リーマン道中記
続きです、よろしくお願い致します。
いつの間に寝てしまったのか、俺は、目を覚ますとテント内に敷いた布団の中でゆっくりと目を開ける――。
「今、何時だ……?」
昨日の戦闘のせいか身体が重い、周り――テントの外から聞こえる音も少ないし、皆もまだ寝てるのか……?
「……旦那さん、そないにうちの足がお好きどすか……」
ぼうっとしていると、俺の足元からハオカの声が聞えてきた。
「……父上ぇ……僕も高い高い……」
そして、腹からタテの声……。
「何か、息苦しいと思ったら……」
布団を捲ってみると、ハオカが俺の顔のある方向に足を延ばす形で俺の足にしがみつき、タテが腹に抱き着いていた。
「……と言う事は?」
横を見ると見事なおみ足が……。
俺は動揺しながらも、タテとハオカを見つめ、昨日からの状況を頭の中で整理する。
確か、ハオカとタテが俺に抱き着いているのは昨日の件があって力の補充をするため……だからまあ仕方がないよな、うん!
「タテ、起きたら肩車でもしてやるからな……」
――取り敢えず、まだ眠っていたいけど起きるか。
テントの外に出ると、やはりまだ皆寝ているようでいびきや寝息が聞こえてくる。
――モキュモキュモキュモキュ……。
と思ったら起きている人がいた。
「あ、おじちゃん、おはよう!」
羽衣ちゃんが飛び付いてくる。
「お、羽衣ちゃん早起きだな? おはよう!」
「違うよ! おじちゃん達が遅いんだもん!」
いつもの席で羽衣ちゃんは俺の頭をペチペチと叩きながら、頬を膨らませる。
「ごめんごめん……で、もも缶と遊んでたの?」
「ううん、もも缶お姉ちゃん、さっき「お腹空いた」って起きてきたの!」
それで、羽衣ちゃんが昨日の残りを出してくれてたのか……。
「そっか、もも缶ちゃんもおはよう」
俺はこちらに気付いた、白色と桃色の混じった少女――もも缶(仮)にも挨拶する。
「羽衣、足りない……」
もも缶は暫く俺を見てから何かに納得した様に頷くと、羽衣ちゃんに「もっと食べる」と催促しだした。
「ああ、昨日の残り全部食っちゃったんだ? まだ足りないの?」
俺は湖で顔を洗いながら、もも缶に尋ねる。
もも缶がコクリと頷くとそれに合わせて、彼女のお腹がキュルルと小さな音を鳴らす。
どうするかな? 一応、食糧は予備を含めて結構あるけど、この娘の食べる量を考えたら、どこかに寄って補充した方が良いかな?
「取り敢えず、皆の分もご飯作るから暫くこれでしのいでくれ」
そう言って羽衣ちゃんと、もも缶にチョコレートを渡しておく。
「あ、ダリーと愛里とハオカには内緒だぞ? それと、ピトちゃんとタテにも分けるんだぞ?」
「うん、ありがとう! おじちゃん! うい、タテちゃんとピトちゃん起こして来る!」
羽衣ちゃんはパアッと目を輝かせると、タテとハオカが眠るテントに突撃していく。
さて、手軽にパンとチーズでも焼くかね……。
――クイッ!
俺が朝飯の用意をしようとしていると、羽衣ちゃんに付いて行かなかったのか、もも缶が俺のシャツの袖を引っ張っている。
「ん? どうした?」
「これ、キーンって来る……不味い」
差し出された手を見ると、涎にまみれたチョコレートが乗っかっていた……銀紙付きで……。
「あ、ああ! そうか、ごめんね?」
もしかしたら、この世界ってスキルで保存やら色々出来るから、銀紙に包まれたお菓子ってないのか……? 思わぬところで、後輩への報告追加だな……。
「こうやって……ほら、食べてみな?」
俺はべとべとになった銀紙を剥がして、中のチョコレートをもも缶の口に放り込んでやる。
――モキュモキュ……。
「――っ!」
もも缶は目をカッと見開くと、何も言わず俺に向けて親指を立てる。どうやら、お気に召した様だ。
「お前、気に入った」
そう言うと、もも缶は俺に向けて再度、親指を立てると羽衣ちゃんの突撃したテントに向かって去っていく……。
「…………良し! メニュー変更だ!」
俺はパンとチーズで手を抜こうと考えていたが、もうちょっと手の込んだものを作る事にした。
そうして出来上がった朝飯は、見事にもも缶の心を掴むことに成功し、俺は彼女から見事に『良い餌をくれる人』の地位を獲得する事に成功した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『それで? 先輩たちは今、どの辺にいるんですか?』
朝飯後、グリマー湖を出発した俺達は、食糧を調達するために若干進路を変えて、最寄りの村へと向かっていた。
「えっと、地図で見ると一番近いのはここだから……コンティノ村って所だな!」
『コンティノ……って、テイラから結構離れるじゃないですか! 何でそんな寄り道するんですか?』
恐らく、地球に渡った調査チームから地図を見せて貰っているんだろう。後輩は何かをガサゴソと触りながら、画面越しに怒鳴りつける。
俺は後輩に昨日起こった事、新しく同行者が出来た事、彼女の分の食糧が心もとない為、調達する必要がある事などを説明する。
『……そう言う事なら、仕方ないですね。その子がいなければ先輩たちとこうして話す機会が失われていたかもしれませんし……』
「流石、話が分かる! 愛してるよ!」
『ハイハイボクモデスヨ……』
そして、俺は後輩に「また連絡する」と伝えて、電話を切ろうとした――。
『あ、そうだちょっといいですか?』
「ん? なに?」
『衛府博士からの定時連絡で相談されたんですけど――』
後輩の話によれば、いつもの様に衛府博士が『xx実験』で遊んでいると、貴重な高精度の顕微鏡を壊してしまったらしい。
しかも、肝心なレンズ部分が駄目になり、どうしよう……そうだ、こんな時はサラリーマン君に丸投げしとこう! となったらしい……。
「おい……」
『で、社長も面白がってしまいまして……』
そこまで言うと、後輩は『後の指示はメールで送りますね!』と言って電話を切ってしまった。そして、同時に届くメール……。
仕方なく俺はメールを開いて、ため息をつく……。
「どうしろってんだよ……!」
メールの件名に書かれていたのは、『高精度のレンズを作るための練習法(笑)』と言うタイトル。この時点で、社長の笑い顔が目に浮かぶ……。
本文を開いてみると……。
『まずは、ギルドカードの透過率をナノ単位ほどの精度で調整できるようになってみよう!』
ここで携帯を投げなかった俺は偉いと思う――。
そして、続きをざっと読むとこんな内容だった――。
まずは、ギルドカードの透過率をナノ単位で調節、次にギルドカードのどこでも良いから、中心――要はレンズの中央にしたい場所――を決め、その中心の透過率を最大にして極めて近い同心円状に透過率を落していく――。
「――これ、衛府博士の協力ないと無理じゃないか……?」
正直、ナノ単位の調整なんて目視で出来るかって話ですよ……。
そうは言いながらも一応練習する俺……。
「ねぇ、おじさん? メールの続き読んだ?」
二、三時間ほどして、馬車内では御者を担当するミッチー以外、暇を持て余していたため、皆して俺の特訓を見守ってくれている。
そんな中で、後輩から送られてきたメールを見ていた悠莉が、気まずそうな顔で俺に聞いてきた。
「ん? だから、こうして特訓? してるんだけど?」
「えっと、うん、分かった……」
悠莉はそう言うと「愛姉、ちょっと……」と言って愛里と何かひそひそ話を始める。
「え……いや、私もちょっと……」
そして、愛里が今度は「ダリー、ちょっと……」と言ってダリーと何かひそひそ話を――。
そんな事を繰り返して、最終的に――。
「おい!」
俺は何故かピトちゃんから呼び出しを受けていた。
「え、何、かな?」
ピトちゃんは普段、俺の身体に染みついた煙草の匂いを嫌がって、俺に近付いてこないのでちょっと嬉しい……。
「これ、ここ、見ろ!」
そうして、ピトちゃんは俺の携帯――後輩からのメールを開いたままだ――を見せる。
「ん? 俺の携帯……あれ?」
よく見ると、メールの本文、改行がずっと続いている。ドンドンスクロールさせて、一番最後の行を見ると、俺の力がフッと抜けていく。
そこに書かれていたのは『それでレンズっぽいモノが出来たら良いなって思ったりしちゃったり……はい、そんな確証有りません』と言う一文……。
俺はゆっくりと皆の顔を見る。ピトちゃん、羽衣ちゃん、もも缶はキョトンとしているが、他の皆は俺と視線を合わせようとしない。
「えっと、つまり……?」
つまり……俺のこの二、三時間ほどの頑張りは……? 誰か、誰か答えてくれ!
「おやっさん……男には、諦めが必要な時もあるんス」
御者台から、ミッチーの声がする……。
「そうか……無駄って事か」
折角、透過率の調整出来る様になってきたのになぁ……。
「おじちゃん! これきれいね! うい、おじちゃんのこの技、大好き!」
「うん……美味しそう……」
「父上、えっと、その……次、星型が良いです!」
「…………っ!」
気まずい空気の馬車の中、俺は羽衣ちゃん、もも缶、タテに修行の成果を披露している。ピトちゃんは気になるのか愛里の影に隠れてこちらの様子をチラチラと伺っている。
――修行の結果、ギルドカードのラメラメ具合が細かくなって星やらハート等を始めとした細かい模様が表現出来る様になった……。
まあ、当初の予定とは違うけど喜んでくれる人がいたから、良いか。うん、俺は大丈夫! 大丈夫だ!
だから、悠莉……。可哀想なモノを見る目を止めてくれ!
その後、馬車がコンティノの村に到着するまで、やけになった俺は更に複雑な模様を作るべく、黙々と特訓を続けた――。




