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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第三章:王都訪問
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サラリーマンの帰還

続きです、よろしくお願い致します。

 翌朝、ミッチーは村の出入口で俺達を待っていた。俺達の姿を見つけると「おはようございます」と言って馬車の御者台に座り込んだ。


「なぁ、サッチー……」


「うん、ツチノっち」


 馬車に乗り込む際に、俺とサッチーは、ミッチーの変化をどう突っ込むべきか迷っていた。


「よし! オレ、聞いてみるわ」


 そうして、サッチーは御者台のミッチーの元に行き、口を開く。


「なあ、ミッチー……」


「ん? 何スか?」


「剣……違わね?」


 そう……昨日は、切断された剣の先っちょを無理やり鋳溶かして繋げていたのが……何か違う剣になってる。


「あ、ああ……これっスか?」


 背中に背負った剣の柄を一撫でする。


「大まかに言ってしまうと……サンザシの木(ミトさん)の所に行って、酒飲んでグダグダしてたら、夢にミトさんが出てきて……思わずプロポーズして……起きたら目の前にこの剣がありました!」


 ミッチーは詳細については「いつか……心の整理が出来たら話すッス」と言って笑っていた。その顔があんまりにも晴々としてたもんだから、俺達は「そっか」としか言えなかった。


 俺達がそんなプチ報告を聞いていると、愛里さん、悠莉ちゃん、ハオカがやって来た。


「皆さん、朝ご飯位一緒に食べましょうよ」


 三人は、朝起きてずっと食堂で待っていたそうだが、俺とサッチーがもう出たと言う話を聞いて慌てて宿屋を出てきたそうだ。


「全く……せめて、先に出たとか伝言してくれても良いじゃない!」


「ほんま、うちがこないにも旦那さんに尽くしとると言うのに……旦那さんは、うちを置いて行くんどすやろ?」


 悠莉ちゃんがプリプリと怒る横で、ハオカは地面にへたり込み、こちらをチラチラ見ながら「ヨヨヨ……」と泣くふりをする。


「ごめん、ちょっとうっかりしてただけだから! だから、そんな誤解されそうな言い方止めて!」


 俺が取り乱すのを見て、三人娘は気が晴れたのか「クスクス」と笑っている。


「朝から仲が宜しいですわね? 羨ましい限りですわ」


 俺達のそんないつものやり取りを見ながら、アンさんが調査チームを引き連れて合流する。


「おはようございます、アンさん」


「はい、おはようございます。椎野様、皆様」


「おはようございます」


「おはようございます、ビオさん」


 アンさんと調査チームとの朝の挨拶を終え、俺達は改めて点呼を取る。


「これで、全員かな? じゃ、出発しようか!」


 俺は御者台のミッチーに「出してくれ」と合図する。


「あ、そうだ、椎野さんも、幸さん、三知さんも朝ご飯食べてないんじゃないですか?」


 愛里さんは「さっきのお話の蒸し返しで申し訳ないですけど」と前置きしてから、紙包みを取り出す。


「朝、食堂のおばさまから三人に渡す様に言われたんですよ。前回立ち寄った時の狩りの獲物のお返しだそうです」


 そう言うと、愛里さんは紙包みからサンドウィッチを取り出し、俺達三人に手渡してくれる。


「やっと、帰れるな……」


 サンドウィッチに齧り付きながら、サッチーがぼそりと呟く。


「ん? それって、どっち?」


 外の景色を見ながら、悠莉ちゃんがサッチーに尋ねる。


「……分かんねぇ……」


 その後、馬車内は何となく静かになり、淡々と道を進む――


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はーい、皆さーん? 今日の授業はこれでお終いです。寄り道せずに真っ直ぐ帰るのよーん?」


 羽衣とタテが席を置くクラスでは、授業が終了し生徒たちから一斉に歓声が上がる。


「はいはーい、お静かにーん? まだホームルームが終わってないクラスもあるんですからねーん?」


 羽衣達の担任――リエミルバ先生は手をパンパンと叩いて、注意する。


「羽衣とタテはこの後、どうすんだ?」


 羽衣とタテが帰り支度をしていると、クラスメートのケイシーが声を掛けて来た。どうやら、ケイシーと数名のクラスメートはこの後、校庭で遊ぶ事にするらしく、二人に参加するかどうか確認したいらしい。


「ういも遊ぶ! タテちゃんもいこ?」


「姫がそう言うなら」


 羽衣に付いて行くと言いながらも、タテはウズウズして、早く校庭に行きたそうにしている。


「あ、わたしも良いかな?」


 すると、話を聞いていたカズンが手を上げて「行きたい」とアピールしてくる。


「おう! 丁度カズンも誘おうと思ってたんだ!」


 ケイシーがそう言うと、カズンはホッと胸を撫で下ろし、タテの事をチラチラと見ている。


「? カズンちゃん、どうしたの?」


 羽衣が聞くと、カズンは顔を真っ赤にして「何でもないの!」と手をブンブンと振る。


 その様子を見ていたケイシーが、羽衣にコッソリと耳打ちする。


「カズンな……この間の遠足以来、タテの事、好きになっちゃったらしいんだよ……」


 羽衣は耳打ちされたのが、くすぐったかったのか「やぁん」と言いつつ、目をキラキラさせている。


「ふぁ……おとなのろまんすってやつだ! うい、知ってる!」


 羽衣とケイシーは、内緒話になってるかどうか怪しい声量で話しながら、タテとカズンを交互に見渡す。


 タテもカズンも、話は聞こえていなかった様で、羽衣とケイシーを見ながら首を傾げていた。そして、羽衣とケイシーは、コッソリと「ろまんすを応援する会」を発足する事になる――


 ――羽衣達が放課後の予定を話し合っている頃


 ナキワオの街の片隅では、一人のボロ布を纏った人物が、フラフラと学校を目指して歩いていた。


「――が、――せて――」


 その人物は、フラフラと歩きながらもその目だけはギラギラとしていた。


「見ぃつけた!」


 その人物――かつて、羽衣達の遠足を利用して自らの武勇伝を自演しようとしたクリスは、ラッコ男に蹴飛ばされた後、羽衣達を自らの企みを邪魔した者として逆恨みし、這いずる様にナキワオまで戻ってきていた。


「あの、変異種さえいなきゃ……あいつらなんか……」


 そして、クリスはスキルを発動し、魔獣の群れを生み出す――


「ん……? あれって……」


 最初に気付いたのは、ケイシーだった。


「ウソだろ!? 羽衣、タテ、カズン! あのチキン野郎だ! アイツ、生きてやがった!」


 ケイシーは魔獣の群れが生まれだすのを確認すると、近くにいたクラスメートの一人に、先生を呼んで来るように指示し、続いてもう一人に騎士団に助けを呼んで来るように指示する。


「このクソガキ! オレをチキンと呼ぶんじゃねぇ!」


 クリスは魔獣の一体を襲い掛からせる。


「させません!」


 その瞬間、魔獣は駆けつけたダリーの手によって倒される――


「ダリねーちゃん!」


「ダリー姉さん!」


「ダリーさん!」


「ダリーさん! もう来てくれたんスか……? あれ、早すぎじゃ……?」


 羽衣、タテ、カズン、ケイシーがダリーを見て、目を輝かす。


「ふぅ……非番で一日、羽衣ちゃんとタテ君の様子を盗――伺っていて正解でしたね……」


「ああ、ダリーさぁぁん! アンタも来てくれたんだ! 手間が省けて良かった!」


 そう叫ぶとクリスは、ダリーに斬りかかる。


「貴様……その腕は……一体……?」


 クリスはあの時、確かにラッコ男にその両腕を奪われた筈であったが、今のクリスには確かに、失ったはずの両腕が存在している。


「ああ、これ? あの後、腕が無くて苦労してたんだけどさ……腕が無いなら作っちゃえって感じで、作り出した魔獣の腕をくっつけてみたんだよ! そしたら……ほぉら!」


「――っ」


 クリスがその身に纏うボロ布を脱ぎ捨て上半身を露わにすると、本来、人の手があるべき場所にはマッチ棒の様に細く、醜い腕が生えていた。


 クリスの新しい腕は、一見、彼の両肩から生えているがよく見てみると、肩だけでなく両脇腹辺りまで触手が這う様に融合している事が分かる――


「お前は……」


「だ・か・ら! お前らにはこの身体の責任ってものを取って貰わなきゃなぁ!」


 ダリーが何か言おうとするのを遮り、クリスが叫ぶと学校の校庭に無数の魔獣が姿を現す。


「っ! 姫、ケイシー、カズン! こっちへ! 『大甲』!」


 タテが笛を吹くと、羽衣達の周りに風の壁が現れる。


「くっ! 羽衣ちゃん、タテ君!」


「おっとぉ、アンタはオレの相手してくれよぉ? ガキどもには後で会わせてやるよ! 生きてる保証はねぇけどな!」


 ダリーの行く手を遮り、クリスが細剣――に見立てた魔獣の腕を振るう。


「っ! このっ! どけぇ!」


「良い顔だよ! その顔が見たかったんだ! ひゃはははははは――」


 剣を合わせるたびに、ダリーの心に焦りが生まれ徐々に押されていく。


 やがてタテの風壁を破り、魔獣の群れが押し寄せる。


「うあぁぁぁ!」


 ダリーが涙を流し、叫んだその時――


 ――ゴインッ


 魔獣の群れが何かにぶつかり、その進行を止める。


「人が留守の間に――」


 その場にいる全員の目が声の主へと向かう――


「何、うちの子にちょっかい出してんだ!」


 次の瞬間、声の主――『サラリーマン 薬屋椎野』が頭を下げると、魔獣達はその背筋を伸ばし、フリーズする。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 何だこの状況……


 俺達がナキワオに到着すると、街が少しざわついている。胸騒ぎがした俺は皆を連れて、急いで羽衣ちゃんとタテの学校へと足を運ぶ。


 そこで見たのは、はらわたが煮えくり返る光景だった――


 魔獣の群れに囲まれる羽衣ちゃんとタテと、友人達。助けに行こうとするダリーさんを邪魔するクソ野郎!


「人が留守の間に、何、うちの子にちょっかい出してんだ!」


 気が付けば俺は、羽衣ちゃん達を守る様に『塗り壁』を展開し、叫ぶと同時に『名刺交換』を――自己紹介無しで発動していた。


「うちの嫁……泣かしてんじゃねぇよ!」


 続けて、サッチーがスキルでフリーズした魔獣達を殲滅していく。


「な……何だ! お前ら! オレの邪魔してんじゃねぇよ!」


 どうやら、あのクソ野郎。魔獣を作るスキルか何か持ってんのか?

 俺達が魔獣を倒すとすぐさま地面から新しい魔獣が生まれてくる。


「愛里……フォーメーション! 悠莉……蹴散らせ!」


 俺は二人に指示を出すと、カードを大量にばら撒く。


「「はいっ!」」


 俺の指示に二人は即座に応えてくれる。


「おやっさん! ダリーさんのフォローに入ります!」


 ミッチーは強化門を潜ると、そのままクソ野郎と剣で打ち合う。


「ハオカ……これは……俺、やっても良いよな?」


「旦那さんのお好きな様に……」


 俺はハオカに「ありがとよ」とだけ返し、限界ギリギリまでカードを生み出す。


「皆! 退避!」


 俺の合図で、ミッチーはダリーさんを、悠莉ちゃん達は子供達を回収し、俺の傍までやってくる――


「『塗り壁』!」


 俺は全ての魔獣を『塗り壁』で囲むと続けて、ハオカに指示を出す。


「タテ……行きますえ?」


「ハオカ姉さん!」


 二人は頷き合う――


「「『獅子神楽』!」」


 ハオカが太鼓で拍子を取り、タテがそれに合わせて笛を吹く――


 二人の合奏スキルは、俺の『塗り壁』内部で発生し、魔獣達は風と雷のスキルが融合した嵐によって、切り刻まれ、焼かれていく。


「な……」


 クソ野郎はその光景を呆然と見ていたが、全ての魔獣がいなくなると再び、スキルで魔獣を呼び出そうとする――そうはさせるか!


「動くな……『リーマン流 千羽鶴』!」


 俺はクソ野郎の周囲にびっしりと、『必殺仕様』の千羽鶴を展開する。


「ひぃ……」


 クソ野郎は脱出しようと千羽鶴に触れた瞬間、その指を切り落とされ、恐怖で動けなくなったようだった。


「これで、終わりか……?」


 俺がクソ野郎を睨むと、クソ野郎はそのズボンを湿らせ、気を失ってしまった様だ。やばっ!


「おじちゃん!」


 俺が奴が千羽鶴に引っかからない様に慌ててカードを消すと、俺の頭に久々の乗客が飛び乗ってくる――


「うい、がんばったよ! 泣かなかったもん! ピンチの時にはヒーローが――おじちゃんが助けてくれるって、うい、知ってたもん!」


 羽衣ちゃんは目に涙を溜めながら、俺の頭(指定席)で髪をグリグリと前後左右に弄繰り回す――


「うん……ただいま、羽衣ちゃん……」


 こうして俺達の王都訪問は無事、完了した――

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