恋の剣
続きです、よろしくお願い致します。
俺と衛府博士は、ミッチーに家の外まで連れ出されていた。
「まあ、話と言っても、以前、おやっさんにはざっくりと話したんスけとね……」
そう言うと、ミッチーは空を見上げながら、ポツポツと語り始めた――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれは、王都からの帰り道の事ッスね。自分は、旅の出来事の報告や、ちょっと思う所があったんでおやっさんの許しを貰って、サンザシの木の結界まで一人足を運んだんス……。
「……ミトさん、そんなに日は経って無いっすけど、お久しぶりです」
自分の言葉に応えてくれたのか、どうかは分かんないすけど、その時の自分には、揺れる枝が「お帰り」って言ってるような気がしたんスよ……ああ、すんません、話が逸れたっスね。
おやっさんが張った『花見』の結界は、ちゃんと展開されてたっス
そのまま、木の下にゴザを敷いて、おやっさんから貰った酒で酒盛りを始めたんすよ――って言っても一人っすけど。
で、段々酔いも回ってきて、自分……木に向かって愚痴り始めたんスよ――まあ、内容は、遺跡調査の時に偽者に騙され、変異種の封印を解いてしまった事とか、その時の自分の弱さでミトさんへの想いを利用された事とかッスね。
「――げろ! 速く! もっとだ!」
夜も更けた頃、どこかで悲鳴が聞こえたんスよ。何事かと思って声のする方に駆けつけると、丁度、結界の効果範囲ギリギリ位で、魔獣に追われた商隊がいたんス。
「そこの人達! 盗賊とかじゃないなら、こっち来るッス!」
結界の性質上、多分盗賊とか、悪人じゃ入れないんだろうなあって思って一応念を押したんスけど。問題は無かったみたいッス。
商隊の人達は結構気の良い人達で、大喜びで木を囲んで酒盛りを始めたッス。
「この度は危ない所を助けて頂きまして、ありがとうございます」
ビックリしたんスけど、商隊のリーダーは結構若い、女性の商人さんだったッス。
「いや、自分はただ、この結界に呼び込んだだけッスから……何か近くないッスか?」
どうやら、自分、この商人さんのタイプだったらしいッス。商人さん、じわじわ服をはだけさせてこっちに近付いてきたッス。いや、おやっさん……舌打ちしないで下さいよ……。
「す、すいません、自分……心に決めた人がいるッス!」
おやっさん……そんな「何コイツ、信じられねー」みたいな顔しないで下さいよ! ミトさんがいる上、サンザシの木の前でそんな事出来るわけないじゃ無いッスか! 全く……。悠莉ちゃんと後輩さんに言い付けるっすよ? あ、嘘です、土下座なんかしないで良いッスよ!
「そうですか……残念です……チッ……」
まあ、商人さんは、うん、結構あっさりと諦めてくれたっスよ。それで、酒も進んで夜も遅くなったんで、自分、いつの間にか寝ちまったんスよ。
『――さん、――ッチーさん、ミッチーさん!』
「――っ! はいっ! 何ッス……か……?」
――忘れるはずもない……白のローブ……ほっぺたをリンゴの様に赤くしてる女性は……間違いなく、ミトさんでした。
何となく……夢だなって分かったッス。それでも、自分は……嬉しくて、思わず飛び付いていました。
「ミ、ミトさん!」
ひらりと躱されたっスけど……。
「あ、あれ? 何でッスか? ミトさん」
『何でもかんでもないです! ミッチーさん、まあ、面白いほどにデレデレしてました!』
ミトさんはリスみたいに、ふくれっ面でプンプン怒ってたッス……。今思えば、あの商人さんに言い寄られた時、寒気がしたんスけど、やっぱりあれ、ミトさんだったんスね。
「ご、誤解ッスよ! 自分にはミトさんしかいないッスよ?」
『い、いやまあ、見てましたから……それは、嬉しいんですよ? で、でもでも! このままだと……ミッチーさん、素敵ですもん! 誰かに取られちゃいそうで……あ、いや、私、幽霊みたいなモノですから……文句も言えないんですけど……』
いやあ、嫉妬するミトさんも可愛かったッス……あ、すんません、舌打ち勘弁して下さいッス!
『あ、そろそろ、朝です……。ミッチーさん、嫉妬しちゃって今更こんな事言うのも変なんですけど……どうか、余り私に囚われないで下さいね? 私はもう、何年も前に死んだ身です。良い人がいたら……遠慮しないで下さいね?』
その時、身体が勝手に動いたッス。
「ミトさん……、さっきも言いましたけど、自分にはミトさんしかいないッス! 幽霊だろうが何だろうが関係ないッス! 自分と……自分と結婚して下さい!」
いや、恥ずかしいッスね……。でも、後悔はしてないッス。
『え、ミッチーさん、分かってますか? 私……もう死んでいるんですよ? 幽霊ですよ? 触れないんですよ? もう前みたいに貴方と手を繋げないし、キスも出来ないし、お胸だって……』
「いや、ミトさん……それでもッス」
ミトさんは喜んでくれていたのは丸わかりだったんスけど……どうにも手が繋げないってのが一番気がかりらしかったっス。
『『『良いじゃないか……』』』
その時だったッス。自分たちの周りに、白い人影が現れたんスよ。
『皆さん……』
どうやら、白い人影は霧の魔獣の犠牲者の方達らしかったッス。
『『『触れられないのが辛いなら、私達も手を貸そう……ミト……私達が逝けるのは、君達のお蔭だ……どうか遠慮しないで?』』』
白い人影は、そう言うと霧になってミトさんの周りに集まり始めたんスよ。
『皆さん……ありがとうございます』
そう言うと、ミトさんは自分の手を握って『不束者ですが、よろしくお願い致します』って言って、泣きながらッスけど、自分のプロポーズを受けてくれたんス。
自分、ここで目が覚めたんスよ。
「おい、何だこれ!」
「やばいんじゃねぇのか?」
起きてみると、周りが騒がしくて、目を擦ってよく見ると、結界の内側が一面金色の光に包まれていたッス。
「ミチさん! 気を付けて下さい、もしかしたら、どこかに魔獣がいるかも……」
昨日の商人さんが、血相変えて自分を心配して来てくれたんスけど。
「……大丈夫ッス……」
自分は、伸びをしてから、サンザシの木を見たんスよ。そしたら、結界を包んでいた金色の光が、段々とサンザシの木に向かって集まっていったッス。
「何、これ……光が……? ギルド、カード……?」
商人さんの言う通り、サンザシの木に集まった光がギルドカードの形を取り始めたんス。
「凄い……何枚あるんだ、これ?」
誰かの声が聞えたんスけど、自分、その時はそれどころじゃなかったッス。
「は、はは……ミトさん……!」
見つけちゃったんスよね。大量の色とりどりのギルドカードが舞う、その中央に「ミト=ミチ」と書かれたギルドカードが浮かんでいるのを……。
「……綺麗……」
商人さんの言葉に反応するみたいに、サンザシの木の前に浮かぶギルドカード達が中央のミトさんのギルドカードに集まっていったんスよ。
同時に、金色の光が辺り一面を包み込んで……。光が消えて目を開けると目の前にこの剣があったんス。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「と、まあこんな感じっス」
ミッチーは話し終わると、大きく息を吐き「それで……」と付け加える。
「栗井博士の話と、何かかぶる気がして……。お二人はどう思うッスか?」
確かに……。でもなあ……。
「ふむ、私見の上、推測で良いかな?」
衛府博士が顎に手を当てながら、ミッチーに尋ねる。
「はい……。お願いするっス」
「話を聞いて、感じる限り……。恐らく『白獣』と同じだろうね。ただ、それを人の変異種と取るか、ギルドカードの変異種と取るかはその剣が人型を取った時にでも聞いてみないと分からないけどね」
「やっぱり……人型になる可能性はあるんスね?」
衛府博士は「多分……ね」と肯定する。
「まあ、暫定的に名付けるなら、ゴンガの変異種『ゴンガ・ファンタズマ』って感じかな?」
「でも博士……? 剣――多分、元はギルドカードなんだろうけど、それに自我、と言うか人の意志が宿るって事はあるのか?」
「ん? んん? 何を言っているんだい? サラリーマン君? 前例があるから言ってるんじゃないか!」
「え?」
「――ハオカとタテ」
衛府博士は笑顔を崩さずに、その名を告げる。
「彼女たちは、その経緯こそ違うがギルドカードを核にして産まれている。まあ、それがその剣のミトさんの様に、元から漂っていた意志なのか、ゼロから生まれた意志なのかは分からないが……。ギルドカードを媒体に、命、魂、願望などのエネルギーを集めて自我と実体を与えられた存在――。私は、『白獣』も『伯獣』もその剣も……勿論、『サラリーマンの式神』も似た様な存在だと考えているよ?」
衛府博士は「勿論、ただの推測だがね」と付け加えると、そのまま「お休み」と言って去ってしまった。
「まあ、深く考えてもどうしようもないか……」
「そうッスね。でも、お陰様で一つ、謎が解けたッス……」
ミッチーは、晴々とした顔で呟く。ちょっと気になったので「何が?」と聞いてみると――。
「この剣、自分が風呂に入る時とか、部屋で筋トレする時とかに裸になると、真っ赤になって熱を放出するんスよ……。だから、ずっとそれが気になってて」
ミッチーは「今度から、気を付けます」と剣に語り掛け、部屋に戻っていった……。
あの剣……。人型にならないのって、そのせいなんじゃ……?
「まあいっか……。後はあいつらの問題だ」
それにしても……『サンザシの剣』か、ミッチーにしろ、サッチーにしろ、羨ましい限りだ……。
そろそろ独り寝が寂しいな……ってあれ?
「結局、ミッチー達の惚気話じゃねぇか! ちきしょう!」
気付けば、俺は夜の月に向かって一人叫んだ、その後、部屋に戻ると悠莉に「夜中にうるさい!」と言って蹴られ、気付けば朝だった――。
気付けばお気に入り登録が50件にもなっていました。
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