている――。


「いや、だってさ! ピトちゃんもいるし、はぐれてるから、変に『必殺仕様』ばら撒くわけにもいかないし……いや、本当に、良かれと……良かれと思ったんだよぉぉぉ……」


 その場に崩れ落ち、俺は流れる様に土下座態勢に入る。


 さあ、今だ! ピトちゃんも言い訳を!


「ねえちゃ!」


「ピトちゃん! 無事でよかった……」


「……あ」


 逃げられた……。そして、俺は悠莉に「後でお説教ね!」と告げられてしまった……。


 不味いな……名誉挽回しておかないと……。


「よ、良し! 気を取り直して、さっさと片付けて、村に帰ろう!」


 俺はそそくさと愛里の近くにギルドカードをアーチ状に並べ『門』を組み立てる。


「愛里、頼む! ミッチー、ハオカ、悠莉、いつも通りだ!」


「「「「了解!」」」」


「いきます……『パゥワ』!」


 愛里がスキルを発動させると、エメラルドグリーンの光が『門』を構成するギルドカードに反射し、ループしていく。


「後の事は考えないで行くッス! 『クルミ』!」


 まずは、ミッチーが『門』を潜り、スキルを発動し、ルビーレッドの光に包まれるとそのまま、紫の集団に突っ込んでいく。


「あたしも、全力で行くけど……あんまり見ないでよ……?」


 そう言うと、悠莉は靴を脱ぎ、ペプラムの上から羽織っていたマントを脱ぎ捨て「今日はこの辺かな……」と呟き、『門』を潜る。


「ふぅ……『銅龍の系譜』!」


 悠莉は淡いピンクゴールドの光に包まれると、ミッチーが突っ込んでいった後を追う。


「ほな、旦那さん、うちもおさきに失礼致しますぇ?」


 ハオカも続けて『門』を潜り、先に出た二人の後を追いかけて行く。


「さて、愛里はピトちゃんと一緒に下がっていてくれ」


「……はい。それと椎野さん……ももちゃんが……」


 涙声の愛里の胸元にはもも缶が抱きかかえられていた。


「――っ! もしかして……?」


「いえ、まだ息はあるんですけど……お腹をえぐられてて……早く村に返って『治癒師』と『医師』を何人も集めないと……」


 ――不味い……。


 俺は焦る気持ちを押さえて、愛里に傷の具合を見せてくれと頼み込む。応急処置でも出来ればいいんだ、けど……?


「愛里……傷ってどこだ……?」


 愛里の胸から引き剥がしたもも缶には抉られた傷どころか、血の跡すらない、しかも……。


「ぐおぉぉぉぉ……」


「愛里……コイツ、寝てるぞ?」


「え? あ、嘘……? 私の診断、間違い?」


 もも缶は涎を垂らして、グースカいびきをかいていやがる……。


「おい、もも缶……起きろ!」


 思わず頭を叩いて、もも缶を起こす。


「ぬぁ? もも缶、まだ食える! あれ……エサ王?」


「起きたか……」


「ももちゃん……良かった!」


「ぬぉ! あいり、苦しい! おいしそうな匂いがする!」


 愛里は涙を流して、もも缶の無事を喜んでいる。もも缶は動揺しつつ、愛里の匂いをクンクン嗅いでいる……。うん、コイツ心配するだけ損だな!


 そう結論付けて、俺はもも缶に話しかける。


「もも缶、お前に頼み事がある」


「ん?」


「愛里とピトちゃんの護衛を頼む、報酬はこの間の『モモ――」


「エサ王……あいりととりにくはもも缶の命に代えても守り通す!」


 もも缶は若干喰い気味に俺の頼みを引き受け、その手にナイフとフォークを握り締める。とりにくって……ピトちゃんだよな? 食うなよ……?


「……頼むぞ?」


 色んな意味を込めてそう言うと、もも缶はニヒルな笑みを浮かべて親指を立て、返事する。


 そして、俺も悠莉達の後を追いかける――。


「皆、足場だ!」


 俺はギルドカードを上下左右に展開し、足場を作り上げる。


「遅いわよ! おじさん!」


「おやっさん、助かるッス!」


「ほな、遠慮なく……『大太鼓』始めの『祭囃子』!」


 ミッチー達は紫の集団――『創伯獣アークラフツ』と言うらしい――の周りを縦横無尽に飛び回り、斬ったり、殴ったり、朱雷を落としたりして『創伯獣(アークラフツ)』の数を減らしていく。


「良し、合流するぞ!」


 俺が声を掛けると、三人とも『創伯獣(アークラフツ)』を蹴散らしながらもコクリと頷く。


「そうはさせないよぉ?」


 俺と三人の間に『伯獣』が立ち塞がる――。


「アンタら三人は俺がお相手するよぉ? さっきは手出さないって言ったけどさぁ、事情が変わったから、仕方ない! 君らなら分かってくれるって!」


「クッ! 皆!」


「おっと、アンタはこいつ等の相手しててよ!」


 俺の目の前に、『創伯獣(アークラフツ)』が立ち塞がり、俺と三人は完全に分断されてしまった。


「ふふ、アンタは碌な事しないって、主から聞いてるよぉ。ここで大人しく、消えてね?」


 そう言うと『伯獣』は指をパチンと鳴らす――。


 そして、目の前の『創伯獣(アークラフツ)』共が俺を目がけて襲い掛かって来た。


「――クソッ! 『塗り壁』!」


 ――ゴインゴゴゴインッ!


 俺は目の前に『塗り壁』を展開する――。


 良しっ! 動きが止まった! これなら……。


「『リーマン流 千羽鶴』!」


 転んだ敵をそのまま、地面に縫い付ける。


「チキチキ!」


 その時、俺の前から一匹襲い掛かって来た。俺は咄嗟に後ろに飛び退く……。


 ――ドンッ!


 すると、背中に何か温かいモノが触れる……。


「やばっ……!」


 咄嗟に振り向くと、俺と同じ様に驚いた風のラッコ男がいた。


 ラッコ男はそのまま、俺に向かって拳を振り上げる。


「ぬぉ……!」


「ぶるぁ!」


 俺は身の危険を感じてその場にしゃがみ込んだ。すると、ラッコ男の拳は俺の頭のあった辺りを勢いよく通過し、そのまま、その先にいた敵を殴り飛ばした……。


「………………」


「………………」


 俺とラッコ男は無言でお互いを睨み合っていた。


「チキチキチキチキチキ!」


 しかし、そんな俺達にお構いなしに周りから敵が襲い掛かってくる……。


 俺とラッコ男は互いに『創伯獣(アークラフツ)』の群れをチラ見すると。再び、睨み合い、どちらともなくため息を吐きだした。


 そして――。


「どうも、私、あなた方のお相手をさせて頂きます。薬屋椎野と申します――」


 俺は『名刺交換』を発動し、前方の群れに向かって頭を下げる。


 その瞬間、前方の群れは動きを止める……。


「ぶぅるぁ!」


 そこにラッコ男が俺の背中上空を通過する蹴りで、動きの止まった群れを薙ぎ払う。


「「チ、チキチキチキチキチキ……」」


 その時、頭を深く下げた俺の視界には、ラッコ男の後ろから迫りくる敵が見えた。


 ――ゴインッ!


 俺は『塗り壁』でその群れ足止めし、ラッコ男の足元にギルドカードを出現させて、そのままクルリと回転させる。


「アダンアナン?」


 ラッコ男は突然回転した地面に驚いていた様だったが、視界に敵の群れを捉えると、そのまま拳や蹴りで群れを蹴散らしていく。


 ――ゴインゴゴゴインッ!


 すると、別の方向に仕掛けていた『塗り壁』に新しい群れが引っかかり見事にすッ転んでいたので、すかさず摩擦係数を上げ、制御性の向上と殺傷能力の低下した『半必殺仕様』のギルドカードを地面に適当に落とす。


「『リーマン流 花吹雪 改』!」


 すると、ラッコ男が敵を回し蹴りした勢いをそのままに、地面に縫い付けられた敵の群れ目がけて拳を振り下ろす。


「ちっ……サービスだぞ……」


 ラッコ男の背後にこそこそと何匹か近付いていたので、ラッコ男前面にミラー状のギルドカードを配置し、背後を見せてやる。


「オウェナマニエコユ、ツィチ……!」


 ラッコ男はそのまま目の前のギルドカードを蹴り、その反動で敵の後ろに回り込むと、そのまま殲滅する。


「お、じさん! ソイ、ツと『ミル、キー、ウェイ』は……駄目、だからね!」


 遠くで『伯獣』と戦闘している様子の悠莉が俺にそう釘を刺して来る……。まあ、説明も出来ないし、やらないよ!


「っと!」


 俺に迫る敵がいるので、試しにギルドカードでラッコ男を攻撃するつもりで敵の側頭部にギルドカードを出現させてみる。


「――ッ! ぶらぁ!」


 どうやら攻撃の気配を感じたのか、ラッコ男は反射的に拳を振るい、それが敵にぶち当たる。やべぇ……凄い睨まれてる……。


 ――やがて朝日が昇り始めた頃……。


「「「「「「「…………………………」」」」」」」


 俺とラッコ男を取り囲んでいた『創伯獣(アークラフツ)』はその姿を消し、その場に立っているのは俺達とラッコ男、そして『伯獣』のみとなっていた……。


「……あれだけ、いたのに……?」


 悠莉達の目の前に立ち塞がる『伯獣』は驚いて、攻撃の手を止めてしまっている様だった。


「流石、おやっさん……」


「でも……ねぇ……」


「何気に、おじさん……ほとんどラッコ男にやらせてるし……」


 ミッチー、ハオカ、悠莉が気のせいか称賛では無く諦観の目で俺を見ている気が……?


「え? 俺も結構、頑張ったんだけど……」


「いや、それは分かってるんだけどね……」


 悠莉は「何か納得いかないのよ!」と言い出す始末……。どうすりゃ良いのよ……。


「何だ……何なんだ! お前ら!」


 その時、『伯獣』が口をパクパクさせながら、俺とラッコ男に向けて人差し指を突き付けた。


「あ、どうも、私、こちらに出張中のサラリーマン 薬屋椎野と申します――」


 ――『名刺交換』発動。


「あ、どうも、俺、『袋伯獣』のカンク――」


「エボチクフ……」


「ぐぁぁあぁっぁ!」


 目の前の『伯獣』――カンク? は俺の『名刺交換』の効果で自己紹介を始めてくれたが……ラッコ男がボソリと呟き、蹴りをお見舞いすると、後方の木々を巻き込みながら吹っ飛んでいった。


「「「「「「うわぁ……」」」」」」


 うん……これに関しては正直、俺もどうかと思う……。


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