セカンド・エクセプション
続きです、よろしくお願い致します。
無事、地球からの調査チームを迎え、襲って来たミミズ魔獣達を撃退した俺達一行は、馬車に乗ってナキワオの街までの帰路についていた。
「ん……、あれ? ここは?」
馬車が一度大きく揺れた衝撃で、寺場博士が目を覚ます。
「……おじさん……何か、ごまかしてね?」
ダラダラと冷や汗を流しながら、悠莉ちゃんが小声で俺にお願いしてくる。
「え、ちょっとそりゃ無いよ……!」
「んん? 寺場博士、目が覚めたかい?」
「ん? 衛府君……? 俺は一体……?」
「いや、疲れてたんじゃないかな? 私が気付いた時にはおねんねしてたよ?」
うぉ、この人、平然と嘘つきやがった……!
俺と悠莉ちゃんは、嫌な汗を流しながら寺場博士の次の言葉を待つ――。
「そう、か……。いや、すまんな、どうにも変な夢を見ていた様だ」
「ふむ? 気にしないで良い。それより、もうすぐ街に着くそうだよ? ああ……。未知の土地での初めての出会い……」
「「……セェーフ……」」
悠莉ちゃんと二人で胸を撫で下ろしていると、博士二人は外の風景を観察し始めた。二人供、ワクワクする気持ちが抑えられないらしく、年甲斐もなくはしゃいでいる。
一方、対応に困るのが二人いる……。一人は、意気揚々と地球行きを楽しみにしていたのに、一人だけ取り残されてしまったこちらの世界の生物学者――ビオさん。
ビオさんは、ミミズ魔獣に襲撃される前からずっと、虚ろな目をしてブツブツと何かを呟いている。馬車に乗せる時に聞こえて来た言葉は「嘘だ……嘘だ……」だった。正直、何と声を掛けて良いか分からず、放置してしまっている。
もう一人が、悠莉ちゃんに「うるさい」と殴り飛ばされた地球からの調査チーム最後の一人、イケメン博士。そう言えば、この人の名前をまだ聞いてない。
「はい、皆、集合……」
俺は外を見てはしゃぐ博士二人に聞かれない様に、コソコソと皆を呼び寄せる。
「第一回、あのイケメン博士をどうやって誤魔化すか考えるサミットの開催です」
俺の頭の上で羽衣ちゃんが「わぁー」と拍手をして、盛り上げようとしてくれる……。ただ、俺の友達を手で巻き込むのは勘弁な?
俺が羽衣ちゃんを引き剥がして抱っこすると、悠莉ちゃんが何かを思いついた様に手を上げる。
「はい、悠莉ちゃん……」
「さっきの寺場さんと一緒で適当な事言っちゃえば?」
「殴った張本人がそれ言っちゃ駄目、出来ればその案は他の人から出て欲しいなぁ?」
俺がチラチラと他の皆を見ると、皆、目を逸らす。
「すいません、椎野さん……。私、ああ言うタイプの男性って、苦手で……」
「オレも、イケメンはちょっと……」
「私もああ言う、しっかりした人はちょっと……」
愛里さん、サッチー、ダリーさんの意見だが、愛里さんがここまでハッキリ苦手って言うのも珍しいな……。そして、サッチーは驚愕の表情を浮かべてショックを受けている……。
「サッチー、安心しろ。ダリーさんは遠回しにお前が好みのど真ん中だと惚気ている……チッ!」
サッチーは「え、そうなん? よっしゃ……あれ?」と言いながら中途半端な万歳をしている。
まあ、あそこの二人は置いておいて……。
「で、他に良い案、無い?」
俺は残りのメンバーを縋る様に見つめる。
「ツチノ……すまん、流石に俺が言い訳するのは、王国として不味い気がする」
「妾も同じく、ですわ……」
「ブロッドスキーさん、アンさん……。まあ、それはそうですね」
「さて、じゃあどうやって誤魔化そうかな……?」
俺が頭を捻っていると、ハオカが立ち上がり溜息を吐く。
――グニッ!
「旦那さん……? 黙っていようかと思っていましたが、なんでうちらが謝る必要がありますか? あのぼんさんのせいで、うちらは碌な準備も出来んと戦闘に入った言うても過言ではあらへんよ? なら、まずあのぼんさんがしはる事は、うちらに対しての謝罪であって、うちら――ましてや旦那さんが謝る必要は一切おまへん!」
ハオカは俺の頭をグリグリと踏みつけながら、怒り心頭でまくし立てる。
ああ、結構、腹立ってたんだな……。後、俺を踏むのは何で? ご褒美? 慰め?
「ハオカ姉さん、その位で……」
タテが俺が踏まれるのを、ハオカが俺に対して怒っていると勘違いしたのか、「まぁまぁ」と引き剥がす……。
「あ……。ま、まあ、ともかく「あ、起きるみたいよ」……ハア……」
俺がどうしようかと、話を戻そうとするともぞもぞとイケメン博士が起き出して来た。
「ん……? 僕は一体……?」
イケメン博士は周囲をキョロキョロと伺いながら、頭を押さえて記憶を手繰ろうとしている様だ……。
「あ、あんた、ぼうっとして、魔獣に襲われそうになってたから咄嗟に突き飛ばして助けられたのよ――おじさんに……」
イケメン博士が、その時の事を思い出したかのように「はっ」となった瞬間、悠莉ちゃんがそんな事を言い出した……。ご丁寧に俺が突き飛ばした事にしやがった! この娘……。
イケメン博士は自分の記憶と食い違いがあるせいか「えぇ?」と首を傾げていたが、周りの皆が「そうそう」とまくし立てたお蔭で遂に「あ、ありがとうございます?」と俺に対してお礼を……。
「うふふふふ……」
お蔭でハオカはご機嫌になったが、俺はどうにも居心地が悪い。
「おじさん……。分かってるわよね?」
悠莉ちゃんが、シャドーしながら俺に優しく、諭す様に言い含める。
「はい……」
まあ、特に害はないし、良いか……。
「ふむ……。全員揃った事だ、そろそろ来客の名前くらいは聞いておきたいのだが……?」
ブロッドスキーさんが、イケメン博士に対する件がうやむやになったのを核にし、互いの自己紹介を提案してきた。
「じゃあ、俺から――」
俺は手を上げ、自分の名前とジョブを説明する。他の皆もそれに合わせて、名前、ジョブの順で自己紹介を進めていく。
「おじちゃん、おじちゃん、うい、まだジョブないよ?」
羽衣ちゃんが自分の番が近づき、ハッと気づいた様に俺にひそひそ話を持ちかけてくる。
「あ、そうだなぁ、じゃあ、将来なりたいジョブで良いんじゃないの?」
俺が羽衣ちゃんにそう答えると、羽衣ちゃんは腕を組んで暫く唸っていたが、やがて「分かった!」と言うとそのまま立ち上がった。
「すあかり ういです。おっきくなったら、おじちゃんと同じ『サラリーマン』になります!」
羽衣ちゃんが自己紹介――と言うより宣言すると、ダリーさんがその姿をサッチーの携帯で納めていた。うん、平常運転。
羽衣ちゃんの宣言を最後に、次は新規の三人の自己紹介が回って来た。
「僕は、栗井 孝人、三十二歳だ! 今回生物学者の代表として、地球から派遣されてきました。どうぞよろしく」
イケメン――栗井博士は、左手を腰に、右手を前にと言うきざったらしいポーズで、俺達――と言うよりか、愛里さんに向かって挨拶している。
「うわぁ……」
悠莉ちゃん……! 思った事をそのまま口に出しちゃ駄目!
俺は悠莉ちゃんに向けて、口のチャックを閉める様な動作をする。悠莉ちゃんは手で「ムリムリ」と反論する。
そんな事をやっていると、栗井博士はまだ自己紹介を終える様子はなく、馬車に揺られてフラフラしつつ、愛里さんの元に近付くと「以後、よろしく」と言って、その手に口を近づけようと――。
「ひっ!」
近づけようとして、愛里さんに突き飛ばされていた。
ラッセラに担がれても、「姐御」と呼ばれても苦笑いで済ませていた愛里さんにしては珍しく、その顔は黒きGを見た時と同じ様な表情を浮かべていた。
「え……。愛里さん?」
俺を含めて皆が呆然としている。
「え、あ、ああ……。照れてしまったんですね……。奥ゆかしい方だ。そんな所もまた麗しい……」
栗井博士は、愛里さんのその一連の行動を照れと考えたのか、髪をかき上げてポーズを取っている。それを見て、愛里さんがまた顔を歪める――。
「あ、愛里さーん?」
俺は意を決して、愛里さんに近付いてみる。
「ムリムリムリムリ……。キモイキモイキモイキモイキモイ……」
「あ、愛里さん! しっかり!」
どこかにトリップしかけていた愛里さんの肩を掴んで揺さぶると、愛里さんは「あ……」と意識を取り戻し、俺に話してくれた。
「私……、昔からああ言う、自意識高い男性に付き纏われる事が多くて……。正直、苦手と言うか……」
言い辛そうにしていたが、愛里さんは最後にぼそりと「生理的に受け付けられないんです……」と呟いていた。
「い、いや、僕は貴女が今まで見てきたような凡俗とは違う!」
「あ、すまん、次、俺の番だから! ちょっくらごめんよ?」
「んなっ! じ、寺場博士? ちょっと……!」
馬車の中は何とも言えない空気になり、栗井博士が性懲りもなく愛里さんに近付こうとしたが、寺場博士が栗井博士を押しのけ、自己紹介を始める事で何とか持ち直す事が出来た。
「薬屋君には先ほども挨拶したが、俺は鉱物学者の寺場久利だ。この三人の中では最年長の四十六歳だ。まぁ、よろしく頼む」
寺場博士はツルツルの頭をペチンと叩き、白い歯を見せてニカリと笑うと、俺達と順番に握手を交わしていく。途中、ミッチー、ブロッドスキーさんと握手した時に筋肉を見せ合っていたのは何だったんだろう……。
「んん? 私の番かな? そうみたいだね。では、自己紹介といこうか! 私は衛府 洞子! 花も恥じらう、サイエンティストさ! 十九歳のバリバリ生娘だ! 以後、よろしく!」
衛府博士はそれだけ言うと、隣の寺場博士の頭をペチペチと叩く。寺場博士は「こら、やめないか」と言いつつも、慣れているのか無理に止めはせず、諦めの表情を浮かべている。
「まあ、本当は後五名ほど、こちらに来る予定だったんだが……」
寺場博士はそこまで言うと、気まずそうに膝を抱えるビオさんを見る。
衛府博士はその視線を追いかけ、ビオさんを見ると「おお、そう言う事?」と叫び、目を輝かせ始める。
「何? 何々? あなた、こっちに取り残された人? 本当に?」
「こ、こら、衛府君……」
はしゃぐ衛府博士を寺場博士が取り押さえようとすると、今まで膝を抱えていたビオさんが勢いよく立ち上がった。
「――っ! そうですよ! 悪いですか? 私だけ……取り残されたんですよ! そうさ……私は、何の役にも立たない間抜けだったんだ……」
ビオさんはそう叫ぶと崩れ落ち、再び膝を抱えようとする。
「ん? んん? いやいやいや? どうしてそうなるんだい? 二つの星を渡ったものと渡れなかったもの、両方のサンプルが折角揃ったんだ! 全員が渡れるより、よっぽど有益じゃないか! 何を言ってるんだ、君は?」
衛府博士はそう言うと、「ひゃひゃひゃ!」と笑いながら、ビオさんの肩をバンバンと叩く。
ビオさんは暫くポカンとしていたが、やがて「フッ」と笑うと立ち上がって「そうですよね……」と呟いていた。
その顔は既に晴々としており、先程までの死んだ目が嘘であったかのように活き活きとしていた。
「……凄い、ですね、彼女……」
「だろう?」
俺が呟くと、寺場博士は「自慢の娘だ」と言わんばかりのドヤ顔で答えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
やがて、馬車が街に着くと俺達はそのまま、ギルドに向かう。新しく来た三人のジョブ獲得を行うためだ。
「あ、お待ちしていました」
ギルドに入ると、ウピールさんが俺達を出迎えてくれた。ウピールさんはそのまま、以前、俺達が『天啓』を受けた部屋まで案内してくれる。
「さて、既に聞いているかもしれませんが、皆様にはこれ「良いから!」……え?」
ウピールさんが博士達三人に『ジョブ』と『天啓』の説明を開始しようとすると、それを遮り衛府博士が「早く!」と急かす。
「あ……。すまない、だが、大体の説明はそこのサラリーマン君の後輩ちゃんから聞いているんだ……。正直、私はもう、もう待ちきれないんだ! 早くその儀式に入ってくれ!」
衛府博士は、目をキラキラと輝かせながら「ハァハァ……」と鼻息荒くまくし立てる……。ウピールさんはそれを見て、苦笑いすると、「じゃ、じゃあ始めましょうか」と『天啓』を行う事を宣言した。
「だから君は落ち着けと言うに……。えっと、栗井君……済まないが君からどうぞ。俺は衛府君を少し、説教してくる」
そう言うと、寺場博士は衛府博士をその場に正座させ、本当に説教を開始する。
俺達はそれを苦笑いで見ながら、栗井博士を「どうぞどうぞ」とウピールさんの前に座らせた。
「それでは『天啓』を始めます。あ、普通に適性ジョブが見えますね……。これは、ビオさんと同じで『生物学者』ですね……」
ウピールさんが呟くと同時に、水晶が輝き始める――。
水晶の輝きがひときわ大きくなり、その光が収まると、栗井博士の手にはグレーの金属プレートが握られていた。
「お、おぉ……これが……」
栗井博士は暫く金属プレートを眺めていたが、ウピールさんが例の如く「一旦預かりますね」と言うと大人しくプレートを渡す。
「この様に特に危険は無いので安心して下さいね?」
ウピールさんがそう言うと、寺場博士はコクリと頷く。その膝の位置辺りでは衛府博士が物凄い勢いで首を振っている。
「では、次は俺が行こう」
寺場博士が前に出ると、衛府博士が「えー、ずるい」と言いかけていたが寺場博士に一睨みされると大人しくなる。
「何か……あたし達とおじさんを見てるみたい……」
悠莉ちゃんがぼそりと呟く。
「ああ、衛府博士、歳もそんなに悠莉ちゃんと離れてないみたいだし」
「いや、勿論、あたし達が寺場博士の立場に決まってるじゃない?」
俺が「自分と重ねるのも分かる」と言おうとすると、悠莉ちゃんがそれを察してか「説教されるのはおじさん」と主張してくる。
「え、嘘! そっち? ち、違うよね?」
皆、俺と視線を合わせてくれなかった……。
そんなやり取りをしていると、いつの間にか寺場博士の『天啓』が終了していた。
「寺場さんは、『鉱物学者』ですね。これも、こちらでは一般的な非戦闘職ですよ?」
ウピールさんが解説してくる。どうやら、地球でもこっちでも学者がやる事はそんなに違いが無い様だ。
「ふむ? ふむふむ……。どうやら、地球でもこっちでも学者は変わらないらしい……と」
俺が考えている事と同じ様な事を隣で呟く衛府博士……。さっき悠莉ちゃん達に言われた事がフラッシュバックする……。えぇ……俺こんな感じなの?
「それでは、お待たせしました。洞子さん、どうぞ……」
「ハイッ! ハイハイ!」
衛府博士は「待ってました」と言わんばかりに、ウピールさんの前に飛び付く。
「そ、それではこちらの水晶に手を「はい!」……置いてますね」
ウピールさんが若干引き気味であるが、『天啓』を開始する。
「あら……? 洞子さんのジョブに靄がかかっていますね……? すいません、洞子さん、あなたのジョブはどの様なものだったんですか? 大体で良いので教えて下さい……」
「ん? んん? 答えればいいのかな? 私の仕事は、知識を探し求め! 自らの好奇心を満たし! その結果得た知識と技術を使って新たな未知を切り開く! そんなお仕事さ!」
衛府博士がそう答えた瞬間――水晶が眩く光り出す。
水晶から出た光はやがて、ヘドロの様にドロドロとした感じを醸し出し、衛府博士を包み込む――。
「うわぁ……」
「こら、悠莉ちゃん……こっちを見ないで」
やがて光が収まると、衛府博士の手には紫色に光る金属プレートが握られていた。
「えっと、洞子さんのジョブは……『マッドサイエンティスト』ですね……」
「「「「「「うわぁ……」」」」」」
悠莉ちゃん、愛里さん、ミッチー、サッチー、ダリーさん、ブロッドスキーさんが衛府博士と俺を見比べながら疲れた表情を浮かべている。アンさんだけが「えっ、何ですの?」とオロオロしているが、正直、他の皆――特に地球組の視線が痛い……。
――この日、第二の新ジョブ『マッドサイエンティスト』が誕生した……。




