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大・出・張!  作者: ひんべぇ
プロローグ
5/204

ビギンズナイト

続きです。

 天上に地球を見るという、レアな経験をしてしまってから、約二時間。


 俺達は今、ナキワオの街の騎士団詰所にいる。


 そこで簡単な取り調べを継続中だ。


 あの後、結局俺達は茫然自失といった感じで、まともにダリーさんの質問に答えられなかった。


 ようやく俺達が立ち直ったのは、街についてからだった。


 自分の名前や年齢など、簡単な事情聴取が終わった俺達を待っていたのは、ダリーさん達の報告によって事情を把握した、騎士団の支部長さんとの面談だった。


「さて、まずは騎士団として、君たちに再確認したい事と、知らせておかねばならない事が幾つかある」


 こうして、俺達に説明会を開いてくれているこの人は、騎士団支部長(この街の騎士団の中では一番偉い人らしい)のジェイソン・ブロッドスキーさんだ。スキンヘッドとがっしりとした体格からか、騎士と言うよりは軍曹ってイメージがしっくり来る。


「まず、君たちが『地球』と呼んでいるあの星の事だが、我々は、あの星の事を、はるかな昔より『幻月』と呼んでいる」


「昔から……ですか?」


 ちょっとした俺の疑問に頷きつつ、ブロッドスキーさんは話を続けてくれる。


「あぁ、昔からだ。まぁ星とは言っても、半透明である事から、我々はあれを何らかの理由によって生じた、蜃気楼の様なものと考えていた。しかし今回、その『幻月』が動き出し、地面に落ちるという異常事態が発生した。我々、ナキワオ支部の騎士団は、それを何らかの凶兆かと考え調査隊を派遣する事にしたんだ。まぁ、調査としては、原因も不明、影響も不明、月も元の位置に戻るという、よく分からないとしか言えない結果になってしまったが……」


「でも、そのお蔭で、俺達は命を拾う事が出来ました! お礼になるかは分かりませんが、俺に協力出来ることがあれば、遠慮なく言って下さい」


 気まずそうに顔を俯けるブロッドスキーさんに、俺がそう告げると。俺に続いて、愛里さん、三知君、幸君が、続けて言う。


「おじさまだけじゃないです。私達も協力します」

「うっす、自分、頭はあんま良くないっすけど。分かる事なら、何でも答えるっす」

「マジでぱねぇっすよ」


 若干一名、会話しようぜ? って奴がいるが、本当に彼らが調査に乗り出してくれてなければ、俺達、というか俺は確実に死んでいたのだ。そりゃあ、生死にかかわる事でなければ何でも協力するつもりだよ。あ、因みに、悠莉ちゃんと羽衣ちゃんは、疲れて寝落ちしちゃいました。まぁ、仕様がないよね。


「そうか……感謝する」


 ブロッドスキーさんは、俺達に頭を下げた後話を再開する。


「それでは、君たちに確認したい事なのだが……まず君たちは、あの『幻月』、いや『地球』に住んでいた。これに関しては、間違いないかね?」


 皆で頷く。


 ピカー! と、真偽の器が青く光る。


「なるほど、これは驚きだ……」


「すいません、話の腰を折る様で申し訳ないのですが、少し、質問しても宜しいでしょうか?」


 ブロッドスキーさんが、何やら感心していると、俺の隣に座っていた愛里さんが、意を決した様に手を挙げて質問を始めた。


「あぁ、かまわないよ。どうぞ」


「ありがとうございます。その真偽の器を見て重いんだしたんですが……森の中でダリーさんがおじさまを治療していた時に、手が光っていた様に見えたんですが……あれは一体、何だったのでしょうか?」


 愛里さんの質問を受けたブロッドスキーさんは、少し満足そうに頷いた後、その質問に答えてくれた。


「うむ、丁度その事に関する話もしようとしていたんだ。ダリーからの報告で、君たちは魔獣を知らないと聞いていたから、もしかして、と思っていたんだが……地球には魔獣やスキルが存在しない、もしくは既に失われている。そうじゃないのかね?」


「はい、本当の所どうなのかは、正直知らないとしか言えないのですが、少なくともここにいる我々の知る限りでは、どちらも存在してないと思います」


 ブロッドスキーさんの問いかけに、俺が代表して答える。


「やはりか……ならば、まずはこちらの世界の事を私が今、思いつける限りで話しておこう。その上で、地球との違いなどを判断して欲しい」


 そう告げると、ブロッドスキーさんは、今俺達がいるこの世界の事を「ヘームストラ王国の民としてだが」と前置きして話してくれた。


 まず、俺達がいるのは、ヘームストラ王国という国にある、ナキワオの街だという事。


 この世界には、スキルと呼ばれる技能が存在する事。


 スキルは、個人の素養である『ジョブ』をとある方法で獲得すると習得可能な状態になるという事。


 魔獣とは長生きした動物が突然変異したもので、俺達が出会ったラッコ男は、魔獣になってから更に何十年、何百年という年月の間、生き続けた変異種だろうとの事だった。


「さて、大体の事はこんな感じだ。何か質問はあるかね?」


 説明を終えたブロッドスキーさんは、俺達一人一人の顔を見ながら、確認してきた。


 すると、悠莉ちゃんがスッと手を挙げた。ていうか、起きてたのか……


「あの……スキルって、あたし達にも使える?」


 ブロッドスキーさんは、少し迷いながら。


「正直、分からんとしか言えん。先ほども言ったが、スキルを使うにはジョブの獲得が必須だ……しかも、ダリーの様に実用的なスキルを使えるのは、それ相応のジョブとなる必要がある。例えば『商人』と言うジョブであれば、使えるのは商売に関する直感を微妙に高めるスキルなどだ。一方ダリーは『聖騎士』と言うジョブなんだが、これは、攻撃、防御、治癒などのスキルを使う事が出来る。君たちが望むスキルを使えるかどうかは、ジョブ次第だな。まぁ、そもそもジョブが獲得可能かどうかも分からんから、あまり期待はしないでくれ」


 と、答えてくれた。


 俺は、ちょっとした好奇心から。


「ブロッドスキーさんは、どんなジョブなんですか?」


 と、質問してみた。


「ん? 私のジョブは、『エクスキューショナー』と言って、遠距離攻撃のスキルは使えないが、強力な自己強化を行えるジョブだ」


 おぉ、強そう……この人には逆らわない様にしよう。


「よし、質問は以上かな?」


 俺達は、頷く。


「ならば、明日の君たちの行動予定について説明しよう。まずは、明日の朝、ギルドという施設に行き、ジョブが獲得できるかの診断を行う。ジョブが獲得可能であれば、そのままジョブを獲得してもらう。その後、身分証明となるギルドカードを発行して貰う。ここまでは、宜しいかな?」


 俺達は再び頷く。


「うん、それでは、もしジョブが獲得出来れば、そのジョブに応じて我々からアドバイスさせて貰おう、その後にどの様な行動を取るかは、基本的に自己判断に任せる。ただし、我々は本国に対し今回の件の報告を行わなければならない。当然ながら本国の決定次第では、君たちには王都に行って貰う事になるだろうから、申し訳ないが、暫くはこの街で生活して頂く」


 ブロッドスキーさんは、もう一度「申し訳ない」と言いながら、俺達に同意を求めてきた。


「すみません、もしジョブが獲得出来なかった場合はどうなるのでしょうか?」


 俺は、ふと気になったので聞いてみた。


「その場合は、本国に保護を申請するから、心配しないでくれ」

 

 俺達は、「国に保護して貰えるなら」と、彼の提案に乗る事を承諾した。


 そして、一連の説明が終了する頃には、外はすっかりと暗くなっていた。


「あ、すいません。俺達って今晩はどうすれば良いですか?」


 俺が寝床について、質問すると。


「あぁ、流石に急なことで宿が空いていなかったんだ……申し訳ないが君たちには、暫く騎士団の宿舎に宿泊してもらう事になる。大丈夫、施錠の魔具が各部屋についているから、安心して寝て貰えると思うよ。まぁ、多少ベッドが固いのは我慢してくれ……」


 と、答えてくれた。


「何だか至れり尽くせりで……本当、ありがとうございます」


 俺がそう言うと、ブロッドスキーさんは、照れ臭そうに微笑みながら「気にするな!」と言ってくれた。


 そうして、暫くブロッドスキーさんと談笑していると、ダリーさんが先ほどの甲冑姿から着替え、村娘といった感じの格好で俺達を迎えに来た。


「皆さん、宿舎の用意が出来ましたのでご案内します」


 ダリーさんと、ブロッドスキーさんについて行くと、詰所から宿舎までは、歩いて五分ほどという距離だった。どうやら、宿舎は男女別棟となっているらしく、入り口で別れ、その後はダリーさんとブロッドスキーさんにそれぞれ部屋まで案内して貰える事になった。


 それじゃぁ、お休み! って所で……


「あ、おじさま! ちょっと待って下さい!」


 愛里さんに呼び止められた。と、言うか「おじさま」に反応してブロッドスキーさんが自分が呼ばれたと勘違いしちゃってるし。


 愛里さんは、悠莉ちゃんに何やらボソボソ話しかけると、こちらに近づいてきた。それに、続く様に悠莉ちゃんもこちらに来ると、グッと俺の目を見て。


「あ、すいません。その、おじ……椎野さん! とお呼びしても宜しいでしょうか?」


 と聞いてきた。おぉ、美女から下の名前で呼ばれるって、なんかむず痒い……


 俺がそんな事を思いながら「うん、ぜひ」と言うと、愛里さんは柔らかく微笑みながら俺に頭を下げた。


「私、椎野さんにまだお礼を言ってなかったので……遅くなってしまいましたが、今日は二回も助けて頂いて、本当にありがとうございます」


「いえいえ、どう致しまして……って二回?」


「はい、一回目はスーパーの駐車場で星が迫って来た時です。椎野さんは忘れてるかもしれませんが、あの時椎野さん、私と、羽衣ちゃんと、羽衣ちゃんのお母さんを迫ってくる星から庇おうとしてくれてたんですよ?」


「あれ? そうだっけ? 正直、あの時の事は、テンパってたからよく覚えてないだよな……」


「くすっ。二回目は、あの森の中です。本当にありがとうございました」


 そう言うと、愛里さんは再びぺこりと頭を下げ、踵を返しダリーさんの元に戻っていった。そして、今度は悠莉ちゃんが俺の前に立って、顔を真っ赤にしながら、「よしっ」と呟いた。


「あの、あたしもお礼が言いたくて……その、ありがとうございました! おじさん」


「どう致しまして……」


 俺に礼を言って、ニパっと笑った彼女を見て、不覚にも俺は見惚れてしまった。この子、笑った時に見える八重歯が可愛いな……


 いかん、いかん、俺はこの子達の保護者だ!


「もういいから、今日はゆっくり休みな?」


 我に返った俺がそう言うと、彼女は再びニパッと笑い、「お休みなさい、おじさん」と言って、待っているダリーさん達の元に戻っていった。


 そんな彼女達の背中を見ながら俺は、隣に立っているブロッドスキーさんに向けて言った。


「俺……ちゃんと皆を助けられたんですよね?」


「あぁ、君は……いや、ツチノは漢だ! 胸を張っていい!」


「おっさん、いや、薬屋さん! 自分も助かりました。本当にありがとうございます」


「ツチノっち、マジでぱねぇよ」


「ミッチー……サッチー……」


 ブロッドスキーさん、三知君、幸君が俺に答えてくれた。どさくさ紛れに三知君と幸君のあだ名を決めたのは、ご愛嬌だ。


 そして、俺は改めて、達成感と嬉しさ、そして少しの喪失感を感じていた……


「実は俺、『おじさま』って言われるの……ちょっと嬉しかったんですよ」


「ああ、その気持ちは良ーく分かる……」


 そんな軽口を叩きながら、俺とブロッドスキーさんは固い握手を交わした。何故か、ミッチーとサッチーはそんな俺らを見て、涙を浮かべながら小さな拍手をしてくれた。うん、自分でもなんでこんな事してんだか良く分からん、今日はもう寝よう……


 そして、俺達も部屋に向かおうとした所で、今度はダリーさんがこちらに走ってくる。


「すいません! 今、気付いたら、羽衣ちゃんが居なくなってたんです……け、ど……」


 そう言うと、何かに気付いたのか、ダリーさん、ブロッドスキーさん、ミッチー・サッチーがこちらを見てくる。正確には俺の頭を……


「あぁ、何かすっかり慣れてしまってた……」


 そう、羽衣ちゃんは俺に肩車され、俺の頭をがっしり掴んだまま眠りこけていた。


 それを見たダリーさんは、ふにゃりと顔を緩めつつ、言った。


「あぁ、可愛い……堪んない……」


 何か、ダリーさんのキャラが良く分からん……


 俺と三知幸コンビが呆気にとられていると、ブロッドスキーさんが一つ咳払いをして。


「ダリーは、その……見ていて不安になるほど、大の子供好きなんだよ……こうなると、もう自分を取り繕う事もしなくなる……騎士としては、優秀なんだが……」


 気まずそうに呟く、ブロッドスキーさんに「大丈夫ですよ」と言って、ダリーさんに向き直り。


「ダリーさん、申し訳ないんですが、今晩はこの子をダリーさんの部屋に泊めてもらって良いですか? 俺、寝る前に煙草吸いたいんでそうして貰えると助かります」


 俺がそういうと、ダリーさんは目を大きく見開き、鼻息を荒くしてから、「ま、任せてくださいんぁ」と言った。うん、正直、興奮しすぎだよ……


「では、お預かりします」


 ダリーさんは手早く羽衣ちゃんを抱っこすると、そのままスキップしながら廊下の奥に消えていった。……あんまり上下すると起きるぞ、あれ……


 まぁ、そんなやり取りを最後に、ようやく俺達に用意された部屋にたどり着いた。


 部屋の中で俺は、煙草を一本取り出し、火をつけると、部屋の窓を開けて窓から空に見える地球を見て一言、「疲れたー」と呟き、そのまま、煙草を吸い切るまでお月見ならぬお地球見をしていた。


 さて、明日からはどうなるんだろうなぁ……っていうか、会社、無断欠勤になるのか? やべぇ、地球帰った時、クビになってんのかなぁ……そもそも、どうやって、帰ろう……


 そんな事を考えながら、俺の意識は沈んでいった……

一先ず、プロローグ部終了です。

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