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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第三章:王都訪問
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帰路

続きです、よろしくお願い致します。

「じゃあ、アルカ様もアンさん――王女様が騎士団で訓練している事を知らなかったんですか?」


「うむ……。このバカ娘、独自の情報網があると言うから期待しておれば……」


 食事会の最中、王女様がどうして騎士団にいたのか尋ねた所、アルカ様はどうやらそれを初めて聞いた様で、大変お怒りであった。どうやら「独自の情報網を持つ事自体は良いが、自分で収集するのは王族としての自覚が足りない」と言う事らしい。


「二週間ほど前から暇を見つけては騎士団本部を訪れて、「まだ御一行は到着していませんの?」でしたから……」


 ラヴィラさんは「これで漸く肩の荷が下りた」と晴々と語っていた。


「もう! そんな話はよろしいでは無いですの! 今は折角の交流なのですのら、『幻月』――でなくて『地球』でしたかしら。そのお話を聞かせてくださいませ」


 王女様は頬を膨らませて、俺達に地球の話をせがんでくる。


「それと、妾の事は今まで通り「アン」と呼んでくださいな?」


「まあ良い、儂も正直、地球の話を聞いてみたくてウズウズしておる」


 ――似た者親子め……


 俺達はこちらから、話題を出すよりかはアンさん達が何を聞きたいのかを尋ねてみる。


「妾は、そうですね……椎野様の住んでいらした国にどの様な食べ物があるか知りたいです。後は――」


「儂はやはり、王としてお主らの国の治世が知りたいのう。後は観光名所かのう。後は――」


 気のせいか、アルカ様の喰い付きが強い気がする。俺達は思いつく限り、地球――と言うか、日本の話をしてみる。


 最終的に、アンさんは和菓子に強い興味を示し、アルカ様は選挙制度に対して「良いなぁ」とぼやいていた。


『では、今度の派遣チームに和菓子とこちらの政治資料をお土産として持たせましょうか?』


 そこで後輩に相談してみると、そんな提案をしてきた。良し、中々良い出だした!


「ほうほう……。これが、報告に有った『地球』との通信スキルか……」


「正確には、この機械を持ってればこっちでも使えるんですけどね――」


 こんな感じで、食事会は終始友好ムードで進める事が出来た。


 そして、二日後――


「皆、準備は良いか?」


 俺は王都を出発する準備を整え、門の前に用意された王族御用達の高速馬車の前で整列する。


「クスリヤ殿! 丁度良かった!」


 すると、宰相さんが俺達の元に駆け寄ってくる。どうやら、謁見で話題の上がっていたルセクの調査チームを連れて来た様だ。宰相さんの後ろに数名、賢そうな人たちがいる――一人だけフードの怪しい人がいるが。


「王都でも優秀な学者の方々です。地球の調査チームに合わせて、生物学、政治学、鉱物学、考古学など、多種多様な分野の若きホープと言った感じですじゃ!」


 宰相さんは「よろしくお願い致します」と言うと、そそくさと城に戻っていく。どうやら、今回のチーム選抜に時間を取られていたために、大分仕事が滞っているそうだ。


「それでは、クスリヤ殿……彼らをく・れ・ぐ・れ・もよろしく頼むよ?」


 見送りに来てくれたラヴィラさんに「任せて下さい」と伝えると、俺達は馬車を発車させる。


 馬車が走り出して三十分程経ち、俺は改めて調査チームに「やあ」と声を掛ける。


「えっと、この度は調査志願して頂きましてありがとうございます。話は既に聞いていると思いますが、俺はツチノ=クスリヤです。以後、よろしくお願い致します」


 彼らは緊張していた様だが、俺が友好的だと判断してくれたのか、皆にこやかに「よろしく」と握手を交わしてくれる。


 ところが、フードの人物だけ、頑なに俺達と顔を合わそうとしない……


「えっと……。お名前を伺っても宜しいですか?」


 ――無視。


「君! 折角の『月の住人』との邂逅なんだ、自己紹介もしないのは失礼じゃないか!」


 調査チームのリーダー格――生物学者のビオさんが、プリプリと言った感じで起っているが、それでも無視……


「埒が明かないな……」


「旦那さん、こういう時こそ『名刺交換』ではおまへんか?」


「……あ!」


 ハオカに呆れ顔で指摘され、俺は『名刺交換』を使い、フードの人物に自己紹介をかます。


「――っ! わ、妾はヘームストラ王国王女、アーニャ=ファミス=ヘームストラです」


「……………………」


 俺は咄嗟に、フードを剥ぎ取る。フードの人物――アンさんは「いやぁん」とシナを作っていたが、その顔は悪戯がばれた時の様な顔をしていた。


「何やってんですか……」


「だって……。妾も月の接近に立ち会ってみたかったんですもの」


「だからって……。あ! もしかして、ラヴィラさんも共犯じゃないんですか!」


 思い返してみれば、あの念の押し方! こう言う事か……


「良し! 今すぐ引き返しましょう! 今ならまだ――」


「待って! 待って下さい!」


 アンさんは「見たいんですの!」と駄々まで捏ねる始末……


「あの、椎野さん……。連れていって上げませんか?」


「そうよね……。何か、可哀想に思えてきちゃった」


「オレも良いと思うぜ? どっちにしても、接近までそんな時間ないんだべ?」


 うぐ……。愛里さんと悠莉ちゃんは情に絆されている。サッチーは鼻から当てにしてない! 残る希望は――!


「ミ、ミッチー! 流石に一国の王女を勝手に連れてきちゃマズイと思わないか!」


「じ、自分は今、御者で忙しいッスから! 難しい事は分からんッス!」


「ハ、ハオカは?」


「うちはどん道、旦那さんの言葉に従いますから――」


「――で、――しょう?」


 ハオカが俺の意見に賛成しかけると、アンさんが何かを耳打ちする。


「で、でも、偶には国ん偉い人に接しはるんも、お姫ちゃんと、タテん教育に宜しいのではおまへんか?」


「な、何を吹き込まれた!」


 ハオカは俺と目線を合わせようとせずに、吹けもしない口笛をフヒューと吹く。


「そ、それに妾もその羽衣ちゃんと会ってみたいのでございます。ほら、こうしてお土産に綺麗なお洋服も有りますし! 妾を返すと言うのなら……!」


「――っ! た、確かに、羽衣ちゃんとタテの教育にも良いかも知れないな……」


 やばい……。ドタバタしてて二人への王都土産、忘れてた……! 仕方なく、俺はアンさんの同行を認める事となった。


 そんなトラブルは有ったが、馬車は行きとは違い順調に進む。


 ジマの街に到着すると、俺はコッソリと羽衣ちゃん達へのお土産を買いに走った――


「おじさん、やっぱり忘れてたんだ……」


「はっ! 悠莉ちゃん……。どうしてここに?」


 宿ではちゃんと『ポーカーフェイス』を発動して、「ちょっと酒でも買ってくる」と言って出てきたのに……


「何かね……最近おじさんの『ポーカーフェイス』の発動と、何考えてるかが何となく分かる様になったんでルセクで調べて貰ったら……」


 俺はゴクリと唾を呑む……


「おじさんの嘘とか誤魔化しを看破するスキルが発現しちゃったみたい♪」


「ば、馬鹿な……! なら、ならもしかして……?」


「うん! おじさんが王城であたし達のどこを見てたかとか、街ですれ違う人のどこを見てたとか……」


 悠莉ちゃんは、ニッコリと笑って「気付いてたから」と告げる……


 その後、俺は悠莉ちゃんに土下座して許しを請い、羽衣ちゃんのお土産を買い忘れていた事を含めて、決してお安くない口止め料(スウィーツ)支払う(奢る)羽目になった。


 ジマの街で一泊した俺達は、半日掛けてナキワオの街に一番近い村に辿り着き、休憩する事に。


「おやっさん……。ちょっと、いいっすか?」


 俺達が村の広場みたいな所で休憩すると、ミッチーがちょっと気まずそうに声を掛けて来た。


「どうした? ミッチー、腹でも痛いのか?」


「いえ、実はちょっとだけ、単独行動させて欲しいんス……」


 ――そう言う事か……。


「花見するんなら持って行けよ……?」


 俺はそう言うと、ミッチーに防寒具と酒の入った袋を渡す。


 ミッチーは無言でそれを受け取ると、ペコリと頭を下げ、村の馬を借りると「明日の朝には戻るッス」と言って村を出ていった。


「ツチノっち……。良かったんか?」


「まあ、あの辺にもう魔獣とか近づかないだろうからな……」


 さて、俺も宿で大人しく晩酌しようかな……

※2014/08/10

 「国王様」を「アルカ様」に修正。

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