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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第四章:第二陣達
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姉弟遊戯

続きです、よろしくお願い致します。

 ――地球再接近予想日まで、残り約二週間。


 ナキワオの住人達から密かに『リーマンハウス』と呼ばれている椎野達の住む家で、現在二人の人物がとある会議を開いていた。


「そんなら、タテ……? うちがお留守にしとった間の報告を聞きまひょか?」


「はい……どうぞ……」


 タテがハオカに一冊の本を渡すと、ハオカはそれを静かに読んでいた――


「タテ? ここに「クリスと名乗る冒険者に父上の立派さを話してあげた」と、書いてありますが……?」


 その本――タテの日記帳には、椎野達が留守の間に何が起こったかが書かれている。


 ハオカが目を止めたのは遠足前日の日付――クリスがタテ達に接触し、椎野達の事を探ろうとした事が書かれていた。


「一旦、怪しいと思ったんは、ええ判断どした……が、何でその後にペラペラ余計な事を喋りはったん?」


「えっと……ですね……アイツが父上の素晴らしさを知りたいと言うので……つい……」


 タテはモジモジと気まずそうに、ハオカから視線を逸らす。ハオカは暫くタテの様子を伺い、やがて「はぁ……」と溜息をつくと苦笑しながらタテの頭をクシャリと撫でる。


「そないな事言われたら、しょうがないどすね……」


「ハオカ姉さん……!」


 タテは目を潤ませながら「ごめんなさい」と謝る。ハオカはそれを聞くと「ええんよ」と言って日記を読み進める。


「タテ……? ターテー? ターテはーん? ここに、旦那さんの事を尋ねてきはった女性に、旦那さんの事を根掘り葉掘り聞かれたとありますが、これは……?」


 ハオカが開いたページには『父上のお話を聞きたいと言うお姉さんが来た。以前、父上とお話ししているのを見たことがあるので、怪しい人ではないと思う。父上にお嫁さんがいるかとか、お付き合いしている人がいるかとか、聞かれた――』と書いてあった――


「えっと、父上の事を「素敵ね」とか言ってくれたので、つい……」


 タテが「でも、しょうがないですよね」と聞こうとした瞬間――


「ちょい、そこに正座しい! あんたは……なんを考えとるんどすか! 怪しいおなごにペラペラと――」


 ――一時間後――


「お説教はこん位にしておきますけど……。今後は、気を付けるんよ? ……特におなごに……」


「はい……ごめんなさい」


「こないな所どすかね?」


 ハオカは日記帳を閉じると、涙目のタテの目を拭い「ほら、立ちや?」と立たせる。


「旦那さんのお仕事が終わったらフォーメーションの訓練しはるんでしょ? そろそろ終わる頃やし、一緒に迎えに行きまひょ?」


「はいっ!」


 そしてハオカとタテは手を繋いで、椎野のいる騎士団詰所を目指す――


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「疲れた……」


 俺は現在、騎士団詰所で絶賛、経理事務中だ……。


「ダリーさん……もうちょっと、事務仕事にも目を向けてくれよ……」


 何で、二週間ちょいでこんなに溜まってんだよ! 絶対、俺が王都行ってから誰も事務処理とかやってねぇだろ!


「しかも……今回の王都訪問、クリス逮捕・護送に掛かった経費まで……」


「すいません、ツチノさん……」


 ダリーさんは先ほどから、決して俺と目を合わそうとしない……。こんな事なら俺もサッチー達と、地球接近予定地の視察について行けばよかった……


「今日はこの位にしておきますか……」


「そうですね、お疲れさまでした。今、お茶でも淹れますね」


 ここ数日、サッチー達はアンさんや調査チームの人達を連れて、地球が接近すると予測される場所周辺の視察に出ている。もうそろそろ精確な接地予測が出来るらしいのだが……


『こっちでも大体の予測地点は割り出せてますよ』


 後輩に電話を掛けて報告していると、向こうでも同じ様な事をやっているらしい。


『ただ、ある程度、話が進んじゃうとボク達のやる事って無くなっちゃいますよね』


「そうだなぁ、ただ、俺は何でか忙しいんだけどな……」


『それは……まぁ、いつも通りですよ』


 俺が後輩とダラダラ話していると、ダリーさんがお茶を持って戻ってきた。後ろにハオカとタテを連れて――


「あれ? 二人供、もう来たの?」


「へー、そろそろかと思いまして」


「父上!」


「はーい、いらっしゃーい」


 俺はタテを左手抱っこすると、右手でダリーさんからお茶を受け取る。


「羽衣ちゃんは、家?」


「姫は今日、カズンの所です。何か僕はついて行っちゃ駄目って言われたので……」


 どうやら、ついて行こうとしたら追い返されたようで少しへこんでいる様子。


「じゃ、早速行くか!」


「はい!」


 お茶を一気に飲み干すと、俺はタテを抱っこしたまま訓練場へと足を運ぶ――


「で、今日は何するんですか?」


「タテが俺とのフォーメーションを訓練したいって言うからさ、ちょっと色々やってみようかと」


「へぇ、私も見学してていいですか?」


「ええ、良いですよ」


 訓練場に着くと数名の騎士が訓練している様だった。彼らに隅っこを使う許可を貰うと、まずは後輩を含めて新フォーメーションの方向性を話し合う。


『タテ君の使うスキルって風を操るんですよね?』


「はい、こんな感じです」


 タテが笛を吹くと、そよ風が地面の埃を舞い上げる。


『青い風ですか……。ハオカさんの朱い雷と対になっているんですね?』


 後輩の問い掛けに二人は頷く。後輩は『ちょっと待っててくださいね』と言うと、画面の前から席を外し、ガサゴソと何かを漁り始める。


『お、あった……。すいません、うちの社員が何個か酒の席で色々アイディア出してたんで、そのメモを探ってました』


 後輩は小さなメモ書きを見ながら『じゃ、早速いきましょう!』と説明を始める。


『やるとしたら、まずはタテ君が旋風を起こしてそれに先輩の武器をばら撒くってのが一番堅実ですね……』


「まぁ、そうだよな……」


 タテは無言で頷くとそのまま笛を吹き、風を操る……。やがて発生した風で旋風を作ると俺に目線を送る。


『そこで、先輩がカードを風に乗せる!』


 俺は訓練場の木人を取り巻く旋風に向けて、カードをばら撒く……


 次の瞬間、ばら撒いたカードは風に巻き上げられはるか上空に――


「旦那さん……うち、こん状況に覚えがあります……」


「うん……俺、もぉお!」


 空から雨の様にカードが降ってくる、俺が慌ててカードを消そうとすると、ダリーさんがスキルで俺達をガードしてくれる。


「いや、あれだな……『必殺仕様』で無かったのが……救いだな!」


 俺が親指を立ててそう言うと、無言でダリーさんに殴られる……


「ゴベンダザイ……」


 腫れた頬を押さえながら、土下座する。俺、最近土下座も綺麗に出来る様になったなぁ……


『やっぱり、こうなりましたか……』


「おばヴぇ! おヴぉヴぇでど!」


『ん? 先輩……何言ってるか、分かりませんよ?』


 それから後輩は『今のが風のスキルと先輩の武器(カード)の問題点です』と前置きして説明を続ける。


『つまり、相性が悪いんですよ。カードの重量を上げれば解決するかもしれませんが面積当たりに受ける風が増えると、それも確実かどうかは不明です。試すのも危険ですしねぇ……』


「痛ぅ……。じゃあ、どうすんの?」


『今思いつく、解決案は二つですかね……』


 後輩曰く――


 一つ目は、旋風の中心部にカードが向かっていく様な仕組みを考える。ただこれが出来るなら、フォーメーションの意味は無いとの事……


 二つ目は、何も、二人でフォーメーション組む必要無いと言う答え。


『多分なんですけど、ハオカさんは先輩の性……希望から誕生したから多分、攻撃手段が欲しいって言う希望も含んでると思うんです。で、タテさんは先輩の「羽衣ちゃんを守りたい」って希望と、多分羽衣ちゃん自身の何らかの希望が混じって誕生したと思うんですよ』


「つまり……?」


『タテさんと先輩は恐らく、攻撃よりも、防御とか補助でフォーメーション考えた方が良いと言う事です。攻撃フォーメーションなら、それぞれハオカさんと組んだ方が良いと思います』


「なるほど……」


 その後、防御、補助を目的としたフォーメーション開発は後輩の指導の下、順調に進んだ――


 その結果、俺がカードを数枚使ってボード状の物を作り、タテが作った風の道をそのボードで滑ると言うフォーメーションが出来上がった。


「やべぇ……これ、面白い」


「父上! 次、僕ですよ!」


「ツチノさん……私も後で乗せて下さい!」


「う、うちも!」


 うん……これ、戦闘で使えるかは不明だな……


 ――後日、このフォーメーションは、ハオカと騎士団の協力によって改良が加えられ、新たな遊戯として、ナキワオの街にちょっとしたブームを生むことになるが、それはまた別の話だ……

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