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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第四章:第二陣達
58/204

踏み踏み

続きです、よろしくお願い致します。

「ん? あれ……?」


 どうやら、気を失っていたみたいだ……。あれからどれ位経ったのか分からんが、ここは……詰所の事務室か。


「あ、おじさん。目が覚めた?」


「あら、ほんまですな。旦那様、気分はどうどすか?」


 頭の上を見ると、ハオカと悠莉がこちらを覗き込んでいた。


「ああ、最悪……。まだ、顎が痛い……」


 確か、あの時見事なアッパーカットを喰らって……。


「そうだ! アイツはどうなった?」


「アイツって、ピトちゃんの事?」


「ピトちゃんなら、今は詰所の医務室で診察受けてます」


 ピトちゃんって……。まあ、こうしているって事は上手くいったのか?


「えっと、そのピトちゃんは……小さな魔獣から解放されたんだよな? その……人を襲ったりは、しなかったのか?」


 二人は「大丈夫」と言って説明してくれた。どうやら、あれから解放されたピトフーイはすぐさま愛里に飛び付き、泣きじゃくっていた様で、人を襲う気配は微塵も見せなかったらしい。


「まあ、元々無害な魔獣だったらしいからなぁ……」


 何にせよ、無害なら問題無い。実際、あの場でも誰一人怪我してないしな。あれ? 何か、栗井博士の詰めが甘すぎないか……?


 ――コンコン。


「入りますよ?」


「はい、どうぞ」


 事務室に入って来たのは、ダリーだった。ダリーは俺の顔を見るとほっとした表情を浮かべる。


「物凄い勢いで飛ばされていましたから、心配しましたよ?」


「いや、本当心配かけてすいません」


「まあ、良いです。それよりも、ツチノさんの目が覚めたら、貴賓室まで来て頂きたいとの事です」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 貴賓室に入ると、アルカ様、アンさん、ラヴィラさん、ブロッドスキーさん、それと地球組とピトフーイが待っていた。


「ピュ!」


 何か、ピトフーイがこっちにファイティングポーズ取ってるんだが……


「薬屋殿、その……大丈夫かの?」


 アルカ様が顎を指差し、苦笑いで聞いてくる。俺は「大丈夫です」と答えて、あの後結局どうなったのかを聞く。


「それは私から、報告しよう」


 そう言うと、ラヴィラさんが一歩前に出る。


「あ、じゃあちょっと、向こうにも知らせなきゃ何でちょっと待ってくださいね?」


 そのまま、後輩に電話しようと……したのだが、電話がない!


「あ、すまん! 私が預かっていたままだった」


 寺場博士が手を上げて、こちらに携帯電話を差し出して来る。どうやら、俺が寺場博士に電話を預けた後から俺が気絶するまで、ずっと通話状態だったらしく、大体の状況は把握しているだろうと教えてくれた。


『あ、目が覚めましたか?』


「おう、お陰様でな……」


『いや、見事な吹っ飛び方でしたねぇ? 思わず社長に見せちゃいましたよ!』


「マジか……見せちまったのかよ」


『うん、「あら、あの子ったら、月にでもいるの?」だそうですよ?』


 うわぁ……、暫くネタにされそう。


 いかん、気持ちを切り替えていかなきゃ!


「そ、それはまあどうでも良いんだよ! 栗井博士の事だよ」


『ええ、ボクの方でも彼の自宅を調べさせて貰ったりしたんですけどね……? 多少「僕が向こうの世界を魔獣の脅威から救うんだ」みたいな事が書かれた日記は見つかったんですが、流石に今回の様な事件を起こす程とは……』


「そうか……」


 ますます、意味が分からん。あの人、愛里に振られ過ぎて壊れたのか?


「んっんん! すまん、それに関して、我々の取り調べが役立つかもしれん、聞いてくれるか?」


『あ、すいません』


「どうぞ」


 俺達の会話を聞いていたラヴィラさんは手元の紙を見ながら、栗井博士、ビオさんの部下からの取り調べ結果を教えてくれた。


 その内容は――。


 まず、栗井博士が人造の変異種を造る――などと言いだしたのは本当にここ数日の話らしい。


 それまでは、地道に変異種の発生メカニズムを調べ上げ、その発生を抑える、もしくは対抗できる手段などを考えていたらしい。


 様子がおかしくなったのはどうやら、ここ最近に変異種出現報告があった場所の調査へ向かった辺りかららしい。


 更に絞るなら『ロスト・アングラー』の調査から帰った暫く後かららしい。


「えっと、『ロスト・アングラー』ってのは?」


「ん? ああ、栗井博士はここ最近の変異種に個体識別用の名称――この場合は種名になるのか――を付けていてな」


 ちょっと、気になったので聞いてみると、どうやら俺達が出会った変異種にも識別名称は付けているらしい。


 ジーウの変異種――ジーウ・ヴィドラ。


 グリマー湖の変異種――グリマ・サラマンダ。


 遺跡の変異種――ロスト・アングラー。


 毒鳥の変異種――エクストラ・コリリオン。


「他にも、研究所内に数匹いたらしいのだが……。全てがビオ博士、罪人クリスと共に消えている」


 そう言うと、ラヴィラさんはこの場にいる皆に逃げ出した魔獣達のリストを渡し「気を付けてくれ」と注意を促す。


 と言うか、やっぱりあのチキン野郎も一緒か……。


「あ、ロスト・アングラーって奴が遺跡の奴っツう事は!」


 リストを見ていたサッチーが大声を上げる。


「どうした、サッチー?」


「いや、ツチノっち……。あの魔獣のスキルって確かさ……」


「あっ! いや、でもアレって確か退治しなかったっけ?」


 遺跡に大穴開けて、跡形も無かった気がする。


「あ、おじさん……。あの時、頭のチョウチン切り落として、それ、どうしたっけ?」


「「「「「……………………………………」」」」」


 どうしたっけ……? いや、でも流石にあのチョウチンだけじゃあなあ……。


「ふむ? ふむふむ? 可能性を上げればキリが無いが、栗井なら、培養位したんじゃないかな?」


「ああ、何だかんだで奴も好奇心が強いからな……。有り得る」


 オロオロする俺達に、衛府博士と寺場博士が止めを刺す……。


「え、もしかして、俺達……罪に問われたり……?」


 そうっとラヴィラさんに聞いてみる。


「いや、流石にそんなチョウチン一つで魔獣が蘇るなんて話は聞いたことがないな。それこそ、首を切り落としても大丈夫って魔獣でもいない限りは、想像すら付かん」


「……おじさん……」


「おやっさん……」


「椎野さん……」


「だ、旦那さん」


「分かってる……皆、余計な事は喋るな?」


 サッチーを除いた第一陣メンバーである俺達の頭には一匹の魔獣が浮かんでいた……。


「ち、因みにそんな魔獣がいたとしたら……?」


「ん? んん? 私は専門じゃないから想像だけど、多分、魔獣のままならいいけど変異でもしたら、それこそ不死身じゃないかな? 一片の体組織からでも蘇ったりしてな!」


 衛府博士は「そんなのいたら、研究のし甲斐が有るなぁ」とはしゃいでいる。


 ――大丈夫、問題無い! きっと、あのクレーター見れば粉みじんに違いないって見当が付く!


 俺達は無言で頷き、この件は黙っている事にした。


「あ、す、すいません、話がそれてしまいましたね! 続きをお願い致します!」


 我ながら不自然だけど、この話は続かせてはいけない!


「ん? あ、ああそうだな、で、続きなんだが――」


 遺跡から帰って暫くして、栗井博士とビオさんの様子がおかしくなったらしい。


 罪人であるクリスの減刑を条件として勝手に研究への協力を取り付けたり、そのクリスのスキルを利用して魔獣を制御する研究を始めたりヘームストラ王国に隠れて好き勝手し出したらしい。


 取り調べを受けていた研究員によれば「成功すれば魔獣の脅威が無くなる」と説得されていたらしい。


「ま、後は知っての通りだ……」


 ラヴィラさんは調書であろう手元の紙をバインダーに挟み込む。


「それと連中の動向なんだが、栗井博士はグリマー湖の更に向こうにある国――テイラに向かった可能性が高い。クリスとビオも王都を脱出している事が報告されているから、恐らくどこかで合流するつもりだろう」


 ラヴィラさんは「一応、指名手配はするがテイラがグルの可能性もある」と言うと、深いため息をつく。


「ふむ、ラヴィラよ、少し休憩すると良い。胃が痛いのであろう?」


 アルカ様に言われると、ラヴィラさんは「すいません」と言って医務室に向かった。


「さて、薬屋殿……」


「はい……」


「此度の件、指名手配とは言うても各国のトップレベルにしか開示されないだろう……」


「……」


 何となく、言わんとする事が分かって来た……。


「特に、首謀者の一人が『地球』の者である以上、事件が収束するまで国民に『地球』の事を明かすのも難しい……大っぴらにギルド依頼を出す事も難しい……」


「つまり、我々だけで栗井博士達を何とかしろって事ですよね?」


 アルカ様の前に手の平を突き出し「それ以上言わなくても良いです」と示す。


 アルカ様は「すまんのう」と言って頭を下げる。


「まあ、あの博士を選んだのは多分、うちの会社でしょうし、責任者が何とかするのは、当たり前ですよ……」


「国として、出来る限りのサポートはするが……行ってくれるか?」


「勿論! 準備とか色々あるので、少し時間を頂きますけど。必ず、解決して見せますよ」


 俺は拳で胸を勢いよく叩き、アルカ様に微笑みかける。


 さて、家に帰って皆と相談しなきゃな……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はい、と言う事で家族会議です!」


 自宅に戻った俺は、集まった皆――ハオカ、愛里、悠莉、ミッチー、サッチー、ダリー、ブロッドスキーさん、衛府博士、寺場博士、羽衣ちゃん、タテ、ピト、電話越しの後輩――に声を掛ける。いや、本当、結構な大所帯になって来たな……。


「家族会議って、あの王様の依頼の事よね?」


 悠莉の言葉に頷く。


「これは、ハッキリ言ってしまえば、人選を担当したうちの会社のミスだ……。皆が危険に飛び込む必要はない」


『先輩……。ごめんなさい、ボク……』


「そして、お前も気にするな。本当ならその辺、相談に乗らなきゃいけなかったんだが、俺からしか連絡出来ない以上、それを怠った俺が悪い。家族の責任は上が取るもんだ! それより、お前はそのままサポートを頼む……」


 後輩は画面の向こうで『うん……』と頷く。俺は改めて、皆の顔を見る。


「さて、当然の事ながら、俺一人じゃ、限界がある……ので、すまんが誰か、助けて!」


 ここまで取り敢えず、神妙にしてきたが、正直、変異種の軍団なんか俺一人でどうなるかっつーの!


 そんな感じで、捲し立て、現在土下座で「誰か一緒に来てくんないか?」状態である。


 ――グニッ!


「そないな事せいでも、うちは旦那さんと死ぬまで一緒どすぇ?」


 ハオカがそう言って、俺を踏みつけてくる……。あれ? この一踏み、必要か?


 ――グニグニッ!


「あたしだって……。おじさんを守ってあげる!」


 悠莉……。だから、この一踏み要る?


 ――グニグニグニッ!


「私もご一緒します」


 愛里……。だから――グニグニグニグニグニグニッ!


「勿論、オレも――」


「私も……」


「自分もッス」


 幸夫妻、ミッチーって、野郎は踏むなよ!


 ――グニグニグニグニグニグニプニプニッ!


「ういも! ういも行くっ! かんこーのお約束したもん!」


「僕は、父上と、姫にお供します!」


「あ、うん、ついて来るのは嬉しいんだけど……」


 君らはこっち(足踏み)に来ちゃいかん!


 ――グニグニグニグニグニグニプニプニゲシッ!


「ピュイ? ピュイー」


 うん、一匹だけ蹴りまくってくる奴がいる……。


「あー、ツチノ……。俺は街の警備が有るから共に行く事は出来んが……踏んだ方が良いか?」


「いえ……勘弁して下さい!」


「俺と衛府君も研究が有るから、行けんが――」


「いえ、踏まないで……あ、いや、衛府博士は……うーん」


 ――ゲシゲシゲシゲシゲシゲシプニプニゲシッ!


「あ、ちょっと待って、冗談だから! 後、そろそろ腰が!」


 何にせよ、無事、同行者を得られて良かった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――その夜、俺と衛府博士はミッチーから呼び出しを受けた。


「どうした? ミッチー、こんな夜中に……」


「も、もしかして、告白とかかい?」


 ミッチーは「違うッス、済まないッス」と苦笑する。


「実は、相談と言うか、意見を聞いてみたいんス」


「「意見?」」


「はい、今回の事件で、変異種の発生理由とか分かったじゃないっスか?」


 俺と衛府博士は同時に頷く。


「だから……ちょっと、気になって……」


 そう言うと、ミッチーは背中に背負った剣を俺達に見せながら続ける。


「動物は魔獣になる、魔獣は変異して、えっと『伯獣』ですか? そんな存在になる……なら、人はどうなんスか?」


「ミッチー……?」


「ふむ? ふむふむ? 興味深いね……聞かせて貰おう」


 そこから、ミッチーは王都からの帰路の途中――別行動を取った日の夜、何が有ったかを語り始めた。

※2014/08/11

 「国王様」を「アルカ様」に修正。

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