表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大・出・張!  作者: ひんべぇ
第五章:秘密結社
64/204

ナイトメア・イン・フロント・オブ・サラリーマン

続きです、よろしくお願い致します。

 ――テイラ某所――


「それで? 君は命からがら逃げてきた……と言う訳ですか?」


 薄暗い室内に栗井博士の声が響き渡る。


 栗井博士、ビオ、クリスの前には、三つの人影が片膝を立て、首を垂れていた。


「で、ガトパルドに至っては戻って来てすらいない……恐らく返り討ちに合ってしまったと?」


「誠に申し訳ございません……」


 ティグリは奥歯を噛みしめ、主の役に立てなかった事を悔い、今は亡きガトパルドに内心、腹を立てていた。


「だから言ったじゃねぇか……アレは、レベルが違うってな」


 舌打ちをしながら、クリスが栗井博士を睨み付ける。クリスは自身の記憶をたどり、ラッコ男の事を思い出し身震いする。


「それに関しちゃ、こいつらのせいじゃねぇ……アンタの采配ミスだぜ? 栗井さん」


「主……勿体無いお言葉です……」


 ティグリはクリスの擁護に感謝し、涙を流す……。


 一方、グリマー湖から這う這うの体で戻ってきたミクリスは、その光景に違和感を感じていた。


 ――何故、ティグリ様はここまで主に心酔しているのでしょう?


「まあ、それに関しては素直に認めましょう? しかし、問題はサブラ……? 貴方の部下ですよ?」


「ヒッ!」


 睨まれたサブラは身体を一瞬、ビクリとさせる。


「功を焦って藪をつつき、蛇を出す……。それだけならまだしも、結局『ゴミ拾い』すら出来ず、あろう事か愛里の回収も出来ないとはね……。出来ない尽くしで涙すら出ませんよ!」


 栗井博士は任務達成できなかった事よりも、愛里を奪えなかった事に腹を立てていた。


「愛里はきっと、こちらに来て調整してあげれば、私の素晴らしさを理解してくれると言うのに……」


 親指の爪を噛みながら、栗井博士はイライラを抑えきれなくなっていた。ビオは苦虫を噛み潰した様な顔で黙ってそれを聞き、クリスは「また始まりやがった」と呟く。


「ともかく、そこの役立たず! 今回は見逃してやるが、次は無いと思え!」


 栗井博士はそれだけ言うと、三匹の『伯獣』に、その場から立ち去る様に告げる。


「お前は、情報を持ち帰っただけ、主に貢献できている……」


 ティグリはそう言って、ミクリスの肩を叩き自陣に戻る。


「ったく、お前のお蔭でサブラまで良い迷惑ディスよ」


 サブラは冷たい目でミクリスを見ると、ペッと唾を吐き捨て、自陣に戻っていった。


 サブラのその行動はミクリスに、自分の右腕と左足を奪った白桃の少女を思い出させていた。


 ――おのれ……。


 ミクリスは屈辱に唇を噛みしめていた。


 その後、サブラの陣に戻れば、サブラからミクリスの失態を聞かされた他の『伯獣』からゴミ拾いすらできないと馬鹿にされる。


 ミクリスの心の中では、主やサブラ、他の『伯獣』、そして、椎野達――特に白桃の少女に対する殺意が着実に膨らんでいった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 三匹の『伯獣』が立ち去り、栗井博士、ビオ、クリスの三人は話し合いを続けていた。


「しかし……自分の判断ミスであった事は認めますが、正直予想外ですよ……」


「……ジーウの変異種の事か?」


 クリスの問いにコクリと頷く栗井博士。


「あれでも、第二段階――人語を使い、知恵とスキル、そしてジョブを得た『伯獣』だったのですよ?」


「はっ! 当たり前じゃねぇか、あの化物は今よりも練度が低いつったって、俺の『創獣』が何百っつう数で襲い掛かっても傷一つつかなかったんだぜ? 今の第二段階の『伯獣』どもに同じ事が出来るか?」


「それは……」


「無理だろ?」


 蹴散らす事は出来る、しかし、無傷ではいられない事は想像できる。


「クリス殿……ちょっといいですか?」


「あん? 何だ?」


 ここで、ずっと沈黙を保っていたビオがクリスに向かって、手を上げ質問する。


「今後戦力を増やすにしても、それほどの力を持つ魔獣は制御できるのかと不安に思いまして……。も、勿論、クリス殿の力を軽んじているわけではないのですが……」


「まあ、そう思うのは仕方ねぇ……気にすんな」


 クリスは手をヒラヒラと動かしながら「問題は無えよ」と答える。


「そうですね。私もそれに関しては心配する必要は無いと思いますよ? まあ、あの失敗作(ピトフーイ)みたいに体内の毒で寄生体を処理する能力でも無い限りは、私達の悪口すら思いつきませんよ……」


「そうですか……。それならば、例のジーウの変異種に対して数で押して捕まえる事は出来ないでしょうか? それほどの力を持つなら、放っておくことも敵にするのも危険だと思います」


「しかし『創獣』レベルでは無理、『伯獣』も数が足りませんしねぇ……」


 ビオの提案に栗井博士は暫く考え込んでいたが、やがて一つのプランを提案する。


 ――『伯獣』量産計画。


 栗井博士の提案は兼ねてより試していた創獣の進化による、お手軽な『伯獣』の量産。


「でもよ……」


「ええ、何度やっても駄目だったのは分かっています。ですので、まずはクリス君のスキルの練度をサクッと上げてしまいましょう!」


「って事は、スキルを使いまくりゃいいのか?」


 クリスの問い掛けに、栗井博士は口を歪め笑顔を浮かべ、人差し指を口の前で左右に振り「いいえ」と答える。


「クリス君、君自体が『伯獣』に成ればいいんですよ!」


 そして、栗井博士はその懐から綺麗な装飾の箱を取り出す。


「は……? 一体、何を……?」


 意味が分からない、と言った表情を浮かべるクリスを、後ろからビオが羽交い絞めにする。


「な、なんだ! 何するつもりだ!」


 クリスに近付く、栗井博士が箱から取り出したのは手の平に乗る程の魔獣の触覚。


 栗井博士はその触覚――チョウチンから更にナイフで一欠片を切り取り、それをクリスに近付ける――。


「おい……やめろ! 何だ! 何なんだよ!」


「大丈夫……全ては母の為に……『生態融合』」


 スキルの発動光と、チョウチンから放たれる淡く青い光によって、クリスの目が虚ろになる――。


「うぁ……気持ちいい……嫌だ……」


 明滅する光に反応し、涙と涎を垂らしながら、クリスの身体が二度、三度と跳ね上がる。


 やがて光が収まると、そこには一見、何も変わらないクリスがぼうっと立っていた。


「……気分はどうですか? クリス君」


 ニヤニヤしながら、栗井博士がクリスに問い掛ける。


 クリスは自分の身体を見つめ、手を開いたり閉じたりして感触を確かめている。


「チッ……。癪だが、サイコーだよ」


 ――しかし、気付いていない、自分が栗井博士達から受けた仕打ちに対して「癪である」程度で済ませている事に。何より、栗井博士達と同様に、チョウチンに対して畏敬の念を抱き始めている自分に……。


 そして、クリスはその手を開き、スキルを発動させる――。


「出て来い、『創伯獣(アークラフツ)』!」


 何もない空間に、ウゾウゾと人型の何かが生まれだす。


「ふむ……これで、戦力の問題も解決できそうですね?」


 薄暗い部屋で、ビオがにこやかに手を叩く。


 ――椎野達の知らない所で、悪夢は静かに動き出していた。

区切りよくするために、短くなってしまいました。申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ