デュオ・フォース・ラッセラ
続きです、よろしくお願い致します。
遺跡から脱出した俺達は、調査隊キャンプに戻り、事の顛末を説明していた。
「遺跡に大穴を……? そうですか、きっと激しい戦闘だったのでしょう。分かりました、それに関しては私共で連絡しておきますので、特に賠償などは気にしないでも良いですよ」
どうやら、変異種相手と言う事情も考慮され、遺跡の破損――と言うか、破壊には目を瞑ってくれる様だ。
肩の荷が一つ下りた俺達は、流石に今日は疲れたと言う事で早めに休ませてもらう事になった。
そうして、割り振られたテントの中で就寝の準備をしていると、ふと何かが引っかかる……
「何だっけ……? まあ、良いか」
何か頭がうずく様な気がするが、疲れているんだろう。俺はその日は、大人しく寝る事にした。
――変異種退治から明けて次の日。
俺達は再度、遺跡奥の隠し部屋で、変異種がもういない事を調査隊の人達に確認して貰い、その後昼過ぎ位まで周辺を哨戒して目についた魔獣を退治している。
「じゃ、囲むぞ! サッチー!」
「あいよ! 開け! 『地獄の窯』」
俺はカードで魔獣を囲む檻を作ると、サッチーに合図を出す。
俺も大分、魔獣退治に慣れてきた気がするので、メンバーそれぞれとのフォーメーション練習をしている。
因みに、今はサッチー相手に試しているが、どうやらサッチーのスキルとは全般的に相性が良いみたいだ。サッチーが放ったスキルがカードの檻のおかげで、その効果範囲を絞り込みより濃密な炎で、魔獣を包み込むことに成功している。
「うーん……」
俺も新技の訓練をしておきたいな……
「なあ、俺もそろそろ技の訓練しても良いか?」
「「「「「ダメ」」」」」
その後、何回かお願いをしてみたが、最終的に悠莉ちゃんに、「おじさんは、サポートに専念して! 余計な事考えないで!」と言われてしまった。
「なあ、ハオカ……最近、うちの娘が冷たいんだ……」
「あらあら。すんまへん旦那はん、今回ばっかりは、うちも悠莉はんの味方させて頂きますよ?」
俺、何かやったっけ?
そんな事を考えていると、また頭が疼く……
「おやっさん! そろそろ、撤収しても良いんじゃ無いッスか?」
俺が考え込んでいると、ミッチーがそう提案してくる。どうしようかと、ハオカに周辺の気配を探って貰うと、この辺りにはそんなに危険な感じはなさそうと答えてくれた。
「じゃあ撤収するか。俺は調査隊の人達に報告して来るから、皆は王都に帰る準備をしてくれ」
そして、キャンプまで戻ると、俺は調査隊に周辺のめぼしい魔獣討伐が完了したことを告げる。
「はい、了解しました。いや、今回は本当にお世話になりました。変異種が出た時はどうなる事かと――」
それから、暫く雑談を交わし俺は調査隊から、ギルドへの依頼完了報告書と、変異種が出現した旨を記載した報告書を預かり、帰還準備中の皆の元に向かう。
「どう? 準備できた?」
「あ、おじさん。うん、後は調査隊の人達に挨拶するだけよ」
俺が到着した時には既に、準備完了していたらしく、既に俺達に割り振られたテントは空っぽになっていた。
俺達はそのまま、皆で調査隊の人達に「お世話になりました」と挨拶して、遺跡を後にする。
帰りの馬車の中、俺は皆から変異種との戦いの最中に何が起こっていたかを聞かされていた。縄でグルグル巻きにされ、正座させられた状態で――
「そもそも、旦那さん? 戦闘中に色々とモン事を考え込む癖はなんとかせなあきまへんよ? 今回ん事がええ例どす! まーりがよお分かれへん様になって、挙句、皆にやくたいかけて――」
今日は珍しく、ハオカが怒り顔です……いや、本当にすいません。話を聞けば聞くほど、俺の迂闊さが、身に染みて痛い。
「椎野さん……? 詳細は省きますけど、今回は私も、悠莉ちゃんも、椎野さんに酷く傷つけられました……この埋め合わせは、王都に戻ったら、しっかりとして貰いますからね?」
いや、全くもってすいません。覚えてないけど……
「大体、おじさん? 今回の事で分かったけど、おじさん一人で行動すると碌な事しそうにないよね? 今後暫く、単独行動禁止だからね! 出かける時は必ずあたしか、愛姉か、ハオカに言う事! 分かった?」
「えぇ……? ミッチー、サッチーじゃ、駄目?」
「ダメ! そこの二人――特に、サッチーは、絶対おじさんと一緒に悪ノリするもん!」
「えっ! オレ、そんな風に思われてたん?」
サッチーはいきなりの飛び火に悠莉ちゃんに抗議しようとしたが、悠莉ちゃんの迫力にビビッて、黙り込む。そして、ミッチーは「我関せず」とでも言いたいのか、先ほどからずっと御者役に勤めている――
「本当に、ゴメン……今回は、いや、ラッコ男やウパ男を見て、生き延びて来たせいか……いつの間にか俺、魔獣をなめてたんだな。本当に反省しています」
俺はそう言うと、縛られた状態のまま、頭を下げる――
そこでふと不思議に思ったのだが。話を聞く限り、俺を殴って正気に戻すのはかなり難しかったらしい、でも、俺は正気に戻った……殴られたのか? それにしては、身体に痛みがないし……
「なあ、結局、皆どうやって、俺に衝撃を与えたんだ?」
そんな大変な想いをしたなら、なおさら聞いておかないと!
あれ……? 何で俺、こんなにワクワクしてるんだ?
俺の質問に、皆はどこか気まずそうな、「余計な事言いやがって」とでも言いたそうな顔をしている。
「何だ……? 俺の中の何かが……目覚めろと呼ぶ声が聞える!」
皆の顔を見渡すと、ハオカは「あらあら」と苦笑し、愛里さんは眉間を押さえて難しい顔をしている。そして、悠莉ちゃんはゴミを見る様に、俺の事を見つめている……
「あ、あのさ……何か、俺……皆と約束してなかったっ、け?」
――次の瞬間、悠莉ちゃんの拳が目の前に迫り、俺の意識は飛んだ。
俺が目を覚ました時には、もう今晩の野営地に着いた時だった。
「あれ? もう真っ暗、火は焚かないのか?」
「おやっさん……すいません」
「オレ達も逆らえねぇんだわ……」
俺が問い掛けると、ミッチーとサッチーの声が返ってくる。状況と感覚からして、どうやら俺はグルグル巻きの上に、更に目隠しをされている様だ。
「何? 何なの? これ、どういう事?」
「あ、おじさん、起きたの?」
悠莉ちゃんの声が聞えてくる。俺は悠莉ちゃんに説明を求めるが、彼女は「約束は約束だからね」と言うだけで説明してくれない。
その内、薪拾いから帰って来たのか、ハオカが説明してくれる。
「あんね、旦那さん、先ほど旦那さんが言うとった『約束』なんやけど、思い出しましたか?」
「…………うん」
俺は息を呑み、正直に答える。
俺の回答に満足したらしいハオカは、続けて説明してくれる。
「あん時は咄嗟に約束を取り付けてしまいましたが、愛里はんと悠莉はんには事後承諾ん形になってしまいまして――妥協案として、目隠しして、うちたち五人の中からルーレット形式で選んで貰おうと言う事になってました」
ほうほう、目隠しでルーレットですか……悪くはない、悪くはない!
「って、五人……?」
「へー、うちと、愛里はんと、悠莉はんと、ミッチーはんと、サッチーはんどす」
いやいや、ちょっと、可笑しい……
「ちょっと、ちょっと待っ――ほな、いきますえ? ――?」
俺の静止も聞かず、ハオカは俺の生死が掛かったルーレットをスタートさせる。
「「ラッセーラー、ラッセーラー……」」
「ちょっと待て! ミッチー、サッチー! その不吉な掛け声止めてくれ!」
「お、ストップどすか?」
俺の訴えを停止の合図と受け取ったハオカが、ルーレットを止める様に指示する。
「ほな、逝きますえ?」
――ゴリッ!
俺の顔に、ゴツッとした感触が染み渡る――
「ぐぁ! これ、俺の望んでたものと違う! ゴツッて、ゴツッてしてる! つうか、臭ぇ!」
「あら? もういっぺんどすか? ほな、いきますえ?」
違う! そうじゃない! そうじゃないんだ!
「ていうか、この足はどけろ!」
「ラッセーラー、ラッセーラー……」
「この声は、サッチー? って事は、この足はミッチーか! くそ、こんな事実知りたくなかった! 止めてくれっ!」
「ストップどすな?」
ひいっ! もう、勘弁してくれ!
「ほな、逝きますえ?」
――ゴチュッ!
何か今度は、湿っぽい感触が……
「ていうか、何でミッチーも足どけないんだよ!」
俺の訴えに無言の二人……
「あ、旦那さんはあいやでグリグリしはるんお好きどしたね?」
「いや、止めて! 助けてー!」
――拝啓、羽衣ちゃん。羽衣ちゃんは今、いかがお過ごしでしょうか? おじちゃんは今、地獄に旅立とうとしています。
そんな訳で、次回あたり閑話的な話作りに挑戦しようかと思います。




