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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第四章:第二陣達
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発表会

続きです、よろしくお願い致します。

 ――研究成果発表の当日。


「皆、準備できたか?」


 俺はリビングから大声を出して、皆を呼ぶ。


 朝、羽衣ちゃんとタテを学校に送り出した後、俺達は準備に追われてアタフタしていた。


「ツチノっち、オレ達は行けるぜ?」


「自分も用意できてます」


 リビングにサッチー夫妻、ミッチーの三人が入ってくる。


「あれ? 後の三人は?」


「そろそろ来ると思いますよ?」


 ダリーがそう言うと、ドタバタとハオカ、愛里、悠莉がリビングに駆け込んでくる。


「ごめんなさい、待たせてしまいましたか?」


「いや、皆今揃った所だから」


 そう言うと、愛里は「遅くなった理由なんですけど……」と気まずそうに俺達を見る。


「どうしたの?」


「えっとですね……」


「良いよ、愛姉、あたしが見つけちゃったんだし……」


 愛里が言い辛そうにしていると、悠莉がおずおずとその手を差し出して来る。


「え、何? 俺にお手をしろ、と……?」


 悠莉の手には、丁度、両手の平位に収まるサイズの鳥がいた。


 その鳥は、「ピュイピュイ」と小さく鳴くと同時に、何か水の様なモノをこちらに飛ばして来る。あれ……?


「これって、もしかして……?」


 冷や汗を流しながら、俺は頬から流れる血を拭う。


「そう、魔獣です……」


 さて、話を聞いてみた所、悠莉が朝起きると窓に小鳥が止まっていたらしい。窓を開けてみると、やたらと人懐っこい鳥で悠莉の肩に止まって「ピュイピュイ」と鳴き始めた。


 そこを、悠莉を起こしに来た愛里とハオカが見つけて「これ、魔獣じゃない?」と言う話になり、どうしようかと悩んだ挙句遅くなったらしい。


「こういう場合ってどうするのが良いのかな?」


 俺はダリーに聞いてみる。


「んー、害獣扱いの魔獣なら愛玩動物として飼う人もいますからねぇ。見た所、そんなに人を襲う様には見えませんし、飼っても良いんじゃないですかね?」


 ダリーは最後に「勿論、騎士団への届け出は必要ですよ?」と付け加える。


「え、って言うか、今、この鳥、俺に攻撃しなかった?」


「え、えっと、おじさんの気のせいじゃない?」


 悠莉が俺から目を逸らす。


「え! ミッチー、サッチー! お前らも見たよな……?」


「え、何よ? ツチノっち?」


「おやっさん、多分、気が立ってたんスよ。ほら、こんなに大人しいッスよ?」


 気が付けば、ミッチーもサッチーも鳥を撫でてご満悦だ。どっか、俺の触り方が不味かったのか? それとも、本当に気が立っていただけなのか?


「ほらほら、おじさんも撫でてみなって!」


 悠莉はそう言うと、手の平に鳥を乗せて俺に差し出して来る。


「ま、まあ、そう言う事なら……」


 少し頬が緩んでいたかもしれないが、俺は鳥を撫でようと手を伸ばす――。


 ――バシィッ!


 俺が鳥の背に触れようとした瞬間、鳥が器用にその翼で俺の手をはねのける!


 あれ? 今、攻撃されなかった? 皆の顔を見渡すが、ササッと目を逸らされる……。


「ねぇねぇ……今さ――」


 ――グニッ!


「旦那さん、飼ってもええでしょ?」


「う、い、いや、だって今――」


 ――グニグニッ!


「おじさん、あたしからもお願い!」


「え、う、う、あ――」


 ――グニグニグニッ!


「椎野さん……お願いします!」


 ――グニグニグニグニグニ……。


「うん! 良いんじゃないかな!」


 全く、皆仕っ方ないなぁ! いや、さっきから、鳥が俺に何か飛ばして来てるけど、もういいや!


「本当に、こんなので良いんだ……」


 悠莉が足の指をワキワキさせながら、若干引いてるが……まあ、良いでしょう!


 俺はルンルン、皆もルンルンで良いんじゃないか?


 ――騎士団の訓練場に到着すると、会場の準備は既に出来ているらしく、進行を確認していた寺場博士とブロッドスキーさんが出迎えてくれる。


「いや、今日はありがとう」


 寺場博士と握手を交わすと、早速最終ミーティングしたいから、後輩と繋げる様にお願いされる。


『ハイハイ、貴方の後輩ちゃんですよ……』


 やけに後輩の機嫌が悪い。どうしたのかと聞くと、今回の一連のプロジェクトの成功を祈って、昨夜から先程まで宴会状態だったらしい。


「うわ、適当な所で帰りゃ良かったのに」


『いや、ここまでの大騒ぎは久々でしたし……。いつもなら、先輩が適当な理由付けて返してくれるから、油断しました』


 後輩は頭を押さえながらも『寺場博士と代わって下さい』と言うので、寺場博士には「余り大声出さないで下さい」とだけ伝えて、電話を渡す。


 そのまま、俺達はブロッドスキーさんに、王族の方達に挨拶したいと伝え、案内して貰う。


「国王も今回の発表には期待している様だ。ビオ殿は残念ながら、王都に残ったままだが……」


 暫く歩くといつも俺が事務処理している部屋に着いた。


「あれ? 王族の方をこんな所で待たせて大丈夫なんですか?」


「うむ、一応、防御系のスキルで護っているし、案外この方が目立たないからな」


 そう言うとブロッドスキーさんは「失礼します」と言って、部屋に入る。


「おお、薬屋殿! 久しぶりだの?」


 アルカ様は俺を見つけ、久々にあった孫の様に接してくれる。俺は同じく「お久しぶりです」と挨拶を交わして、互いの近況を報告し合う。


「椎野様! 流石にそろそろ、妾にも一声欲しいですわ!」


「いや、でもアンさん、結構な頻度で家に来るから久々って気がしないんですよ……」


 苦笑しつつ、アンさんに「すみません」と詫びておく。


 実際、この王女様は地球接近以後、暇なのか良く家に遊びに来る。正確に言えば、羽衣とタテ()遊びに来る――。更に言えば、タテに至っては最近、身の危険を感じる程である。


「まぁ、それはさて置き、今日はラヴィラさんは来ていないんですか?」


「いや、来ておるし、今この部屋にもおるよ? ただ、ラヴィラは騎士団長にして儂等の護衛で来ておるからの、余り目立たぬ様に気配を消しておる……。ラヴィラ!」


「はっ!」


 国王が声を掛けると、背後からスゥッとラヴィラさんが現れる。


「のわぁっ!」


「キャッ!」


 咄嗟の事で俺と愛里が同時にビックリする。他の皆はどうやら気付いていた様で、俺と愛里だけが知らなかった様だ。


「その驚き様……。やはり、戦闘職ではないのだな……」


 ラヴィラさんはまだ疑っていたらしい……。どうやら、ある程度の技量を持った戦闘職は気配を察知できるらしい。


 俺が愛里に確認すると「私はそっちは余り得意じゃなくて……」と恥ずかしそうにしていた。


 そんなやり取りをしている内に、最終ミーティングも終わり、寺場博士が俺達を呼びに来た。


「では、行こうかの?」


 国王を先頭に、俺達は会場となる訓練場に戻る。


 ――そして、研究発表が始まる。


 発表のトップバッターは、寺場博士だった。


「今回、私が研究を行ったのは、ギルドカードの材質についてです――」


 会場がざわめく、この世界の人からすれば「何を今更」な話であるらしく、当然の如くそんな意見(と言うか、ヤジ)が飛び交う。


「この世界の人からすれば、疑問かもしれませんが、私が話したいのは、『輸出品目』としての可能性も含めた、プレゼンテーションと言い換えても良いでしょう!」


 どこに向けての、とは誰も聞かなかった――。俺達と言う前例がある以上、多少の物品の移動は可能と分かっている。つまり、地球との貿易が可能である以上、その具体的な品目に注目が集まるのは当然だ……。


 会場は静けさに包まれていた。


「さて、まずギルドカードには――」


 そこからの寺場博士の話を纏めると――。


 まず、ギルドカードの素材となった金属には、圧電効果を持っていると言う事。これは、大雑把に言ってしまえば金属に圧力を加えた際に電気が生まれる効果らしく、超音波や高電圧の発生など、主に計測機器などでの需要が高いらしい。


 また、この圧電効果は摩擦を軽減する特性も持ち合わせているため、俺の『必殺仕様』のギルドカードなどはこの特性が何らかの形で作用しているであろうと補足してくれていた。


 その他にも、スキルによる精錬のしやすさなどの利点から、高い需要が見込まれるなどを説明してくれた。


「では、最後にこの金属を利用した製品を一つ、アルカ様に献上したいと思います」


 そう宣言した寺場博士が取り出したのは、いぶし銀の光沢を放つ携帯電話だった。


 どうやら、以前後輩に「王様が携帯欲しがっている」と言ったのを聞いていたらしく、こっちの世界に来る前に、機種契約やら機材やら細かいパーツやらを準備していたらしい。まあ、最後の決め手はやはり、寺場博士に発現したスキルらしいが……。


 国王は大喜びで、早速後で俺に『報連相』を習う、と息巻いていた……。あれ、教えられるのかな?


 寺場博士の発表が終わると、次は恐怖の衛府博士の番だ。


 彼女はどうやら地球とこちらを移動できる条件について調べていた様だ、そう言えば俺達も血を取られたりしたっけ……。


「ふふ、私の番だな? 良いかい? 私が発見したのはズバリ、移動条件の一つ――だね」


 その言葉に、会場が再びざわつく。


 衛府博士が言うには、先日『抽出実験』を何度か引き当てた際に、こちらの大気の成分を調べていたらしい。


 そこで、気付いたらしい――。『窒素』がどうやっても抽出出来ず、代わりによく分からない『ナニカ』が抽出される事に。


 そして衛府博士達を含めて、地球人の血液を調べていると何か分からない成分が含まれているらしく、それが移動条件ではないかと当たりを付けているらしい。


「ここからは、完全な推測だがね? 恐らく、移動時のあの光で血液中に成分が生成されるようになり、それが『ナニカ』を『窒素』に変換している――のかどうかは分からないが、ともかく、適応させているのではないかと、私は考えている」


 衛府博士は「地球への移動も恐らく同様なのだろう」と付け加えて発表を終了する。


 衛府博士は「記念に」と言って、抽出した『ナニカ』の結晶を国王に渡す。


「あ、因みにそれ持ってると、スキルの効果が上がるみたいだよ?」


 と、付け加える事も忘れなかった。


 衛府博士の衝撃に、会場のざわつきは収まらなかったが、最後に栗井博士の番となった。


「え、あー、その、ですね……」


 栗井博士はどうにも、歯切れが悪く、汗をダラダラと流していたがやがて、ポツポツと話し始めた。


 どうやら、栗井博士はビオさんと一緒に、変異種の発生について研究していたらしい。


「そこで、発見したのです! 魔獣が変異するのは九十九匹目の同族を喰らった時だと言う事に!」


 そう言うと、栗井博士は檻に入れられた、四匹の魔獣――変異種を会場に入れる。


「この変異種達は、僕達の研究成果です!」


 栗井博士によると、この変異種達は人工的に造られたモノだと言う。


 会場からは当然、「大丈夫なのか」など、安全を心配する声が上がる。


「大丈夫です! これらの魔獣には特殊な方法で、制御可能となっております! 皆様、どうぞお近くでご覧下さい!」


 栗井博士の言葉を半信半疑と言った感じで、恐る恐る檻に近付き始める人々。しかし、檻の傍まで近づいても、変異種はビクともしない。


「おじさん、あたし、ちょっと、こう言うのは嫌な感じ……」


「私も……です」


 悠莉と愛里は不快感を隠さずに、四匹の変異種を見つめる。


「本来ならば、この場で変異種の発生原理を実演したかったのですが……」


 壇上では栗井博士が、残念そうに「申し訳ありません」と頭を下げている。


 その声を聞いた途端、愛里の肩に止まっていた鳥魔獣が「ピューイ」と一鳴きし、震えはじめた。


「無害な魔獣を変異させようと……あ!」


 壇上で言い訳を続ける、栗井博士の視線がこちらに向けられる。


「これはこれは、愛里さん! 僕の為に逃げ出した魔獣を捕まえて下さったんですか?」


 栗井博士は、そそくさと愛里に近寄ると嫌悪の表情を浮かべ、硬直する愛里から小鳥の魔獣を奪おうとする。


「え、な、何を!」


 必死で止めようとする愛里からサッと小鳥を奪うと、栗井博士は壇上に戻り、発表を続ける。


「では皆さん、ご覧下さい! 変異種誕生の瞬間です!」


 栗井博士が合図すると、水槽の様な透明な檻の中に同じ様な小鳥がもう一匹。俺達はそれを止めるために、壇上に呼びかけ、前に進もうとするが、水槽に群がっていく人と会場のざわめきに邪魔されてしまう。


「この二匹の魔獣が喰らい合えば丁度九十九匹です! こいつ等には事前に、制御方法を組み込んでありますので、ほら!」


「止め――」


 愛里が叫び、止め様とするが、栗井博士の合図で小鳥たちは互いを喰らい合い始めた。


 やがて、愛里の肩に止まっていた小鳥が、もう一匹の小鳥を喰らい終えると、大量の羽毛がその身から噴き出す――。


 やがて、羽毛が飛び散るとそこには、子供位の大きさの変異種が目から涙を流し、佇んでいた――。

※2014/08/10

 「国王様」を「アルカ様」に修正。

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