白桃の騎士
続きです、よろしくお願い致します。
さて、どうするか……。
どう見ても行き倒れ……。見た感じ、小~中学生位……か?
「羽衣ちゃん、取り敢えずピトちゃんと一緒に向こう行って、サッチー達に知らせて来て?」
「はーい! ピトちゃん、行こ?」
羽衣ちゃんが手を引き、ピトちゃんを連れて行こうとする。ピトちゃんは俺の方をジッと見て一言――。
「お前、大丈夫か?」
「ん? う、うん、大丈夫だよ?」
「そうか、頑張れ」
よく分からんが、珍しくピトちゃんからポジティブな反応……。
俺が「ありがとう、頑張るよ」と言うと、ピトちゃんは「ピュイ」と一鳴きし、小鳥の姿になると羽衣ちゃんの肩に止まる。
「さて、タテは手伝ってくれ!」
「はい、父上!」
俺はギルドカードで畳一枚ほどのボードを作り、タテの風でその上に行き倒れの少女を乗せて貰う。
「それじゃ、行こうか」
俺の合図で、タテはテントの辺りまで続く風の道を作る。行き倒れの少女を乗せたボードは風の道に沿って、ゆっくりと進む。
テントまで戻ると、羽衣ちゃんから話を聞いた愛里が毛布を用意してくれていた。
一先ずテントの中までボードを動かし、その上から毛布を掛けて様子を見る事に。
羽衣ちゃんとピトちゃんは、行き倒れの少女が気になるらしく、横たわる少女を見つめている。
「おじちゃん、このお姉ちゃん、まだ起きないの?」
「どうだろうね? このままジッと見てても仕方ないし……羽衣ちゃんもピトちゃんも、先にご飯食べてしまおうか……?」
二人を連れ、俺は馬車の中から出る。
「あ、おじさん、どうなの?」
悠莉が俺達の姿を見つけ、行き倒れの少女の様子を聞いてくる。俺はまだ起きる様子がないから先に食事にしようと伝える。
「ふーん……じゃあ、ご飯にしよ?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ああ、バーベキューとか久々だなあ」
会社の皆でやった以来か……? 皆、元気かなあ……。
「うい、バーベキュー初めて!」
肉を刺した串をブンブンと振り回しながら、羽衣ちゃんははしゃいでいる。
他の皆もそれぞれ、バーベキュー楽しんでいる様で何よりだ。取り敢えず、幸夫妻には「爆発しろ!」と言う言葉を贈りたい……。
「おやっさん、追加の肉ッス」
ミッチーが俺の皿にガンガン肉を持ってくる。
「お、おう、サンキュー……。もう肉は良いから、ミッチーも食えよ?」
「うっす!」
俺……最近、肉があんまり食えない……とは言えない。
「旦那さん? お野菜もんも食べんとあきまへんよ?」
すると、ハオカが横から肉をかっさらい、野菜の串を皿に乗せていく。
「お、ありがとう」
「いえいえ、旦那さんの健康管理もうちの仕事どすから……」
そう言うと、ハオカは小声で「最近は肉よりお野菜もんがお好みのようどすし?」と俺にウィンクする。俺はそれに目線で感謝を伝える。
そんな感じで、それぞれがバーベキューを堪能していると、テントからゴソゴソと物音がする――。
「ん?」
テントの方を見ると、目が覚めた行き倒れの少女がテントの外に姿を現した。
少女は鼻をクンクンと動かすと、匂いの元であるこちらに目をやる。
そして、悠莉の姿を見ると何かに驚いた様にジィッと悠莉の顔を見つめる。
「え、え? 何……? あの子、何かこっち見てない?」
戸惑いながら、俺の袖を引っ張る悠莉。
「お、おう……そうだな、知り合い?」
ブンブンと否定する悠莉、それでも尚、悠莉を見つめる少女……。
「ハッ! もしかして……」
「どうしたの? おじさん、知ってるの?」
「いや、もしかしたら、悠莉に一目惚れ……とか?」
あ、悠莉の視線が冷たい……。「何コイツ」って顔してる。
――ギュルギュルギュルギュル……。
俺達がそんなやり取りをしていると、目の前の少女のお腹から音がする。
そうか……。さっきも匂いを嗅いでいたし、もしかして、お腹が空いて悠莉の手にある串が美味しそうに見えたのか?
「椎野さん、馬鹿な事言ってないであの子に何か食べさせてあげましょう?」
俺と悠莉のやり取り呆れながら見ていた愛里が適当な串を見繕って、皿に乗せ少女に差し出す。
「どうぞ……?」
「……?」
少女は首を傾げると、キョトンとしながら串と愛里を見比べる。
一分ほど、その状態が続いただろうか……。
「これ、おいしーよ? どーぞ!」
串を見ながら鼻をひくひくさせる少女に向かって、羽衣ちゃんが「ハイッ!」と皿の上の串を一本取ってその口に突っ込む。
暫くそのまま固まっていた少女だったが、羽衣ちゃんが「どーぞ?」と再び言うと、ゆっくりと口を動かし始める。
「………………ッ!」
暫くはゆっくりと口を動かしていた少女だが、スパイスの効いた肉が美味かったのか、目を大きく開くと物凄い勢いで口を動かし始めた。
――モキュモキュモキュモキュモキュモキュ……。
「良い食いっぷりっスね……」
ミッチーが感心した様に何度も頷いている。
「お姉ちゃん、お腹空いてたの? お野菜も食べなきゃダメなんだって、さっきハオカちゃんが言ってたの、うい、知ってるよ!」
そう言うと、羽衣ちゃんは少女に野菜の串を差し出す。
――モキュモキュモキュモキュモキュモキュ……。
差し出された野菜の串にがぶりと食い付く少女……。
「……あっ! 羽衣ちゃん、自分の分の野菜を押し付けたなぁ?」
俺は羽衣ちゃんを後ろからヒョイと担ぎ上げる。
「ち、ちがうもん! うい、このお姉ちゃんのご健康とごたこをお祈りして……? なんだっけ?」
目を泳がせる羽衣ちゃんを肩車しながら「ちゃんと野菜も食べなきゃ駄目だよ?」と注意しておく。羽衣ちゃんは「ちゃんと食べるから、ママにはないしょ!」と言って、肉と一緒に渋々野菜を食べ始める。
「や、さ、い、食べ、る」
気が付くと、俺と羽衣ちゃんの近くに少女が立っていた。少女はどうやら、肉より野菜が美味しかったらしく、羽衣ちゃんに向けて口を大きく開いていた。
「う? お野菜、食べるの?」
羽衣ちゃんはソロソロと俺の様子を見ながら、野菜の串を少女の口に放り込む。少女はそれを一口で食べてしまった。
「お姉ちゃん、すごいねぇ!」
羽衣ちゃんはそれが英雄的な行動に見えたのか、キラキラと尊敬のまなざしを少女に向ける。そして、俺の様子を伺いながら「もう一本食べさせたい」と言った表情を浮かべている。
「仕方ないな……ちゃんと、羽衣ちゃんもお野菜食べるならいいよ?」
それを聞いた羽衣ちゃんは、パァっと明るい表情を浮かべ野菜の串を二本とって片方は自分、もう片方は少女にと言った感じでドンドン野菜を消費していく。
俺は「この手は使える!」と、こっそり羽衣ママ達にメールする。
「旦那さん、ちょいええどすか?」
振り向くと、ハオカとタテ、ピトちゃんが俺の事を呼んでいた。
「どうした?」
「へー、なんやら先ほどからピリピリとうちの感知に引っかかるモノが有りまして……」
どうやら、何かを感知しているのはタテもピトちゃんも同じらしく、その表情は険しい。取り分け、ピトちゃんはその視線をチラチラと行き倒れの少女と、何故か俺に向けている。
「まさか……あの子が敵だとか?」
「どうでしょう、姫も懐いていますし、それは考えたくないんですが……」
タテは言葉を濁しているが、やはり怪しいとは感じているらしい。
悩んでいても仕方ない……。取り敢えず、他の皆とも相談してみるか……。
俺がそう思って、皆に声を掛けようとした時だった――。
「あれ? アンタらもシカして、アルジと対立する、サラリーマン組ってヤツです?」
暗闇の中から、突然人影が現れた……。
「へぇ、つマンない『ゴミ拾い』かと思っタラ、イイ暇つブシ、見つけちゃいマシたね……」
所々、イントネーションが可笑しいその人影は、バーベキューの火に照らされようやくその姿を俺達の前に見せる。
テカっている灰色の身体に毛の無い頭……。
「お前……『伯獣』か?」
「ハイ! ご名答です! 私、『守伯獣』、『家守』のミクリスと申シマす、以後よロシく……はしなイカら、冥土の土産に覚えて逝って下サイね?」
パチパチと手を叩く『伯獣』――ミクリスと言ったか?
ミクリスはヘラヘラとしながら、こちらにゆっくりと近づいてくる。
「『イバラ』!」
俺と会話している間に戦闘準備を整えていたのか、ミッチーがスキルを発動させる。
ミッチーから放たれた斬撃は、ツタの様にミクリスに絡みつき、その身を切り刻む。
「ヘラヘラ笑ってるからッスよ……」
ミッチーは剣を肩に担ぐと、吐き捨てる様に呟く。皆、段々強くなっていくなあ……。
「いヤイや、肩の力を抜くって大事じャナい?」
ミッチーがこちらに戻ってこようとした瞬間、その背後に、切り刻まれた筈のミクリスが絡み付く――。
「――なっ!」
「お返しぃ、『弾舌』!」
――ゴキンッ!
「グァっ!」
ミクリスがスキルを発動したらしく、ミッチーは両手をだらりと下げてその場に蹲る。
「ミッチー!」
「ああ、大丈夫ダよ、まだ、骨外しただケダから!」
ミクリスは、尚もヘラヘラと笑いながらこちらに迫ってくる。
「ちっ! 「あ、『尾断』」……なっ」
咄嗟に『名刺交換』を発動しようとしたら、何か、ネチョッとしたモノにに巻き付かれた? しかも、力が……!
「アルジから、サラリーマンはメンドうだから、最初に行動を封じろって言わレテてね? 私のスキルで色々と封ジサせて貰いましたよ、つイデに!」
そう言うと、ミクリスは自らの尻から生える尻尾を振り回す。すると、ハオカとタテ、悠莉も同じ様にグルグル巻きにされる。
「私、自分の尻尾、自由に切れるンデすよ! さらニサらに、『淡気』!」
ミクリスが次のスキルを発動すると、その姿がスゥっと見えなくなる。
「――私、人の認識ノ隙間に入リ込むの、得意なンデすよ」
姿を消した襲撃者に、皆の緊張が高まる……。
「――っ、椎野さん、三知さん!」
その時、緊張状態が続くことを見越した愛里が、俺とミッチーの治療をするため、スキルを発動させようとする。
「お、アンタが、アイリさんデスね?」
ミクリスの声が響き、愛里が俺と同様にグルグル巻きにされる。
ミクリスは「アンタはアルジへノオ土産です」と言って、再び姿を消す。
「さて、それでは残りをとットと片付ケマすか――と、その前に!」
ヘラヘラと笑い声を上げながらミクリスが、その手にナイフを持ち、羽衣ちゃんの後ろに現れる。
「私、弱いもノカら頂く主義なンデすよ!」
羽衣ちゃんに向かって、凶刃が振り下ろされる――。
「ひぅ……おじちゃん!」
サッチー夫妻は……? 駄目だ! 遠い!
「羽衣ちゃんっ! クソッ! こ、のぉ!」
力が入らない……! でも……!
「そんなの……知る、かぁ!」
やっとの事で一枚だけ、ギルドカードをミクリスと羽衣ちゃんの間に滑り込ませることに成功した!
ギルドカードはナイフの先を切断し、そのままミクリスの頬を切り裂いた。
「なっ……。わ、私の『尾断』を……一瞬だケデも……?」
「おじちゃん!」
血を吐き、地面を這いずりながら迫る俺を、ミクリスは驚きの表情で見つめ動きを止めていた。
この隙に、ハオカ達が間に合えば!
「あ、あ、で、でも、それまデデす!」
我に返ったミクリスが再び刃先を失ったナイフを振り上げる――。
「死ね………………アれ?」
しかし、振り上げたその腕には、ナイフどころか……肘から先も存在していなかった。
「………………野菜、食べる……」
ミクリスと羽衣ちゃんの間には、いつのまにか行き倒れの少女が立ちはだかり、闇夜に赤く輝く瞳でミクリスを睨み付けていた。
どこから持ってきたのか、その髪や肌と同じく、白色と桃色が混じった様な色の剣を持って――。




