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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第五章:秘密結社
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進化する獣達

今回、前半部分はラッコ男の言葉の翻訳が混じった内容になります。ご了承ください。

それでは続きです、よろしくお願い致します。

 ――ジーウの森最奥――


 日は既に傾き、森の木々は光を反射し、橙色にきらめいていた。


「アドノミナン……?」


 木の上で軽く目を閉じ、まどろんでいたラッコ男は突然の来訪者が纏う気配に、不機嫌を隠さず呟く。


「おや……? 気配は消していたはずでしたが、やはりただの獣ですか。強者の気配に敏感なんですね……?」


 ラッコ男が声の方向を睨み付けると、黄色い体毛に黒い斑点の人影が姿を現す。


「ウルサギオイナンネジスハ、ヘチシニウルオダガワ? ドノミナナヘモ」


 ラッコ男は現れた人影――ガトパルドの姿を見ると、汚いモノでも見るかのように一瞥すると、興味を失った様で再び目を閉じる。


「ん? 何だ、言葉すら分からないのか……? 主もどうしてこんな野獣如きを欲しがるのやら……」


「……アナドケニアスルーイピピ」


 自分の眠りをなおも邪魔しようとするガトパルドに対して、ラッコ男は段々と、苛立ちはじめていた。


『あ、あーあー……これで、分かるか……? ったく、魔獣の言葉なんざ、久々に使ったぜ』


『……去れ……』


 ラッコ男は自分と同じ言葉を使うガトパルドに対して、「お前に興味はない」と言う態度を崩す事はしない。


『ったく、言葉すら得てないくせに……。まあいい、お前、俺と一緒に来い! 我が主がお前に更なる力を与えてくれる』


 ガトパルドは右手の平を上に向け、チョイチョイとラッコ男を誘う様に語り掛ける。


『興味がない……去れ、と言った』


 そう呟くと、ラッコ男は再び目を閉じようとする。


『ちっ、そうかい、そうかい。仕方ない、大人しくついて来るなら良い目だけ見せてやろうと思ったのによ……』


 ガトパルドの身体から黄色い煙が上がり始める――。


『こうなりゃ、両手両足ぶった切ってでも連れていくから、後悔しやがれ!』


 ガトパルドは黄色い煙を自身の脚に集め、そのままスキルを発動させる――。


『はっ! 『豹伯獣』最速の一撃、その身で味わえ! 『俊足』発動! そして……『ファング』!」


 ガトパルドはラッコ男の目の前まで瞬時に移動し、その喉めがけて手刀を放つ。


 ――シュッ!


 ガトパルドの手刀がラッコ男の喉にぶつかった瞬間、ラッコ男が吹き飛び、周囲の木々が衝撃で倒れていく。


『ったく、口ほどにもねぇ……』


 ガトパルドは人の言葉で「死んでなければ良いのですが……」と呟きながら、ラッコ男が飛んでいった先に向かって歩き出す。すると、ラッコ男は遥か先の大きな木にぶつかり、止まっていた。


「ふぅ、どうやら死んではいないようですね……?」


 ガトパルドは無事に任務が達成できる事を内心で喜び、ラッコ男を回収しようと手を伸ばす。


『まあ、感謝しろよ? 主の手にかかればお前も多少は強くなれるだろうよ』


 そして、ラッコ男の手首を掴もうとしたその時――。


『与えられる力など……興味がない……』


 ラッコ男の目が開き、ガトパルドに向けて凄惨な笑みを向けた。


『――ヒッ!』


 次の瞬間、ガトパルドは咄嗟にラッコ男から距離を取っていた。ガトパルドは異常な量の汗を全身から流し、ラッコ男から逃げ出そうとする衝動(本能)と戦っていた。


『今ので……終わりか……?』


 ラッコ男は青ざめるガトパルドに向かって、若干の興味が出た様に問い掛ける。


『な、何を……?』


 ガトパルドは、目の前の生物(ラッコ男)の言葉を理解しようと、必死で言葉を紡ぐ。


『今ので、終わりと言うなら……次はこちらの番……だろ?』


『――ッ!』


 ガトパルドは咄嗟にラッコ男に『俊足』で迫り、『ファング』を乱打し始めた。


 ガトパルドの頭の中では「やらなきゃ」と言う思いだけがめぐり、目の前の恐怖を取り除くためだけに、自分の死力を尽くしていた。


 与えられた任務も、『創獣の欠片』から送られてくる制御信号すら無視して、ガトパルドはただただ、恐怖から逃げるために、目の前の生物(ラッコ男)に向かって、スキルを放ち続ける。


『はぁ、はぁ、はぁ、ど、どうだ……やったか?』


 ガトパルドはスキルの余波で巻き起こった煙の中、微かな手ごたえを感じて様子を伺う。


『……その程度か……』


 煙の中から、ラッコ男が何事も無かったかのように立ち尽くしている。


『何で……』


 ガトパルドは、スキルの使い過ぎによる身体の痛みも忘れて、更に力を込めてスキルを発動し、ラッコ男に飛び掛かる。


『……軽い……』


 ラッコ男は飛び掛かって来たガトパルドの手刀を、ホコリでも払うかのように手の平の裏で叩き落とす――。


「え、な、あ、あ、あ……」


 一瞬、何が起きたか分からず、ガトパルドは魔獣の言葉を使う事も忘れ、自分の手刀――が有ったはずの右手を見る。


「グァギャァッァァ!」


 ガトパルドの右の手刀は、ラッコ男による払いの一撃で、その姿を失っていた。


 遅れて来た痛みにガトパルドは訳も分からず、叫び声を上げる。


『き、貴様ぁ……その頑丈さ、攻撃力……。一体、どんな強力なスキルを使ってやがる……!』


 痛みと絶叫したお蔭で、ガトパルドの頭は冷静になり、主の命令を思い出していた。そして考える――「勝って連れ帰るのが無理ならば、せめて、この強力なスキルの情報だけでも」と。


『スキル……? 何の事だ?』


 ラッコ男は首を傾げ、ガトパルドの質問を無視する。


『出来損ない……。貴様はまあまあ、頑張った……生かしておいてやる』


 そう言うと、ラッコ男は既にガトパルドに興味を失ったと言わんばかりに、その場を去ろうとする。


 ガトパルドはそれを「スキルの使い過ぎ」で既に戦う力が無いと勘違いした。


 ――もしガトパルドが冷静にならず、本能に従っていた状態のままであったなら……彼は、この場から逃げていただろう……。


「は、はは、逃げるつもりですか! だがしかし、そう簡単に、逃がすとでも――」


 背を向けたラッコ男に向かって、ガトパルドは最後の力を振り絞って左の手刀を放つ。


「アゴノマコロ……」


 ラッコ男は再び、出会った時と同様の汚いモノを見る目でガトパルドを睨み付け、そして――。


「ぶぅるぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 凄まじい気迫と共に叫び、その拳でガトパルドを殴りつける。


「ヒッ! ギャゥルァウゥイウィィ!」


 ガトパルドの身体は跡形も無く吹き飛び、ジーウの森に再び静寂が訪れる。


「アコニアニアホノムバラニネラウィ、アギエラ、イラハヤ……」


 再び好みの木を見つけ寝転ぶと、不満そうに呟くラッコ男……。


 そして、この日を境に、ジーウの森から変異種の目撃情報が途切れることとなる。


 ――グリマー湖――


「よし、取り敢えず今日は、ここでキャンプだな」


 ナキワオの街を出発してから六時間、日が傾き、これ以上進むのは止した方が良いと判断し、俺達はグリマー湖のほとりでキャンプを張る事にした。


「「「キャンプ! キャンプ! キャッキャッキャンプ~♪」」」


 テントを張るミッチーの傍では、羽衣ちゃん、タテ、ピトちゃんが踊っている。ピトちゃんと園児組はすっかり仲良しになり、馬車の中でも三人で何かして遊んでいる様だった。


「おじちゃん、なにかおてつだいしたいの!」


 俺がギルドカードで食材を切っていると、羽衣ちゃんがそんな事を言い始めた。


 どうやら、テントを張りたかったらしいがミッチーにやんわりと断られ、それならばと、サッチー、ダリー、愛里達と釣りをしようとしたら、はしゃぎ過ぎて魚が逃げ、やんわりと断られ、悠莉と食材の調達を、と思ったら既にいない。


 そんな訳で、俺に何かないか聞きに来たらしい。


「そうだなぁ……。火をおこすのに、枯れ木が欲しいなあ……」


 俺は羽衣ちゃんに、木を拾って来てとお願いし、タテにはそれを乾燥させる様にお願いする。


「「じゃあ、行ってきまーす」」


「俺の視界から離れない様にね? じゃあ、いってらっしゃい……って、ピトちゃんは行かなくていいの?」


 羽衣ちゃんとタテに手を振っていると、俺の事をジッと見ているピトちゃんがいた。


 ピトちゃんは暫く、俺を睨んでいたがやがて――。


「お前、煙臭い!」


「グァッ!」


 俺の脛を蹴って、二人を追いかけていった。どうやら、彼女は俺の服や体に染みついた煙草の匂いが嫌いらしい……。


「禁煙……考えてみるかな?」


 そんな事を考えながら、野菜を刻んでいく。そろそろ、火をおこしたいな……。


「おっじちゃーん!」


「お、丁度良いか、な?」


 羽衣ちゃんの声がしたので、そちらを見ると何か三人が手を振って俺を読んでいる様に見える。


「何かあったのか……?」


 少し不安に思いながら、羽衣ちゃんの元に駆けつける。


「どうしたの?」


「おじちゃん、遅い!」


「あ、父上……それが……」


 羽衣ちゃんとタテに「ごめんごめん」と謝りながら、傍に近付く。


 そして、すっかり日が落ち、暗くなった中で俺は三人の足元に横たわるソレを見てしまった。


「コレ、なに?」


 ピトちゃんが指差すモノ――。


 それは、髪、服、肌、そのどれもが、白色と桃色が混じったような不思議な少女――の行き倒れだった。

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