教徒増大
続きです、よろしくお願い致します。
地球からの第二陣が来て数日――。
第二陣の博士三人組の内、衛府博士と寺場博士はナキワオの街に研究用の建屋を用意して貰い、そこで生活、研究など行っているらしく、時折何かしらの爆発音が聞こえる。
栗井博士はあれから愛里さんにしつこくアタックしていたが、段々とやつれていく愛里さんを見かねたブロッドスキーさん、ダリーさんの計らいで、ビオさんと一緒に王都の研究室へと送られていった。
今日、俺は騎士団の事務仕事、他の皆は魔獣狩りに出かけ、久々の完全別行動をしていた。
「さてと、ダリーさん、こっちもう終わりますけど、そっちはどうですか?」
「あら、こっちも終わりますよ? じゃあ、今日は早めに上がりますか?」
どうやら、ダリーさんの方も区切りが良いらしい。
「……はっ! あら、旦那さんもダリーはんもお仕事しまいそうなんどすか? ほなら、おぶでも入れましょか」
ハオカもそんな気配を察したのか、船を漕いでいた頭をブンブンと振り、頬を二回叩くとお茶を淹れてくれる――。
俺達はハオカが淹れてくれたお茶で一息入れ、まったりと過ごしていた。
「そろそろ、羽衣ちゃん達、学校終わる頃かね……」
お茶を飲み干し、残りの仕事をちゃっちゃかと済ませて、羽衣ちゃん達を迎えに行ってみるかなと、帰り支度を終えた頃――。
「ツ、ツチノ……助けてくれ……」
突然、身体中からプスプスと煙を上げ、負傷したブロッドスキーさんが詰所に駆け込んで来た。
「ブ、ブロッドスキーさん? どうしたんですか、一体?」
「支部長! 取り敢えず、怪我の手当を……」
ダリーさんがブロッドスキーさんをソファに座らせ、スキルで傷の手当てを行う。
「すまんな……」
「いえ、それは良いのですが、どうされたんですか?」
「実は、だな……」
俺達はゴクリと喉を鳴らす。そして、次の瞬間、ブロッドスキーさんの口から出たのは――。
「衛府博士が……また、暴走を……」
「あ、お疲れ様でしたー」
「へー、旦那さん、鞄どす」
「あ、サチのパンツ買っておかなきゃ」
――何も聞かなかったことにして帰る事にした。
「待て! 待ってくれ! 本当に困っているのだ!」
ブロッドスキーさんにしては珍しく、目が死んでいる……。
「はぁ……。で、どうしたんですか?」
「おぉ……、聞いてくれるか……?」
ブロッドスキーさんから聞いた話によると、今朝方、騎士団の訓練場に衛府博士がやって来たらしい。
最初の内はブロッドスキーさんや他の騎士達にスキルを見せて欲しいと、ちょろちょろ動き回り、ブロッドスキーさん達としては、「ちょっと、騒がしいな」程度だったとの事……。
衛府博士は昼飯を食べ終え、訓練場に戻ると「私もスキルの練度を上げた方が良いのかな?」と呟き、訓練場のど真ん中でいきなりスキルを発動させたらしい。
最初は『燃焼実験』――これは、博士の周囲でカラフルな炎が燃え上がり、花火の様で騎士達に好評。
次に『風洞実験』――博士の周囲に横長の結界が展開され、その内部で暴風が巻き起こり、結界に閉じ込められた騎士達数人が街の外まで吹っ飛ばされた……。この辺りから、ブロッドスキーさん達は『やばい』と思ったそうだ。
続いては『再生実験』――訓練場上空から、大量の刀剣が降り注ぎ、騎士達数名は怪我を負い、実験終了と共にその怪我は回復した……。
最後に『思考実験』――訓練場の地面がマグマの様に真っ赤に染まり、その中でブロッドスキーさん達は、何故か延々とダンスさせられていたらしい。
「何が怖いと聞かれれば、全ての現象に於いて衛府博士自身も巻き込まれ、尚、嬉々としてスキルを発動させていた事だ……」
ブロッドスキーさんは本当にげんなりとした表情を浮かべて、首を横に振る……。
「しかも、本人は制御するためにスキルの練度を上げようとしているらしいが、ランダムに起きる現象をどう制御すると言うのか……」
確かにな……。あれ、『xx』部分がスロットで決まるって、完全に衛府博士の性格に影響受けてるよな……。
しかも、衛府博士本人が、吹っ飛ばされても、怪我を負っても、喜んで受け入れそうだしな。
「で、俺達にどうしろって言うんですか? 正直、俺はアレをどうこう出来る自信無いですよ……?」
俺がそう言うと、ブロッドスキーさんは「そうだな……」とため息を吐く。
「ただ、誰かに愚痴を聞いて欲しかったのかもしれん」
ブロッドスキーさんは、ソファに寝そべり「疲れた……」と呟いた後、眠りについた。
「うわぁ、こんな疲れたブロッドスキーさん初めて見るな……」
「私も初めて見ますよ……」
「旦那さん、どないします?」
さて、本当にどうしようか……? 正直、言って聞く様な衛府博士じゃない気がする。でも、何で今日に限ってこんな暴走を……?
「よし、寺場博士に相談してみよう」
俺は早速、寺場博士に電話する――。
――プルッ。お、ワンコールで出た。
『ラッセラ? ラッセーラ!』
――ガチャッ!
俺は即座に通話を終了する。
「ダリーさん……? 今日、寺場博士ってどこに行ってますか?」
「うん? 確か、鉱山見学に行くと言っていたような……」
「それでかぁぁぁぁっ!」
謎は大体解けた! あのアマ、寺場博士がいない間に色々試しておこうって魂胆か!
「良し……! ブロッドスキーさん、起きて下さい! 対策考えましたよ?」
「っ! 本当か!」
ブロッドスキーさんは眠りが浅かったのか、俺の言葉に反応し、即座に起き上がる。
――その夜。
「んみゃ、んやんや! 私が悪かったって、ゴメンナサイ! もうしませんから!」
「ラッセラ! ラッセーラッセラ! ッラッセーラ!」
「頼むから、ちゃんと言葉を話してくれ! 何だ、それ? 怖い、怖いから! やめてよ、寺場博士!」
場所は寺場博士と衛府博士の研究施設――。
現在、衛府博士は天上から吊るされ、寺場博士から説教(?)を受けている。
結局俺達が取った対策は最初の予定通り、寺場博士に丸投げだ。
どうやら、寺場博士に鉱山見学を提案したのは衛府博士であるらしく、計画的な犯行だった様だ。
ただ、衛府博士の誤算は、単純に「後でバレたらどうなるか?」を考えていなかった事だ。いや、考えておけよ……。
しかも、今の寺場博士は鉱山見学による影響で何言ってんだか分かりゃしない……。衛府博士は、この状態が異常に怖いらしい……。
「ふむ、近いうちに騎士団連中を鉱山に行かせるかな?」
「いや、いやいやいや? やめて、もう分かったから!」
うわ、ブロッドスキーさんがすっげぇ良い顔してる。
「あ、そうだ。丁度良いから、街の都市伝説にしますか? 『悪い子はラッセラに喰われるぞ』って感じの奴」
冗談で言ったつもりだったが、ブロッドスキーさんもダリーさんも「その手が!」って顔をしてる。
――その後、数時間ほど寺場博士による説教(?)が続き衛府博士の泣き叫ぶ声がナキワオの街に響き渡った。




