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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第五章:秘密結社
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獲モノと狩るモノ

続きです、よろしくお願い致します。

「ブモォォッォォ!」


 現在、コンティノ村から一時間ほど歩いた森の中に俺達はいる。


「ミッチー、そっちは任せた! ハオカ、俺が動きとめるから、止めよろしく!」


「了解ッス!」


 俺達はコンティノ村で受注した依頼――森を荒らす魔獣の群れの討伐――を順調に進めていた。


「喰らうッス! 『イバラ』!」


 ミッチーが剣を振るうと、斬撃がウネウネと標的に絡み付き、その身を刻んでいく。


「ブ、ブモォォォォォ!」


 この魔獣、一言で言えば『肉付きの悪い牛』と言った感じで、力が強い上に結構速い。


「あ、どうも私、薬屋椎野と申します――」


 お蔭で『名刺交換』で動きを止めるのも結構、命がけだ。


「旦那さん! 今行きます!」


 俺に向かって来ていた牛の魔獣達の動きがピタリと止まる。そこにハオカが放つ朱雷が直撃し、魔獣達は黒焦げに……。


「エサ王……アレ、食べる……食べたい!」


 この魔獣……焼くと凄い良い匂いがするんだよな。肉なんか、余り付いてないくせに。


 お蔭でさっきからハオカが倒す度にもも缶がこうして、俺に聞いて来るんだが……。


「なあ、魔獣って食って良いのか?」


「え、どうでしょう? 噂だと食べても大丈夫なのと、そうでないのが有るって聞きますけど……?」


 愛里が俺達に強化スキルをかけ続けながら、首を傾げる。


「大丈夫……! もも缶は、食える!」


「だぁ! ちょっと待って、メールでダリーに聞いてみるから! 返事来るまでちょっとだけ待ってて!」


 もも缶はいつの間に出したのか、剣を両手に持って焼けた魔獣を頂こうとしている。


「って、剣じゃない?」


 もも缶が持っていたのは、剣ではなく、同じくらいの大きさのナイフとフォークだった。これも、もも缶のスキル、なのか?


「大丈夫……! もも缶は、妻に礼儀習った……肉はナイフとフォーク!」


 頭上に高くナイフとフォークを掲げ、キンキンと音を鳴らすもも缶――急いでくれ、ダリー……。


「良し、ハオカ、愛里、もも缶を押さえていてくれ! 俺は悠莉をサポートしてくる!」


「あ、椎野さん! ずるいですよ!」


「旦那さん、ちょい待っておくれやす!」


 二人の制止を振り切り、少し離れた場所で孤立しかけていた悠莉の周囲にギルドカードを展開する。


「悠莉、使え!」


 まだ、ちょっと距離があるが悠莉に向かって叫ぶ。


「ありがと! おじさん!」


 叫ぶと悠莉は一番近くのギルドカードに向かってジャンプし、その上に片足で乗っかる。


「おじさん、この足元のカード、もうちょっと上に上げて!」


「はいよ!」


 俺が悠莉の要求通りにカードを少し上げる。納得のいった高さを確保できたのか、悠莉がオッケーサインを出す。


「じゃあ、お願い!」


 俺は悠莉に頷き、彼女を中心とした魔獣の群れの上空で、ギルドカードを渦巻き状に配置し、オッケーサインを出す。


「「フォーメーション『ミルキー・ウェイ』!」」


 悠莉がクルリとギルドカードの上で宙返りし、そのまま、かかと落としでギルドカードを地面に向かってけり落とす。


 すると、魔獣上空に展開していた『必殺仕様』のギルドカードが中心のギルドカードに向かって渦を描く様に、魔獣を巻き込み、切り刻みながら勢いよく集まっていく。


 衛府博士、寺場博士にも協力して貰って検証したのだが、分裂した俺のギルドカードにかなり強烈な力を加えると、他の分裂したギルドカードがそのカードに引き寄せられる事――衛府博士は磁気とか何とかゴニョゴニョ言ってた――が分かった。


 そんな特性を利用し、未だに複数のカードを複数の対象に向かって的確に当てると言う使い方が出来ない俺と、対複数用のスキルを余り持たない悠莉とで考え出したフォーメーション『ミルキー・ウェイ』。悠莉の圧倒的な蹴りの威力が無いと使えないが、その分、威力は凄まじい。


「おじさん、これやっぱり楽だわ!」


 魔獣を全滅させ、悠莉がニパッと笑ってこっちに手を上げたので、そのままハイタッチする。


「まあ、カードを一枚蹴り落とすだけだしな? 今回は上手い事いったけど、まだ練習いるなあ……」


 取り敢えずツルツル滑る『必殺仕様』が一か所にくっつくから、大分扱いやすくはなった……かな?


 後は単純に手持ちの武器として使える様にするだけだけど、昨日の馬車での特訓でそのアテも出来たしな……。


「さて、と。ミッチーも終わったみたいだし、そろそろ休憩するか」


「そうね、お腹もすいてきたしねー」


 悠莉よ、お前はダイエット感覚で来たんじゃないのか? と言う言葉を呑み込み、俺は「そうだな」と相づちをうつ。


「ゆうり、お腹空いたのか? これ、食べるか?」


 いつの間にか、もも缶が俺達の間に居た。もも缶は香ばしい匂いのする肉を悠莉に差し出している……が。


「それって……」


 悠莉が俺の方を見ている。俺はコクリと頷き、それが魔獣の肉である事を肯定する。


「大丈夫……! 妻の許可は得た!」


 携帯を確認してみると、確かにダリーから「良いんじゃないですか?」と言う返信が。


「さあ……食え!」


 そうして、俺達は恐る恐る、魔獣の肉を食べる――。


「あ、美味しい!」


「ほんとだ、何これ! あは、美味しい!」


 何だこれ、顔がゆるむ……。よく見れば、他の皆も焼けた肉を食べているみたいで、ニヤニヤしてる。


「これ、コンティノ村の特産に出来るんじゃない?」


 悠莉の一言で、俺は後輩にその事をメールしておく。差し詰め、『コンティノ牛』って所か?


「ゆうり」


 お土産用に魔獣の肉を確保し、昼飯の支度をしていると、もも缶が悠莉に声を掛けていた。


「ん? 何?」


「ゆうり、今日は光らないのか?」


「光る……?」


「そうか、光らないのか……残念……」


「何なの……?」


 もも缶はあからさまにガッカリとしていたが、愛里に肉を貰うと、すぐに機嫌を直していた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――椎野達のいる森の奥――


「「「チキチキチキチキチキ……」」」


 複数の人影が茂みを掻き分け徘徊していた。


 その人影は紫色の身体に太陽光を反射し、何かを探す様にウゾウゾとしている。


「アカチケヅザカホカゾニアカノコ……」


 その時、紫の集団の上空――木の上から声が聞える。


「アコニイオムチシナカナカナヒアカノク、ォホ……?」


 声の主――ラッコ男は木から飛び降り、紫の集団を見渡すとニヤリと笑う。


「オイェルケテサミソナタ、ヅオヨコヨネアマンナバノヒ、イアアマ……?」


 ラッコ男は、鼻をひくひくと動かし、懐かしい匂いに身を震わせながら、紫の集団に向かって呟く。


「「「チキチキチキチキチキ!」」」


 目の前のラッコ男に対して、敵意を向けながら紫の集団――栗井博士達の創った兵隊『創伯獣(アークラフツ)』がその手に持ったマッチ棒の様な武器を構える。


 ラッコ男はそれを見て、少しだけ満足そうに頷くと、凄惨な笑みを浮かべ――。


「ぶぅるぅぁぁぁぁぁぁぁ!」


 叫んだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ん……?」


 何か、今物凄いぞわっとしたんだが……?


「どうしたの? おじさん?」


「いや、何でもないん……だけど……」


 俺は結構青い顔をしていたらしく、悠莉が心配そうにしている。


「旦那さん、今すぐ帰りまひょ……?」


「……ねえちゃ、帰ろう?」


 どうやら、顔色が悪いのは俺だけではないらしい。ハオカは顔から大量の汗を流してカチカチと震えている。


 ピトちゃんに至っては、涙を浮かべ「逃げたい」と愛里に訴えている。


「おやっさん、どうします?」


「んー、俺も正直、帰りたい」


 悠莉と愛里は俺達が魔獣の肉にあたったのかと、オロオロしている。


「ん、それ、正解、もも缶もちょっと帰りたい……」


 もも缶も俺達程ではないが、少しだけ額に汗を浮かべている。


「……椎野さん、三知さん、悠莉ちゃん。帰りましょう……」


 愛里は食中毒が怖いと言ってすぐさま俺達の荷物を片付け始める。


「姐御……手伝います。おやっさん達は少し休んでいて下さい……」


 そう言うとミッチーも片付けを手伝い、俺達は村に戻る事に……。


 ――そして帰り道。


「――あっ」


 早く戻るためにショートカットしてちょっと狭い、切り立った崖を進んでいたんだが、うっかり道を踏み外してしまった。


「「え……?」」


 何故か、ポカンとするハオカと悠莉が落ちていく自分より気になってしまった。


「おやっさーん!」


「椎野さん!」


 ミッチーと愛里が気付いた時には、既に結構な距離離れていた。


「――やべっ!」


 そこまで来て、漸く自分の落下を自覚した。このままだとペチャンコか?


「ピトちゃん! お願い!」


 かろうじて愛里のその声は聞こえた。


「ピュイー」


 物凄い速さでピトちゃんが鳥型になり、その足で俺のスーツの襟首を掴んだ――所までで俺の意識は途絶えた。

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