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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第五章:秘密結社
68/204

ムラサキの森

続きです、よろしくお願い致します。

 ――プルルルル……。


「ん……」


 ――プルルルル……プルルルル……。


「お前、起きろ!」


 ――ゲシッ!


「んがぁ?」


 目を覚ますとピトちゃんが、俺の携帯を俺の顔にガシガシ押し付けてる……。えっと、どういう状況?


 確か、崖から足を踏み外して……それから? 駄目だ思い出せない……。何か首が痛いけど、落ちた時どっか打ったか?


 ――プルルルル……。


「お前、さっさと出ろ!」


 ――ゲシッ!


「あ痛っ! あれ、ピトちゃん? ってそうだ、携帯!」


 ――ピッ!


「もしもし?」


『あ、椎野さん! 良かった……無事だったんですね?』


 携帯の通話ボタンを押すと、画面の向こうに愛里の顔が見える。どうやら、向こうも無事みたいだな……って落ちたのは俺だけか。


「愛里か。まあ、首は痛いけどそれ以外は……ああ、大丈夫だよ」


『そうですか、今どの辺……とかは分からないですよね?』


 周りを見回しても、既に日が落ち真っ暗でよく分からない。多分、あの崖の下、辺りなんだろうけど……。


「流石になあ……って、何、ピトちゃん?」


 何か、ピトちゃんが俺の脛をひたすら蹴ってくる……。地味に痛いから、それ!


「ねえちゃ!」


「ん? ああ、愛里、ピトちゃんが話したいみたい」


『あ……何だかすいません……』


「良いって、じゃあ代わるね」


「ピュイ!」


『あ、ピトちゃん……? 大丈夫――』


 携帯をピトちゃんに渡して、俺はその辺を散策っと。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――当たり前の事だが……。真っ暗で何もわからん!


「お前! ねえちゃが話あるって!」


 トボトボとピトちゃんのそばに戻ると、携帯を突っ返される。


「代わったよ?」


『椎野さん、えっと、ハオカさんと悠莉ちゃんが心配してまして……』


「あ、そうなの? じゃあ、代わってくれる?」


 画面越しに、愛里が二人を呼んでいるのが見える……。


 暫くすると、画面にハオカが映りこんできた。


「旦那さん! ご無事どすか? お怪我は? うち、うち、もう心配で心配で……早う旦那様に会いたい!」


 画面の向こうでハオカが座り込んで、泣き出してしまった。え、これ、俺どうすりゃ良いの?


「えっと、ハオカ? 俺は大丈夫だから! 取り敢えず、泣き止んでくれ。えっと、あー、ほら、うん……こう、ね?」


 オロオロする俺を見て、ハオカが漸くクスリと笑ってくれた。そして、指を口に当てクスクス笑いながら言った。


「ほな旦那さん、帰ったらうち達に心配かけたお仕置きが待っていますから……覚悟しておくれやすね?」


 ――何か、今……物凄くゾクっとしたんだが。きっと、気のせいだよね? そうだろ? ハオカ……。


『あ、そや、悠莉はんに代わりますね?』


「あ、おいハオカ、今の……冗談だよね?」


 俺の問い掛けにハオカはクスリと笑い、画面から姿を消す……。


『おじさん……大丈夫?』


 悠莉も心配そうに、こちらに声を掛けてくれる。


「ああ、大丈夫だ。心配かけちゃったな、すまん」


『本当よ……もう……』


「まあ、お互い無事でよかったよ。そっちはもう村に帰り付いたのか?」


『うっ! えっと、その、ね……』


 どうにも歯切れが悪い。何かあったのか……?


『えっと、愛姉に代わるね!』


「え、ちょっと? 悠莉?」


 画面に再び愛里が映りこむ。


『えっと、ですね? 実は――』


 気まずそうに愛里が話してくれた。


 どうやら、俺が落ちた後動揺したハオカと悠莉ががけ下に続く道を探して暴走したらしく……。


「つまり、そっちも迷った……?」


『はい……』


 成程、二重遭難か……そうなんです……ってだめじゃん!


『取り敢えず、ダリーには連絡して明日の朝、救助に来てもらおうかと……』


「ああ、それ良いな。俺も後で連絡しておこう……」


 そしてなるべく、その場から動かない方が良いと話し合い、俺は愛里との通話を終了させる。


 続けて、サッチーに電話を掛け、俺とピトちゃんが無事である事と愛里たちと同じく朝まで救助を待つ事を伝える。


 そして――。


『ち、父上ぇ! ご無事ですか? お怪我は? 僕、僕、もう心配で心配で……早く父上に会いたいです……』


「タテ……お前もか……」


 姉弟揃って似たような反応を……。思わずクスリと笑ってしまった。


「泣くなタテ、俺は大丈夫だから。それより、暖かくして、風邪ひくなよ? 歯、磨いたか? 風呂入ったか? 早く寝ろよ?」


 俺の言葉に涙声ながら、『はい、はい……』と頷くタテ、やがて落ち着いたのか、羽衣ちゃんと代わる事に。


『おじちゃん、迷子になったの? もう、ちゃんとみんなとお手てつないでないとダメなんだよ! もうっ! おじちゃんは仕方ないなぁ……』


 画面の向こうで羽衣ちゃんは、頬を膨らませ、両手をバタバタさせながら怒っている。いや、本当、返す言葉もございません。


「いや、本当に心配かけてごめんな? 明日の朝には帰るから、美味しいお土産もあるから、良い子で待っててな?」


 この世界に来てから、後輩に磨きがかかったと言われている土下座をしながら、羽衣ちゃんに謝る。


 羽衣ちゃんは腕を組んで唸りながら、暫く怒ったふりをしていたが……。


『もう、おじちゃんはしかたがないなぁ……。ちゃんと、帰って来てね? おじちゃんはちゃんと、出来る子だって、うい、知ってるよ?』


「ああ、約束だ!」


 ――ピッ!


 これで、一通り連絡は終わったかな……。後は、明日の朝までどうするか。この場から動かない方が良いんだろうけど、火くらいはおこした方が良いかな?


 そして、ピトちゃんにその事を話し、薪拾いを行う事にする。因みに、この間に本日二度目の土下座を披露している。


 なるべく、ピトちゃんと離れすぎない様に枯れ枝などを拾っていると、それまで枝を拾う度に「ピュイピュイ」と囀っていたピトちゃんが急に静かになった。


 どうしたのかと思ってピトちゃんの様子を伺うと、その場にジッと立って、顔をキョロキョロさせている。


「……? ピトちゃん、どうしたの?」


「お前、少し黙ってろ……後、離れろ匂いが混ざる……」


 どうやら、何かの匂いを感じるらしく必死で顔をキョロキョロさせている。


 俺は視界の隅に収まる程度の距離を開け、ピトちゃんの様子を伺う事にした。


 やがて、ピトちゃんは匂いの元らしき方角を把握したのか、こちらにゆっくりと近づいてくる。


「この先に、何匹かいる。同じ匂いが一杯だ……気持ち悪い……お前より臭い」


 正直、最後の一言は思ってても言わないで欲しかったんだけど……。それよりも、不味いな……。


「ピトちゃん、もしかしてその匂い、こっちに来るの?」


「……多分」


 ピトちゃんは額に汗を滲ませながら頷く。


 俺は取り敢えずピトちゃんに魔獣かも知れないから、息をひそめ茂みに隠れてやり過ごそうと提案してみる。


 ピトちゃんがコクリと頷くのを確認し、俺達は一番隠れやすそうな茂みに潜み、様子を伺う。


 ――二、三十分ほど経っただろうか……。


 茂みに潜む俺達の視界に人影――それもかなりの大人数――が入り込む。


 何だ……? 俺達の救助隊にしては動きが早すぎる。それに、暗くてよく見えないが、手に何か持ってる……棍棒?


 その集団は何かを探す様に、キョロキョロと周囲の様子を伺っている。


 俺とピトちゃんが声を出さない様に潜んでいると、やがて(地球)明かりでその集団の姿が浮かび上がる……。


「――っ!」


 危なく、驚きで声が出るところだった……。


 その集団は……恐らく人ではなかった。手に棍棒――と言うよりマッチ棒を持ち、その身体は紫の毛皮に覆われている。


 ――間違いない、変異種。


「あいつら……『伯獣』。同じ匂い……」


 ピトちゃんが顔を真っ青にしてぼそりと呟いた。


 やはり、変異種、それも『伯獣』か……。同じのが一杯って事は栗井博士達が何かやったのか? 不味いな……着実に向こうの戦力が上がってる気がする。


「ピトちゃん……この場にいるのは不味いかもしれない……」


 俺がコッソリこの場を離れる事を提案すると、ピトちゃんもそれに同意する。


 ――ガサゴソ……。


 俺とピトちゃんはゆっくりとその場から動き出す。


 すると、紫の『伯獣』達は俺達に気付かず、反対方向に向かうみたいだった。どうやら、この場で動かないでも良さそう……?


「ピチュンッ!」


 と、思ってたらピトちゃんが盛大なくしゃみを……。


 紫の集団が一斉にこちらに振り向く。


 ――あ、これ駄目だ……。


「「チキチキチキチキチキ……」」


 紫の集団は俺達を完全に補足したみたいで一斉にマッチ棒を構える――。


「ピトちゃん……」


「お前が臭いのが悪い!」


 いや、別に怒ってないから、俺の心を攻撃しないでくれ……。


「悪いけど……協力してね?」


「……仕方ない……」


 俺達は同時に頷くと、茂みから勢いよく飛び出る――。


 俺達と紫の集団は、お互い睨み合い、出方を伺っている……。


 五分ほど睨み合っていただろうか……。紫の集団が俺達に向かって前進し始めた。


 そこで――。


「どうもぉ、初めまして、私、薬屋椎野と申します――」


 俺はスムーズに『名刺交換』を発動させる。


 ギルドカードを差し出された紫の集団は、その動きをピタリと止め、ギギギと頭を下げ始める――。


「ピューイー」


 そこに、ピトちゃんがブレス? を口から吐き出す。何? そんなスキル持ってたの?


「今のうち!」


「凄いなピトちゃん! あれ何? 毒霧?」


 確かピトちゃんは体内に毒を持ってたんだっけ? 俺は紫の集団から逃げながらピトちゃんに尋ねる。


 ピトちゃんは「フッ」と俺を馬鹿にするように見据えると、静かに答える。


「あれは昼の牛……怖かった……」


 ……成程、ストレスで吐いただけか……って事は?


 ふり返ると、紫の集団が煙幕――吐しゃ物から抜け出し、俺達を追いかけてきている。


「何か……怒ってらっしゃる……?」


「当然、あれ臭い……」


「いや、そこで胸を張らないで……」


 そして、ピトちゃんはストレスからか、走るのに疲れたからか、小鳥の姿になり、俺の肩に飛び乗る……。


 しかし、非戦闘職の俺と『伯獣』には当然、身体能力の差と言うものがあるわけで……。


「お前、急げ!」


「分かってるよ!」


「「チキチキチキチキチキ……」」


 今気づいたけど、この紫の身体に「チキン」って聞こえる鳴き声……。絶対、あのチキン野郎(クリス)が絡んでるだろ! 俺に恨みがあるからか、すっげぇしつこい!


「駄目だ、追いつかれる!」


 紫の集団が俺達の後方、三メートルほどまで迫っている。そして、その中の一匹の手が俺の肩に触れようとして――。


 ――ゴインッ!


 頭の辺りに設置した『塗り壁』にぶつかり、すっころぶ。


 ――ゴインゴインゴゴゴインッ!


 連鎖する様に一匹、また一匹とすっころぶ。


「良し……引っかかった! 今のうちだ!」


 そして夜の森で俺とピトちゃんは、後ろに響く「チキチキ、チッチキチ」と言う怒りの声と、たまに聞こえる衝突音を聞きながら逃げ回る――。

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