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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第三章:王都訪問
43/204

謁見前~ルセクでの休日~

続きです、よろしくお願い致します。

「――はっ!」


 気が付けば、俺はベッドに転がされていた。


 あれ(ラッセラ)からどれ位の時間が経ったのだろうか……どうやら、俺達は王都ルセクに無事、帰り付いた様だ。


 俺が転がされている部屋は三つ並んだベッドも、間取りも何となく見覚えがあるし、恐らく遺跡出発前から宿泊していた宿屋で間違いないだろう。


「皆は……食堂か?」


 腕時計で時間を確認すると、既に正午を回っている。えっと、アレが昨日の晩だとすると……俺、どんだけ気ぃ失ってたんだろう。


 いかんな……どうにも、嗜好の事となるとタガが外れやすくなってる……禁欲生活長くなってきたからなぁ……そろそろキツイ。


 とりあえず、食堂に行ってみるか。


「あ、おじさん、やっと来た!」


 食堂に顔を出すと、悠莉ちゃんがケーキを頬張りながら俺を迎えてくれた。


「あれ? 悠莉ちゃんだけ? 他の皆は?」


「うん? 皆なら、服屋に行ってる。ほら、明日謁見でしょ? 謁見用の服が出来たからって受け取りに行ってる」


 手に持ったフォークを振りながら説明してくれる。


「そっか、悠莉ちゃんは行かなくて良いのか? それとも、もう受け取り済み?」


「ううん、まだよ。流石に、おじさんを待ってあげる人がいないと可哀想だからさ……クジで決めて、あたしが残ってるの」


 ああ、クジで伝言役を押し付けられたわけか……


「結構待ったのか? 何か悪い事しちまったな……」


「別に良いわよ……」


 そう言いながら、悠莉ちゃんは残りのケーキを一気に口に放り込む。


 ありゃ、一気に頬張るから……


「口にクリームついてるぞ?」


 苦笑交じりに、俺は悠莉ちゃんの口の端に付いたクリームを指で掬い、舐める。


「――っ! な、な、な……」


 あ、やべ……羽衣ちゃん相手にしてた癖で……つい。


「ご、ごめんな?」


「ぅ……あ…………ていっ!」


「グ、グギャァ!」


 この娘……フォークを人の額に……


「ひ、ひでぇ……」


「ふんっ! それでチャラにしてあげる! さっさと行くわよ!」


 悠莉ちゃんは顔を真っ赤にしながら、俺の手を引っ張り、食堂を後にする。


 ――服屋に着いた俺達は、まずは他の皆がどうしているかを店員に聞いてみる。


 どうやら、皆はまだ微調整を行っているらしく、それぞれ試着室で調整中らしい。


「しっかし、俺オーダーメイドなんてやった事無いけど、こんなに早く仕上がるもんなんだな……」


 採寸してから四、五日しか経ってない気がする。


「いえ、日本だと何週間か掛かってた様な気がしますから……多分、スキルのお蔭だと思いますよ?」


 俺の疑問に、試着と調整を終えた愛里さんが答えてくれる。


 またスキルか……恐るべしだな。もう何か、奇妙な事件が起こったらスキルの仕業だとでも思っておこう……


 しかし、下手な工場より生産速度早くなったりしても不味いだろうし、地球でスキル使用出来るとしても、ある程度、情報制限した方が良さそうだし、後で後輩に報告だな。


 そんな俺は現在、服の試着中であったりする。最終的に、ここで微調整を加えて、明日城の中で着替える事になるらしく、記録した情報を、服と一緒に城の担当者に渡すらしい。


「何か……人形にされてるみたいで、くすぐったいな……」


「クスクス……幸さんも三知さんも同じ様な事、言ってましたから、私もこれを言うの、三回目なんですけど……我慢して下さい」


 試着室のカーテン越しに、愛里さんは子供を諭す様に言うと「私はちょっと悠莉ちゃん達を見てきますね」と言って、女子更衣室に行ってしまった。


 俺はその後も、くすぐったいのを我慢し、何とか微調整を終えると、ミッチーとサッチーがぐったりとした顔で出迎えてくれた。


「ツチノっちも……終わった?」


「おう……何か、えらい疲れてんな?」


「オレの方は問題無かったんだけどさ……ミッチーが……」


 俺がサッチーの隣に座るミッチーに目をやると、ミッチーは気まずそうに俺から目を逸らし。


「自分、ここ数日で筋肉の厚みが増したらしく……ズボンが……」


 ああ、何となくわかった。


 俺はミッチーの肩を軽く二回叩き「何も言わなくても良い」と告げて、大人しく女性陣が戻って来るのを待つ事にした――


 ――三十分ほど経っただろうか。


「お待たせー」


「お、早かったな?」


「悠莉ちゃんはそんなに、手直しありませんでしたから……」


「ふふん! 野郎共、楽しみにしてなさい!」


 悠莉ちゃんは服の仕上がりが思った以上に良いものだったらしく、非常に機嫌が良かった。


「あれ……? ハオカはどうしたんだ?」


 悠莉ちゃんと愛里さんは、顔を見合わせると、それぞれ「足が……」「腰が……」とブツブツ呟き出す。


 俺とミッチー、サッチーが首を傾げていると、ハオカが顔を真っ赤にしてやってきた。


「悠莉はんも、愛里はんも破廉恥どす!」


 そう叫ぶと、ハオカは頬を膨らませて、悠莉ちゃんと愛里さんに向かって突撃し出した……悠莉ちゃんと愛里さん、ハオカは「キャーキャー♪」と言いながら、店内で追いかけっこを始めてしまい、俺達男性陣は、店員の目と、女性陣の追いかけっこの理由の聞き辛さで居た堪れなくなってしまっていた。


「ツチノ達はいるか?」


 その時、俺達に救世主が現れる――


「「「ブロッドスキーさん!」」」


「お、おう! 君らからこんな歓迎を受けるとは……」


 ブロッドスキーさんは、騎士団長――ラヴィラさんと、女性騎士――アンさんを連れていた。


 どうやら、ブロッドスキーさん達は一度、宿屋に俺達を訪ねて来てくれたらしい。宿屋で、俺達が服屋にいると聞き、迎えに来てくれた様だ。


「今日は伝言と言うか、明日の予定の話をしに来た」


 ブロッドスキーさんから、話の主導権を受け取ったラヴィラさんによると――


 明日は、朝一番に城から騎士団――ラヴィラさんと、ブロッドスキーさん他数名が迎えに来てくれるらしい。


 そのまま、城の更衣室にて謁見用に身嗜みを整えて全員の準備が揃ったら、謁見の間で国王との謁見。


 謁見の参加予定者は、俺達、国王、王女、宰相、騎士団からラヴィラさんとブロッドスキーさんであり、余り硬くならなくても良いとの事。


 謁見後は、懇親の意味も兼ねて昼食会を開いてくれるらしい。


「あれ? アンさんは明日は同行してくれないんですか?」


 愛里さんが「残念」と言う顔をしている……


「すいません……ちょっと、家の用事で、どうしても外せないもので……」


 ああ、そう言えば結構厳しい家っぽかったっけ?


「んん! まあ、そう言う訳で、今日はゆっくり過ごしてくれ」


 ラヴィラさんは、アンさんを一睨みし、ブロッドスキーさんと、アンさんと一緒に騎士団本部に帰っていった。


「さて、今日はもう何するにも中途半端な時間になっちまったな。どうする、皆?」


「うーん、取り敢えずギルドに依頼の報告しといた方が良いんじゃね?」


 皆、特にやりたい事、行きたい場所がある訳でも無かった様でサッチーのその案に乗っかる事にした。


 ギルドに着くと、今日は以前来た時よりは人が多い。俺達は依頼達成用受付の列に並び、大人しく待つ事に。


 やがて俺達の番になり、俺達の報告を受けると、職員さんは「またですか……」と言って頭を抱えた。


 どうやら、今日だけで変異種の発生報告が数件出ているらしく。その対応にギルドが追われているらしい。今日、ギルドに人が多く見えるのは、変異種対応に追われた結果、他の受付が滞っているためだとか……


「え、討伐もしてくれたんですか?」


 報告書を読み進める内に、職員さんの憂鬱そうな顔は、段々と晴々したものに変わっていく。どうやら、変異種の発見報告はあっても討伐報告はなく、討伐可能な冒険者の手配で二進も三進も行かない状況だった様だ。


「あー、これで手配が増えなくて済みます……」


 とは、職員さんのボヤキだ……


「そんなに、人手不足なんですか?」


「正確には実力者不足なんですよ……最近、あちこちで変異種の発生報告がありまして……移動距離順で実力者を派遣しちゃったので」


 どうやら、遠い場所から順に片付ける方針らしく、討伐を完了していても、帰ってくるのに時間がかかっているとの事。


「大変ですねぇ……」


「そうなんですよぉ」


 そんな世間話をしてる内にも、依頼完了報告は終了し、俺達は正規の依頼報酬に加え、変異種の討伐報酬を上乗せして貰う事が出来た。


 依頼完了の報告を終えると、俺は煙草屋に寄ってから宿屋に戻ると告げる。


 悠莉ちゃん、愛里さん、ハオカはウィンドウショッピング、ミッチーは騎士団で筋トレ、サッチーはもう宿に帰ると言うので、夕食時に合流する事を決めて一旦解散する事になった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――ヘームストラ王国、王城内では明日の謁見に向けて、リハーサルが行われていた。


「うーむ、『来訪者』の国の礼儀作法でも聞いておくべきであったか……」


 ヘームストラ王国国王――アルカ=トラス=ヘームストラは、頭を抱えて悩んでいた。


「のう、宰相……ここはやはり、威厳たっぷりの方が良いか?」


「どうでしょうか……やはり、騎士団にもう少し人となりを聞いておくべきでしたな……」


 国王と宰相は先程から謁見の間の間取りを、過去の文献から漁って来た玉座が高く設置された仕様にするか、現在の丸テーブル仕様にするかで、王城付きのメイド隊、執事隊と一緒に悩んでいる。


 ――バタンッ!


「お父様! 今こそ、妾の出番ですわ!」


 その場の全員が、扉を勢いよく開き、バタバタと入室してくる女性に目を向け、溜息をつく……


「お前は、また……少しは落ち着けと言うに……」


 国王はその女性――王女の頭を軽く小突き「それで?」と話の続きを促す。


「痛い……あのですね、妾の独自の情報網でその『月の住人』の人となりを把握してきましたわ!」


「ほう……! ところでその『月の住人』とは、『来訪者』の事かの?」


「ええ、『来訪者』だなんて、何だか無粋じゃないですか?」


 王女の言葉に意外にも、その場の全員が「良いね」と頷く。


「ふむ、まあ良い……それで? 『月の住人』の人となりとは?」


 腰に手を当て、ドヤ顔の王女に話の続きを促す。


「え、ええ、まず、彼らは皆、妾達と何ら変わらない知性、品性を備えております。特に、彼らのまとめ役を務めていらっしゃるお方は、女性の前で気を使って煙草をお吸いにならない、好奇心が強く興味のあるものには子供の様に瞳を輝かせるなど、非常に紳士的であり、好感の持てるお方です」


 王女はそれからも、やれ「非常に綺麗なお辞儀をする」「自己鍛錬に余念が無い」などと連ねていく。


「ちょ、ちょっと待て、娘よ、お前の情報量は有難いが、結局、儂等はどう接すればよいのだ?」


「あら、失礼致しました。ええ、つまりは、暴言を吐いたり、威圧的な態度を取らなければ良い、いつも通りのお父様で問題ありませんわ! 謁見の間の間取りは丸テーブルで宜しいかと……」


 その言葉を聞き、流石に、古代の様式を再現するのは面倒であったのだろう。会場設営担当者から安堵の息が漏れる。


「しかし、まとめ役の御仁か……自己鍛錬と言う事は戦闘職なのか?」


「いいえ? お父様、彼の方は確実に非戦闘職ですわ?」


 王女が言うには、変異種と既に三度遭遇し、そのいずれからも生還し、内二体に至っては討伐成功との事。


「……とても、信じられん」


「ジョブ看破系のスキル持ちに確認させましたから、間違いはありません」


「ふむ……明日の謁見は、実のあるものになりそうだな……」


 国王はそう言うと、セッティングの終わった部屋を見渡し、手元の紙で明日の段取りの確認を開始する。


「妾もリハーサルに参加させて頂きますわ、お父様」


 そう言うと、ヘームストラ王国王女――アーニャ=ファミス=ヘームストラは、国王から紙を奪い取るとその内容を確認し始めた。

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