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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第四章:第二陣達
55/204

前進

続きです、よろしくお願い致します。

 ある日、俺とハオカがその日の業務を終了し、騎士団詰所から外に出ると、寺場博士と鉢合わせになった。


「薬屋君、ちょっと良いかな?」


「はい、今から羽衣ちゃん達を迎えに行くんで、その道すがらで良ければ」


「うむ、済まない」


「じゃあ、行きましょうか?」


 寺場博士の話は「一度、研究成果を報告したい」と言うものだった。


 現状、『報連相』は俺しか使えないため、どうしても俺の協力が必要らしい。しかし、研究報告、と言う事は……?


「もしかして……、栗井博士も……?」


「ああ、済まないが一度こっちに帰って来る様だ」


 寺場博士は「あいつも女性関係さえ問題無ければ……」とため息をつく。どうやら、地球にいた時も色々問題を起こしていたらしい。


「まぁ、ここまで女性に嫌われるのも初めてだろうから、逆に燃えている様でな……」


 愛里さんに今晩辺り話しておくか……。


「旦那さん、言い辛いんどしたら、うちから愛里はんにお話ししてみますけど?」


「そうだなぁ、ちょっと相談に乗って貰おうかな……」


「まあ、あんまり嫌わないでやってくれと伝えておいてくれ」


 ハオカに「よろしく」とお願いすると、そのやり取りを苦い顔で聞いていた寺場博士が「フォローしておいてくれ」と付け加える。頑張ってはみるけど、生理的な嫌悪って、どうしようもないからなあ。


「じゃあ、希望日とかあったら教えて下さいね?」


「ああ、栗井博士はもうこちらに向かっているはずだから……、彼が到着次第で良いだろう」


 まあ今のところは、栗井博士次第で良いのかな?


「因みに……。寺場博士は鉱物関係、栗井博士は生物関係として、衛府博士って、何を発表するんですかね?」


 あの人の専門がよく分からないんだよな……。それがまた、不安を煽ると言うか……。


「彼女からは「楽しみにしててくれ」としか、言われていない」


 うわ、厄介事の匂いしかしない……。


「ブロッドスキーさん達に警備の強化をお願いしておきます……」


「……すまん……」


 ここ数日は大人しいけど、それが逆に不安になる。動いても大人しくしてても、人の不安を煽るってある意味凄いな。


「口をはさむ様で申し訳あらしまへんけど、旦那さんも似た様な感じどすからね?」


 ハオカの言葉に、寺場博士も「クック」と笑いを零す。


 そんな話をしていると、羽衣ちゃんとタテのいる学校に到着する。


「あ、おじちゃんだ!」


「本当だ、父上!」


 俺の姿を見つけた羽衣ちゃんとタテがこちらに駆け寄り、羽衣ちゃんは俺の頭に、タテは腹に、それぞれタックルかまして来る。


「うごっ!」


「ほらほら、旦那さんが動けなくなってますから、タテはこっちゃにいらっしゃいな?」


 ハオカがクスクスと笑いながら、手を広げるとタテは「ハーイ」と言って、ハオカに飛び付きそのまま、抱っこされる。


「ふむ、君達は本当に家族の様に仲が良いんだな……? 俺達ももう少し、親睦を深めたいんだがなあ」


「う? ツルピカ先生、ほらこちゃん達と仲悪いの?」


 羽衣ちゃんが寺場博士に向かって問い掛ける。寺場博士は少し困った様に、頬を指で掻きながら。


「仲が悪い訳じゃないんだが……。うちの子達はどうにも、一人が好きみたいでね」


「うーん、よくわかんないけど、一人にしちゃダメだよ?」


 羽衣ちゃんにそう言われて、寺場博士は「そうだよなぁ……」と呟いていたが、まあ、後は本人達に任せよう。


「それじゃあ帰りますか……」


「お、そうか、長々とすまなかったな?」


 寺場博士は「それじゃあ」と言って、自宅に戻っていった。俺達もそのまま、自宅に向かう。


「さて、ご飯食べたら愛里さんと相談して、後輩にも電話かけないとな……」


 ――夕食後――


 愛里さんへの説明と説得は困難を極めた。


 まず、栗井博士が王都からナキワオに帰還する事に関して――。


「え、そうなんですか? じゃあ、私その日に依頼を受ける予定がありますので、日付と期間を教えて下さい」


 完全に逃亡する予定だ……。何か、暫く合わなかったせいで恐怖が増幅されてる?


 続いて、地球側、ヘームストラ王国側合同で発表会を行う予定であるため、出来れば出席して欲しいと伝えると――。


「嫌です!」


「なるべく、栗井博士は近づかせないから……」


「嫌です!」


「でも、「嫌です!」……警護の意味も「嫌です!」」


 取り付く島もない……。


「わぁ、あい「嫌です!」」


 羽衣ちゃんが、何か面白がり始めたし……。


「いち「嫌です!」……に「嫌です!」……さん「嫌です!」」


 何を言ってるのかもう意味が分からん、羽衣ちゃんと遊んでいる様にしか見えん。


「ほな、愛里はん。交換条件で旦那さんに何や言う事を聞いてもらうちゅうんはどうどすやろ?」


「イェアです……え?」


 愛里さんは既にノリで俺達の言葉に反応していた様で、羽衣ちゃんと一緒に謎のダンスを踊っていた。


「それは……何でも良いんですか?」


「……可能であれば」


 俺の回答に愛里さんは暫く考え込み、やがてハオカ、羽衣ちゃん、悠莉ちゃんを呼び、一緒になって何かを決めた様だった。


「決まりました!」


 そう言うと、愛里さんは俺に向けてブイサインを突き付ける。


「えっと、何かに勝ったの?」


「いえ、違います! 二つです! 椎野さんには、二つお願いを聞いて貰います!」


 ゴクリと喉を鳴らす、俺と愛里さん――。


「ひ、一つ目は……?」


「はい、一つ目は、その研究発表が終わったら、この家の皆で王都まで旅行に行きましょう!」


「え……? そんなんで良いの?」


「そんなんとか言うけど、おじさん、羽衣もタテも王都に行った事ないし、皆揃ってお出かけなんて、それこそこの間の博士達のお出迎えしかないじゃない?」


「ういもおーと、行きたい! そろそろ、おじちゃんは家族サービスするべきだって、うい、知ってるよ!」


 タテも言い辛そうにしていたが『家族旅行』に行きたい様で、ソワソワしている。


 ミッチー、サッチー、ダリーさんも「良いんじゃない」と言った感じだ。


「うん……分かった。のんびり観光にでも行くか!」


 俺がオーケーを出すと、愛里さん、悠莉ちゃん、ハオカ、羽衣ちゃんがハイタッチをかます。


「で、二つ目は?」


 俺が尋ねると、今度は悠莉ちゃんが俺の前に出る。


「うん、いつか言おうと思ってたんだけどさ……」


 悠莉ちゃんは俺の目を見ながら、若干拗ねた様に続ける――。


「いい加減、あたしと愛姉の事、呼び捨てなりあだ名なりで呼んで貰いたいんだけど?」


「仲間はずれはダメよって、せんせーも言ってたよ? うい、知ってるもん!」


「……椎野さん、咄嗟の時とか私達の事、呼び捨てなのに普段、結構無理して敬称付けてくれてますよね? どうしてですか?」


 そう言えば……。特に理由ないって言ったら怒るかな……?


「特に理由なかったら怒るよ?」


 うちの娘は今日も勘が冴えわたっています……。


「え、えッとだな……………………………………最初からの流れで?」


 瞬間――。拳が俺の頬を掠める。


「特に理由……ないのね?」


 俺は勢いよく、首を縦に動かす。


 だって、しょうがないじゃん! 初対面の女の子をいきなり名前呼びとか! 日々、満員電車で諸手を上げる生活をしてきたサラリーマンには難易度高いんだよ!


 ――そんな事は声に出せるはずもなく、俺は判決を待つ……。


「ま、良いわよ……。変に距離置かれているわけじゃないみたいだし?」


 判決――『無罪』!


 額の汗を拭う俺を見て、愛里さんはクスクスと笑いながら話を続ける。


「私も、悠莉ちゃんもちょっと寂しくて、悔しかったんですよ?」


 そう言うと、チラリとハオカを見る。ああ、そっか、ハオカはいきなり呼び捨てだったしな……。


「ごめん……」


「なので、今日から椎野さんには、私や悠莉ちゃんともっと、親密になって貰いたいと思います」


「分かった! じゃあ、改めて宜しく、愛里さん――じゃなかった、愛里!」


「うぁ、流石にちょっと照れますね……」


 少し顔を赤らめながら、愛里は俺が差し出した手を握り返してくれる。


「おじさん、あたしも、だからね?」


「ごめん、悠莉も……宜しく!」


「うにゃ! ちょ、ちょっと待って!」


 裕理ちゃん――悠莉も顔を真っ赤にすると、俺と目を合わせるのを避ける様にしながらも俺の手を握り返す。


 その後、悠莉は「今日は先に寝る!」と言って自室に戻ってしまった。


 愛里はその後、栗井博士の事を思い出したが「頑張ってみます」と言って、自分を奮い立たせていた様だ。


「あのー……私も「さん」付けなんですが……?」


 リビングの隅っこで膝を抱えていじけるダリーさん――もとい、幸夫人(ダリー)を宥めるのに、俺とサッチーと羽衣ちゃんが四苦八苦したのも忘れてはいけない……。

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