暗躍と旅立ち
続きです、よろしくお願い致します。
――テイラ某所――
「おや、やっとのご到着ですね? ビオさん、クリス君?」
「あ、ああ……すまない、栗井殿」
クリスを連れてヘームストラ王国を出たビオは、隣国テイラの某所にて栗井博士と合流を果たしていた。
「それで……? クリス君は協力してくれるって事で良いのかな?」
栗井博士はクリスを値踏みする様に、ジィッと見つめる。クリスはその視線を不快だとでも言わんばかりに「フンッ」と一声上げる。
「あくまでも、オレとアンタラは対等だ……。オレがいねぇとこの化物共の制御なんざ出来ねえんだしよ」
栗井博士はその回答でも十分満足できたのか、微笑みながら、何度も頷く。
そして、栗井博士は今後の方針について、語り始めた。
「まずは戦力の増強ですね……」
「アアン? 戦力なんざ、あの四匹――『四伯獣』がいりゃ十分なんじゃねぇの?」
栗井博士の提案に、クリスが「必要ない」と断じる。そこで、ビオがおずおずと手を上げる。
「い、いえ……『四伯獣』もまだ、調整段階です。今後の強化と教育にかかる時間を考えると、手頃な戦力は必要かと思います」
「……チッ! アンタがそう言うなら、そうなんだろうよ。けど、俺の『創獣』じゃ駄目なのか?」
「数だけなら『創獣』でも問題はないんですが……。単純な数だけなら、覆す人達もいますからねぇ……」
その時、彼らの頭に浮かんでいたのは、それぞれ別ではあったが、栗井博士のその言葉は、彼等に戦力の増強――つまり、新たなる『伯獣』の調達が必要であることを確信させた。
「何でか『創獣』から『伯獣』への強化は成功してねぇからな……しようがねぇ」
「賛同して頂けて何よりです……」
「それで、栗井博士……。その戦力の当てはあるのですか?」
ビオの問い掛けに、栗井博士はニタリと笑い「勿論です」と答える。
「ティグリ! サブラ!」
「ここに……」
「何ディスか?」
栗井博士がパチンと指を鳴らすと、二つの人影が現れる。
「へぇ……。もうこんなハッキリ喋るのか?」
クリスは心底感心したと言わんばかりに口笛と拍手を送る。
「主のお蔭です……」
「サブラの頑張りディスよ!」
意見の食い違いに、二匹の『伯獣』が睨み合う。その二体を制し、栗井博士が二匹を呼び出した用件を伝える。
「戦力の当て……何ですが、現在製造中の『伯獣』達はまだまだ、完成に時間がかかります。なので、既製品を利用しましょう?」
「「既製品?」」
ビオとクリスの言葉が重なる。その反応が自分の予想通りであったことが嬉しいのか、栗井博士は再びニタリと笑う。
「ジーウの森とグリマー湖……」
ジーウの森、と言う地名が出た瞬間、クリスの全身から滝の様に汗が流れる。
「調査内容が確かならば、王都ルセクで研究していた中でもこの二匹は別格ですね。一方は比類なき防御力と攻撃力、もう一方は異常なほどの再生能力」
栗井博士の説明に、同じ研究者であるビオは「成程」と頷いている。クリスは顔を青くしながら黙って聞いている。
「まあ、ジーウの方は多少の誇張はあるでしょうが、『創獣の欠片』を埋め込んでしまえば良い戦力になるでしょう。グリマーの方は既に退治されたらしいですが、細胞の欠片だけでも入手できれば、今後の『伯獣』に超再生能力を付与出来るかもしれません」
栗井博士はそこまで言うと、二匹の『伯獣』に向き直る。
「お前達の部隊から、それぞれ一匹づつ選別して向かわせろ! ジーウの変異種は瀕死でも構わん、捕まえて来い! グリマーの変異種は指先でも目玉でも何でも良い、細胞を持ってこい!」
「「はっ!」」
栗井博士の指示で、二匹の『伯獣』は再びその姿を消す。
二匹が去った後、クリスがボソッと呟いた。
「アレは……無理だ……アレは、レベルがちがう……『伯獣』なんて可愛いもんじゃねぇ……」
クリスの呟きは、その声の小ささのせいで、栗井博士にもビオにも届かない――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ガウッ!」
暗闇の中、虎の伯獣――『虎伯獣』――ティグリが吠える。すると、闇の中をモゾモゾと蠢く数個の影があった。
「主の命だ……誰か、ジーウに行き、変異種を捕まえて来い!」
「その役目、引き受けます」
影の中から、一匹の『伯獣』が前に出る。細身の身体に黄色の毛皮、黒い斑点のその『伯獣』は更に一歩前に出ると、ティグリに向かって首を垂れる。
「『豹伯獣』が一人、『狩猟豹』、ガトパルドでございます。愚鈍な森の獣如き、瞬く間に捕まえてごらんに入れましょう」
そう宣誓すると、ガトパルドの姿はあっという間に見えなくなってしまった――。
――一方、サブラは……。
「シャァァァァ……」
長い舌を震わせ合図すると、ティグリの部下と違い、姿も影も見えないが、ズルズルと音だけは聞こえる。
「誰か、グリマー湖に行くディスよ?」
サブラの要点を省いた説明に、困惑するかのような騒ぎ声が響く。
「リーダー……。それ、どうイウこと?」
困惑する騒ぎ声を掻き分けて、テカテカとした灰色の身体、毛の無い頭をした『伯獣』がそっと前に出る。
「ん? あ、そうだった、グリマー湖辺りのクレーターで、変異種の身体の欠片取って来いってさ! 丁度良いディス。ミクリス、お前行け!」
ミクリスと呼ばれた『伯獣』はいきなりの指名に「えっ?」と驚くが「まあ、ゴミ拾い位なら……」と渋々頷く。
「えーっと、それじゃあ『守伯獣』、『家守』のミクリス、行ってきまーす」
こうして、ジーウの森とグリマー湖に向けて、二匹の『伯獣』が忍び寄る――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さて、皆準備できたか?」
皆に聞きつつ、俺自身も持ち物チェックを怠らない。いつもの装備に、今回はテイラに入国する事もあるから、出国、入国用の書類一式、と。
「うん、俺の方は問題無いな」
例の栗井博士がはっちゃけちゃった発表会から二週間、すぐにでも追いかけたいところだったが、事はテイラと言う国も関わってくるため、アルカ様が外交ルートで根回ししたり、俺達の方でも色々と準備があったため、出発が遅くなってしまった。
まあ……その甲斐はあったが。
「じゃ、じゃあ、おじさん、もう一回確認してみても良い?」
「うん? ああ、良いぞ。俺ちょっと衛府博士の所に行ってくるから、十分位したらよろしく!」
悠莉に伝えて、家を出る。
「おじちゃん、ういも! ういも行く!」
外に出ると、後ろから羽衣ちゃんが飛びついて来た。
羽衣ちゃんはいつもの席に座ると、そのまま髪を引っ張り、俺を衛府博士達の家までナビゲーションしてくれる――。
「さよなら……友よ……」
小さな声で、長い友に別れを告げながら、ナビに従い歩き出す。
暫く歩くと、俺達は目的地に辿り着く。
「ほーらーこーちゃーん、あーそーぼ!」
羽衣ちゃんが家の扉をペチペチと叩いて大声を上げる。
「はい? はいはいはい? なーあーにっと」
すっげぇ棒読み……。
「ありゃ、サラリーマン君に園児ちゃん? どうしたの?」
表に出てきた衛府博士は、その白衣から煙をプスプスと上げながらキョトンとしていた。
「いや、俺達今日出発するんで、衛府博士と寺場博士を呼びに来たんですよ」
確か、見送りに来てくれるって……言ってたんだけど?
「ん? んん? ああ、そうか、もうそんな時間? ちょっと待ってて、ツルピカ先生呼んでくる」
衛府博士は一旦家の奥に引っ込むと、今度は同じく白衣から煙を上げる寺場博士を連れて来た。
「あっ! ツルピカ先生!」
寺場博士を見つけた羽衣ちゃんは、俺の頭から寺場博士の頭へと脅威のジャンプを披露する。
「うぉっ! あぶねぇ!」
いきなりの突撃に、寺場博士はビックリし、倒れかけていたが何とかその衝撃に耐え、踏み止まる。
「ああ、何か、すいません……」
「いや、まあ、大丈夫だよ」
寺場博士は苦笑しながら、羽衣ちゃんが落っこちない様に手で支える。
「で? 今日行くんだっけ?」
「はい、それで、そろそろ出発するんで、挨拶に」
寺場博士は「そうか……気を付けてな」と言って、餞別として酒を数本手渡してくれた。
「じゃあ、私からは園児ちゃんにこれをあげよう!」
何だ、これ? 棒……?
とにかく、羽衣ちゃんにくれると言うなら、本人にお礼をさせるべきかなと思って羽衣ちゃんを見る。
「キャーッ! 髪抜けないね!」
――ッ! な、何だって? あれ、面白がってたの……?
「これこれ、園児ちゃん? これ、私からのプレゼントだから」
寺場博士の頭をペチペチと叩いていた羽衣ちゃんは、衛府博士からの餞別を受け取るとキョトンとした顔で「これなーに?」と聞く。
「ああ、それは後のお楽しみだ……。中に説明書、入ってるから」
それだけ言うと、衛府博士は「じゃ、お休み」と言って家の奥に戻っていく。
「衛府君……。アレを渡したのか……」
寺場博士は気まずそうな顔で、俺と羽衣ちゃんの顔を見て「すまん」とだけ謝ってくる。
何の事だと問い詰めようとした時だった――。
――プルルルルッ!
俺の電話が鳴りだした。
「お、もしもし?」
『あ、え、えっと、おじさん? あたしだけど?』
「無事つながったみたいだな? 良かった良かった」
俺は電話の向こうの悠莉に向かって「バッチリ」と伝える。
ここ数日、俺達が一番時間を掛けたのはこの『報連相』と言うスキルを他の皆に習得させる事だった。
衛府博士、寺場博士や、こちらの世界で指導書の作成経験がある人達に協力して貰い、昨日、遂に皆(国王含む)が『報連相』を習得出来た。
因みに最後に習得したのが悠莉であり、昨日から事あるごとに「確認だ」と言って電話を掛けてくる。
『うん、ケータイってやっぱ便利……』
「まあ、良いや。今から、そっちに戻るから」
『うん、もう皆出発準備できてるから!』
悠莉は『待ってるね』と言って通話を終了させた。
「じゃあ、寺場博士、行ってきます」
「ああ、気を付けてな?」
俺は寺場博士から羽衣ちゃんを受け取り、頭に乗っけると来た道を戻る。
「あ、結局アレって何だったんだろう?」
まあ、本当にヤバいモノなら寺場博士が取り上げてるか?
この時の俺は、そんなのんきな事を考えながら、待っている皆の元へと急いだ――。
一応、これで四章終了です。引き続き、よろしくお願い致します。
※2014/08/11
「国王様」を「アルカ様」に修正。




